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福本 勲の「プラットフォーム・エコシステム」見聞録(前編)

胎動する「プラットフォーム・エコシステム」、自動車業界では国際標準化の動き

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今、旧来のサプライチェーンやエンジニアリングチェーンに大きな変化が生じています。テクノロジーとビジネス両方の世界に精通し、第4次産業革命の最前線に立っている福本 勲氏が、この新たな潮流を解説するとともに、事例やニュースを読み解きます。

皆さんはじめまして。私は東芝デジタルソリューションズにてインダストリアルIoTの事業・ビジネスの企画・マーケティングを担うとともに、一般社団法人 インダストリアル・バリューチェーン・イニシアティブ(IVI) でエバンジェリストを担うなど第4次産業革命に関するいくつかの団体で活動しています。(編集部注:福本氏の詳しいプロフィールは記事の末尾をご覧ください)

本コラムでは、今、これまでのサプライチェーンやエンジニアリングチェーンに大きな変化をもたらし始めている動きについて解説します。

従来の製造業サプライチェーンは、階層型(トップダウン型)のビジネスモデルを前提としていました。最終製品の組み立て企業がピラミッドの頂点に立ち、いわゆる“ケイレツ”のような特定の企業間の固定的な取引関係に基づく商流で、部品や半完成品などのハードウェアを供給するビジネスモデルです。そこでは、ソフトウェアは補完的な位置づけでした。

しかし今、これがたち行かなくなっています。今後求められるのは、企業が必要なときに、必要な相手と、旧来の商流を超えてつながれること。そして、ハードウェアが主体ではなく、ソフトウェアやデータ、コンテンツが競争力の源泉となり、そこにハードウェアが組み込まれる新しいビジネスの姿。これは「プラットフォーム・エコシステム型」のビジネスモデルと呼ばれています。

これまで最終製品の組み立て企業が支配していた、あるいは垂直統合型の大企業が一社完結で成立させていた、そのモノづくりのモデルは、これからエコシステム型のモデルへと変化していくでしょう。

自動車業界におけるサプライチェーンの変化(著者作成)

コマツの事例に学ぶエコシステム型ビジネスの本質

「モノ」も「コト」も、インダストリーや国を越え、サイバー空間における価値共創の仕組みの中に一体化されようとしています。それがプラットフォーム・エコシステムの本質です。サイバー空間での価値共創を実現するための条件や課題、たとえばセキュリティや法整備、人間と機械の協調・協働などについても、プラットフォーム・エコシステムの台頭という大きな変化の延長上にあるものと捉える必要があります。

将来どのようなモノやコトを作りたいか? それが見えているか否かによって、IoTやAIによって得られる成果が変わります。

例えば、米ボストン・ダイナミクス(Boston Dynamics)社のロボットの運動能力は、ある面で人間を超えています。建設機械メーカーのコマツ(小松製作所)はこれまで熟練技術者しかできなかった作業を、デジタル技術の活用によって、誰でも可能にしました。

コマツにもう少し注目してみましょう。同社は以前から「KOMTRAX」と呼ぶスマート・コネクテッド型プロダクトを推進してきました。同社の顧客企業が保有する建設機械やその燃料の盗難を防止するサービスを提供したり、建設機械のオペレーションのデータをコマツが自ら取得し、モノの改良につなげたりするなど、顧客への導入後にモノを進化させる取り組みも知られています。

ただ、建設の現場が必要としていることをフルサービスとして提供するには、建設生産プロセス全体をつなぐプラットフォームが必要でした。それを単独で提供することは現実的ではないと判断したのでしょう。コマツは、「LANDLOG」というエコシステム型の取り組みにかじを切りました。

このように製造業などの企業が、エコシステムという「場」につながっていくときには、受動的に「場」につなげるのではなく、能動的に自らの持つ能力を「モノ」ではなく「サービス」「価値」に変換し、開示することが必要になります。

※用語解説
LANDLOGは、調査・測量・設計・施工・メンテナンスといった建設プロセス全般のデータ収集、 それらデータを理解可能な形式に加工して提供するオープンなIoTプラットフォームです。多くの企業や現場から多種多様な「モノ」データをAPI経由でLANDLOGに収集し、蓄積された大量のデータから相関などをAIによって「コト化」し、 世界中の多種多様なアプリケーション開発パートナーにさまざまなAPIを通じて提供しています。

自動車業界をめぐる国際標準化の動き

ここからは産業界のニュースを題材に取り上げ、プラットフォーム・エコシステムに向かう動きを詳説します。

2019年2月、自動運転に不可欠な地図データ基盤の構築を日米企業が連携して行うことが発表されました。INCJ(旧産業革新投資機構から新設分割)やトヨタ自動車、本田技研工業、日産自動車、マツダといった日本の大手自動車メーカーや地図情報大手のゼンリンなどが出資するダイナミックマップ基盤が、ゼネラルモーターズ(GM)系の米アッシャー (Ushr)社を買収するというニュースです。

これにより日本の大手自動車メーカーと米国の大手自動車メーカーであるGMが高精度な地図データを共有可能な体制が構築されることになります。

高精度地図の必要性や、自動車のサプライチェーンの変化などを読み解き、この提携の意義について考察してみましょう。

自動運転に向けた地図データの企業相関図(筆者作成)

