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ABMを「実践」する重要なポイント〜BtoBマーケティングで成果を出すメカニズム〜

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ABM(Account Based Marketing /アカウントベースドマーケティング)が注目される中、売上最大化を目指すためにマーケターはどのように役割を果たし、営業部門と協働すればよいのでしょうか?

300社以上のBtoB企業にマーケティングコンサルを手がけたシンフォニーマーケティング株式会社の庭山一郎氏は「マーケティング部門が本当にリソースを割くべき」と語った「コンテンツ」についての話題を中心に、ABM実践のポイントを紹介しました。聞き手はトレジャーデータ株式会社の堀内健后です。

※本記事は、トレジャーデータ株式会社が2022年5月に開催したウェビナーをもとに編集しました。

<目次>

ABMにはデータの集約・統合が必要

データ集約イメージ画像

堀内:庭山さんには先日も登壇いただき、『戦略としての「ABM」の取り組み方』というテーマでお話しいただきました。

前回のウェビナーの様子
https://plazma.treasuredata.co.jp/td-symphony-webinar-2203-archive/

その中で、ABMの実践には「デジタルの力を使うべき」というお話もありましたが、解説していただけますか?

庭山:ABMは本質的に、新規顧客の開拓よりも、既存のお得意様とのパイプを拡大することを得意としています。顧客の情報は、それが大事なクライアントであればあるほど、営業担当者が個人で抱えているようなケースも多い。日本企業にはまだまだ、「大事なお客様にデジタルでアプローチをするなんて失礼だ」といった風潮がありますね。

営業担当者による個別のコミュニケーションも大切ですが、ビジネスを拡大するためには時間的制約がかかります。そこで、デジタルを活用してより多くの人に情報を伝えましょうというのが、ABMの基本的な方針です。

また、ABMの実現には「デマンドセンター」が必須です。通常のデマンドジェネレーションよりもさらに高いレベルで、データマネジメントとコンテンツマネジメントを行わなくてはなりません。アプローチ先の顧客情報を分類し、相手の立場や関心に合わせたコンテンツをバランスよく用意する。社内の営業リソースの把握も含めて、精緻なマネジメントとカバレッジ分析が求められます。そのためには、デジタルデータを扱える強固なインフラが必要です。

堀内:マーケティングの効果を高めるには、社内のあちこちにあるデータを集約し、統合して扱っていく必要がありますね。

庭山:データの統合は重要です。多くの日本企業では、販売管理システム、CRM、SFA、CMS、Webのフォルダなど、各所にデータが分散しています。これらを集約するために、CDPのようなツールはますます重視されています。

データは集約するだけでなく、「洗練された状態(ソフィスティケート)で管理しないと使えない」と言われてきました。情報システム部、マーケティング、営業、広報など部門ごとに散らばるデータをAPIで連携すること自体は簡単にできますが、入力ポリシーがバラバラでは名寄せがうまくいかず、使える情報になりません。
さらに昨今では、データは「健全な状態(ハイジーン)」であることが求められます。GDPRなどの法令をクリアし、かつ活用に耐えられるデータでなくてはならないのです。

そこで、マーケティング部門のみなさんは人海戦術で表計算ソフトのデータを整理しているわけですが、そんな作業ばかりでは疲弊します。データ統合はツールに任せて、マーケターは他のことに情熱を注いでほしい。マーケティング部門が本当にリソースを割くべきなのは、コンテンツだと私は考えています。

営業部門のカルチャーを尊重し、データベース運用を健全に

堀内:データの集約や統合をツールで簡単に行うためには、企業ごとに違う部署名や役職名をどう扱うのかという問題があると思います。庭山さんは、各社のIT系の部署を「情報システム部門」と抽象化してまとめ、データを統合していますよね。

庭山:何のためにデータマネジメントを行うのかといえば、自社にとって必要な分析を行うためです。言い換えれば、自社の営業部門にとって価値のある情報を用意すること。ですから、ハイジーンなデータベースをつくるには、営業部門のカルチャーを反映させることが大切です。例えば、営業部門は顧客企業の規模を重視しますが、規模を測る指標には売上、資本金、従業員数、事業所数などいろいろあります。どれを使って、どのように分析するかの判断は、営業部門ごとに異なるものです。

堀内:簡単なテンプレートに入力できればデータ整理はしやすいかもしれないけれど、ある程度自由に思想やカルチャーを反映させられるほうが、データの分析はしやすく、戦略も立てやすいということですね。

庭山:はい。ツールに業務を合わせるような運用は、営業現場が受け入れてくれません。営業に役立つリードを渡せなければ、マーケティングは信頼を失います。
反対に、これまで営業の手が届いておらず、かつ潜在的なニーズが高いような、質の高いリードをマーケティングが渡せるようになれば、非常に良好な関係を築けます。ABMの成否は、その会社の営業部門にとって精度の高いデータを提供できるかどうかにかかっています。

事例コンテンツは、実名よりもリアリティを重視

堀内:先ほどマーケターが情熱とリソースを注ぐべきはコンテンツである、と話していただきました。なかでも「事例」はリードジェネレーション効果の高いコンテンツのひとつです。
しかし、「顧客にお願いしても、事例コンテンツに出てもらえない」といった経験は私たちにもあります。そんなとき、庭山さんはどのように対応しますか?

