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加藤さん、サウナに入る身体には何が起こっているんですか? (ゲスト: 加藤容崇さん第1回)

PLAZMA TALK #6|慶應義塾大学医学部特任助教、日本サウナ学会代表理事 加藤 容崇氏

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Treasure Dataでエバンジェリストを務める若原強が各界注目のゲストを招いて対談する「PLAZMA TALK」。今回のゲストは、慶應義塾大学医学部特任助教、かつ日本サウナ学会代表理事という、医師でありながら筋金入りの「サウナー」でもある加藤容崇さんです。今回は、サウナ×デジタルを加藤医師と考えていきます。本対談は3回に分けて配信いたします。

第1回目は、自身もサウナ愛好者である若原がここぞとばかりに「サウナに入っているときの身体変化」について質問攻めにする回です。「安定してととのえる」ために、感覚から理論へ移行するサウナのすすめ、めくるめくサウナの世界を覗いてみましょう!

Topics

群馬→北海道→ボストン、そして日本の複数拠点で研究を進めている/「医者が教えるサウナの教科書」/医学的見地でサウナを解説/「ととのった」?/「胡散臭い」/「サウナ師匠」に連行/「ボン・ジョヴィ(Bon Jovi)とカラオケに行くレベル」/産湯は「マルシンスパ」/想定とは違う身体感覚/「熱い部屋に入るだけがサウナじゃない」/外気浴、京王線と1/fゆらぎ?、そして夕焼け/「これは医学的に特殊な状況になっている気がする」/客観的データと共にサウナを普及させる「サウナ学会」/「ととのえ親方」に導かれて/若原の産湯は「ニコーリフレ」/脳科学的に普通ありえない状態/アルファ波、ベータ波、デルタ波に変化が現れた/右の頭頂葉の一部分だけが局所的に活性化していた/「サウナに入ってひらめく」理由/脳が混乱してセンサーが活性化し「過酷な環境」に適応しようとする?/感覚が研ぎ澄まされる/もやもやした悪循環を断ち切る力/めまいから考える西洋/東洋医学/血流と感覚の変化/どういう身体の変化を目安にすれば良い?/「脈拍で時間を決める」/脈拍は交感神経をよく表している指標/異常事態にパフォーマンスを高めるときに真っ先に反応するのは心臓/軽い運動をしたときの脈拍数を知っておく/水風呂は低体温症の危険もある/「喉がスースー感じられたら出る」/水風呂はその段階になるのに1分くらい/血液は1分で一巡する/休憩は交感神経を休ませる/気持ち良い感覚が落ち着いてきたら次のセットへ

Yasutaka Kato: Project Assistant Professor, Keio University School of Medicine / Representative Director, Japan Association of Sauna
Tsuyoshi Wakahara: Evangelist, Treasure Data
Recording: 2020/04/15

※収録はオンラインにて行っています。一部背景に環境音が入っている箇所あります。ご了承ください。

若原 皆さんこんにちは。トレジャーデータの若原です。様々なゲストをお招きしてデータ活用などについてお話をするTreasure Dataの「PLAZMA TALK」。今日の素敵なゲストは、慶應義塾大学医学部特任助教、そして日本サウナ学会代表理事を務められている加藤容崇さんにお越しいただいています。加藤さん、よろしくお願いします。

加藤 よろしくお願いします。

若原 最近、サウナがブームになっていると聞くことも少なくないんですけど、加藤さんは医師であり、「サウナー」であるというお立場であると伺ってます。

なので今日伺いたい話は、「サウナに入ったときに体に起こっていることって医学的に見るとどういうことなんだ」ということ、あとは「そういった医学的見地からいろいろ仕組みが解明し始めてきているとすると、それを上手くデータに転換して活用して、よりサウナに入る体験が面白くならないか」みたいな話を伺えたらと思っていますので、ぜひよろしくお願いします。

