DXを成功させ、本来の目的である顧客への価値創出を成し遂げるには、正確な顧客データの蓄積と活用が不可欠です。しかし、せっかく集めたデータが活用できる状態になっていない企業も多いのではないでしょうか。
顧客データの統合と活用をサポートするSansan Data Hubを提供するSansan株式会社の久永航氏が、データマネジメントの重要性と具体的な手法を解説します。
また、実際にSansan Data Hubを導入したトレジャーデータの桑畑が、Treasure Data CDPとの連携によるアカウント/リード別の顧客ステージ可視化の事例を紹介します。
※本記事はトレジャーデータ株式会社が主催した「PLAZMA 20」(2021年10月開催)のセッションをもとに編集しました。
久永 航 氏
Sansan株式会社
Sansan Unit Product Marketing Manager
大学卒業後、IT業界で10年強、SI、海外プロダクトマーケティング、クラウドサービス立上げなどを経験した後、2009年Sansanへ入社。ソリューション営業、カスタマーサクセス 部長を経て、2015年にCIOとして社内のDXを推進。2018年から新規DX事業立上げに従事するとともに、顧客のDX推進を支援。2021年6月より現職。
桑畑 穣太郎
トレジャーデータ株式会社
セールスディベロップメント
大手カード会社にてデータベースマーケティングに従事した後、マーケティングコンサルティングファームおよびデジタルエージェンシーに参画し、エンタープライズ企業のブランド構築·デジタルマーケティング·CRMを推進。2018年4月にトレジャーデータに参画。現在はCDP(カスタマーデータプラットフォーム)活用の啓発·支援を行う。
<目次>
攻めの経営にはデータの管理・活用が不可欠
久永:昨今の新型コロナの影響により、従来の事業活動を推進するのが難しくなっています。そんな中、コロナによって企業のDXが加速しているという現状が、電通のアンケート調査から分かります。
DX推進において最初にすべきことが、データの管理・活用です。データが管理・活用できていれば、少ない業務負担で最大の成果を上げることができ、データに基づいた戦略戦術で攻めの経営を行うことができます。
データマネジメントができないことによる問題点には、大きく分けて以下の3つがあります。
これらはデータマネジメントができないことによる顧客理解の不足から起こります。だからこそ、顧客データ基盤を構築してデータマネジメントを行う必要があるのです。
データ基盤構築を阻む壁は、統合の難しさとデータの精度
久永:顧客データ基盤構築におけるよくある課題としては、以下の3つが挙げられます。
マーケティング部門のデータはMAに、営業部門のデータはSFAに、とデータが分散しているケースは多いでしょう。部署ごとに表記が異なったり、入力されていない項目があったり、分散したデータを一つのプラットフォームに統合するのは容易ではありません。
Integrate社のBtoBリードの実態調査によると、企業が保有する顧客データのうち約40%が使える状態になっていないとのことです。基盤構築のために社内の顧客データを調査してみると、半分近くが使えない可能性もあるでしょう。
このように、顧客データ基盤を構築するには乗り越えなくてはならない壁がいくつもあります。社内の体制やリソースをすぐに変えるのは難しいという前提においては、いかに顧客データをスピーディに統合して活用できる状態にしていくかがポイントになります。
“使える”データに進化させる「Sansan Data Hub」
久永:上記の課題を解決し、顧客データの統合と活用をサポートするのが「Sansan Data Hub」です。オンライン・オフラインを問わず、分散したさまざまな顧客データベースを統合して“使える”データに進化させます。
Sansanが提供するクラウド名刺管理サービスもデータソースの一つです。さらに今ある情報だけでなく、戦略策定に使える属性情報も付与します。
下図の左側は過去に獲得したリード情報、右側は新たに獲得した最新の名刺情報です。過去の情報は会社名やドメインが古く、住所の項目が未入力という問題があります。
マーケティングデータベースにおいてはメールアドレスをユニークキーにするケースもよくありますが、この場合はドメインが古くメールアドレスが異なるため、左側の「山田さん」と右側の「山田さん」は別人として管理されてしまいます。
Sansan Data Hubではこれらの情報が同一企業、同一人物であるということを判定するだけでなく、併せて新旧判定をすることで古い情報の更新が可能です。