庭山:事例コンテンツは、導入企業の名前と担当者の顔写真を出して、インタビュー形式でつくるのがスタンダードなやり方です。しかし、賛否はあるでしょうが、このような実際の事例を出すことには意味がないと、私は思っています。
なぜなら、事例取材を受ける人がその商品・サービスを悪く言うはずはなく、読者もそのことをわかっているからです。BtoCの場合は売り手と買い手の情報格差が比較的大きいですが、BtoBは買い手側=事例コンテンツの読者もプロであり、関連知識を持っています。

必要なのは、バイアスのかかった情報ではなく、フィクションでも「リアリティ」のあるコンテンツです。例えばCDPの導入事例なら、「データは重複だらけ、メルマガは配信停止されても送信し続けてしまう、サポートセンターでは苦情の電話が鳴り止まない…」といった導入以前の描写が重要です。だからこそ、事例コンテンツの読者は、「今のうちの会社のようだ」と感情移入して読んでくれるのです。

しかし、そんなネガティブな背景を実名では出せません。導入前の課題とは、多くの場合、会社の恥なのです。いくら担当者が生々しい事情を語ってくれたとしても、広報などのチェックを経て、都合の悪い情報は削除され、内容はどんどん丸くなっていきます。それでは読者の関心を惹くことはできず、事例コンテンツをつくる意味もありません。

堀内:たしかに、私がインタビューを受けたとしても、自社の内情がわかってしまう情報は出しにくいですね。

庭山:「はじめからうまく行っていた会社が、もう少しうまくできた」なんて事例は面白くありません。だから、事例コンテンツはフィクションでいいのです。実名を出さず、「A社のケーススタディ」で良いのです。

堀内:実際のコンテンツ制作では、顧客の内情をよく知る営業担当にヒアリングするはずです。個々の事実をつなぎ合わせてストーリーにすれば、自然とリアリティあるコンテンツになりそうです。

コンテンツの質を上げることで、クリック率は向上する

向上、上昇のイメージ画像

庭山:陳腐なものは見てもらえませんから、コンテンツの質はとても重要です。BtoBのメールマガジンの開封率は、平均1%も行かないでしょう。しかし、弊社のクライアントが出しているメルマガでは3〜6%程度になります。5万件のリストを持っていたとして、クリック率が6%あれば、商材に関心をもった3,000人の個人を特定できるわけです。

その3,000人を、商材への関心に応じてスコアリングします。高いスコアの人からコールをし、商談のアポイントを獲得していきます。コンテンツが刺さっている人はこちらの話を聞きたいわけですから、スコアの高い人のうち20%近い割合でアポイントが取れます。

営業が毎月30件の商談を求めているとしましょう。アポイント率20%なら、150件コールすれば目標を達成。5万件のリストから3,000人がクリックし、その中でスコアリングした150人にコールすれば、30件のアポイントが取れる。贅沢なスコアリングです。
もしメルマガを開封した人が250人しかいなければ、30件のアポイントのためには片っぱしからコールするしかありません。

堀内:スコアリングどころではありませんね。

庭山:BtoBのメルマガやWebコンテンツは、忙しいプロが仕事の合間に閲覧するものです。「自分たちのことをわかっている」と思ってもらえれば信用を獲得でき、クリックやアクセスは増えていきます。

メインターゲットには事例、経営者には他社の情報が効く

コンテンツ、情報を届けるイメージ画像

庭山:必要な情報は人によって異なり、届けるべきコンテンツも違います。不要な情報ばかり届けていたら、フィルタリングされて見てもらえなくなる。だからデータマネジメントが重要なのですが、マーケターがデータの整理にリソースを奪われてしまうと、今度はコンテンツの質が悪くなります。
データマネジメントもコンテンツ制作もどちらも大事ですが、前者は外部に委託したりシステムに投資したりしやすい。社内リソースはできるだけコンテンツ制作に使うべきだと思います。

堀内:「リードの総数はたくさん持っていても、特定の部門やポジションに届けるべき事例コンテンツがない」という悩みは、多くのマーケターが抱えていると思います。実名を出した事例にこだわらず、ユースケースで使い方を示せば、コンテンツのバリエーションは大幅に増やせるはずですね。
具体的に、コンテンツを出し分ける際にはどのようにカテゴライズしているのでしょうか。

庭山:顧客データベースを分析する際に私たちが使っているのは、「オペレーショナルユーザー/テクニカルユーザー/エコノミカルユーザー」という3分類です。

オペレーショナルユーザーは、ツールや機械を日々使っている人です。決裁権はありませんが、彼らに嫌われてしまうとチャーンなどの原因になります。ショートカットキーの使い方など、業務にすぐ役立つ情報を提供します。

