生活者のリアルな購買行動を把握しマーケティングに活用する――。これを実現するアプローチの1つとして有効なのが電子チラシサービスです。この分野で、月間ユーザー数1100万人、掲載店舗数11万店を誇るサービス「Shufoo!」を展開するのが株式会社ONE COMPATH(以下、ONE COMPATH)です。同サービスの基盤である「Shufoo!DMP」と、気象情報や周辺の生活環境などのエリアに紐づく環境データを集約し提供するエリアデータマート「TORIMAKU」という2つのエリア起点のデータを活用して、企業や店舗にどのような価値を提供しているのか。「PLAZMA 2019 JAPAN IT WEEK 春」での同社データDMP・分析担当 古谷宣博氏の講演からその秘密を見ていきます。
消費者のリアルな行動データを取得できるかがカギ
ONE COMPATHは、地図サービス「Mapion」を提供する株式会社マピオンに電子チラシサービスの「Shufoo!」を統合し、2019年4月より社名をマピオンからONE COMPATHへと変更して誕生した企業だ。同社では「ワンマイル・イノベーション・カンパニー」という戦略の下、生活圏でイノベーションを起こすプロフェッショナル集団を目指している。ONE COMPATHの古谷氏は、「生活行動圏や身近なもの、地域情報を可視化して、各個人のリアルな生活行動を便利にしていきたいと考えています」と、同社の方向性について述べている。
ONE COMPATHが提供するのは、Shufoo!やMapionの他、位置情報を活用した戦国スタンプラリーゲーム「ケータイ国盗り合戦」、ふたり専用のコミュニケーションアプリ「ふたりの」など幅広い。中でもShufoo!は、購買意欲の高い30〜40歳代の子育て中の女性を中心に月間ユーザー数1100万人を誇り、4000企業11万店舗が利用する巨大なサービスだ。保有するオーディエンスデータは年間で3000万人分に上り、「国内の専業主婦半分にリーチできる規模のサービスです」と古谷氏は説明する。
古谷氏は、生活者の購買行動においてデジタル化は進んでいるものの、実際にはいまだにリアル店舗での消費が中心であると指摘。Webとリアルが融合する中で、「生活者のリアルな行動をいかに捉えるかがカギになります」と語る。
ONE COMPATHでは、リアルな行動を捉えるために、ユーザーに紐付いた買い物データの「Shufoo!DMP」と、エリアに紐づく環境データを提供する「エリアデータマートTORIMAKU」という2つのプラットフォームを抱えている。
電子チラシの閲覧データから店舗が打つべき施策がわかる
Shufoo!DMPは、Shufoo!を通じてユーザーのリアル店舗での日常的な買物行動が把握できるデータマネジメントプラットフォームだ。例えば、チラシの閲覧情報データを分析すると、商圏、ユーザーの興味関心、店舗状況、店舗競合などがわかるという。
「ユーザーは平均4店舗のスーパーのチラシを見比べていることがわかります」と古谷氏。また、各ユーザーの買い物行動エリアも把握でき、「全国の平均的な買い物行動圏は約5.2kmですが、北海道では6.1km、東京では3.5kmと、地域によってエリアの広さは異なります」としている。
閲覧したチラシのカテゴリーデータを分析することで、ユーザーを「スーパー特化クラスタ」「暮らし全般クラスタ」「家電好きクラスタ」「チラシ全般好きクラスタ」「家具ホームセンター好きクラスタ」の5つのクラスタに分類したという。
店舗別のユーザーロイヤリティもわかる。チラシ閲覧者全体の数を縦軸とし、その店舗をお気に入り店舗に登録している人が閲覧した数を横軸としてグラフを作成。閲覧者の多くがお気に入り登録者によるものであれば、「その店舗は既存顧客の割合が高いため、新規顧客の取り込み囲み施策が必要です」と古谷氏。一方で、閲覧者の多くがお気に入り店舗に登録していない人であれば、「ライトユーザーの割合が高いため、顧客囲い込み施策が必要になります」として、チラシ閲覧の状況から対策が見えてくる例を示した。
また、複数店舗のチラシ閲覧状況を比較して競合の状況を探ることも可能だ。例えば、近隣競合店とチラシ閲覧者があまり重なっていない場合、競合との住み分けは良好といえる。ただし、競合が遠方にあるにも関わらず自社よりよく見られているチラシがある場合、商圏の重複は小さいが顧客が重複していることになる。