なぜ地図情報の高精度化と標準化が求められるのか

現在、多くの車にはカーナビが付いています。また、コンシューマ向けの地図サービスでは「グーグルマップ(Google Map)」などの地図アプリを搭載したスマートフォン(スマホ)をカーナビ代わりに使う利用者も増加しています。無料で精度も高い地図アプリの普及によって、カーナビ専業メーカーの業績に影響が出ている状況です。

グーグルジャパン(Google Japan)は2019年3月6日、日本のGoogle Mapを刷新することを明らかにしました。新たなGoogle Mapはストリートビュー画像や、第三者機関から提供される交通情報、最新の機械学習技術、そして地域のユーザーからのフィードバックなどを活用し、新しい地図を開発。「次を右折」ではなく「コンビニで右折」といったような、ランドマークを目印とした徒歩ナビゲーションが可能になるほか、ダウンロード可能なオフライン地図も順次提供するとしています。

この背景にはクラウドコンピューティング、高速ネットワーク、GPS(Global Positioning System/Global Positioning Satellite:全地球測位システム)の3つの技術の発展があります。こういった技術が安価に利用できるようになったことで、オープンな位置情報の活用が可能になりました。

一方、現在のカーナビなどの地図精度のレベルでは、完全自動運転は実現できません。現在のカーナビで使っている地図やGPSベースの位置測定では数mの誤差が生じるからです。人の運転や歩行をサポートする目的であれば、数mの誤差、つまり道路の右端と左端くらいのズレは大きな問題にはなりませんが、完全自動運転となるとそうはいきません。

完全自動運転を実現するには、車両がどこにいるのか、そして周囲にはどのような形状の物体があるのかを5cm、10cmといった精度で認識する必要があります。完全自動運転の地図データには、道幅や走行車線、制限速度、立体交差などの高精細な3次元データが求められます。

先行する地図作成ベンダーの動き

米グーグル(Google)をはじめ完全自動運転の実験を先行してきたベンダーは、自力でデジタル地図作成に取り組んできました。これは、当時存在しなかった高精度なデジタル地図が無ければ実証実験を進められないという事情があります。中国では、政府主導で大手インターネット事業者を中心に地図情報の開発が進められています。

こういった背景により、現在は自動運転用の地図分野ではGoogleが先行しています。既に米国の一部の州で自動運転車による配車サービスが実用化されているほか、Googleはフィアット・クライスラー・オートモービルズ(FCA)などとの提携も発表しています。

ただ、欧米を含め世界の自動車メーカーは地図を自力で作ろうとしているわけではありません。例えば欧州では、これまでカーナビ向けの地図を提供してきた地図ベンダーが高精細なデジタル地図の作成に乗り出しています。このように、多くの自動車メーカーは、それぞれの地域に応じたデジタル地図を専門の地図ベンダーから購入して使うことを想定しています。

個々の地図データの作成ベンダーにおいても、1社で全世界のデータを作成することは困難です。したがって各国のベンダーが地図データの標準に合わせてデータを作成することが必要であり、それによって網羅度の高い地図データが作成可能になります。

ここで重要なのが国際標準です。国際標準を主導したベンダーは大きなメリットを得られるので、世界規模で地図情報の標準をめぐる争いが起きています。

標準化を主導するメリットは、技術開発から製品発売へのリードタイムの短縮です。標準化を主導できれば、それによって自社が優位になるような、いわゆるロックイン現象が起きる可能性が高まります。一方、後発のベンダーは標準化に従わなければ自社の地図の普及が困難になることから、既に決まっている標準仕様での開発を余儀なくされてしまいます。

つまり、標準化を主導したベンダーはエコシステムを事前に設計できる権利を手にできます。エコシステムの事前設計には、テクノロジーおよびビジネスの両面においてオープン&クローズ戦略が重要な要素になりますが、標準化を主導したベンダーはそれをコントロールできるのです。

先に述べた日米連合の背景には、地図情報の標準をグーグルや中国勢に押さえられてしまうと、自動運転の技術・サービス開発に支障が出かねないとの危機感があるのでしょう。

自動運転の要となる地図情報を取得するには、専用の調査車両を走らせてデータを収集しなければなりません。全世界を網羅する地図作成を日本が独自で行うことは困難であり、日本が単独で国際標準を先導することは現実的ではないので、自動車大手が出資する日本発の日米連携が実現したと考えられます。

後編では、欧州における産業デジタル化の動きを概観した上で、完全自動運転化がもたらすサービス変革やサプライチェーン・エンジニアリングチェーンの変革の可能性について解説します。

福本 勲(ふくもと いさお)

合同会社アルファコンパス 代表CEO

中小企業診断士、PMP(Project Management Professional)


1990年3月 早稲田大学大学院修士課程(機械工学)修了。同年に東芝に入社後、製造業向けSCM、ERP、CRMなどのソリューション事業立ち上げやマーケティングに携わり、その後、インダストリアルIoT、デジタル事業の企画・マーケティング・エバンジェリスト活動などを担うとともに、オウンドメディア「DiGiTAL CONVENTiON」の立ち上げ・編集長などをつとめる。2020年にアルファコンパスを設立し、2024年に法人化、企業のデジタル化やマーケティング、プロモーション支援などを行っている。主な著書に「デジタル・プラットフォーム解体新書」(共著)、「デジタルファースト・ソサエティ」(共著)、「製造業DX - EU/ドイツに学ぶ最新デジタル戦略」がある。主なWebメディア連載に、ビジネス+IT/SeizoTrendの「第4次産業革命のビジネス実務論」がある。


その他Webコラムなどの執筆や講演など多数。

(プロフィールは2024年6月現在のものです)

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