加藤 わかりました。よろしくお願いします。

若原 では、まず最初に、簡単で結構ですので加藤さんの自己紹介をお願いします。

加藤 わかりました。

群馬→北海道→ボストン、そして日本の複数拠点で研究を進めている

加藤 もともと群馬県富岡市という田舎の出身です。中高と東京に行きまして、大学は北海道大学の医学部に行きました。そのあと、北大では卒業後、病理学という顕微鏡で病気を診断するというような部署にいて、同時に癌の研究をしていた、という感じでした。

そのあと渡米しまして、ボストンのハーバード大学の医学部にいまして、膵臓癌の研究に取り組んでいました。そのあと3年ぐらいハーバードにいたんですが、帰国して、慶応と、日本サウナ学会、北海道にある北斗病院、あとは岐阜にある木沢記念会館や、埼玉にある熊谷総合病院など、いろんなところを兼任しながら研究を進めているという状況です。なので、専門としては病理学と、あとは癌の遺伝子検査という少し新しい検査方法を推進しています。

若原 ありがとうございました。

「医者が教えるサウナの教科書」

若原 最近「医者が教えるサウナの教科書(参考)」という本を出版されて、加藤さん自身も「サウナー」ということなんですが、私もサウナ大好きなんです。

加藤 ほぼ毎日入っています。

若原 そのサウナに注目し始めたきっかけと言いますか、ご自身としてサウナに入り始めたきっかけ、そして医学的な見地からサウナを紐解こうと思われたきっかけ、その辺りをお聞かせいただけますか?

加藤 わかりました。

医学的見地でサウナを解説

加藤 もともと僕は、大学時代弓道部だったんです。サウナには普通にスポーツジムとか行って広背筋とか鍛えていたので、入ってはいたんですけど、真面目に入らなくて、普通の人と一緒だったんですね。
要するに、ちょっと1回だけ入って汗出して、水風呂は意味わからないから入らなくて、軽くシャワーで流してそのまま出ちゃう、みたいな。そういう感じだったんです。

3年前に渋谷のコミュニティラジオでサウナを扱っているラジオ番組がありまして、それに出演したとき、そのときはまだ別にサウナーというわけでもなかったんですけど、共通の知り合いが紹介してくれて、もともと病理学とか生理学って人間の体の仕組みに詳しいから、「医学的見地でサウナを番組内で解説してくれ」といきなり言われて。

それで、何も考えず「わかりました」と。先輩だったので。医学部は基本的に先輩から言われたら「イエス or はいで答えないといけない」という感じなんです(笑)。それで「わかりました」と。「結構面白そうじゃん」と思っていたので、とりあえず出ることにしました。

「ととのった」? / 「胡散臭い」

加藤 いろんなサウナの訳わからない世界があるじゃないですか。「ととのった」とか。その時初めて聞いて「この人たちは何を言っているんだろう?」と。正直「胡散臭いな」と思っていたんです。

ラジオ番組なのでニュートラルな気持ちで真面目に、医学的な見地でちゃんと解説しようと思っていたものの、僕のスタンスとしては科学者なので、基本的には疑ってかかると(笑)。いろんな可能性を考えて、基本的には疑ってかかるという人間なので、胡散臭いとは正直思っていたんですね。

「サウナ師匠」に連行 / 「ボン・ジョヴィ(Bon Jovi)とカラオケに行くレベル」

加藤 ラジオ番組が終わったあと、「ぶっちゃけどうなんですか?」「盛り上げるためにかなり盛って話しているだけなんじゃないんですか?」という話をしちゃったんですね。

それで秋山大輔さん、「サウナ師匠」というサウナ界ではかなり有名な方に言ったら、「そんなことないよ」「ふざけんな」と言われて、「マルシンスパ」って笹塚にある人気のサウナ施設なんですけど、その場で速攻、連行されまして(笑)。その後、松尾大さんも合流したんです。

