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アナログとデジタルの判断とそのあいだ (ゲスト: 白井宏昌さん第2回)

PLAZMA TALK #3|建築家, 滋賀県立大学 環境科学部 教授 白井 宏昌氏

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Treasure Dataでエバンジェリストを務める若原強が各界注目のゲストを招いて対談する「PLAZMA TALK」。
ゲストは前回に引き続き、ロンドンオリンピックパークの設計から台湾の違法建築研究まで幅広く手がける、建築家/滋賀県立大学 環境科学部 教授の白井宏昌さんです。
「大量生産とオーダーメイドの中間を探る」という観点から、建築や街のあり方、前職オフィス研究家時代の若原と意気投合し協業したプロジェクト、そして教育や生き方までを語り合う80分の第2回目です。

第1回目のトークはこちらから:
白井さん、デジタルは建築を変えていますか?(ゲスト: 白井宏昌さん 第1回)

Topics

建築はテクノロジーで便利になった?/鉛筆とペンかCADか/決める確度/無限に生まれるパターン/文房具が教育のポリシーを反映している/鉛筆か万年筆か/テクノロジーがあることで新しく見える建築とは/ファブリケーションとテクノロジー/三次元で木材をカット/仕口の可能性が広がっている/建築を必要とする状況はどこにあるのか、のデータ化/アナログの判断とデータ活用/
スマートハウスの集合住宅化?/集合住宅の「集合するメリット」がない?/本当の意味での共有が起こっていない/コワーキングスペースの現状/インセンティブはどこにあるか/Woven City/ルイス・カーン「サーブド/サーバント・スペース」/二極化することと中間領域/SXSW/スマートフォンを頼りに街をさまよう体験/データと人間の移動スピードのギャップ/リアルタイム性と判断/SXSWの良いところは「ゆるさ」/「カチッとしたものをつくりかねないデータが現実世界ではユルイ世界を作っている」魅力/トレランス・ゼロではない世界観/トレランスを許容するのが建築だった

Hiromasa Shirai: Registered architect in Japan/Netherlands | Professor, University of Shiga Prefecture

Tsuyoshi Wakahara: Evangelist, Treasure Data

Recording: 2020/04/10
※収録はオンラインにて行っています。一部背景に環境音が入っていますがご了承ください。

建築はテクノロジーで便利になった?

若原 ではここからは、先程建築とテクノロジーみたいなお話も出たので、その流れでいろいろまた伺っていきたいと思います。以前も白井さんに伺ったんですけど、まず面白いなと思ったことは、建築のいろいろな業務にテクノロジーが結構入ってきているという。例えばパソコン上でCADが描けるようになってきたとか、いろいろそういうのはあるんだけど、どうもいまいち便利になった気がしないとか、どうも違和感を感じる、みたいなお話を以前されていたのが結構印象的で。その辺のお話をまた改めて詳しくお聞かせいただいてもいいですか?

鉛筆とペンかCADか

白井 僕の世代が、恐らくちょうど手で図面を描いていた世代とCADで描き始めた世代の接点ぐらいだと思うんですよね。CADというものがパーソナルユーズになってきたのが僕が大学院にいた頃ぐらいからで、僕も学部時代までは、図面と言うと鉛筆とペンで描くような世界で、大学院以降にCADになってきたんですよね。で、確かに描くスピードとか、同じ柱を50本描くとかはCADのほうが全然速くなって、初期の頃はものすごい便利なものできたなと。間違ったら消しゴムで消して汚くなっちゃうこともないし、すごく便利だなと思うんですけど、でもその世界にみんな慣れてくると、今度はその悪い面じゃないんですけど、不便な面も出てきていて。アナログの世界って面倒くさいから、決める確度がすごいんですよね。もうこれでいく、みたいな。

若原 どういうことですか?

