膨大なデータをどのようにマーケティング施策に生かすか。この課題に対して、AI(人工知能)の活用に大きな期待が寄せられているものの、どのようなシーンに適用すればいいか悩んでいる担当者は少なくありません。そうした中、マーケティグ分野でAIを活用することで顧客体験の改善につなげる支援を行っているのが株式会社シンカー(以下、シンカー)です。2019年に開催された「PLAZMA 2019 JAPAN IT Week 春」に登壇した同社の取締役CAO(Chief Analytics Officer)岩瀬央氏の講演から、AIが何を実現し、どのように顧客体験を変革できるかを見ていきます。
マーケティング×データ活用のスペシャリスト集団
事業会社のデジタルシフトを支援することを目的に、マーケティング×データ活用・AI導入に精通したメンバーが集結した注目の企業がシンカー(THINKer)だ。代表取締役CEOの藤原瑛二氏は、複数の事業会社で10年以上にわたってマーケティング責任者を務めた後、パートナーエージェントの取締役CMOとして東証マザーズ上場を経験し、シンカーを設立。また取締役COOの藤縄義行氏は、サイバーエージェントで11年間デジタルマーケティング業務に従事し、独立後、マーケティング領域でコンサルティングを行ってきた。そして、CAOの岩瀬氏はデロイト トーマツ コンサルティングで統計解析・機械学習を活用したアナリティクスチームの立ち上げを経てシンカーへ参画した。
シンカーは2017年7月に設立後、「Treasure Data CDP」の導入支援をメインとしたマーケティング用ダッシュボード構築、BIツール導入、Marketing Automation(MA)連携などのコンサルティング業務を行ってきた。
ファーストパーティ、サードパーティデータを取得し、CDPで統合、Tableauなどで可視化・分析を行い、Google広告やFacebook Businessなどの新規向け広告の施策立案や、SalesforceやMarketoによる既存顧客拡大を支援するシンカー。
これまでに、銀行、保険、アパレル、Webメディアなど多様な業種業態に対してサービスを提供した実績がある。具体的にはアパレルEC企業におけるO2O施策の計測、地方銀行での外部データ結合、Webメディア企業におけるKPI自動集計、生命保険会社でのSalesforceデータ分析などだ。そうした経験をもとに岩瀬氏は「データ活用から顧客体験を改善するためには乗り越えなければならない3つの壁があります」と指摘した。
顧客体験の改善を阻む3つの壁と、その乗り越え方
顧客体験の改善を阻む3つの壁とは、「データの壁」「ツールの壁」「施策の壁」だ。顧客体験は、3つの壁を乗り越えて初めて変化する。実際には、多くの企業がこの3つの壁に阻まれて、顧客体験の改善までたどり着けていないのが現状だという。
マーケティング部門にとってはそれぞれの壁で課題を抱えることになる。具体的には、データの壁では「統合できない」「加工できない」「データがない」などが代表的だ。また、ツールの壁では、「課題を発見できない」「使い方がわからない」「選定/導入できない」が課題となる。さらに、施策の壁では「実行できない」「合意形成できない」「打ち手が出せない」という課題に直面しやすい。
「こうした課題を乗り越え、顧客体験を改善していくためには、データ蓄積から施策実行までの一気通貫での支援が必要になります。そこでシンカーでは、AI(ツール)と人(コンサルティング)の組み合わせにより、3つの壁を乗り越え、顧客体験の改善につなげます。そして今回、タグ設置のみで導入できるAIコンサルタント『CACICA』を開発しました」(岩瀬氏)
CACICA(カシカ)は、膨大なアクセスログを分析し、現状のサイトの改善点を発見して、ユーザー行動のデザインを行うAIコンサルタントだ。ポイントは大きく3つある。
1つめは、サイト内のユーザー行動をAIが自動解析し、課題を可視化できること。アクセスログ分析に機械学習を組み合わせることで改善点を発見する。2つめは、ツール費用が無料で、コンサルティング費用のみで利用ができること。ツール+人の組み合わせにより「ツールは入っているけど使われていない」という状態を回避できる。3つめは、導入はタグ設置のみであり、1分で設定作業が完了するというその手軽さだ。複雑な設定作業は必要なく、すぐに実装が可能だ。
CV/非CVユーザーの行動をAIが自動解析し、課題を可視化
CACICAは、Treasure Data CDPを基盤としたTHINKer CDPにアクセスログを収集した後、AIがユーザーをクラスタリングし、各クラスタの代表的なサイト内のカスタマージャーニー生成とCV貢献度分析から改善点を発見する。これにより、「顧客を行動データで分類し、代表的な行動フローをマップに落とし込む」「クラスタ内のCV・非CVユーザーの行動比較により改善点を可視化する」といったことが容易にできるようになる。
また、既存のアクセス解析ツールと違って、CACICAを導入することでアクセス解析の高度化と自動化を実現することが可能だ。既存のアクセス解析では、自分で深掘りが必要であるために工数がかかったり、属人的な分析になり品質が不安定になったりしやすい。また、顧客像を把握しにくいため、施策に落とし込むのも困難だ。
これに対し、CACICAは、自動で改善点を抽出するため工数がかからず、再現性の高い分析ができるため品質の標準化が可能だ。さらに、行動から顧客像が見えやすくなるため施策への落とし込みがしやすくなる
拡張性の高さも特徴だ。CACICAは、THINKer CDPへアクセスログ以外のデータを統合することで、より高度な分析・施策が可能になる。例えば、LTVの高いクラスタへ行動データに基づく精度の高い広告配信が可能だ。
「機能は随時追加される予定です。リリース予定の機能としては、ヒートマップ、エリア分析、クロスデバイス対応などがあります。ヒートマップは、クラスタごとにページ内の詳細な行動分析が可能です。エリア分析では、各クラスタの時空間分布を基にした施策立案が可能です。また、クロスデバイス対応により、デバイス横断での精緻なカスタマージャーニーの生成ができるようになります」(岩瀬氏)
AI(ツール)と人(コンサルティング)で3つの壁を乗り越える
オンライン発のカスタムオーダーアパレルブランド「FABRIC TOKYO」では、CACICAを導入してUI/UXの改善を進めた事例の1つだ。
CACICAの分析結果を活用して顧客体験の改善につなげる際の一般的な流れとしては、まずツールによって「アクセスログ取得」「顧客クラスタリング」「カスタマージャーニー生成」「CV貢献度分析」を行う。次に、人によって「ペルソナ設定」「仮説出し・課題設定」「改善案作成」を行う。
「FABRIC TOKYO様のケースでは、生成された5つのクラスタに対してカスタマージャーニーに基づいたペルソナを設定。クラスタごとにCVユーザーがよく見ているコンテンツを重要コンテンツとしてピックアップ。そのうえで、ユーザー像(ペルソナ)と改善点(重要コンテンツ)に基づいて仮説立案・課題設定を行い、(1)重要コンテンツの導線強化、(2)非CVユーザーへの訴求(コンテンツの調整)の2つを改善案として作成しました」(岩瀬氏)
タグ設置後約1ヵ月で分析結果の報告と、改善案の提案が可能だという。分析に必要なアクセス数の蓄積の目安は10万アクセス以上となる。
最後に岩瀬氏は「マーケティングにおけるAI導入は正規化され、大量に存在するデータであるアクセスログから試すことがポイントです。その際には、AI(ツール)と人(コンサルティング)で3つの壁を乗り越えること。AIで目指すのは大量データの処理と分析精度の向上です。そのうえで人が仮説出しと改善内容に注力します」とポイントを整理した。