CookieやIDFAといった広告に活用できる識別子がなくなることで、外部プラットフォームを活用した精度の高いターゲティングが困難になっていきます。そうした時代に、企業はどのような形で顧客との接点を持つべきなのか。
株式会社サイバーエージェント DX本部小売DXセクターチーフコンサルタント 阪本 悠紀 氏が、ファーストパーティデータを活用した自社独自の集客・送客装置の構築事例とともに紹介しました。
※本記事はトレジャーデータ株式会社が主催した「PLAZMA After 3rd Party Cookie〜Cookie規制後のデータ活用とマーケティング 〜」(2021年5月開催)のセッション「『人を動かす』を外部に頼らない時代へ」をもとに編集しました。
阪本 悠紀 氏
株式会社サイバーエージェント
DX本部小売DXセクター チーフコンサルタント
2018年サイバーエージェント入社し、クライアント企業の1stPDを活用した、デジタル広告効果の最適化やダッシュボードの構築等を実施。2020年9月からはAI事業本部小売セクターに異動し、小売企業のデータのクラウド化から統合、その後の施策活用までのコンサルティング業務を行う。
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<目次>
サイバーエージェントDX本部のご紹介
私たちサイバーエージェントは、主にゲーム、メディア、インターネット広告という大きく三つのビジネスモデルで事業を展開しています。その中で私は、インターネット広告事業部門の傘下にあるAI事業本部という開発組織で、開発からデザインまでを一気通貫で支援させていただいています。
開発に特化した組織体制になっており、総勢300名ほどのエンジニアスタッフが在籍しています。内訳は開発やデータサイエンティストのような、よりビジネスに近いエンジニアが250名、学術的な研究を行うAI研究員が約50名、クリエイティブに生かしていくCGクリエイターが約40名です。
私が所属する小売DXセクターは、DX本部の傘下にある、小売企業のデジタルトランスフォーメーションを支援する組織です。販促DXにおけるコンサルティングや、運用メディアの構築、運用の支援などを、パートナー提携のような形で支援しています。資料左にあるヤマダ電機様との事例などが該当します。
また、店舗をデジタル化していくにあたって、サイネージや、店舗に来店したユーザーに対してコミュニケーションを取るためのプッシュ通知のシステム構築など、プロジェクトカットの構築の支援もしております。
「ヤマダデジタルAds」の仕組み (出典)
コンサルティングで「何をすべきか」を描くだけではなく、実行できる組織として様々な企業とコミュニケーションをとりながらご支援しています。
ではここから、本セッションの「『人を動かす』を外部に頼らない時代へ」というテーマでお話しします。
外部に依存した集客・送客のリスク
昨今、ITP(Intelligent Tracking Prevention: トラッキング防止機能)やATT(App Tracking Transparency: アプリトラッキング透明性)の影響によって、広告に使えるようなCookieやIDFAへの取得が困難になってきています。
また、CookieやIDFA、広告IDのようなデータ、さらには外部プラットフォームに依存した形のデータ活用、デジタル広告の最適化に注力してしまうと、どうしてもプラットフォーマーの方向性に影響を受けやすいというデメリットがあります。
そこで、企業が持つ購買データ、ECサイトやアプリでの行動データといった、いわゆるファーストパーティデータが、今後顧客を理解し、動かしていく上で必要不可欠になってきます。データ自体が揺るがない真実のデータであるため、外部のプラットフォーマーなどに影響されずに、顧客を理解し、コミュニケーションを取ることができるからです。
ここで一例としてアメリカ、中国、そして日本でリテーラー(小売事業者)、プラットフォーマー、マニュファクチャラー(メーカー)がファーストパーティデータを用いてどういった形で顧客との接点を描き、人を動かしているのか、またそれを支えるデータ基盤はどのようなものかをお話しします。
アメリカの場合:独立型
アメリカでは、リテーラー、プラットフォーマー、マニファクチャラーがそれぞれ独立してアプリ、データ基盤を持ち、送客できる仕組みを持っています。それぞれが独立した顧客体験を描けるような環境になっているのです。
