なかでも、企業の「生産性向上」は改革の重要テーマのひとつであり、近年、企業側の取り組みがますます注目されています。
また、生産年齢人口は今後、日本に限らず中国などでも減少していくと言われており、そうした社会問題への対策が急務になっています。
(出典:独立行政法人労働政策研究・研修機構 データブック国際労働比較2018 を元に筆者が作成)
オックスフォード大学が予測した「消える仕事」
2013年、英オックスフォード大学のマイケル・A・オズボーン准教授が発表した論文「雇用の未来(The Future of Employment)」が世界中に衝撃を与えました。ロボットや人工知能(AI)などによる自動化が進み、人間が不要になる未来を予測しているからです。
その論文で紹介された「10年後に消えている可能性が高い人間の仕事」の一部を見てみましょう。
(出典:THE FUTURE OF EMPLOYMENT: HOW SUSCEPTIBLE ARE JOBS TO COMPUTERISATION?, Carl Benedikt Frey and Michael A. Osborne, September 17, 2013)
このリストには、これまで人間の技術・技能や接客力などに支えられてきた業務が多く含まれています。そして6年近くが経った2019年の現在、この予測の一部はすでに現実になりつつあります。例えば「測量技術者、地図作成技術者」は、建設現場でドローンを用いた3D測量で代替し、効率化を図るという取り組みが進行中です。
また、かつては「人間でなければ、できない」と思われていたレストランのウェイターやウェイトレスのような仕事も、今はタブレット端末に取って代わられるようになっています。受付業務や秘書業務も同じような流れにあるでしょう。
さらに今後は、調理、医療、清掃、高齢者介護などのサービス産業で、ロボットが複雑な作業を担うことになるとの予測もあります。
自律走行ロボットによる宅配サービス
2017年2月、宅配最大手ヤマト運輸の労働組合は、春闘の労使交渉で賃上げに加え、次年度の宅配便の取り扱い個数が同年度を超えないよう会社側に求める異例の行動に出ました。背景には、ネット販売業者のサービス競争で即日配達や日時指定配達が急増していることがあります。業務量が増える一方なのに対し、人手が追い付かない。宅配業は、この課題がクローズアップされている業種のひとつです。
米国のロボットベンチャーであるStarship Technologies社は、自律走行配達ロボット「Starship」を2015年に発表しました。その後、試験走行を重ね、2018年11月に英国と米国でStarshipを使った定額制の荷物配達サービスを開始。約半年後の2019年4月には英国での配達回数が5万回に到達し、延べ走行距離は20万マイル(約32万km)におよんでいます。この配達回数は大手運送業者の通常の実績に比べるとはるかに少ないものの、今後投入エリアが拡大されれば、加速度的に配達回数が増えると予想されます。
※参考:Starship社の動画
また、グローバル貨物のFedExや日本の楽天も、ロボット配達サービスの提供を計画しています。ロボット配達が今後わたしたちの暮らしになじむのにそう時間はかからず、宅配が人間を必要としない仕事になる可能性もあるでしょう。
AIがプロジェクトマネジャーの業務80%を肩代わり
宅配業と同様に、人手不足が顕著なのがIT業界です。特にプロジェクトマネジャー(PM)と呼ばれる職種の人材不足は顕著であり、ITプロジェクトのボトルネックとも言われています。ところが調査会社の米Gartner社は、「PMに任されている作業の80%が2030年までに無くなる」と予測しています。データの収集や追跡、報告といった作業がAIに取って代わられるためだと言います。
一般にPMは、期日までに成果物を完成させる使命を負います。そのためにプロジェクトチームを結成し、必要な人材、資材、費用を計画して確保し、プロジェクトを遂行するのが仕事です。成果物が完成し、ユーザーやスポンサーに受け入れられた時点でプロジェクトは終了し、プロジェクトチームは解散します。成果物の完成後は運用担当チームがこれを運用しますが、プロジェクトチームはできるだけ容易に運用できるシステムを構築し、スムーズに運用チームに引き継ぐ責任を担います。
ITシステム構築プロジェクトは、業務要件の高度化、IT技術の高度化、複雑化、マルチベンダー化などによって、従来に比べて難易度が高まっているのが実情です。このため、PMの役割はますます重要になり、スポンサー、ユーザーのPMへの期待は大きくなっています。
AIが代替できるPMのタスクには、データ収集、レポート作成、追跡などがあります。それらをAIが担うようになれば、企業の幹部は、どのプロジェクトが特定の事業に関連しているのかをAIに尋ね、プロジェクト最新状況の情報を入手し、会議の項目を取り込むことができるようになるでしょう。現在は、これらのタスクの大部分は人間によって実行されていますが、将来的にはチャットボットによって処理されるようになり、その精度も高まるはずです。
人間は「人間にしかできない業務」にシフト
ロボット、AIなどのデジタル技術が人間の仕事を奪うのではないかとの見方もありますが、生産年齢人口が急激に減少し企業の生産性向上が課題になっている日本では、デジタルの力で実現可能な業務はデジタルに任せ、人間は人間でなければ対応できない業務にシフトしていくことが求められるのではないでしょうか。
後編では、労働生産性を向上させ、不足する人材を補う日本企業の取り組みについて紹介します。