決める確度

白井 例えば図面をインクで描いて、間違っちゃたら一から描き直しってすごい大変じゃないですか。だから、描く前に周到な計算をして図面を描いたり。で、CADだといくらでも変更が利いちゃうから、とにかくバーっと描いて、そういう場合変更の数がえらい多くなったような気がするんですよね。それは自分もそうだし、他人から、簡単に直せるよね、みたいなかたちで。で、そう考えてみると、CADって確かに作業としては速くなったんだけど、でも全体のプロセスの長さってあまり変わってないんじゃないかなとか。

無限に生まれるパターン

白井 あと、これは最近の話かもしれないですけど、今は整形ソフトというのが出てきていて、形を作るのはどんな自由な形、ぐにゃぐにゃした形でもコンピュータで簡単にできちゃうんですよね。で、もっと今進んでいて、プログラムとデザインを組み合わせていて、プログラムを描いて、デザインが出されば、こんな感じというパターンなんかは無限に出てきちゃうんですよね。それを昔は巨匠みたいな人が、自分の頭の中で浮かんだものをスケッチしたりして、これ、と出していたと思うんですけど、今はコンピュータがパターンをいっぱい出して、その中からどれを選びましょうかという世界になってきていて。
 で、誰でもそういう複雑な変わった形を生み出すことは今の時代のほうが容易になったと思うんです。だけど、図面を描くのと同じで、パターンはいっぱいあるけど、それを決めるのは最後人間が決めていくじゃないですか。その判断をすることが、もともとのアナログの世界と変わっているかというと、実はあまり変わっていない。結局、プロセスとしては変わってなく、中身の組み合わせが変わっているだけじゃないかな、という気もしていて、そういう意味ではまだ、テクノロジーが建築に及ぼした影響というのは、デザインレベル、設計レベルだとまだそこまで行っていないんじゃないかな、という気もするんです。

若原 その話を聞いて1個思い出したんですけど、小学校の教育の話なんです。

文房具が教育のポリシーを反映している/鉛筆か万年筆か

若原 世界6カ国の小学校教育を比較した、みたいな本を読んだことがあって。そのときに、生徒に使わせている筆記具の違いみたいな話が面白かったんです。どこの国だったか忘れちゃったんですけど、要は鉛筆を使わせている国と、万年筆を使わせている国があって、その違いが、教育のポリシーに結構反映するみたいな。鉛筆を使わせている教育というのは、書いてもすぐ消せるので、それで試行錯誤しながら、例えば文章一つ書くとしたら、試行錯誤しながら練り上げていく、みたいなことを育むのに合っていると。一方で、万年筆は書いたら消せないので、書く前にしっかり熟考させて組み立てることを育む教育につながる、みたいな話があって、それすごく面白いなと思ったんです。で、今のお話も通ずるところがあるなと思って。

白井 まさしくそれに近いと思います。

若原 どっちが良い悪いというかは、目的に応じて使い分けるという話になっていくのかもしれないですね。だから、そういう意味だと、完全に馴染む必要はもしかしたらないかもしれないというか。そういうテクノロジー至上主義ではなくてもいいというか、デジタルが万能では必ずしもないというか、そういうのが次に見えてくる意識として建築にもあるのもしれないですね。

白井 それはあるかもしれないですね。

テクノロジーがあることで新しく見える建築とは

若原 そう考えたとき、逆に、テクノロジーがあることで新しく見える建築の景色ってどういうものがあるのかなというのを、もしあったら教えていただきたくて。例えば僕が過去に聞いた話だと、コンクリートを積層できるでっかい3Dプリンターロボが勝手に建築を作ってくれて、そいつがずっと積層していってくれるので、足場が建てられないような場所とか、人が入りきれないような狭い場所にものを建てるとかもできるみたいな話があって面白いなと思ったんですけど、そういう新しくテクノロジーが実現する今までになかった建築の景色って、何かお考えになられたこととか感じられたことってありますか?

ファブリケーションとテクノロジー/三次元で木材をカット

白井 今おっしゃったように、ファブリケーションの世界にテクノロジーが入ってきて、今までできないものができているという世界はありますよね。日本だとまだあまり導入事例はないと聞いているんですけど、例えば施主のほうなんかに行くと、木材をカットするのはロボットがカットしていて、3次元でカットしていくらしいんです。そうすると、仕口、木材の組み合わせが今までと考えられなかったような組み合わせができるようになっていて、それで複雑な形ができるというのはやっぱりあるので、それはこれまでにはなかった形ですよね。

仕口の可能性が広がっている

白井 で、3Dプリンターで建物を作るというのはあると思うんです。あれだと、そもそもプリンターが作れる最大サイズに限られちゃうじゃないですか。それより、今はもうちょっと実際の現実の世界で可能性があるかなと思うのは仕口の仕方。建築ってものとものをどう組み合わせて全体を作るかというのがまだまだ大きいと思っていて、その仕口を今までとは違う形で作れるようになってきているというのはすごく大きい気がしますね。

若原 仕口というのは?