こういった環境があることで、リテーラーは自分たちの顧客を動かすこともできますし、プラットフォーマーは自分たちの顧客に対してアプローチができる、すなわちそれぞれが自社顧客に対して最適なコミュニケーションができるような座組みになっています。
中国の場合:プラットフォーマー先行型
逆に中国は、アメリカの事例とは相反する形です。中国には、テンセントやアリババといった会社が強いプラットフォーマーとして存在し、プラットフォーマー先行の状況になっています。
リテーラーとマニュファクチャラーがそれぞれプラットフォームに寄り添う事業構造になっています。プラットフォーマーはここで得られた情報をリテイラー、マニファクチャラーに対してSaaS的にプロダクトを提供することで、顧客に対してどういったコミュニケーションをすべきかの示唆を与えるなどして、リテイラー、マニュファクチャラーと上手く棲み分けたポジションをとっています。
プラットフォーマーは自分たちでデータを蓄積するので、さらに良い顧客体験を描くサイクルを回すことができ、結果として顧客はより満足した購買体験を得ることができます。
日本の場合:過渡期
日本は、まさに三社が入り組んでいて過渡期といえるのではないかと思います。リテーラー、プラットフォーマー、マニファクチャラーがそれぞれ自社アプリを持ち、店舗を持っているリテーラー、マニュファクチャラーは、その店舗に送客するようなコミュニケーションを行っている状況です。
一方で、決済機能に関しては、リテーラーは自分たちで決済機能を持たず、プラットフォーマーの決済機能をアプリに搭載するという、入り組んだ構造になっています。
ここで問題となってくるのが、リテーラー、プラットフォーマー、マニュファクチャラーが共通して掲げる「データを活用して業績を上げたい」というテーマです。
例えば、三者が各々でデータを活用して業績を伸ばしていったと仮定します。しかし三者が相反する方向性に向かった時、いずれかに寄り添った形になってしまった時、どうしてもその寄り添った方に依存する形で事業を展開しなければいけません。
以上のような、サードパーディCookieが使えなくなる時代に備えて、また、他社に左右されないためにも、自社で人を動かす装置を持つ必要があります。自社独自でファーストパーティデータをID単位でデータを集約し、そのデータを基にユーザーに対してコミュニケーションを行って送客する装置を持つ必要があると考えます。
外部に依存せず、自社独自で「人を動かす」
外部に依存せず、自社独自で人を動かす装置としては、自社アプリや、オンラインのeコマース、各プラットフォームが提供している公式SNSといったオウンドメディアをうまく活用することが重要になります。ここで注意すべきポイントは、各オウンドメディアの自由が高いがゆえに、どうしても一つのメディアに対して複数の機能を役割として持たせてしまうケースが増えるということです。
その結果、企業視点でメディアを展開する、企業視点で機能を適用することになり、ユーザーファーストではなくなってしまいます。結果、自社アプリがそもそもどういうものだったのか、ECでどういうことができるのかなど、目的が曖昧な状態で顧客接点を保つようになり、顧客がアプリを使わなくなるという本末転倒な事態に陥ってしまいます。そうした事態を起こさないために、顧客視点のUXをどう設計していき、それをどうオウンドメディアに反映させていくかが非常に重要です。
UXは、「顧客のカスタマージャーニーとはこういうことだ」と単純に描くものではありません。メルマガを例にとっても、メルマガを開いたのか、メルマガを開いた後にリンクをクリックしたのか、その後に購買につながったのか、というファクトのデータを組み合わせていくことで、顧客がどういうメルマガ、クリエイティブ、時間帯に反応しやすいのかをデータドリブンで判断し、それを顧客の意識データを掛け合わしていく。ファーストパーティデータを分析していくことで、UXを改善していきます。このように、データとUXをうまくブリッジしていくことが重要です。
UXとファーストパーティデータを掛け合わせる
UXとファーストパーティデータをどのように掛け合わせていくかをお話しします。弊社では大きく3つを掛け合わせていくことで、UXとファーストパーティデータをブリッジして、顧客体験の向上ひいては事業が成長できるのではないかと考えています。
