「FinTech Live 2017.10.27」では河合氏のプレゼンテーションに続き、株式会社Orb、株式会社みずほフィナンシャルグループ、トレジャーデータ、そして株式会社ソラコムの事業と事例の紹介が行われました。
イベントの概要と河合氏のプレゼンテーションはこちら
決済と契約をシンプルに、低コストに
はじめに、株式会社Orbの最高事業責任者である深津 航氏より、「ブロックチェーン/分散台帳技術を使った地域電子マネー・仮想通貨ソリューションのご紹介」が発表されました。
株式会社Orb(以下オーブ)は、一言であらわすと「決済と契約をいかにシンプルにつくるか、いかに信頼性を保つ基盤をつくるか」(深津氏)を事業とされているとのこと。ブロックチェーン/分散台帳技術にこだわっているわけではないとしながらも、決済や契約といった、これまで非常にコストを要していた業務をいかに低コストに、シンプルにするかを目的とされています。社員数24名、1年で倍増し、外国人比率の非常に高いテクノロジー集団とのことです。
開発方針として、90%は破壊テストであるといいます。ネットワークを切ったり、データを壊したり、データを書き換えたりすることでシステムが本当に壊れないかという厳密な破壊テストを徹底して行い、それをクリアできた機能だけをリリースすること。それによって製品のリライアビリティと安定性を担保しています。また、決済の世界はスケーラビリティが非常に重要です。「ノードが増えたらリニアに性能が上がること」(深津氏)を目標にして開発を行っていると説明しました。
「Orb DTL」の技術を活用し、地域経済の活性化を推進する
オーブが開発・提供する「Orb DTL」は、高い改ざん耐性を有する非中央管理型の分散トランザクションシステムです。既存のブロックチェーン技術は様々な課題がありコストを下げることが難しいため、独自にブロックチェーン技術と分散データベース技術の利点をかけ合わせたプラットフォーム、その全てを一から開発しています。
電子通貨に関しては、作る事業者側が簡単に作成できるミドルウェア「Coin Core」を、「Orb DTL」のコンポーネントとして提供しています。「複雑な振る舞いの硬貨を設定のみで実装可能」(深津氏)なシステムとして、JSONを書けばコインが作れる/SQLを書けばデータを抜くことができる/Javaでプログラムを書けばトランザクション等の発想でインターフェイスをラップしています。
開発工数も、硬貨を作るのに当初は10人月から12人月をかけていたのものが、現在では5〜10分で作成が可能となり、劇的にコストを下げることに成功しました。APIも極力シンプルにするという発想で、4つのAPIのみで、通貨の交換比率の変更やボーナス付与、減価、消滅、払い戻し、送金、マイナス残高等の複雑な処理のほぼ全てを行うことができます。これらの処理、手続きは日本の法律をもとにそれぞれ抽出されており、テンプレート化により容易に行うことができます。
しかしそういった技術だけでは決済のコストは減らない、と深津氏は強調します。例えばATM。一般的な金融機関は通信部分を専用線で結んでネットワークの侵入を予防しますが、その部分をオーブではスマホを使うことによりコストの削減を図ります。
例えばコインを設計するバリュー管理サーバでは、「分散型台帳を用いて書き換え不可能な台帳を使っているので、インターネット回線で侵入されてもそもそも残高の書き換えが起こらない」(深津氏)ものです。深津氏は「基本的な開発方針は管理者が自分で残高を書き換えられないことだ」と続けます。
続けて電子型地域通貨への適用・導入に向けて、企業の福利厚生での活用や、インバウンド型ホテル後払い決済、広告と連動させたデータ活用など、地方公共団体や企業と連携した事例が紹介されました。地域経済に新しい通貨が出てきた時にそれをどう使ってもらうか、その仕組みづくりから提案を行っている事例もあります。
また、精算そのものが負荷を強いるという考えから、その作業を仮想通貨の活用でなくすアイディアに関して、1年を待たずに実験基盤を開発、実証実験を行いたいと意気込みを語りました。
金融業ビジネスモデルの転換がはじまっている
株式会社みずほフィナンシャルグループデジタルイノベーション部の大久保 光伸氏のプレゼンテーションは「オープン&デジタルイノベーションで創る新しい金融国際都市」についてです。大久保氏は株式会社Blue Lab(以下ブルーラボ)の最高技術責任者も兼任されており、今回はデータベースやパブリッククラウドの利活用、データを起点としたビジネス展開等の論点で事例をご紹介されました。
これまで、金融業においては、銀行や金融機関がお客様に対して一方向的なビジネス展開をしてきたと大久保氏は語ります。それが、SNSの広まりやIoT技術によって事業者側がお客様のニーズを理解できるようになってきたことにより、BtoCからCtoBのビジネスモデルへの転換がはじまっているのこと。大久保氏が最高技術責任者を務めるブルーラボでは、これまで銀行に蓄積してきた情報をもとに新たなビジネス展開を生み出すこと、またFinTech領域のみならずIoT全般を対象とするCtoBモデルを模索しています。
銀行APIを活用したオープンイノベーションの取り組みとして、大久保氏は「クロスインダストリ✕47都道府県」やスコア・レンディング「J.Score」をはじめとした豊富な事例をご紹介されました。APIエコシステムとして、銀行APIを利用するパターンと、外部APIを利用して連携するパターンがあり、その活用から創出されたビジネスモデルは16件にのぼるとのことです。
データ分析をサービスとして提供することで、様々なユースケースをアドオンできる
IoT決済の研究開発状況として株式会社ソラコムと連携している事例では、QRコード、Amazonエコー、コンビニ電子タグ、NFC等は一通り検証できている段階にあると説明されました。また、みずほグループだけではなく他の銀行にも提供することを視野に入れたプラットフォーム構築事例として、2つの取り組みが紹介されました。