白井 仕口というのは、ものとものが組み合わさる接点ですよね。接点の形が、今まではノコギリと鉋で削っていた世界が、もっと複雑な形になって。

若原 そういうことですね、なるほど。

白井 で、一つはファブリケーション、ものの世界でそういうことが起こっていて。あとは、もうちょっと設計の前段階の話なんでしょうね。

建築を必要とする状況はどこにあるのか、のデータ化

白井 そもそも建築を必要としているような状況がどこにあるかというデータベース化みたいなものがすごく進んでいて、建築の前段階でデータ化が進んでくると、そもそも建築をやる土壌がどこにあるかみたいなのが、もうちょっと今までとは違う、口コミとは違う世界が広がってくるような気はするんですけど。

若原 それ、どういうことですか?もうちょっと伺いたいです。

白井 僕もぼんやりとしたイメージしか持っていないんですけど、例えば空き家の改修なんかをやっているとよくわかるんですけど、ものすごい数があるじゃないですか。それに対して、恐らく全部手を入れるということはほとんど無理だと思うんです。そもそも全国津々浦々にそういう空間ストックがどれだけあって、それぞれがどういうコンディションで、それぞれどういう地理的条件があってとか、いろんなファクターがありますよね。そうすると、今日本にある空間ストック全て手を入れるということは厳しくて、むしろものとしてコンディションと、地理的条件のポテンシャルを噛み合せたときに、ここは絶対手を入れたほうがいいとか、ここは逆に畳んだほうがいいとか、そういう判断ができるような気がしていて、今それができていないような気がするんですよね。結局、思い入れの強い人が、ここは絶対、みたいな。本当にそれでいいのかな?っていう。計画になる前段階の状況のところでもっとデータベースがあれば、効果的にわれわれの仕事の場所がどこにあるかということができていくんじゃないかな、と。

若原 それは面白いんですね。コンビニの出店戦略みたいな感じですよね。そこに何があって、みたいな。で、生活人口がどのくらいとか、ある程度理屈で次の出店場所が決まっていくみたいな。そういう世界って、テクノロジーというかデータを活用するという意味だと非常に相性がいいですよね。

アナログの判断とデータ活用

白井 で、そこが本当にアナログな世界な気がするんですよね。さっきのINholic(インホリック)の話に戻りますけど、デジタル化できる、データ化できる領域をどこまで増やせれるか、広げられるかってすごく大きいなというのがあのときの気づきであって。で、今の話って、設計の話じゃなくて設計の前段階ですよね。そこまでデータ化された世界があって、そこからシームレスにつながっていけると、建築の世界ってだいぶ変わってくるんじゃないかなという感じがしますね。

若原 そういう世界を見据えたとき、建材に予め汎用性を持ったセンサーを組み込んでおくみたいな話もあったりするんですかね?

白井 最後はものに落ちてくる段階で、おっしゃっているような世界もあると思いますね。

若原 データ化すると楽だと思ったとき、じゃあそのデータをどうやって取るのかみたいな話が必ず出てくる気がするので、建材の中に入れておくのか、ただセンサーって技術の進展とかものの入れ替わりが激しい分野で、上手くあとからアタッチメントできるかたちにできるのかというのもあるかもしれないですけど、いわゆるIoTみたいな話ですよね、そこからデータを取るというのは。確かにそういう目的で進むというのは面白いですね。

スマートハウスの集合住宅化?

若原 これも以前白井さんと議論したことがある話なんですけど、建築にとどまらず広い意味で考えたときに、スマートハウスとかIoTハウスって概念って最近よく聞くじゃないですか。で、あれは戸建ての話も結構多いと思うんですけど、集合住宅になったとき、いわゆるマンションみたいになったとき、スマートハウスの集合体と考えると、各家から得られるデータをさらにビッグデータとして扱うことができることになると思うんです。そこにまたいろいろな可能性が出てくるんじゃないかなという話は面白いと思うんですよね。
 で、確か以前議論していた話でいうと、集合住宅の各家庭の今晩の献立みたいなのがわかって、それをデータとして統合できると、このマンション全体として、食材はこれとこれを集中購買できそうだから、それを単価を下げて小売店でやりとりしましょう、みたいな話も、新しい集中購買のあり方というのがデータ活用でできると面白いな、という議論を以前させていただいたと思うんですけど、そんな話はすごく面白かったなと思いますし、そういう一つの建築にとどまらない、いろいろなものとしての集合体としての集合住宅とか、あとオフィスビルとかもそうですかね。そういう観点で何かお考えになられていることってあったりしますか?

