IoTという言葉が企業に広く浸透し、実際にIoTを使って新しいビジネスを立ち上げようとする動きも見られるようになった。ただ、そんな施策の最前線にいきなり立たされた担当者にとっては手探りの状態で、戸惑うことも少なくない。IoTについて、まず何を知り、どこから行動を起こすべきなのか。IoT専門の情報サイト「IoTNEWS」の代表であり、「2時間でわかる 図解『IoT』ビジネス入門」(あさ出版)の著者である小泉 耕二氏に話を聞いた。
「IoTって何?」と悩まなくてすむ入門書を提供したかった
――「2時間でわかる 図解『IoT』ビジネス入門」の初版を出されたのは2016年春のことですが、当時を振りかえって出版の経緯を教えてください。
小泉氏: 私が代表を務めるIoT専門の情報サイト「IoTNEWS」が2015年5月にスタートしたのですが、その頃はまだIoTは製造業を中心に、一般的にはM2M(Machine to Machine)と呼ばれていました。ただ、それでもIoTNEWSとしたのは、産業の世界でも「Industry 4.0」という変革が叫ばれるようになるにつれ、次第にIoTという言葉も広がりはじめ、これからの新しいトレンドになるという予感があったからです。
「2時間でわかる 図解『IoT』ビジネス入門」(あさ出版)
そして2016年頃になれば、大手企業の間に一気に「IoT○○部」みたいなものが立ち上がってくるだろうと考えました。端的に言えば、ある日突然に会社から無茶ぶりされて、そんなIoT○○部に異動した人たちが、「IoTって何?」と悩まなくてすむような入門書を用意してあげたかったのです。
――たしかにIoTは「モノのインターネット」と直訳されていますが、それだけでは何のことやらさっぱりわかりませんものね。
小泉氏: 新しいテクノロジーの黎明期によくあることなのですが、いろんな解釈をするひとが、変な理解を世間に広めてしまうことがよくあります。
私としてはIoTもそうなってしまうのを非常に危惧しており、IoTがいかなるものなのかを、できるだけ多くの人にきちんと知ってほしいと思いました。
――具体的に本書の中では、IoTをどのように説明していますか。
小泉氏: IoTは単にモノのデータをインターネットに送るだけでなく、現実世界の情報をデジタル空間にコピーし、そこでの処理や判断の結果を現実世界にフィードバックしてモノをアクチュエートする(作動させる)ところまでがセットです。本書ではそういった内容を、手を替え品を替え、繰り返し説明しています。
――本の帯には「『わかる』だけではなく、明日から『使える』手法が満載!!」ともありますが、その意味では解説書にとどまらず、実用書を狙っているのでしょうか。
小泉氏: そうです。先ほど「IoT○○部に異動した人が悩まなくてすむように」と話しましたが、実際に本書を読んだ翌日から仕事に活かせるものにしないと意味がありません。そこで家ナカであったり、クルマであったり、ヘルスケアであったり、できるだけ身近な例を取り上げて説明することに徹しました。
――最初にスマートロックを取り上げたのは、そういう理由だったのですね。
小泉氏: はい。ただ、スマートロックの仕組みを解説するだけでなく、そのあとに「本当にこれを買いますか」という問いも入れています。スマートロックはたしかに便利かもしれませんが、一方で電池が切れて開けられず非常に困るケースもありますよね。
単に技術的にできることを説明するだけでは、多くの人はその本質まで理解できません。その技術を“自分ごと”に置き換えてもらうことが重要なのです。そうすることで、「スマートロックを玄関に使うのはさすがにリスクが大きく、電池交換に多少時間がかかっても問題ない場所でなければ応用が厳しい」ということがわかってきます。
本書で示すところの「明日から『使える』手法」には、そんなこだわりがあります。
IoTが生み出す産業のデジタル変革とは
――「IoTが生み出す産業の変化」と題する第二部についても、興味深く読ませていただきました。その中で「これからの企業は、デジタルの力によってこれまでに無かったまったく新しい産業を生み出しており、その影響は製造業のみならず、流通業など、さまざまな産業を巻き込んだ、産業構造の変革を生み出しています」と述べておられます。本書を出版してから2年以上が経過した現在、この動きに何か変化はありますか。