当時、僕はそのありがたみがよくわかってなかったんですけど、「これはボン・ジョヴィ(Bon Jovi)とカラオケに行くぐらいすごいことだぞ」ってまわりに言われて。

若原 確かに、今サウナ界で非常に有名なお二人ですもんね。

産湯は「マルシンスパ」 / 想定とは違う身体感覚

加藤 ありがたみが全くわからない僕が一緒にマルシンスパ(参考)に行って、やり方を直接教わるんです。若干胡散臭い感じ、2人ともするじゃないですか(笑)、言い過ぎなんじゃないかってずっと疑っていたんですね。それで実際入ってみたら「お風呂に入った感じのように、サウナもこんな感じかな?」と想定していたんですけど、その「想定したものよりも違う身体感覚」が感じられたんですよね。

「熱い部屋に入るだけがサウナじゃない」

若原 サウナを詳しくご存知ない方もいるかもしれないので補足させていただくと、サウナの入り方として今ブームでよく言われているのが、「暑い部屋に入るだけがサウナじゃないんだ」みたいな。

暑い部屋に入って、そのあと誰もが最初は敬遠する水風呂に入って、そのあとしっかり体を拭いて休憩をしてっていう、それを何サイクルか回すと、最後の休憩時に、いわゆる「ととのった」という気持ちいい気持ちに至るという。そういうことが、最近のブームの中でいろいろ語られている、というのはありますね。

それを実際そのマルシンスパに行って、サウナ界のボン・ジョヴィ(Bon Jovi)と言われるお二人からある意味、英才教育を受けたわけですね。

外気浴、京王線と1/fゆらぎ?、そして夕焼け

加藤 そうですね、直接レクチャーを受けました。マルシンスパの特長として、外に出て外気浴ができるんですよね。京王線のすぐ近くにあるので、ガタンガタンという、「f分の1のゆらぎ」とかって言ってたんですが、心地いい、減速した電車のガタンガタンというリズム。

笹塚駅が近いので減速して通過するので、結構心地いいんですよね。さざなみの音に近いというか、リズムがそんな感じなんですよね。そのとき夕方、日が沈んだばかりのときで、その外気浴するスペースが夕焼けが見える角度なんですよね。「これいいな」と感じました。

「これは医学的に特殊な状況になっている気がする」

加藤 ちょうど今コロナで入れない状況で、喋るだけで入りたくなってくるんですが(笑)。その外気浴をしながら、「これは多分医学的に何か特殊な状況になっていると思います」という話をしたんです。

「これ、研究したらすごい面白いことになると思います」という話をしたら、彼らも「サウナがいい」と訴えているんですけど、「信じてもらえない」って。直接サウナに入れば良さはわかるんだけど、なかなか信じてもらえない。だから真面目な研究とかしていかないと、なかなかみんなに広まっていかないから悩んでいるという話をして。

客観的データと共にサウナを普及させる「サウナ学会」

加藤 じゃあ、「もう研究して、個人的な主観じゃなくて客観的なデータをとって広めていきましょう」という話になって、「サウナ学会」という学会を作ったんですよね。マルシンスパで全て話が決まってしまったという感じですね。僕の産湯は「マルシンスパ」です。初めて「ととのった」場所(笑)

「ととのえ親方」に導かれて / 若原の産湯は「ニコーリフレ」

若原 先程お話に出てきた松尾大さんは、別称「ととのえ親方」、九重親方ならぬ「ととのえ親方」。あの方は札幌出身なんですよね。僕も札幌出身で、僕も実は「ととのえ親方」に導かれて、札幌の「ニコーリフレ」というサウナで初めて「ととのった」。僕にとっては、産湯は札幌の「ニコーリフレ」です(笑)。

そういった感じで医学的見地から紐解こうみたいな興味を持たれて、いろいろ研究などもされて、こういった本の上梓に至ったと思うんですけど、実際サウナに入って、いわゆるそのサイクルを繰り返して気持ちよくなるまでに、体に起こっている変化って大枠で言うとどういうことが起こっているんですか?