白井 やっぱり今の集合住宅のあり方が、いわゆる個人住宅が単純に100個集まっているから集合住宅と呼んでいるだけで、集合しているメリットがないというのが一番大きいんじゃないんですかね。で、今の買い物の話でも、今晩この家はカレーライス作るけど、この家はカツ丼作るから、それぞれが別々にスーパーに買いに行って、取ってきて、という、一軒家が100個あるのとあまり変わっていなくて。集合するということのメリットを活かしきれない気がして。そこが一番ある気がしますね。

集合住宅の「集合するメリット」がない?

白井 あとは、これから流通の問題がかなり大きくなってくるじゃないですか。今ではスーパーに行くより、フィジカルにショッピングするよりも、基本的にはネットでショッピングをして、それを届けてもらうということが増えていって、流通の問題が大きくなっていく中で、集合住宅が集合というところをきちんとやっていないというところと掛け合わせると、さっきみたいなアイデアというか、戦略が出てくるんじゃないかなという気はしますね。

若原 面白いですね。集合住宅なのに本当の意味で集合していないっていう。

白井 してないですよね。隣で今誰が住んでいるか知らないという状況があると思うんで。

若原 そういう意味で、昔の長屋文化みたいな話と物理的には同じ状況ですけど、行われていることとか、行われている交流みたいなことに関して言うと、全然違うみたいな。

白井 違いますよね。

本当の意味での共有が起こっていない

白井 昔は井戸を共有していたり、何か共有しているものがあったんですけど、今はほとんど無いですよね。共有部というのはあるんですけど、所有は共有なだけで、あそこは別の人たちが一緒に使うということも多分なくて、実際には本当の意味での共有ということが起こりにくいですよね。僕はそこで、みんなが仲良く何かしましょう、という世界は想像しづらいと思うんですよ。全く今まで付き合いなかった人たちが、あそこへ行って何か楽しくやりましょう、といっても無理だと思うんです。

若原 そうですね。

コワーキングスペースの現状/インセンティブはどこにあるか

若原 何年か前からよく出てきているコワーキングスペースというのも、コワーキングスペースと言ってるけど誰もコワーキングしていない、みたいな。一緒の空間をシェアしているだけで、それぞれソロワークしているみたいなところもあって、ああいうところでの交流ってなかなか自然には起こらないというのがどうしてもありますよね。

白井 メリットがあると人って動くような気がして。コワーキングって、一緒にやると新しいビジネス生まれるから何かやってみようか、みたいな。それを仲介する人がいると生まれると思うんですけど、さっきの集合住宅も、それぞれメリットがあるときに集まる気がするんですけど、もしかしたらそれは、わかりやすくお金、いわゆる経済性なのかもしれないし。

若原 みんなで同じものを安くなるとか。今日はニンジン買う人が多いから、自分もそこに相乗りしたらニンジン安く買えるとか。そんな感じですよね。

Woven City

若原 さっきの流通の話で思い出したんですけど、トヨタが静岡の裾野に「Woven City」(ウーブン・シティ、注:参考:TOYOTA ニュースリリース)という実験都市みたいな話あったじゃないですか。あれも僕も聞いた話で、流通、ロジスティクスは全部地下に入れちゃうみたいな。ものの流れを地下に閉じ込めちゃって、人の生活の流れと、地上と地下で上手く分離するみたいな話は結構面白いなと思ったんですよ。その便利さを得るための裏の仕組みは全部地下に集約させちゃって、見えなくしちゃうみたいな話とか面白いなと思ったときに、集合渋滞にとどまらず、都市全体でそういう新しい展開って何かあったりしますか?サウスバイサウスウエスト(注:参考:SXSWイベントサイト)に行かれたとき、白井さんがいろいろとご感想を話されてたなと思うんですけど、そういう話でも全然結構ですし。