ひとつは、IoTプラットフォーム連携として、コネクテッドカーやスマートスピーカー、Liquid Pay、自動販売機、スマート家電などと「SORACOM」の閉域網接続を使用して、「みずほVPC」にデータを連携するパターン。もうひとつは「SORACOM Funnel」を活用して生データを「みずほVPC」に送るという方法。この場合のビッグデータ分析基盤として「TREASURE CDP」と連携します。この連携により、「データ分析をサービスとして提供することで、様々なユースケースをアドオンすることが可能となる」と大久保氏は力を込めました。
大久保氏は最後にデジタル通貨の取り組みとして国内外の事例、構想を紹介されました。「日本では経済発展に比して現金が多く、社会的コストが発生している」(大久保氏)とのこと。概算ではATM網の運営コストや店舗での現金取扱業務人件費など、金融業界で年間2兆円の試算とも言われます。この課題に対しても、テクノロジーによる解決が求められています。
データを使っていかに顧客を理解するか
トレジャーデータからはここまでのプレゼンテーションを受けて、「いかに行動のデータを貯めて、それを繋ぐことで生活者の趣味嗜好、何を求め何をしたいのかを発見、分析して理解していくことが重要」(堀内)という認識を示しました。
年間100名を越えるCMOやデジタルマーケターと対話する中で、求めることは「データを使っていかに顧客を理解するか」ということです。そのために断片化されたデータをまとめて、適切な内容、タイミングでコミュニケーションを取り、そのROIを計測してクイックに施策を繰り返すという観点は、消費財でも金融でも共通して重要ではないでしょうか。
「TREASURE CDP」により、情報をセキュアに、簡単に扱うことができるようになり、更にデータに保持期限はありません。トレジャーデータのコミットするオープンソース(「fluentd」や「Hivemall」等)や、連携パートナーのツールを活用することで、お客様の理解を進めることが可能であると考えています。
デジタルマーケティングに加えデジタルトランスフォーメーション領域における「TREASURE CDP」の活用事例というテーマで、パイオニア様のテレマティクス保険に対するデータ活用、インバウンドマーケティングでの活用例やPARCOなどのモバイルアプリ等のログデータ活用例を紹介しました。
ヒトだけでなく、モノのビヘイビアも集めることが可能に
最後の登壇者として、株式会社ソラコム (以下ソラコム)ソリューションアーキテクトの今井 雄太氏より「IoTとクラウドの新しい関係性」についてご紹介いただきました。
ソラコムは2014年創業で社員数45名、代表や今井氏を含め、AmazonAWSの出身者が多くいらっしゃるとのことです。どんな業界であってもビッグデータが無関係ではいられなくなっているように、IoTもビジネスにおいて重要なファクターとなってきています。建築ロボットや建機、工場におけるファクトリーオートメーション、ひいては農業や交通機関、移動体と、「あらゆるところで、なにかが活動するところで、データが発生する。それを効率的かつセキュアに集めてクラウドで分析、対処する」(今井氏)必要があります。「ヒトだけでなく、モノのビヘイビアを集めることができるようになっています」(今井氏)。
ソラコムの研究開発例として、大久保氏の発表にもありましたように、みずほ銀行がIoT決済端末で活用している事例が紹介されました。実際にこれまで店舗のPOS端末とセンターを繋ぐ回線は、ISDNや専用線といった固定回線を架設され運用されていましたが、「SORACOM」のSIMを使用することで簡単でクイックに、かつ安価に回線セキュリティを得られるというところにメリットが生まれています。
「SORACOM Funnel」で自動販売機15万台の回線を低コストかつセキュアに運用する
ソラコムはネットワーク、MVNOを事業としていますが、大きくは「モノとバックエンド(クラウドやサーバー)を繋ぐ」ことを行っています。膨大なデータがヒトだけではなくモノからも上がってくる現代において、その量、速度をいかに効率化するかが課題です。しかし、それをオンプレミスで開発すると高額なコストが発生することに加え、ビジネスに必要なスピード感が圧倒的に失われます。パブリッククラウドの活用や、低コスト化が進むRaspberry Pi等のマイクロコンピュータの活用で、非常に安価なプロトタイピングやリーン・スタートアップが可能となりました。
では回線はどうでしょうか? 「セキュリティのいらない通信はほぼない」(今井氏)ということを大前提として、「初期投資を小さく、リードタイムを短く、ビジネスがスケールしても拡張できる回線サービスはないだろうか?」ということがソラコムの解決したい問題だったと今井氏は説明します。
2015年9月にIoT向けの通信サービス「SORACOM Air」をリリース。Amazonで購入でき、届いてすぐ通信でき、更にWebから管理できてAPIでコントロールできる同製品は、例えばダイドードリンコの15万台の「Smile STAND」に搭載されるなど広く活用されています。15万本の回線を手動もしくはWebでコントロールすることは不可能に近いことですが、APIによりシステマチックな管理が可能となっています。「Smile STAND」には通信機能をもたせたPOS端末が搭載され、さまざまなデータをクラウドにうつして、活用を行っています。「SORACOM Funnel」を活用した安全かつ容易にデータを送信する事例です。
今井氏からはそのほかに、大阪ガスのスマートメーター、KOMATSUのICT建機等の事例をご紹介いただきました。「大きな初期投資なくセキュアな回線を利用可能なことで、結果としてビジネスのソリューションを早く回していける」(今井氏)ソラコムは、「世界中のヒトとモノを繋げ共鳴する社会へ。」というテーマのもと、IoTのビジネス活用を加速させています。