名刺の名寄せで培ってきたテクノロジーで企業を特定
久永:先に説明した通り、統合するデータの約40%には重複や抜け・漏れ、表記ゆれ等の問題があります。この課題を乗り越えてSansan Data Hubがデータ統合を実現するポイントは、突合キーとなる文字列です。
下図左側のデータにある3つの社名は同じ会社を表していますが、表記が異なっています。このままでは同じ会社のデータが3つ重複していると判別することはできません。
しかし、社名とは別にキーとなるデータを持たせておけば、重複を発見することができます。図の右側の例では国税庁が発行している法人番号を付与しています。同じ会社ならば同じ番号になるので、法人番号が重複していれば同じ会社のデータが複数あるということです。
さらにリードのデータにも法人番号を付与しておけば、企業のデータとリードのデータを簡単に紐づけることができます。
ではなぜSansan Data Hubは企業を特定して法人番号を付与できるのか。これには弊社がクラウド名刺管理サービス「Sansan」で名刺の名寄せをしてきたノウハウが活かされています。
名刺にはその人物や所属する会社に関する多くの情報が記載されています。Sansanに登録されたデータの精度は担保しているので、名刺データの企業特定と名寄せはそれほど難しくありません。
不備がある可能性の高いその他のデータベースと名寄せする際には、名刺の名寄せで培ってきた辞書やAIのテクノロジーを駆使して企業を特定しています。さらに企業が特定できていれば帝国データバンクの外部データを付加してデータをリッチ化することもできます。
このように、部門ごとに分散したデータベースを物理的に統合するのではなく、キーを付与することで論理的に軸を通して活用できるデータに進化させるのがSansan Data Hubです。
弊社は自社でもSansan Data Hubを利用してどのくらいの成果が出るか検証を行いました。その結果が以下の図です。
以前から法人単位のデータ集約は行っていましたが、法人識別できないデータも存在していました。しかしSansan Data Hubの導入により、今まで識別できなかったデータのうち約半分が識別できるようになり、データ件数が3倍になりました。
法人データ件数が3倍になったため、法人と紐づく人物のレコード数も3倍になりました。さらにデータの充実により、ABM(アカウントベースドマーケティング)戦略に基づくマーケティングセールスで獲得した商談数が64%増加したという成果が出ています。
Sansan Data Hub × Treasure Data CDPによるデータマネジメント事例
久永:トレジャーデータではクラウド名刺管理サービス「Sansan」と、「Sansan Data Hub」を導入していただいています。最近ご導入いただいたSansan Data Hubの導入背景を教えていただいてよろしいでしょうか。
桑畑:トレジャーデータはTreasure Data CDPというデータプラットフォームを元々持っているので、顧客データ自体はもちろん統合済みです。しかし実は、統合の前段階でのボトルネックも存在しました。それらを解決できることが導入の理由です。
まず1つ目はWebフォーム経由で取得したリードデータの“ゆらぎ”正規化です。弊社でもコロナ禍によりデジタル接点でのリード取得の比重が増えました。同じ企業でも表記の異なる形でフォーム経由でお問い合わせをいただく可能性が増し、フォームの入力内容に“ゆらぎ”が生じやすくなりました。この“ゆらぎ”を手作業で正規化するのが大きな業務負担になっており、Sansan Data Hubで自動化したいという意図がありました。
2つ目は法人番号とメールアドレスの自動紐づけです。法人番号は企業の属性や取引情報を統合する上で重要なキーであり、法人番号とメールアドレスの自動紐付けによる法人─個人のデータ統合は、正確で質の高い戦略立案アプローチを実現するのに欠かせません。Sansan Data Hubのはかなり高いマッチ率で法人番号とメールアドレスが紐づくことが検証できました。
最後に、業種・部署・役職情報のリッチ化です。Sansan Data Hubでは、企業ごとに帝国データバンクの業種コードが自動的に振られます。また、リード単位で部署分類や役職分類も自動的に付加されます。こうしたリッチ化は、精度の高いアプローチをする上で有効だと感じました。
Sansan Data HubとTreasure Data CDPは相互補完の関係
