サードパーティCookieの利用が制限される「ポストCookie時代」はすぐそこまで迫っています。サードパーティCookieを取り扱う企業、サードパーティCookieを利用した広告システムのパブリッシャーや広告主は大きな影響を受けるでしょう。
そんな中、既にポストCookieへ向けて取り組みを開始している企業もあります。国内最大級のオーディエンスデータを保有する株式会社インティメート・マージャー代表取締役社長の簗島亮次氏が、Cookieに代わるテクノロジーと同社によるCookieに依存しないビジネスの取り組みを紹介しました。
※本記事はトレジャーデータ株式会社が主催した「PLAZMA After 3rd Party Cookie〜Cookie規制後のデータ活用とマーケティング 〜」(2021年5月開催)のセッション「ポストCookie時代に起こるパブリッシャー・広告主の変化」をもとに編集しました。
簗島 亮次 氏
株式会社インティメート・マージャー
代表取締役社長
2013年に株式会社インティメート・マージャーを創業。データ活用領域のさらなる拡大を目指し、2020年にはFin Tech事業会社クレジットスコア株式会社や、Privacy Tech事業会社Priv Tech株式会社を設立。データサイエンティストというアカデミックな視点と経営者としてのビジネスの視点から、日本最大級を誇る約4.7億のオーディエンスデータを用いてさまざまな業界の課題解決を支援している。
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<目次>
ポストCookie時代はすぐそこまで迫っている
ChromeのCookie規制や日本の個人情報保護法の改正により、サードパーティCookie利用が制限される予定になっています。この記事では制限以降の時代を「ポストCookie」と呼びます。
実はこの1年間で、既にサードパーティCookieが使えなくなっているブラウザや環境は少しずつ増えています。下の図はインティメート・マージャーの全てのログの中でサードパーティCookieが取れているブラウザの割合をOS別にグラフにしたものです。2020年の夏頃からはWindows Edgeの仕様変更の影響が表れ、ITPによりUIWebView等のアプリ内ブラウザで取得できなくなったことがiOSのグラフに表れています。
Chromeのアップデート以外でもサードパーティCookieの取得は難しくなり、取得率は下がっていくと考えられます。全体では現在サードパーティCookieが使えるブラウザと使えないブラウザの割合は半々程度になっています。1年前は7:3程度でした。
この状況を踏まえると、Cookieに依存しないマーケティング方法を検討することはとても価値があることだと言えます。
Cookie規制の影響を受けるWeb関連ツール
Cookieの規制による影響を受ける領域は多岐に渡ります。アドネットワークを通じてリターゲティング広告を配信する場合は、サードパーティCookieが使えないことでターゲティング精度が下がってしまいます。ファーストパーティCookieを使ったアクセス解析は完全にデータを取得できなくなるわけではありませんが、アトリビューション分析等で何らかのサードパーティCookieを使っているケースではその部分のデータが取得できなくなります。
MAツールに外部データを取り込む場合や、CDPにサードパーティCookieやセカンドパーティCookieを取り込む際にもある程度の影響があります。
海外のポストCookie事例の紹介
ヨーロッパを中心とした海外では日本より先にGDPR等のデータの取り扱いに関する法律が施行されていたため、Cookieの代替技術が既に活用されています。今後、日本国内でも同様に、サードパーティCookieに依存しないマーケティング方法や手段が提供され始めると考えられます。
インティメート・マージャーが注目する次の4つの領域で、ポストCookieにおける注目の海外事例を紹介します。
- 共通ID
- CMPによる会員データの獲得
- リアルタイムオーディエンス解析
- プラットフォーマーが提供するサービス
海外のポストCookie事例:共通ID
海外でも共通IDソリューションは注目されており、よくメディアでも取り上げられています。Unified iDやLiveRampのIdentityLink等を聞いたことがあるかもしれません。パブリッシャーやその他とクライアント企業、アドテックベンダーも含めて、共通IDソリューションを連合して集め、GoogleやFacebook等の大きなプラットフォーマーの持つIDに対抗できるサービスを作ろうという機運が高まっています。
共通IDの生成方法は、メールアドレスをハッシュ化したデータ等ユーザーが確定されている情報を基に生成する方法と、同一の端末である可能性が高いと類推した情報を基に生成する方法、大きく2種類に分かれますが、いずれの方法を用いているプレーヤーも海外で注目されつつあります。
海外のポストCookie事例:CMPによる会員データの獲得
CMP(コンセント・マネジメント・プラットフォーム)は、ユーザーデータを取得する際の同意取得を管理するツールです。Webサイトで「データ取得に同意する/同意しない」バナーやポップアップを見たことがある方も多くいるかと思います。海外ではパブリッシャーを中心に導入するケースが増えています。
国ごとに法律が違うため、外国産のCMPがその国の基準に合致しないケースもあります。今後は各国の法令を遵守するサービスが出てくることが考えられます。
海外のポストCookie事例:リアルタイムオーディエンス解析
リアルタイムオーディエンス解析は、ファーストパーティデータを教師データとして機械学習モデルを作り、ユーザーの属性をリアルタイムで類推する技術です。パブリッシャー側でターゲティングユーザーを選定する方法として注目されています。このようなファーストパーティデータを使った類推やオーディエンス拡張も進んでいます。
参考記事:https://gigazine.net/news/20201223-newyork-times-data-program/
海外のポストCookie事例:プラットフォーマーが提供するサービス
GoogleはCookieに代わるプライバシーセーフティーなアプローチの方法として、「Chromeプライバシーサンドボックス」という新しい技術や「Ads Data Hub」という分析環境を提供する予定です。今後1年ぐらい先に導入されると言われていますが、まだ不明な部分も多く、ここ最近でも情報が急にアップデートされています。ポストCookieの有力な代替手段としては、このようなプラットフォーマーが提供するサービスも注目されています。