メインとなるターゲットはテクニカルユーザーと呼ばれる、マネジメント業務を担当する課長クラスの層です。商品の選定を主に行うのはテクニカルユーザーですから、もっとも良い情報を出さなければなりません。先ほどから話に出ている事例コンテンツなどです。

幹部クラスがエコノミカルユーザーです。彼らはオペレーションに興味はなく、テクニカルな情報も必要としていませんが、財布は握っています。彼らが好む情報は、「他社はどうしているのか?」ということ。自分の会社は業界から遅れているのか、進んでいるのか。自社の現在地を知りたいのです。その分野に投資するのか抑制するのかを判断するために、他社の情報が気になります。
アメリカの経営層はROIに関する情報を好むと言われていますが、そういった情報が日本の経営層に効くかと言うと、あまり良い成果を上げていない印象があります。

堀内:稟議や決裁フローの文化は、日本企業とアメリカやヨーロッパの企業ではけっこう違いますね。

庭山:日本の大企業で一番稟議書を書くのは課長補佐や課長、年齢は30代くらいです。
欧米では経営者に情報を伝えることを重視しますが、日本では稟議を書く人が重要です。テクニカルな文脈を理解できる日本の経営者は少なく、自分の信頼している部長や課長に意見を聞いて決裁しているケースが多いと思います。
ABMに取り組むということは、そうした企業文化を理解し、アカウントへの理解を深めてマーケティング活動をするということです。

イベントを活用したリードジェネレーション

イベント参加のイメージ画像

堀内:ウェビナーの視聴者からこんな質問をいただいています。
「ターゲットの組織内で横展開してもらえるようなコンテンツは、どう作ればよいのでしょうか?」
隣の席の同僚に「読んでみて」とシェアしてもらうためには、ということですね。

庭山:ただ読んでもらいたいわけではなく、コンタクト可能な個人情報を増やしたいということだと思います。誰もが考えることですが、実現のハードルは高いです。記事や動画を見てもらうのは難しいし、見たとしてもユーザー登録まではしてくれず、個人情報も手に入りません。

しかし、セミナーや展示会の情報なら、社内で展開してもらえる可能性があります。オンラインでも構いません。お得意様に対しては、各地の事業所や工場などをキャラバンしていくのも効果的です。既存顧客内でのリードジェネレーションを行うのです。

堀内: Web記事やホワイトペーパーだけがコンテンツではないわけですね。

庭山:商材にもよりますが、展示会、セミナー、キャラバンと、イベントでリードジェネレーションしていくことも大切です。

メーカーこそABMの導入を

堀内:メーカーと商社、販売店ではABMの考え方は変わりますか?

庭山:BtoB商材はビジネスの課題を解決する手段であって、それを買うこと自体は目的ではありません。メーカーの場合、顧客の課題に対して、他社のソリューションが適していると思っても、競合をレコメンドするわけにはいきません。
販売代理店ならそれができます。顧客が課題解決するためのベストプラクティスを提案できるので、本来は商社や販売代理店のほうがABMには向いています。

堀内:メーカーとしては、別の商品を提案されて競合に顧客を奪われるのは困りますね。メーカーは販売代理店に対して、何をすればよいのでしょうか?

庭山:販売代理店の体質は営業です。多くの場合、代理店はマーケティングをしていません。しかしその逆に、営業部門が小さいメーカーこそ、ABMマーケティングに取り組みやすいのです。世界中のBtoB取引のうち70パーセントは代理店を経由すると言われますが、メーカーがマーケティングを強化し、代理店とコラボレーションすることが重要です。

「代理店を通してのみ販売しているので顧客情報を持っていない」というメーカー企業は多いのですが、直販するわけではなくても、エンドユーザーの情報は絶対持っていなければなりませんしコミュニケーションはとるべきです。
マーケティングへの取り組みについて代理店から異議を唱えられたら、飛び越えて直販するつもりがないことを伝えてください。代理店を効率良くサポートするためにも、自社でマーケティングに取り組むスタンスは貫くべき。何かあったときに強いのは、顧客情報を持っている会社なのです。


<スピーカー>

庭山 一郎

庭山 一郎 氏

シンフォニーマーケティング株式会社

代表取締役

1990年にシンフォニーマーケティングを設立、代表取締役就任。製造業、IT、卸売業など300社を超えるBtoB企業のマーケティングプロジェクトを手がけ、その経験から国内・海外向けのマーケティングコンサル、運用支援と研修サービスを提供している。中央大学大学院ビジネススクール客員教授。著書に「BtoBマーケティング偏差値 UP」「究極のBtoBマーケティング ABM」ほか多数。

トレジャーデータ株式会社

2011年に日本人がシリコンバレーにて設立。組織内に散在しているあらゆるデータを収集・統合・分析できるデータ基盤「Treasure Data CDP」を提供しています。デジタルマーケティングやDX(デジタルトランスフォーメション)の根幹をなすデータプラットフォームとして、すでに国内外400社以上の各業界のリーディングカンパニーに導入いただいています。
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