小売・ファッション業界が直面する「省人化による効率性向上」と「顧客体験の向上」。これらの両立に先進企業がどう取り組んでいるかを事例から紐解くイベント「PLAZMA 小売&アパレル〜テクノロジーを活用した省人化と顧客体験向上の最前線〜」が2021年7月6日~8日に開催されました。
イベントで配信されたCDP事例4つと、パートナーソリューション7つの計11事例を、株式会社顧客時間の奥谷孝司氏と伴大二郎氏がDX推進者にとって特に重要なポイントをピックアップしながら振り返ります。
※本記事はトレジャーデータ株式会社が主催した「PLAZMA 小売&アパレル〜テクノロジーを活用した省人化と顧客体験向上の最前線〜」(2021年7月開催)のライブセッションをもとに編集しました。
奥谷 孝司 氏
株式会社顧客時間
共同CEO 取締役
1997年良品計画入社。店舗勤務や取引先商社への出向(ドイツ勤務)、World MUJI企画、企画デザイン室などを経て、2005年衣料雑貨のカテゴリーマネージャーとして「足なり直角靴下」を開発して定番ヒット商品に育てる。2010年WEB事業部長に就き、「MUJI passport」をプロデュース。2015年10月にオイシックス株式会社(現オイシックス・ラ・大地)に入社し、COCO(チーフ・オムニ・チャネル・オフィサー)に就く。2017年にEngagement Commerce Labを設立。2010年3月早稲田大学大学院商学研究科修士課程修了(MBA)。2021年3月一橋大学大学院経営管理研究科博士後期課程単位取得満期退学。著書に『世界最先端のマーケティング 顧客とつながる企業のチャネルシフト戦略』(共著、日経BP社)がある。日本マーケティング学会理事。
伴 大二郎 氏
株式会社顧客時間
Project Manager
小売業界においてCRMの重要性に着目。一貫してデータ活用の戦略立案やサービス開発に従事した後、2011年にオプト入社。マーケティングコンサルタントを経て、 2015年よりマーケティング事業部部長として事業拡大に向けた組織作りに着手。マーケティングマネジメント部やOMO関連部門等々を立ち上げ統括しながら組織を拡大。海外のイベントや企業訪問など、小売、リテールの情報を収集し社内外への発信活動を行う。2021年にdb-labを設立し、株式会社顧客時間にプロジェクトマネージャーとして参画。2021年6月より、株式会社ヤプリのエグゼクティブスペシャリストに就任。著書に『モバイル時代のCRM-スマホで顧客コミュニケーションはどう変わったか?』(Shoeisha Digital First)がある。
<目次>
イベント振り返り:CDP事例4例
伴:今回のテーマは「小売・アパレル業界の今とこれから」ということで、まさに私たちの得意な領域でもありました。内容も非常に面白かったですね。
奥谷:CDPを中心にこういう発展や取り組みがあるのだな、と気付かされたセッションが多かったです。
伴:すごくリアリティがありましたよね。まず4つのCDP事例を振り返っていきたいと思います。図の右側は私のメモです。
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【CDP事例】TSIのユニファイドコマース戦略〜新しい広告施策と今後の展望〜
伴:TSIさんは以前からユニファイドコマースに取り組んでいて、店舗・EC体験を改善していくためのデータ取得・活用を行っています。Cookieレスがすぐそこに迫る中、メールアドレスや電話番号で連携するFacebookコンバージョンAPIを広告施策で活用するお話でした。これからCRMや店舗データなどをどんどん入れて、精度を上げていきたいということです。
奥谷:実は広告運用へのCDP活用は非常に重要です。CDPについてまだよくわからない方は、是非この事例を見てもらいたいですね。TSIは実店舗とECの融合をビジョンとして掲げ、その目的としてCDPが存在しています。今後もっと多様なデータが取れてくると思いますし、将来的にはヘッドレスコマースなどもお考えなのだろうなと思いました。その布石として勉強になる模範的な事例だと感じます。
伴:基礎的なことを非常にきちんとやっていますよね。TSIの場合、複数のブランド店舗を持っているので、IDが統合されているというのは武器になるのだろうと思います。
