データを活用して小売企業の新たな世界を切り開く――。この課題に挑んでいるのが、小売業界に特化したデータマネジメントプラットフォームを開発するHALデータ研究所合同会社(以下、HALデータ研究所)です。同社では、そのデータプラットフォームにTreasure Data CDPを活用。顧客に独自の顧客体験を提供できれば「Amazonに勝つことさえ可能」と語るのは同社CEOのHAL_hatanaka氏です。PLAZMA 秋葉原での同社の講演からその意味を明らかにしていきます。
小売を革新に導くには「顧客の特定」が必要
HALデータ研究所は、小売業界に特化したデータマネジメントプラットフォームを開発する企業だ。同社は、企業内の各部署に分散した顧客情報を集約し、分析して集客に結びつけている。ここで活用する顧客情報は、Webのログデータや購買データ、アプリデータ、問い合わせデータなどさまざまだ。これらの各種データを統一データベースに投入し、分析しており、同社ではその統一データベースにTreasure Data CDPを利用している。
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データを活用して小売企業の新たな世界を切り開く――。この課題に挑んでいるのが、小売業界に特化したデータマネジメントプラットフォームを開発するHALデータ研究所合同会社(以下、HALデータ研究所)です。同社では、そのデータプラットフォームにTreasure Data CDPを活用。顧客に独自の顧客体験を提供できれば「Amazonに勝つことさえ可能」と語るのは同社CEOのHAL_hatanaka氏です。PLAZMA 秋葉原での同社の講演からその意味を明らかにしていきます。
小売を革新に導くには「顧客の特定」が必要
HALデータ研究所は、小売業界に特化したデータマネジメントプラットフォームを開発する企業だ。同社は、企業内の各部署に分散した顧客情報を集約し、分析して集客に結びつけている。ここで活用する顧客情報は、Webのログデータや購買データ、アプリデータ、問い合わせデータなどさまざまだ。これらの各種データを統一データベースに投入し、分析しており、同社ではその統一データベースにTreasure Data CDPを利用している。
「重要なのはお客様を特定すること。お客様は商品をWebで見たり店頭で見たりしながら、さまざまなチャネルで商品を購入しています。ただ、企業ではWebと店頭のデータを個別に分析していることがあります。HALデータ研究所では、Cookie IDや広告ID、アプリID、会員IDなどから共通部分を見つけ出し、お客様を特定する技術を持っています」と、HAL_hatanaka氏は説明する。
現在HALデータ研究所では、実店舗での顧客の行動を解析する仕組みを開発中だ。さまざまなセンサーやカメラを活用し、顧客が店舗で何を見ているのか、どの商品と見比べているのかを計測するというものだ。
この技術を駆使すれば、例えば店頭で商品を手に取った顧客を顔認識技術や行動データで把握し、時刻や位置情報、商品情報などを分析し、パターンマッチングでデータベース上に用意していた適切なお薦め商品をデジタルサイネージなどで表示することも可能だという。
ただし、「監視されている不気味さも伴うので、それを超える心地よいコミュニケーションや利便性を提供する必要があります」とHAL_hatanaka氏は警告する。行動履歴も取得しているため、こうしたデータを元に「感動や驚きを呼ぶ顧客体験を提供し、おもてなしの向上を目指さなくてはなりません」と同氏。「効率重視の小売業にとって、このような発想は難しいかもしれません。しかしこれが重要なポイントなのです」。
Treasure Dataの活用してWebと店舗の行動を結びつける
HALデータ研究所では、具体的にどのようにTreasure Data CDPを活用しているのだろうか。HAL_hatanaka氏は、「Treasure Data CDPでまずやるべきこと」として、Webの訪問者を判断して適切なバナーを表示する具外的な手法について説明した。
まず、サイトからアクセスログをリアルタイムに取得する。これには、Treasure Data CDPのヘルプ上のサンプルJavaScriptをサイトに埋め込むとともに、APIキーを作成する。Treasure Data CDP側はデータベースを作成して保存するだけだ。その後サイトを改修し、サイトから会員IDを取得できるようにしておく。