久永:Treasure Data CDPも名寄せに強いプラットフォームとして提供されていますし、場合によってはバッティングするのではないかと感じる方もいらっしゃるかもしれません。Treasure Data CDPとSansan Data Hubとの関係はどのように考えていらっしゃいますか。
桑畑:弊社のTreasure Data CDPは、それ自体はデータを持たず、SFAやMAからデータを収集・統合する「器」という位置づけです。一方御社のSansan Data Hubは、これまで名刺管理で培ってきた法人番号とメールアドレスを紐づけるためのデータやリッチ化に使用するデータ等、有益なデータを元々持っているプラットフォームという位置づけです。バッティングをするどころか、相互補完関係にあると考えています。
Treasure Data CDPも名寄せの手法を持ち合わせてはいますが、Sansan Data Hubのように既にかなり高い精度でマッチ率を誇る連携手段は、業務を推進する上で大変ありがたく感じています。
顧客との関係の進み具合を可視化する
久永:次は、具体的にSansan Data Hubをどのように活用しているかを教えていただいてよろしいでしょうか?
桑畑:既にTreasure Data CDPに統合済みのデータにSansan Data Hubの正規化・リッチ化されたデータを付け加えたおかげで、より業務負担のかからない正確でスピーディなデータ統合を実現することができました。現在では統合された環境でアカウント/リード別の顧客ステージ可視化という観点で活用を始めています。
上図の3つの要素のうち、ターゲットアカウントは売上規模別と業種の二軸で定義しています。業種定義には、Sansan Data Hubから取得した帝国データバンクの業種データを活用しています。
アカウント内リードは、ターゲットアカウントごとに部門と役職の2軸でリード分布を定義しています。ここでもSansan Data Hubから取得した役職クラス分類を活用しており、名刺管理で取得するリード情報も日々反映に努めています。
顧客ステージは大きく3段階に分け、それぞれのステージをさらに細かく分けています。大分類は、初回のミーティング前までのナーチャリングステージ、初回ミーティングから新規成約までのセールスステージ、成約後もお付き合いを続けるカスタマーサクセスステージです。デジタルとリアル両方の接点での行動ログに基づいて定量的に定義しています。
上記の3つ、ターゲットアカウント、アカウント内リード、顧客ステージを掛け合わせ、Treasure Data CDPのレポート機能を利用してアカウント/リード別ステージを可視化しています。例えば下図は、とある銀行の部署役職別のリード分布、顧客ステージ分布を可視化したものです。
マーケ部門のリードは初回ミーティング済みで内部検討待ちの状態ですが、IT部門で複数のリードがナーチャリングステージにいることが分かります。ステージの可視化により、待つ一方ではなく積極的にアプローチできるようになります。
各リードへのアプローチ方法の検討には、Treasure Data CDP for Salesの機能によるリード単位のダッシュボードを活用しています。下図がダッシュボードのサンプルです。接点別の反応履歴が詳細に把握できるようになっており、予測スコアリングやネクストベストアクションの示唆も表示されます。
このサンプルの情報を見ると、このリードはとある銀行のIT部門の部長で弊社Webサイトのセキュリティに関するページを直近で3ページ見ていることが分かります。FISC安全対策基準対応やセキュリティに関するコンテンツをメールで送って個別相談を打診すれば、初回ミーティングのアポイントが獲得できる可能性があります。
このように、Sansan Data Hubの正規化・リッチ化されたデータを活用して、精度の高いアクションを導き出すことが可能になっています。
クラウド名刺管理サービス「Sansan」については既にTreasure Data CDPとのコネクタが用意されていますし、この度のトレジャーデータによる自社運用の取り組みを通じてSansan Data Hubともデータ連携可能な状態になりました。その上で、よりリアルタイムで双方向なデータ連携ができるよう、引き続きご一緒させていただければと思います。
久永:ありがとうございました。
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