インティメート・マージャーのポストCookieソリューション
インティメート・マージャーが提供するポストCookieのソリューションを4つ紹介します。
- 共通IDソリューション
- 同意管理システム
- リアルタイムオーディエンス解析
- プラットフォームとの連携強化
共通IDソリューション
インティメート・マージャーは2020年末に共通IDソリューション「IM-UID」をリリースしました。先ほど説明した2種類の共通ID生成方法のうち、類推した情報を基にIDを生成する手法をとっています。
発行元が異なる複数のファーストパーティCookieを類似度を基にクラスタリングし、クラスタごとに「IM-UID」という共通IDを付与します。クラスタに所属するファーストパーティCookieが持つ属性情報を合算し、そのクラスタの属性として付与することができるサービスです。
類推精度はおよそ91%で、サードパーティCookieよりは少し精度が下がります。オーディエンス拡張の延長線上のような形で類似ユーザーを見つけるための手段と思っていただくとよいでしょう。高い精度を必要とする分析や計測用としては不足があります。
上図は「IM-UID」における類推のイメージです。まずインティメート・マージャーの解析技術を用いて、ファーストパーティCookieの群(クラスタ)に対して「IM-UID」を割り当てます。このデータとクライアント企業の保有データを突合し、クライアント企業で発行したファーストパーティCookieと一番類似度が高いクラスタの属性を紐付けることにより、そのユーザーの属性を類推します。類推した属性情報を基にターゲティング広告等を実施することが可能になります。
図の右側にあたる類推のためのデータは、合意を基に提携企業から提供されています。クライアント企業のデータが解析のために勝手に利用されたりデータが混ざってしまったりする心配はありません。
同意管理システム(CMP)
インティメート・マージャーの同意管理システム「IM-CMP」は、大きく分けて「CMP JS」「CMP Manager」「CMP CDP/BI」の3つの機能を提供しています。個人情報保護法の改正に合わせて機能追加も予定しています。
「CMP JS」は同意取得のポップアップを表示させるためのJavaScriptです。ユーザーに対して「このような形であなたのデータを使います」という旨を示し、「同意する/しない」を選択してもらうイメージです。ポップアップの文言やアイコン等は変更できます。
「CMP Manager」はユーザーの許諾状況に応じてタグを出し分ける機能です。ユーザーがデータ利用に同意しているかどうか、またどのレベルまで許諾しているかによってページの内容やマーケティング用のタグを変更できます。
「CMP CDP/BI」は許諾レベルに応じたユーザー情報を閲覧できる機能と社内のデータベースと連携できる機能です。BIツールでは許諾がどのように取れているかを画面上で把握できます。
リアルタイムオーディエンス解析
Webページにアクセスしたユーザーの属性情報を瞬時に解析する技術です。ブラウザ上で取れる情報を基にファーストパーティデータと機械学習の仕組みを用いて、アクセスしてきた人の年齢・性別・その他の属性情報をCookieに依存せずに類推します。
パブリッシャーで導入されるケースが多く、類推した属性情報を利用して特定の属性の人にだけ広告を出したり、特定の対象に対して特定クライアントの広告を出したりという仕組みをファーストパーティデータだけでセキュアに実現できます。Googleが提供予定のFLoCにも近い仕組みです。
ChromeのプライバシーサンドボックスがChromeでの利用に限定されるのに対し、ユーザーが使用するブラウザを問わず利用できるのがメリットです。
プラットフォームとの連携強化
Ads Data HubはGoogleが提供するデータクリーンルームで、Googleのデータをなるべくプライバシーに配慮した上で使えるようにするサービスです。Googleの環境を使ってデータ分析ができる機能といえます。
このAds Data Hubとのサービス連携を始めています。IDベースではありませんが、インティメート・マージャーが保有するデータをサードパーティデータと掛け合わせた分析をすることが可能です。プラットフォーマーが提供する仕組みと上手く連携することにより、オリジナリティの高い商品を一緒に作っていきたいと考えています。
ポストCookie領域の取り組み進捗
今回紹介したソリューション群は、テスト段階に進んでいます。2021年4月から下図のビジネスエリアでいうQ3に入りました。今後はQ2まで作ってきたサービスのローンチが進んでいきます。
各ソリューションを使った実績は今後プレスリリース等を通じて世の中に広く情報を提供していきます。いち早くポストCookie領域のソリューションに取り組みたい、ポストCookieに向けてやれることを検討していきたいという方は是非ご相談ください。クライアントと共にこれらのサービスをブラッシュアップしていければと考えています。
Q&Aセッション
セッション内容を受けて、トレジャーデータの安永が、簗島 亮次 氏に質問しました。
Q.今後はファーストパーティデータの取得が重要になるかと思いますが、どのようなデータを取得すればよいですか?
A.
アクセスログとユーザー属性データがよく挙げられます。アクセスログはデータが多ければ多いほど良いと思われがちですが、今後はきちんと同意を取りながらデータを取得しなくてはならないことを考えると、不必要なデータまで取りすぎず、必要十分なログを取るのが重要です。
Q.開発中のソリューションの開発状況やローンチ時期を教えてください。
A.
2021年3月末の時点で各ソリューションのサービス開発にはある程度目途が立っています。正式リリースはもう少し先の予定で、現在はテストクライアントにて実験的に導入されています。
本記事はトレジャーデータ株式会社が主催した「PLAZMA After 3rd Party Cookie〜Cookie規制後のデータ活用とマーケティング 〜」(2021年5月開催)のセッションをもとに編集しました。
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