小泉氏: 予想していたとおりのペースで産業構造の変革が進んでいます。
そもそもIoTはテクノロジーの末端のところに位置付けられる要素なので、IoTが社会や産業を変えていくわけではありません。社会や産業がデジタル化していくという大きな流れの中で、IoTがクローズアップされているのです。
話を混乱させてしまうおそれがあるため、本書では踏み込んで書きませんでしたが、世の中でネットワーク技術が進歩し、コンピューターの性能もどんどん向上していく状況において、さまざまなデバイスやモノがネットワークと接続されて、新しい価値を生み出していくのは“既定路線”であって、新しいことでもなんでもないのです。
――当たり前のこととして、産業構造のデジタル変革は進んでいくので、その流れから取り残されないためにも、IoTを正しくしっかり理解することが大切なのですね。その意味で、小泉さんが描いている産業のデジタル変革とはいかなるものなのかを、あらためて教えていただけますか。
小泉氏: イメージしやすいのは「人間拡張」という概念ではないでしょうか。人間はこれまで、新しいテクノロジーをヒトができることを飛躍的に伸ばすために活用してきました。たとえばクルマに乗ることで、足で走るよりも圧倒的に速いスピードで長距離を移動することができます。さらにその先には航空機があります。
ただ、テクノロジーが一定以上のレベルに達すると、今度はニーズが枝分かれしていきます。例えば「東京からニューヨークまで3時間で到着する航空機が登場すればうれしい」と考える人がいれば、「スピードよりも旅情を重視したい」と考える人や、「とにかく旅費を安く抑えたい」と考える人もいます。
産業のデジタル変革も同じ流れにあって、これまでの「Industry 3.0」の世界では製造業を中心に、ひたすら効率化・自動化を追求してきました。しかし、Industry 4.0に進化するとかなり様相が変わってきて、消費者をも巻き込んだもっと大きな変革が起こります。
――具体的には、どんな変革が起こりつつありますか。
小泉氏: 近年注目されはじめたMaaS(Mobility as a Service)はその代表例です。交通をクラウド化し、運営主体にかかわらずすべての交通手段(モビリティ)を1つのサービスとしてとらえ、シームレスにつなぐ新たな「移動」の概念です。
例えば、いま東京にいる消費者が鎌倉に行きたいと要求すれば、まわりのさまざまなモビリティが自律的に協働し、人それぞれの希望に沿った移動をかなえてくれます。まさに消費者のまわりをデジタルが取り囲み、その人のやりたいことに対して、気を利かせながらお世話をしてくれるというイメージです。
――最後に、IoT○○部に異動し、これからのIoTビジネスを考えている人に向けて、何かアドバイスをいただけたら幸いです。
小泉氏: 本書のエピローグで述べたことの繰り返しになりますが、IoTの概念を考えると、本来は「アクチュエートする」ところまで実現する必要があります。しかし、現状は人へのフィードバックについても、スマートフォンやパソコンに何らかのデータを表示するレベルでとどまっているものがほとんどです。
そこで皆さまがIoTの新しいサービスやビジネスを考える際には、より複雑なことをAIで学習・推論させるなどにより、未来を予測し、現実世界へのアクチュエートの実現を目指していただければと思います。IoTにおける変革とは、「人の生活」そのものにイノベーションを起こすことであることを念頭におき、デジタライゼーションに挑戦してください。
――今日はお忙しい中、興味深いお話をありがとうございました。
2時間でわかる 図解「IoT」ビジネス入門(販売サイト(Amazon)へのリンク)
著者:小泉 耕二
出版社:あさ出版
定価:1,600円+税(Kindle版は1,300円+税)
出版日:2016年4月
ISBN-10:4860638581
ISBN-13:978-4860638580
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