Cookieレスについて説明すると、CookieレスになるとリターゲティングをはじめCookieを用いて人をセグメントする広告施策が非常に難しくなってしまいます。今後個人を特定するのに用いる情報の候補がメールアドレス、電話番号、LINEのIDなどです。
奥谷:早めに準備しておく必要がありますね。データを蓄積していくのにも時間はかかりますから、やれば即Cookieレスに対応できるわけではありません。
伴:TSIの事例にもある通り、Facebookやメディア側に渡すデータをこちら側でセグメント分けして渡すことが非常に重要です。そのためには、ファーストパーティーデータをちゃんと貯める必要があります。その点においてもこの事例はオーソドックスですが非常に良い事例だったと思います。
【CDP事例】マルチチャネル体制に向けたカインズのCDP構築とは
奥谷:カインズもTSIと同様に「ネットとリアルの融合」が主目的にあり、データを店頭の武器にしていくためにCDP構築をしているという事例でした。
カインズのデジタル戦略は、顧客に「商品が容易に見つかる」「素早いチェックアウト」等の「エモーショナルな体験を提供する」とあります。これらは一見CDPと関係ないように見えますが、こういったことを実現するためにはデータの根っこをしっかりとCDPに植えることが必要です。それがきちんとできている事例だと思います。
伴:現場のプロフェッショナルの「この顧客は次にこういうことをしたいはず」「こういうことで喜ぶ」という意見を分析に取り入れているのがカインズの武器だと感じました。データを誰もが使える体制を作る「データの民主化」は、接客が重要だと考えている小売企業はやるべきだと思います。
奥谷:デジタルのプロもいれば店舗のプロもいて、それぞれが喧々諤々でやれているから良い状態になっているのかなと思います。それをリードしている経営のマインドもすごくDXに寄っていますよね。組織的にデータ活用ができている点は特筆すべきかと思います。
伴:この後の話にも出てくると思いますが、組織やEX(Employee Experience)の重要性は非常に高いですよね。
奥谷:EXがないとDXは片手落ちになると思います。先にCX(Customer Experience)を考えるのはいいですが、従業員がついてこられなかったら良い顧客体験にはなりません。従業員が積極的におすすめしないものをお客さんは使いませんからね。
伴:まさに会社としてDXを進めていくというのはこういうことだ、という参考事例だと思いました。
【CDP事例】オンワード・オーダーメイド事業における顧客中心のデータ活用の仕組み化
奥谷:オンワードパーソナルスタイル(OPS)の事例は、伴さんも大活躍だそうですね。
伴:このプロジェクト自体に私がもともと入っていたんです。親交のあるOPSの金屋さんからご相談いただいて設計をしました。
このご時世で百貨店が非常に苦しむ中、工場から直接顧客にオーダーメイド商品を届けるファクトリー・トゥ・カスタマー(F2C)の強さは、店舗で採寸したデータをそのまま工場に送り、工場から直接顧客に商品が送られるという無駄のなさですよね。
さらに接客時に採寸したデータをデータベースに入力し、2回目からはECでオーダーメイドできる仕組みも構築しています。百貨店に紐づくビジネスが苦しくなる中、新しい取り組みとして非常に面白いし期待しています。
奥谷:オーダーメイド事業は現状ではそこまで大きくないと思いますが、素晴らしいのはそこにCDPを導入して店舗にデジタルの武器を提供しているところです。すごく意味があるし、意義があると思います。今後どう横展開して発展していくのか興味がありますね。
オーダー→製造→配送の流れがあるのはアパレルだけではないので、F2Cはもっともっと他の業種にも広がっていくのではないでしょうか。その際にオーダーはオーダー、製造は製造、配送は配送でデータがバラバラだと必ずロスが生じるので、顧客を起点に川上に遡る、リバースバリューチェーンといった考えにはCDPが必要になります。異業種の方もこの動画を観てもらって、うち(自社)だったらどうなるかなと考えてみてほしいですね。
伴:スタッフ評価等にも使用しているとのことなので、参考にしていただくと面白いと思います。
【CDP事例】(再演)株式会社パルコの「ユーザー起点マーケティング」