次に、既存の会員情報や購買情報をバッチでTreasure Data CDPに投入する。これにはConnectionsという機能を利用する。同機能を使えば、エンドポイントとID・パスワードを設定するだけでデータが流れて来るという。簡単なクエリも書けるため、データを限定的に抽出することも可能だ。
その後、Webの行動ログの中からCookie IDを顧客テーブルに登録する。クエリ機能を活用して実際にクエリを書き、会員IDが顧客テーブルにあればdelete/insertでアップデートし、会員IDがなければ連番を振ってinsertする、といった具合だ。これにより顧客テーブルにCookie IDが追加され、店舗でしか購入しなかったユーザーの情報もWeb側で計測可能となる。
これができた段階で、Treasure Data CDPのセグメントビルダーにセグメントを登録する。例えば、顧客テーブル、行動ログ、購買履歴の3パターンから、「スキンケアページを3日以内に見た」「購入回数4回以上」「神戸在住者」というセグメントを設計する、といった具合だ。
その後、リアルタイムの行動履歴からパターンにマッチしたかどうかを判断する。これもJavaScriptサンプルが用意されているため、それを貼り付け、セグメントビルダーで発行されたトークンとキーを指定する。
最後に、セグメントIDに対応したバナーを表示する。これは、JavaScriptがパーソナライゼーションAPIを使ってセグメント番号を取得、その番号をコールして表示する仕組みだ。
HAL_hatanaka氏は、Treasure Data CDPの利点として、瞬間的にセグメントIDが返ってくることや、数十億にもおよぶレコードを生ログとして保存できること、また、データのIN/OUTが設定1つで簡単にでき、APIの開発が必要ないことなどを挙げている。
「仕入れ販売」でなく「来店」で儲ける仕組みへ
冒頭で紹介したように、HALデータ研究所ではWebとリアル店舗のデータを統合しつつ、実店舗で顧客の行動データを生かすシステムの開発に取り組んでいる。同社がこうした技術に注力するのは、「AmazonやECにはできなくて、リアル店舗にできることはまだある」(HAL_hatanaka氏)と考えているためだ。
「店舗という物理的な空間を、商品選択や購買の入口にすることで、お客様の行動履歴を入手し、商品開発や広告に生かすことができます。店舗での体験はマネタイズできるのです」と主張する。
同氏は、極論として「店舗内の棚にQRコードを貼ってAmazonに飛ばしてもいいでしょう。そこからお客様が商品を購入すれば、アフィリエイトフィーと行動履歴が手に入るのですから」と語る。小売の常識を変えるような考えだが、「お客様が来店するだけで儲かる仕組みを考えなくてはいけません。体験をデータ化することで、マネタイズが実現します。これまでのように、商品を仕入れ販売することで儲けるという思考から脱却し、体験によるマネタイズが実現できれば、小売で儲ける必要がなくなります」 と続ける。
事実、Amazonは自社が仕入れて販売する商品で利益を出しているわけではない。それでも同社が強いのは、Amazonというプラットフォームを通じてデータが入手できるためだ。こうしてAmazonは、すでに自社で商品を仕入れて販売する必要さえなくなっている。Amazonだけではない。HAL_hatanaka氏は、AirbnbやUberといった企業も例に挙げ、「彼らは自社内に一切の資産を持たず、外部のデータや在庫を紐付けてマネタイズしています。これが21世紀型の成長モデルです」と語る。
リアル店舗がAmazonに勝つ手はある
すでに一般的な小売業者が、世界経済を制するプラットフォーマーに対抗するなど不可能だと誰もが感じているが、HAL_hatanaka氏は「まだAmazonに勝てる手があると私は考えています」という。それは、「自社が得意とする特定の業界の限られたカテゴリーで、しかもオフライン上で、局地戦にて戦うこと。そして、自らがその業界のプラットフォーマーになり、データがデータを呼ぶエコシステムを構築すること」だという。
そうなるためのヒントとしてHAL_hatanaka氏は、「小売業者はどこまで行っても小売業者であり、商品に誇りを持って経営しているはずです。その商品のデータを取引の中心に据えてみてはどうでしょうか」と語る。データが増えれば増えるほど、データの精度は上がり価値も高まる。その仕組みが構築できれば、「圧倒的ナンバーワンになることも可能です」と締めくくった。