脳科学的に普通ありえない状態

加藤 基本的にすごくいろんな側面から見れるんですけど、一番大きいと思っているのは「脳科学的な変化」ですね。いろんな感覚が脳に集まっていて、変化が起こるので。今までサウナを語るとき、「血圧」が、「末梢の汗」が、「肌」が、など、末梢というか体の浅い部分にフォーカスしがちだったんです。

もちろん「血圧が下がる」「心筋梗塞が予防できる」とか、そういうことはあるんですけど、僕が一番魅力的に思っているのは「脳科学的な変化」が一番大きいかなと思うんですね。

若原 なるほど。その「脳科学的な変化」というのは、もう少し具体的にいうとどういう変化が起こっているんでしょうか?

アルファ波、ベータ波、デルタ波に変化が現れた

加藤 MEGという、Magnetoencephalographyというちょっと難しい機械があるんです。要するに「超高精度の脳波計」ですね。全部の脳の領域が高精度にスキャンできる機械なんですが、サウナ前、サウナ後に30人のボランティアの方に協力してもらって前後の脳科学的な変化をとってみたんです。

その結果、難しいことは割愛するんですが、α波(アルファ波)、β波(ベータ波)、δ波(デルタ波)というものが変化しました。α波(アルファ波)というのは、細かいことを言うと違うこともあるんですが、大雑把に言うと「リラックスする」指標と一般的に言われています。

β波(ベータ波)は、働いているときに出る波。δ波(デルタ波)が、基本的には「覚醒度」と言って、「頭がすっきりしてはっきりしている」のか「ぼんやりしているのか」というのを表す指標なんです。それらを見てみたところ、もちろんリラックスはめちゃくちゃするんですね。

なのでα波(アルファ波)が正常化と言って、ものすごい活性化するんです。びっくりしたのは、普通リラックスしたらβ波(ベータ波)って基本的に減るんですよね。

右の頭頂葉の一部分だけが局所的に活性化していた

加藤 β波(ベータ波)は、働いているときに出る波なので、リラックスしている時は活性化せず平坦になってしまうものなんですが、右の頭頂葉の一部分だけ活性化していたんです。サウナに右も左もへったくれもないじゃないですか。前も後ろも右も左も全部熱いから。だから、本来ないはずなのに、一部分だけ局所的に活性化する場所があって。しかも左じゃなくて右だったという感じだったんですよね。

 それは何を示しているかというと、まず、頭頂葉というのは基本的に認識とか、いろんなものを感覚的に捉えるという場所なんですよね。右と左というのは、左側は右利きの人にとっては優位半球で、右側が劣位半球というものなんですが、実は役割が違うんですね。左は要するに左脳型みたいな論理的な思考。右側は右脳型といって、割と感覚的な音楽、デザイン、空間認知など、そういう感覚的なものというふうに言われています。

「サウナに入ってひらめく」理由

加藤 サウナに入ると右側の認識系、感覚系がめちゃくちゃ上がるので、理屈の、論理的な思考はそんなに速くはならないんです。ただ、外気浴しちゃってぼーっとして、小難しいことは考えられないんだけれども、なんか急にアイデア降ってくるときとかありません?

若原 確かに。「サウナに入ってひらめく」みたいな話は自分もたまにありますし、話としても結構聞きますね。

加藤 そうなんですよね。次のセットの水風呂で忘れちゃうんですが(笑)。やっぱり論理的な思考を考えていないときに、ふと降ってくるのは、その領域が活性化しているからなんですよね。β波(ベータ波)に関してはそんな感じです。

脳が混乱してセンサーが活性化し「過酷な環境」に適応しようとする?

若原 じゃあ普段でいうと、同時に活性化し得ない脳波が同時に活性化しているし、仕事モードになると活性化する、どちらかというと右脳のほうが活性化しているという状態になっているということですか?

加藤 「局所的に」ですね。その場所だけ活性化しているという感じですね。

若原 かなりイレギュラーな状態ということなんですかね?