1つ目は、売り上げや継続など事業側のKPIを目的とした「行動スコアドリブン」のアクションです。従来の購買データやRFMといった要素をもとに顧客をマッピングし、その顧客に対してどのようなコミュニケーションを設計していくべきかを考えます。
2つ目は、顧客満足側のKPIを目的とした「体験スコアドリブン」のアクションです。行動だけではどうしても過去のデータになってしまうので、未来にこの店舗、この会社を選好するという要素が抜けています。そこで、意識調査、アンケートを用いて、実際に顧客が購買した後に商品・ブランド・店舗・会社に対して満足したのかどうかを定量化して測っていきます。「行動スコアドリブン」と「体験スコアドリブン」の2つをブリッジさせていくことで、LTVが上がっているのか、そのLTVが上がってるのはUXを改善した結果なのか、の両軸で測ることができると考えています。
「行動スコアドリブン」のみでは、売り上げだけで評価してしまい、顧客が本当にロイヤリティの高いユーザーなのかどうかが見えにくいといったことが起こります。逆に「体験スコアドリブン」 のみで顧客をマッピングしてしまうと、本当にその意識調査がファクトのデータにつながってるのかが判断しにくくなります。そのため、片方ではなく、この両軸を前提にして回していく必要があります。
そして3つ目に、「行動スコアドリブン」と「体験スコアドリブン」で得られた正しいKPIに対して、実際に辿り着ける・運用できる実行体制が必要です。この3つ目が欠けてしまうと、顧客を評価しただけで良かった、悪かったというだけで終わってしまいます。なぜ良かったのか、今後どうしていくべきなのか、実際に運用してみて結果どうだったのかをしっかりとサイクルを回せるような体制が非常に重要だと思っています。
今までは、行動の側面において”優良顧客”というだけでは、今後も自社を選好してくれるかが不明だったり、行動ログだけでは不満の原因の発見が難しかったりしました。しかし、ファーストパーティデータを活用して行動スコアや体験スコアを取り込んでいくことで、不満の原因が可視化されるため、顧客体験の改善が可能になり、顧客視点でどのような購買体験を提供すべきかという意思決定に役立つと考えます。
点と点のデータをつなぎ、顧客を理解する
体験スコア、LTVスコア、ユーザーの行動ログ、購買ログ、顧客のデモグラフィックなどを点で見てしまうと、一側面での判断になってしまいがちで、意思決定を誤ってしまう可能性が高まります。
それを解決できるツールとして存在するものが、トレジャーデータのようなCDPです。CDPでデータを統合し、点と点であったデータを線にしていくことで、顧客がいつ、どのように認知をして、どのように興味を持ち、その後購買につながり、その後CRMを行った結果なにに反応したのかが可視化することができます。そのサイクルを回す仕組みを作り上げていくのが、CDPだと考えています。
また、上記サイクルを回せるCDPを構築する上で大事なポイントがあります。データをどのように活用していくか?から逆算して構築していくということです。
今あるデータをとりあえずインポートして、その後何に使っていくかのアイデアがないことで、頓挫してしまうケースは少なくありません。弊社では、データ活用において、デジタル広告、そしてCRMといった打ち手から逆算した上で、どのメディアからどのデータを集め、そのデータをどのようにTreasure Data CDPに保持していくべきかを設計するところから支援させていただいています。
サイバーエージェントは、単純にデータ基盤を構築するのではなく、そこで得られたデータから、コミュニケーション設計、機能追加、アプリのUI/UXなど、広告/メディア/ゲーム事業で培われた知見をもとに、設計・開発の部分から支援させていただいております。打ち手から逆算してCDPを構築していく際に、一気通貫で支援できる組織であることが弊社の強みです。もしご興味がある方は、お気軽にお問い合わせください。
本記事はトレジャーデータ株式会社が主催した「PLAZMA After 3rd Party Cookie〜Cookie規制後のデータ活用とマーケティング 〜」(2021年5月開催)のセッションをもとに編集しました。
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