ルイス・カーン「サーブド/サーバント・スペース」

白井 一番最初の話で言うと、昔、ルイス・カーンという建築家がいて、建物の空間をサーブドスペース、サーバントスペースというものに分けたんです。一つは人間が主体的に使う空間で、もう一つは人々のアクティビティをサポートするみたいなかたちで分けて、多分ウーブンシティって、表と裏ってそういうようなかたちかなと思ったんですけど、個人的には表と裏を分けすぎるのも実は味気ないかなと思っていて。例えばものが届く瞬間って、見えたりするのって意外に楽しかったりするじゃないですか。

若原 確かに。待ち遠しいものが届いた、みたいな。

白井 そういう意味では、ものが地下から全部家に届くのと、ドローンで持ってきてくれるんだったら、ドローンで持ってきてくれたほうがワクワク感がないかなと思っていて。

若原 確かにそうですね。それも使い分けなのかもしれないですね。便利になったり、デジタル化すればいいっていうわけじゃないというところにも共通するところがありますね。

二極化することと中間領域

白井 で、ものをズバッと二極化しちゃうってちょっと怖いなというところもあって。だから、二極化できないような状況も作ることも大事かなと。「Woven City」(ウーブン・シティ)がどうなっているかは僕は詳しくわからないんですけど、二極化じゃなくて、その中間領域みたいなものもあったほうがいいんじゃないかなというのは、なんとなく思いますよね。

若原 なるほど。

SXSW

若原 そう考えたとき、サウスバイサウスウエストに一緒に行ったとき、サウスバイサウスウエストっていうイベントって、アメリカテキサス州のオースティンという町で開催されるイベントなんですけど、イベント会場が結構町に点在しているんですよね。オースティンのコンベンションセンターという、東京で言うとビッグサイトみたいな場所がメインの会場であるんですけど、周辺のホテルの会議室も全部会場になっていて、白井さん、次どこ行きますか?みたいな。で、白井さんが、じゃあマリオット行ってくるよ、みたいな。じゃあ僕はヒルトン行ってくるんでまたあとで一緒に飯食いに行きましょう、みたいな感じで、一日中町をぐるぐるしながらイベントを楽しむ、みたいな感じだったんですけど、あれはイベントのアプリが結構面白かったなと。

白井 よくできていましたよね。

若原 あの辺振り返っていただいていいですか?

スマートフォンを頼りに街をさまよう体験

白井 個人的には、あの場合はスマートフォンだったと思うんですけど、リアルタイムで町のどこで何が起こっていて、どれだけの人が集まっていて、という情報が常にアップデートしていて、それを頼りに町をさまようのが結構面白いなと思っていて。あまり僕自身はそういう体験をしたことがなくて、常に目的があってそこへ行く。で、次に移動する場合は必ず目的があって行く。もちろん買い物なんかしながら、目的もなく歩くということはあるかもしれないですけど、大方の場合、都市を歩くって目的があって移動すると思うんですけど、ああいうふうに常に変わっていく状況が自分の手元にあって、それを元にとっさに判断して動いていくというのは面白いなと。

データと人間の移動スピードのギャップ

白井 あとは、データとしてはアップデートなんですけど、例えば会場だと15分ぐらい歩くじゃないですか。そうすると、見たときはまだ席があったのに、着いたらもう埋まっているということがあるじゃないですか。僕はそのギャップがすごく面白いなと思っていて、データで飛んでくるスピードと、人間が歩くスピードにギャップがあって。もちろん悔しい思いをするんだけど、こういうもんだな、っていう。

若原 確かに状況は瞬時にわかるけど、人間の移動が追いつかない、みたいな。

白井 で、それも追いつくような世界も来るとは思うんですけど、現状まだ追いついてはいなくて。それはある意味面白いかなと思いましたね。

リアルタイム性と判断

若原 そういう意味だと、今ちょうど新型コロナウィルスの文脈でリモートワークとか、イベントのオンライン化みたいなことがすごい言われてますけど、仮にサウスバイサウスウエストの、町中で繰り広げられるイベントも全部オンライン化したら、グーグルマップみたいなものを見て、ここが今空いているからここ行ってみよう、って瞬時に行けるみたいな、そういう世界もあったりするのかもしれないですね。サウスバイサウスウエストも、バーチャルで開催するか、延期するかどうするかあったみたいですね。リアルタイムに都市の状況がわかって、目的がそのときにそのときに設定できるって、渋滞情報をスマホで見て、今首都高混んでいるから下道で行くかとか、そういう感覚に似ているかもしれないですね。