加藤 かなり変な状態ですね。脳科学的にも普通あり得なくて。やっぱりサウナに入ると、異常じゃないですか。めちゃくちゃ暑い、地球上で一番暑い環境に突っ込まれて。それで、水風呂っていう、ずっと入っていたら死んじゃうような冷たい環境にいきなり突っ込まれて、「さあ休め、3セットだ」とかって言われて、脳が混乱していると思うんです。なので、その領域でセンサーを働かせていないと生存できない、というかんじです。

若原 ある種、「体が危機を感じている」みたいな感じですかね。

感覚が研ぎ澄まされる

加藤 「なんか、やばいのが来た」という感じで活性化しているんだと思うんですよね。ちゃんと認識しないとアジャストできない、過酷な環境に適応できないからだと思うんですよね。なので必然なのかなと思うんですね。

あとはδ波(デルタ波)という波が減るんですが、δ波(デルタ波)というのは、ぼんやりするときに上がってきたりするんです。なので覚醒度と反比例するんです。それが、普段より弱くなるんですよね。要するに、頭がはっきりするというか、ちょっと霧がかったものが晴れたような気持ちにサウナに入るとなると思うんですけど、それをデータとして確認できたという感じですね。

まとめると、すごくリラックスしているんだけど、眠いわけじゃなくて、すごく頭がはっきりしていて、かつその感覚系というかその認識系が活性化している状態、という感じですね。敏感になっている感じです。

若原 音がよく聞こえるようになる、そのあとご飯食べたらおいしく感じる、そういったことって「感覚が研ぎ澄まされている」ということに起因して感じるようになっているということなんですかね?

加藤 はい、可能性はあると思います。

若原 なるほど。

もやもやした悪循環を断ち切る力

若原 最近、コワーキングスペースとサウナっていう、サウナ施設の中で働ける施設も増えてきていますよね。僕も利用したことあるんですけど、仕事で疲れてきたなと思ってサウナに入ると、すっきりして仕事ができる。覚醒度が上がっているというか、仕事で疲れたもやもやが1回リセットされて、というところも大きい感じなんですかね?

加藤 そうですね。やっぱりイライラして疲れて、もやもやしているけど終わらせなければいけない仕事が残っているとストレスになるので、お互いがよくない悪循環に陥ってしまうんですよね。それで、1回割り切っちゃって、頭をリセットしてすっきりしてしまって仕事に戻るとそこの悪循環が断たれて、円滑に仕事が進み始めるのでちょっと気持ちよくなってくるんですよね。そういう好循環に変えるような力があるんじゃないかなと思います。

若原 そうすると、さっきご説明いただいた3つの脳波の状態が、α波(アルファ波)が上がって、β波(ベータ波)も、右脳が局所的に一部だけ上がって、δ波(デルタ波)も上がって、その状態がいわゆる「ととのっている」という状態ということなんでしょうか?

加藤 脳科学的にはそうなのかなと思っています。

若原 一方で、「ととのった」ときの体の感覚ってあるじゃないですか。痺れているような気もするけど、ちょっとふわふわしているような気もして、すごく気持ちいいみたいな感覚。ああいうのって先程の脳波の話で説明ができるのか、もしくは別の説明の仕方があるのか、どうなんでしょうか?

めまいから考える西洋 / 東洋医学

加藤 独特の浮遊感は、もちろん脳科学的な変化もあると思うんですが、やっぱり血流や、体の循環の問題も結構大きいんじゃないかなと思うんですよね。結構面白い話があって、僕は、東洋医学の鍼灸の研究もやっているんです。

めまいって西洋医学的には、耳の中に内耳ってセンサーがあるんですが、そのセンサーの問題とか貧血とか、そういうことが言われているんですが、意外とそうじゃない。西洋医学の説明とは異なる原因があって。例えば、足の関節のフィードバックといって、いつも歩いているときに「関節はこういうふうに曲がって、こういう姿勢で歩いている」と頭にインプットされているんです。

何かそのイベントが変わったとき、例えば、足が固くなっていていつもの曲がりと違っていて、いつもの感覚と誤差が生じてしまうとき、ふらふらとする感覚が感じられたりするんですよね。

わかりやすく言うと、エスカレーターってあるじゃないですか。エスカレーターって普段動いているのが当然だから動いているんですが、止まっているやつに乗ったりするとすごく気持ち悪くなりません?

