トレジャーデータが切り拓くリアルタイムマーケティングの可能性
トレジャーデータは、自社イベント「Treasure Data Connected World 2024」において、B2B業界ではまだ事例の少ないリアルタイム施策に挑戦し、新たな顧客体験を創出した。Treasure Data CDPの新機能「Real-time2.0」を活用し、来場者とのやりとりを迅速かつ的確に実現したことで、リアルタイムデータの有用性を証明したと言えるのではないか。今回の取り組みについて、プロジェクトメンバーであるMarketingチームとProfessional Servicesチームそれぞれに話を聞いた。
【この事例のポイント】
・リアルタイムデータを活用し、イベント来場者へパーソナライズメールを配信を実現
・リアルタイム×パーソナライズメールで通常時より169%高い開封率を記録
・Marketing Copilot(AI機能)と会話しながら、シナリオ設計することで業務効率化を実現
<目次>
リアルタイム×パーソナライズでイベント効果を最大化
今回の取り組みは、Treasure Data CDPの新機能である「Real-time2.0」を活用し、イベント「Treasure Data Connected World 2024」で効果的な顧客体験を提供することを目的として始めたものだ。来場者とのインタラクションを迅速かつ的確に行うことが期待されており、それに応えるための技術的な挑戦が求められていた。
まず、従来のチェックインの仕組みを見直し、大幅な改善を行った。自社で構築した従来の仕組みでは、チェックインデータをGoogleスプレッドシートに反映させ、その後バッチ処理でトレジャーデータに取り込み、後日メールを送信していた。この手法では、来場者への情報提供が遅れる課題があった。
今回の改善では、チェックイン時にリアルタイムでデータをCDPに送信し、そこからトリガーを設定して即座にマーケティングツールへデータを送る仕組みを実現した。これにより、来場者にリアルタイムで受付完了メールやおすすめセッションの案内メールを送信できるようになった。
このプロセスを実現するために、チェックインスクリプトの改修を行い、トレジャーデータJS SDKを埋め込むことでデータを直接送信可能にした。また、Googleシートのマスター情報を基にリアルタイムに動作するペアレントセグメントを構築した上で、トリガー設定やメール送信フローの最適化を図った。
さらに、メールの内容についても工夫を凝らし、いくつかのセグメントに分けた配信を行った。それぞれ異なるメッセージを送信することで、よりパーソナライズされた体験を提供することを目指した。このような取り組みは、来場者の満足度を高めると同時に、イベント全体の効果を最大化する一助となった。
結果として、トレジャーデータ主催のイベントメール配信時の平均開封率と比較して、169%高い開封率を記録した。
新領域への挑戦とチーム連携の重要性
私たちは今回、トレジャーデータの高度なリアルタイム処理機能であるReal Time Triggered Journeyを活用し、未検証領域であるMarketoとの連携に挑戦した。特に注力したのは、顧客の行動やプロファイル情報に基づき、パーソナライズされたコンテンツをリアルタイムでMarketoに送信するという、これまでにない取り組みである。
このプロジェクトには特殊な課題があった。PSチームはトレジャーデータのリアルタイム処理に関する深い知見を有するものの、Marketoへの直接アクセス権限を持たないため、設定や動作確認が制限される環境での開発となった。この状況下で成功の鍵となったのが、マーケティングチームとの緊密な連携である。PSチームがリアルタイム処理の技術的実装を担い、マーケティングチームがMarketoでの設定および動作確認を行うという役割分担を確立することで、効率的な開発フローを構築することができた。
非常に短期間のプロジェクトという状況下でも、両チームの密な情報共有により、アクセス制限のある環境下であっても、顧客の行動に即したリアルタイムなアクションを実行する仕組みを実現することが可能となった。
このプロジェクトを通じて、新しいツールとの連携においても、チーム間の適切な役割分担と連携により、トレジャーデータのリアルタイム機能を最大限に活用できることが実証された。
リアルタイムデータで進化する顧客体験
リアルタイムでのデータ処理により、顧客体験の向上、業務効率化、そしてデータ活用の知見獲得という成果を得ることができた。チェックイン後すぐに案内メールが送信されることで来場者への情報提供スピードが向上し、従来のバッチ処理を省略してシンプルかつ迅速なワークフローを実現した。
また、イベント運営の効率性が向上し、スタッフ間の連携がスムーズになった。リアルタイムデータを活用することで、運営側も来場者の行動をリアルタイムで把握し、適切な対応が可能となった。
さらに、今回の取り組みにより、今後の製品開発およびプロジェクト運用における重要な知見を得ることができた。具体的には、Marketoとの連携をより円滑に進めるための専用コネクタ開発の必要性が明確となり、異なる部門間でのプロジェクト推進におけるベストプラクティスを確立することができた。これらの知見は、今後の同様のプロジェクトにおいて大きな価値を持つと考えられる。
リアルタイムのプロジェクト推進時に考慮すべき4つのポイントは以下の通りである。
- リアルタイムで提供できる体験のメリットを明確にしておくこと
- リアルタイムとパーソナライズ(施策やコンテンツ)をセットで考えること
- メールやSMSなど「発射台」となるツールやサービスの技術的検証をあらかじめ行っておくこと
- マーケター(施策立案)とプロフェッショナルサービス(技術面・施策有効性面でのサポート)の密な協業が不可欠であること
これらを踏まえることで、顧客体験は一層向上し、より効率的なマーケティング施策の展開が可能となる。また、一度システムを構築すれば、その後はユースケースを広げることで活用度が高まり、結果として組織全体のROI向上につながると期待できる。
ジャーニーオーケストレーションを活用した長期マーケティング施策
現在は、ジャーニーオーケストレーションを用いて、業界別・ペルソナ別に最適化されたメール施策や広告配信を行い、ターゲットリーチ率を向上させている。また、Marketing Copilotを活用したAI支援により、データ分析やコンテンツ設計を効率化し、より効果的なパーソナライズ施策を展開している。
具体的なアクションとしては、休眠リードを再度活性化するため、開封や資料ダウンロードにつながりやすいコンテンツを配信し、反応がなかったユーザーには広告による追跡アプローチを実施。こうした取り組みによって潜在的な顧客接点を最大化するとともに、過去のウェビナー参加者データやその他の顧客情報をチャット形式で簡便に分析・セグメント化し、最適なターゲティングを図っている。これにより、顧客体験の質が向上し、休眠リードの掘り起こしが着実に進んでいる。
さらに、こうしたシナリオを一度構築すれば、定期的なメンテナンスのみで半永久的な休眠フォローが可能となる。自動化やフロー化を進めることで業務効率も大幅に改善されており、今後はこのアプローチを活用することで、マーケティング全体の成果と生産性を継続的に高めていく方針である。
今回の取り組みは、リアルタイムデータ活用の可能性と課題を浮き彫りにし、次の一歩に向けた貴重な経験となった。引き続き、最新技術を活用しながら効果的なマーケティング施策を展開していきたいと考えている。
プロジェクトメンバー紹介
Marketingチーム(左写真 左から)
Marketing Manager 田邊 慧子
Senior Product Marketing Manager 前田 恵
Digital Marketing Specialist デンハート美由貴
Professional Servicesチーム(右写真 左から)
Senior Functional Consultant 花岡 明
Services Solution Architect 小畑 卓也
Product Solution Architect 井上 敬浩
Manager, Services Solution Architecture 木部 弘也