SXSWの良いところは「ゆるさ」

白井 サウスバイサウスウエストのいいところって、すごく緩いじゃないですか。多分オースティンという町が持っている緩さというのがそのままイベントの緩さになっているところがあって。で、ああいうふうにスマートフォンでいろんな情報を出してくれるんだけど、それを選ぶのは自分で、自由度があるような気がするんですよね。ここに行け、って言われると、すごく辟易としちゃうんだけど、選択肢だけとりあえず与えておいて、あとは君の自由だと言っているような感じがして、それが僕はすごくよくて。でも会場に着いても、みんなすごく整備されてきちんと並んでいるというわけじゃなくて、なんとなくダラッと自由に座っているみたいな。データって結局いろんなものを整理していっちゃうじゃないですか。

「カチッとしたものをつくりかねないデータが現実世界ではユルイ世界を作っている」魅力

白井 だから、すごくカチッとした世界観ができてきちゃうような気がするんですけど、サウスバイサウスウエストが圧倒的に面白いのが、カチッとしたものを作りかねないデータが現実の世界では緩い世界を作っているというのが、僕はすごくあのイベントの魅力かなという気が。

若原 確かに。混んでいるという情報を見て、でも行きたいから行ってみて、人がごちゃっと固まっていて、これどこから並んでいるんだろう?そもそも並んでいるのかな?みたいなところありますもんね、あの感じって。

トレランス・ゼロではない世界観

白井 多分それって、建築もすごく近いなと思っていて。CADで描く図面って、いわゆるトレランスゼロなんです。きちんと数値化を全部されていないと、線って描けないじゃないですか。でも手書きの線ってなんとなくニュアンスで描けるようなところもあって、トレランスがあるんですよ。で、恐らく手書きの図面がいいという人もまだ実はいっぱいいて、その人たちが言う良さって、トレランスゼロじゃない世界観で。建築って実はトレランスゼロではできなくて、もちろん作るのは人だから、いろんなところでずれも出てくるし、図面通り作ってもずれちゃうというか。そもそも柱だって10メートルでどうしても曲がっちゃうんです。

トレランスを許容するのが建築だった

白井 そういう意味で、トレランスを許容するというのが基本的な建築の世界で。なので、そういうトレランスのある世界を、トレランスのない世界で図面を描いているということは実は本当は違和感があって。そこを嫌がる人もいると思うんですよね。で、さっきのサウスバイサウスウエストの、トレランスゼロのようで実はゼロじゃないというか、その両方があるというのは、建築の世界にも近いのかなというのはちょっと思ったりして。

若原 面白いですね。バランスが大事ということですよね。アナログ懐古主義みたいなことでもないし、デジタル至上主義ということでもないし、アナログの良さは単に暖かみがあっていいということじゃなくて、今おっしゃっていただいたような、ちゃんとした理由があってアナログはアナログで理由をもってはまっていくところも残り続けるし、デジタルは圧倒的に便利になるとか楽になるとかっていう側面はあったりはするので、その組み合わせのバランスというところが、これは建築に限った話じゃないとは思うんですけど。今までもたくさん飲みながらお話したんですけど、改めてこういうふうにお話聞くのもすごく面白いなと思いました。いろいろありがとうございます。

白井 いえいえ、こちらこそありがとうございます。

最後までお読みいただきありがとうございます。
第2回は以上です。いかがでしたか?
白井さんのトークの続きは最終回「いいとこ取り」が可能になった時代 (ゲスト: 白井宏昌さん第3回)へ続きます。

トレジャーデータ株式会社

2011年に日本人がシリコンバレーにて設立。組織内に散在しているあらゆるデータを収集・統合・分析できるデータ基盤「Treasure Data CDP」を提供しています。デジタルマーケティングやDX(デジタルトランスフォーメション)の根幹をなすデータプラットフォームとして、すでに国内外400社以上の各業界のリーディングカンパニーに導入いただいています。
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