若原 なりますね。

加藤 あんな感じのことが人体にも起こるんです。

血流と感覚の変化

加藤 「いつもの動きじゃない」という動きでふらふらとすることがあるんです。それで、サウナに入ると血流がすごくよくなって、凝りというか固くなっているところも柔らかくなっていつもの感覚に戻ってくる。なので「感覚が少し変わる」という面もあるのかなと思います。脳科学的な問題ではなくて、血流や体の固さとか、いろんな状況が合わさって異常な感覚になるんじゃないのかなと思うんです。

若原 なるほど。今お話を伺っただけでも、多面的に説明できる複雑な現象が起こって、結果として皆さんが依存症になってしまうぐらいの気持ちよさが生まれてくる感じなんですね。

逆にサウナに入る立場からしたときに、その状況を上手く得るために、例えば時間を頼りにサウナに入っている人もいるかもしれないですし、汗のかき具合を頼りに入っている人もいるかもしれないですし、こういう体の変化を目安にサウナの魅力を楽しむとより「ととのいやすくなる」みたいなことってあったりするんでしょうか?

どういう身体の変化を目安にすれば良い?

加藤 それも、よく僕に来る質問なんですけど、人によっても全然違いますし、その日のコンディションによってもだいぶ違うと思うので、一概に何分で完全に固定するとか、そういうのはあまりやらないほうがいいと思うんですね。

日によっては、しんどかったり、足りなかったりして安定しないので。ちょっと物足りないぐらいだったらいいんですけど、こんなはずではないと思って行き過ぎちゃったりすると倒れたりして危ないので、安全対策的にもあまりよくないですね。

「脈拍で時間を決める」 / 脈拍は交感神経をよく表している指標

加藤 僕が推奨しているのは「脈拍で時間を決める」というやり方です。脈拍は自律神経を非常によく表している指標なんですね。交感神経は基本的に非常事態のとき、瞬間的に機能を上げると。

異常事態にパフォーマンスを高めるときに真っ先に反応するのは心臓

加藤 例えば、敵が襲いかかってきたときに逃げる。そういう異常事態に瞬時に対応するなどでパフォーマンスを上げるようとしたときに、一番最初に働き始めなければいけないのは心臓なんですよね。

逃げなきゃいけないと思ったとき、筋肉が動くんですけど、そうなったときに血液が行かなかったら筋肉も動かないので、真っ先に心臓が反応しているんですね。なので、心臓ってすごく明敏に交感神経を表す指標として使えるんです。「脈拍数でとる」というのは非常にリーズナブルというか、理にかなった方法で、自律神経を知る上でかなり手軽な方法なんですよね。

若原 なるほど。じゃあ、例えばサウナ室に入っていて、自分の脈拍が、これも一概には言えないのかもしれないんですけど、どの程度変化したら出ごろだよ、みたいな、そういった目安って何かしらあったりするんでしょうか?

軽い運動をしたときの脈拍数を知っておく

加藤 これも個人差が非常に大きくて。脈拍数ってマラソンなどやる人は3〜40台/分の人もいるんですが、人によってだいぶ違うので、自分で普段のしんどくない、落ち着いた状態の脈拍をとっておいて、そこをベースにして考えるんです。

サウナ室の中というのは、これまでの論文報告だと60ワットから100ワットぐらい。軽いジョギング程度の心臓と同じぐらいの心臓の負荷があるというふうに言われているんですね。なので、しんどくないレベルの軽い運動をしたときの自分の脈拍数を覚えておいて、そこになったらすぐにサウナ室から出る、というふうにするほうがいいと思います。

僕の場合で言うと、大体50台半ば/分ぐらいが普段の脈拍数なんですけど、軽いジョギングとか、自転車とか漕いだりすると、110〜120/分ぐらいまで上がるので、サウナ室に入って、心拍数が120/分になったら出るようにしています。

若原 それはわかりやすいですね。人によると思うんですけど、自分なりの閾値みたいなものを知っておけば、そこに達したときに出るというのを一つの目安にできるということですね。

加藤 はい。安定して「ととのえれる」かなと思うんですよね。

若原 ちなみに同じような観点で、個人的にも興味あっていろいろ聞いちゃうんですが、水風呂に入る長さ、休憩の長さとか、そういったことも体の変化なのか、もしくは時間なのか何なのかわかりませんが、目安みたいなものを設けられるんでしょうか?