広告配信で接触したユーザーの来店計測も可能
ONE COMPATHでは2018年9月にレシートキャンペーンを実施。複数店舗の情報を取得し、単店舗だけの特性だけではなく、併用状況や全体的な個人の嗜好も把握した。
例えば、ある総合スーパーとドラッグストアを併用しているユーザーのみ抽出して比較したところ、加工食品はスーパーでの購入が多かったものの、保存性が高い飲料や菓子類はドラッグストアでの購入が多かったという。また、生鮮系はスーパーが寡占している一方で、意外にも卵は善戦していることわかった。このことから古谷氏は、「卵はよくスーパーの集客に利用されることが多いのですが、ドラッグストアでも最近同様の販促をしている可能性があることを示しています」と述べている。
Shufoo!DMPの活用メニューとして、ONE COMPATHでは「Shufoo! Audience Targeting Ad」というサービスも提供している。Shufoo!はチラシでしかユーザーにアプローチできないが、Shufoo! Audience Targeting Adでは、LINEアプリやWebサイトなど、外部メディアを通じてユーザーをターゲティングし、広告配信ができるサービスだ。また、店舗商圏内にいるユーザーにShufoo! Audience Targeting Adで広告を配信し、接触したユーザーがどの程度店舗に来店するかGPSで計測することも可能だ。
Shufoo!DMPの価値について、古谷氏は「年間3000万人のオーディエンスデータと4000企業11万店舗のデータを保有していることが強みです。これにより、ユーザーの日常における買い回りエリアが把握できるほか、利用者の傾向や商品嗜好、購買行動など、リアルな世界での購買行動を基点としたオーディエンスの特性が捉えられる」と話す。
天気や交通などエリア別の環境データを統合しマーケティングに活用
ONE COMPATHが、リアル基点のデータを元に提供するもう1つのサービスがTORIMAKUだ。このサービスが誕生した背景には、ターゲティングにおける課題が存在する。その課題とは、性別、年代、嗜好、特定行動などによってターゲティングの精度は向上しているものの、ターゲティングの精度には限界が訪れることと、ターゲティングを進めることでリーチボリュームが低下してしまうことだ。
そこでONE COMPATHでは、天候や気候、周辺施設、土地柄といった外部環境による行動決定要因により、ターゲティングをさらに効率化し、母数の補完ができるのではないかと考えた。こうして誕生したTORIMAKUは、エリアの特性や気象状況、周辺の生活環境など、エリアにひもづく環境データを集約して提供している。
例えば、2018年10月1日の東京における気象データを見ると、都内でも超高温エリア、高温エリア、比較的過ごしやすい気温エリアの3つに分類することが可能だ。これに湿度のデータを組み合わせると、不快指数の高いエリアがある一方で、高温でも湿度が低い快適なエリアも存在することがわかる。このことから古谷氏は、「東京を1つのエリアと捉えてマーケティングしても、効果が最大化できない可能性がある」と語る。
古谷氏は、気象やジオデモグラフィックデータを提供する企業は存在するものの、データマーケティング利用に特化したメニューが少なく、一括でデータを渡す企業が多いと話す。また、データフォーマットも統一されておらず、マーケティングへの活用には複雑なデータ処理が必要で、こうした処理にもサーバー構築などの初期費用がかかる点を指摘。「こうした課題を、位置情報加工が得意なONE COMPATHのTORIMAKUが解決できる」としている。
さらに、「オーディエンスデータが詳細化している今だからこそ、エリア環境データによってターゲティング精度のさらなる向上や、リーチボリュームの拡大に活用できると考えています」と古谷氏。ONE COMPATHでは、2018年10月よりTORIMAKUにおける気象データの活用に取り組んでいる。
こうしたエリア環境データを集約し、データマーケティングに最適なフォーマットに変換することで、「環境と連動した広告を出したり、データを提供したりすることができる」と古谷氏は言う。また、Shufoo! Audience Targeting AdにTORIMAKUのデータを活用し、さらなる効率化を図ることも検討中だという。