米国トランプ大統領が仕掛けた米中貿易戦争による影響が、株価や企業業績として表れてきました。リーマンショックによる影響から立ち直った日本の製造業の業績は、今後急速に悪化する可能性が高くなっています。この状況は、先行き不透明な経済状況を嫌気して設備投資を控える企業が増えることを意味しています。すでに中国市場全体では、自動車や産業機械といった製品(モノ)の売れ行きが悪くなっています。
こうした動きに対して、企業は既存顧客をつなぎとめて自社製品の満足度を高め、競合への顧客流出を防ぐとともに、サービス(コト)で売り上げを補完する取り組みが加速すると予想されます。その手段の1つが、IoTによる顧客サービスの提供です。今回はユーザー企業の目線で、これからIoTに取り組むうえで参考となる先行事例、およびIoTプラットフォームの選び方とそのポイントについて説明します。
苦境に立たされる日本の製造企業
2019年は、景気回復から景気後退へのターニングポイントの年となりました。すでに上場企業の3分の2で、1年前の増収から減収へ厳しい業績が具体的な数字となって表れてきています。景気を取り巻く環境は不透明で、悲観的な予測が急速に増えています。予想される逆境に対抗する勝ち残り戦略と、その実行力が求められています。中国の経済成長率は過去最低の6.2%と発表(これまでは6.5%)されていますが、その実態経済はさらに厳しいと言われています。
中国市場に依存度が高い建設機械メーカーや工作機械メーカーの業績は、すでに減収減益となり今後の厳しい見通しが予想されています。日本でも工場自動化(FA)の機器を手がける大手メーカー8社(ファナック、SMC、安川電機など)の業績はすべて減益となり、その理由は中国企業の投資抑制によるものだと報道がありました。(日本経済新聞2019年8月9日記事より)。こうした業績悪化のニュースは、建設機械やハイテク機器など日本の製造業全体に広がっています。しかし、これは表面的な数字だけを見た内容です。重要なのはその中身と、こうした状況をどのように打開していくのかという各企業の戦略に注目する必要があります。
サービス化を強化する各社のIoTプラットフォーム戦略
※ICT建機とは、ネットワークで常時つながる高機能建設機械。GPSで所在や稼働状況などをリアルタイムに把握し、遠隔支援などが可能になる
スマートコンストラクションを実現するサービスは、コマツが独自開発したものだけではなく、そのパートナーが開発提供するさまざまなアプリケーションを利用することができます。これを支えているIoTプラットフォームが「LANDLOG(ランドログ)」です。LANDLOGのパートナーには、建設会社や測量会社、ITベンダーや通信会社だけではなく保険会社や金融機関、総合商社などが参加し、1つのIoTプラットフォーム上で多種多様なサービスを提供しています。
建設会社が、LANDLOGの利用ユーザーとして便利なサービスを使うだけではなく、そのパートナーとなって自社の強みを独自サービスとして開発・提供することも可能です。LANDLOGのデータや位置情報や画像解析など標準機能を利用することで、簡単に独自サービス開発が可能となり、これを同業他社へ提供して新しいサービス収益を稼ぐことができます。
例えば、工作機械メーカーとそのユーザー企業をつなぐサービスの事例として、三菱電機が開発・販売している放電加工機のアフターサービスをIoTで実現する「iQ Care Remote4U(アイキューケア・リモートフォーユー)」というサービスがあります。
このサービスは、IoT技術を利用して機器の稼働状況をモニタリングするダッシュボード機能と、トラブルや故障にリアルタイムで対処するリモートサポート機能を提供しています。設備のトラブルは、生産性低下や納期遅延につながるため、早急な対処が必要となります。しかし、知識や経験が少なければ対処に手間取り、生産現場が混乱します。熟練者が近くにいない、または余裕がない場合に、こうしたサービスは現場担当者の心強い支えとなります。(参考:放電加工機 iQ Care Remote4U リモートサービス事例の事例動画はこちら)
こうしたサービスのIoTプラットフォームが、三菱電機が提供するFA統合プラットフォーム「iQ Platform(アイキュー・プラットフォーム)」です。このパートナー制度では、SIパートナー、ソフトウェアパートナー、機器パートナーの3つがあり、目的に合わせて必要なパートナーを探すことができます。三菱電機e-F@ctoryの統合するソリューションには、工場の設備をつなぐエッジコンピューティングのプラットフォームを提供するコミュニティ「一般社団法人Edgecross(エッジクロス)コンソーシアム」が設立され、250以上の企業がこれに参画しています。
※図中のハイパーリンク
https://www.youtube.com/watch?v=4WAee5C1-8Q
https://www.mitsubishielectric.co.jp/fa/index.html
IoTプラットフォームに求められる4つのポイント
前述した通り、コマツや三菱電機など、IoTプラットフォームを中心としたサービス提供で先行している製造業はモノからコトへの展開を進めています。こうした動きは、ドイツのシーメンス社「MindSphere(マインドスフィア)」や米国のマイクロソフト社「Azure IoT(アジュール・アイオーティ)」などが業種や企業ごとにIoTプラットフォームを提供するなどして先行しています。共通するポイントは、次の4つです。
- データの収集/蓄積
- データの解析/サービス化
- ソフトウェア開発環境/アプリケーションストア(サービス提供)
- 他IoTプラットフォームとの連携によるデータの相互利用
IoTデータをデジタル化して可視化するのは重要ですが、それはスタート地点です。目指すべきゴールは、他社との差別化によって競争力を強化することです。競争力を強化して、売り上げや収益につなげることができなければ、今後の厳しいビジネス環境で生き残るのは難しいでしょう。モノ(製品)を提供するのが難しくなるなかで、コト(サービス)を提供する新しいビジネスモデルの基盤となるのがIoTプラットフォームだと言えるでしょう。
※図中のハイパーリンク
https://www.jmfrri.gr.jp/content/files/Open/2018/20180920_AdShell/Report_AdministrationShell.pdf
モノづくりと異なるコトづくりの考え方
製造業に携わる方々は、従来のモノづくりに加えて今後はコト(サービス)づくりにも取り組むことになります。モノづくりは製品の機能やコストを重視してユーザーができるだけ長く利用することを考えますが、コトづくりは変化するユーザーのニーズに迅速かつ柔軟にサービス提供することを考えなければなりません。
モノのライフサイクルと、コトのライフサイクルは大きく異なります。スマートフォンはOSやアプリケーションを入れ替えれば長く利用できますが、快適に利用するためにはその入れ替えを随時行う必要があります。良いアプリケーションがあればどんどん入れ替える――。スマートフォンの経験から得たこうした使い方は製造業においても同様です。IoTプラットフォームの選定は、アプリケーションの数とバリエーションの多さがチャンス拡大とリスク回避になると考えられます。こうしたビジネス環境を、生物の生態系になぞらえてエコシステムと呼びます。
今回は、IoTプラットフォームで先行してビジネスを展開している国内製造業の事例を紹介しました。また、その事例からIoTプラットフォームの役割と使い方について説明するとともに、IoTプラットフォームを選ぶポイントとして、アライアンス戦略が重要であることについても触れました。
「IoTプラットフォームの本質――IoTビジネスのトレンド&ストラテジー」連載一覧