水風呂は低体温症の危険もある

加藤 目安については、実は「水風呂が一番大事」です。すごく冷たい水風呂だったらしんどいからそんなに入ってられないんですが、18〜19℃ぐらいの若干ぬるめの水風呂だと、ぬるいので出どきがわからない。いつまでも入っていられるので、10分とかすごく長い時間入っちゃってふらふらになっちゃう人いるんですよね。

実はそれって「ととのった」んじゃなくて「低体温症」なんですよね。冷えすぎちゃっているので、危ないのでおすすめできない。

「喉がスースー感じられたら出る」 / 水風呂はその段階になるのに1分くらい

加藤 僕の目安としては、深呼吸して「喉がスースー感じられたら出る」ということにしています。水風呂に入っているとしてきません?冬の外に出たときに、「はーっ」というと息が白くなるような感覚。あんな感覚になったら出どきで、大体1分ぐらいですかね。

若原 それもわかりやすいですね。明らかにわかりますもんね。

血液は1分で一巡する

加藤 「なんか、スースーしてきたな」って。水風呂によって体の表面だけ冷えるんです。口の表面のところも、表面の血流と一緒なので冷えるんですけど、肺の奥深くから息は出てくるので、体の芯は温かいままなんです。

それで息を出すと、冷たい表面と温かい息の温度差があるので、冷たく感じられるという状況になるんです。血液って人や状況にもよるんですが、大体1分で体の中を一巡するんです。水風呂にざぶんと入って、だんだん冷まされていくんですが、血液が大体1周したら出るという感じですね。

何周もしちゃうと芯まで冷えちゃって低体温症になって危ない。ちょうど血液が一巡したというタイミングで喉がスースーしてくるので、それを指標にしているという感じです。

若原 わかりやすいですね、ありがとうございます。休憩は、このぐらいのほうがいいとか、各自おまかせとか、そういった基準ってあるんですか?

休憩は交感神経を休ませる / 気持ち良い感覚が落ち着いてきたら次のセットへ

加藤 いや、特に基準はないです。ここは基本的には、サウナ室と水風呂で交感神経をものすごい使ったので休ませている。そのときに、副交感神経が急に活性化してくるという状態なので、すごくリラックスできるんですね。気持ちいい、リラックスした状態になるので、気持ちいい感覚が弱くなってきたら次のセットに移動するという感じでいいと思います。

若原 サウナ室では脈を頼りに出どきを確認して、水風呂では気道がスースーする感じを頼りに出どきを確認して、休憩のときは、その休憩で味わえる気持ちよさがちょっと薄れてきたなと思ったら次のセットに移る、ということですね?

加藤 そうですね。「体が落ちついてきたな」「いつもっぽい感じになってきたな」と思ったら次のセットに移るという感じでいいと思います。

若原 感覚で入っていた世界が、そういうふうにご説明いただくと、すごくクリアになってくる感じがしますね。

加藤 安定して「ととのえれる」かなと思いますね。

若原 なるほど、わかりました。ありがとうございます。

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最後までお読みいただきありがとうございます。
第1回は以上です。いかがでしたか?
加藤さんのトークは 実践!こんなときこそおうちのお風呂でサウナ効果 (ゲスト: 加藤容崇さん第2回) へ続きます。

 

トレジャーデータ株式会社

2011年に日本人がシリコンバレーにて設立。組織内に散在しているあらゆるデータを収集・統合・分析できるデータ基盤「Treasure Data CDP」を提供しています。デジタルマーケティングやDX(デジタルトランスフォーメション)の根幹をなすデータプラットフォームとして、すでに国内外400社以上の各業界のリーディングカンパニーに導入いただいています。
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