伴:アプリで気になる商品をクリップして→施設にチェックイン→施設内を回遊する→購入する→評価する(スターレーティング)という一連の行動がつながった「CCWCS」が面白かったですね。そしてそのデータをIDと一緒にCDPに入れることができるという点で、アプリとCDPの組み合わせは顧客を知る上で非常に重要だと感じます。
奥谷:皆さんも是非やってみてほしいなと思ったのは、購買データだけではなく行動データを取ることです。クリップもチェックインも体験評価も購買データではないですよね。エンターテインメントとECを組み合わせたショッパーテインメントに取り組むには、施策でどれだけ顧客が楽しめているかのデータをしっかりとCDPの中に貯めて分析しなくてはなりません。
コロナ禍を経て、リアルの体験価値は上がっていくと思います。良いリアル体験にデジタルを乗せていくと、さらに良い体験になっていくんですね。後半にショッパーテインメント的な話が出てくるので、その部分も見てもらえるといいんじゃないかと思います。
伴:デジタル推進部とCRM推進部、2つの組織がうまく連携しています。DXでもEXでも、組織を最適に作り変えるのが非常に重要ですよね。
奥谷:そうですね。最近、顧客時間の仕事でも組織作りの話は多いですよね。パルコの組織作りでいいなと思ったのは、それぞれの事業部の役割をしっかり明文化していることです。しかもそれぞれの役割がカスタマージャーニーの中で循環する。組織として理想的です。DX部門とかオムニチャネル部門の進化系としてこういう考え方があるんだよというのは、組織論としても大事だと思いますね。
伴:各事業部で見るデータが違ったり違うKPIを求めていたりしたらいけないので、間にCDPを置いて同じデータを見て会話できるのも大事なことなんだと思いますね。
奥谷:部署は違っても一つのデータを見ることはベクトル合わせにいいですよね。
伴:顧客データはどの部署でも絶対に見なければいけないものなので、CDPをビジネスの中心に置くのは理想の形だと思います。
イベント振り返り:パートナーソリューション7例
伴:ここからはパートナーのお話です。7つの事例を振り返ります。
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𠮷野家/伊東常務と語る、データマーケティングと店舗DX
伴:お話の中で気になったのは、ばらまきクーポンが優良顧客の単価を下げるという話ですね。食べたことのないメニューの提案やサラダをつけてもらう努力のためにデータを使うのはうまい使い方だと思います。
あとは人がやらなくてもいいことをAIにやらせるという話で、「では人がやるべきことって何?」という問いに伊東常務が「接客」と言い切ったところに非常に共感しました。
奥谷:まさにその点がすごく大事だと思います。デジタルが店頭の武器になるというのはこういうことなのかもしれない。食べたことのないメニューの提案のようにDXでセレンディピティを提供する仕組みがうまく回って、各店舗のP/Lが自然と改善していく中で人間がしっかりと接客できたら素晴らしいですよね。
伊東さんはまだ乗り越えなくてはいけないことがたくさんあるとおっしゃっていましたが、そこを乗り越えられた先には、そういったことができてくるのでしょう。やはりCDPとAIは相性がよさそうですね。
リテールDXの成功率は、なぜ商品マスタが左右するのか?
奥谷:次はLazuliのPDP(プロダクト・データ・プラットフォーム)の話です。先程のOPSさんのようなF2Cをやっていく上でも非常に大事な話だと思います。
商品がお客さまの手元まで流れるには、ものすごいエネルギーと時間がかかっています。本当はデータの方が早いはずなのに、データが遅れてくる。モノの動きのスピードに追いついていないという課題があります。これまで気合と根性で入力してきた商品マスタデータをしっかりと統合することにより、データと商品が同期して流れる。顧客IDとPDPのデータを合わせれば、店頭ではない場所でもその顧客が以前何を買ったかがわかるし、それを買う人はどんなことが好きなのかもわかります。
そういう可能性を踏まえて、CDPではなくPDPと言っているところがミソです。CDPとPDP、表と裏として共存していけるとよいのかなと。
伴:私は分析官を長くやっていたので、データクレンジングに一番時間がかかるのがとてもよくわかるんです。マスタ登録がいい加減だったり、後から新しいカテゴリができたり。
奥谷:例えばネットストアで考えると、今までは一生懸命コーディングしたりマスタ登録専任の人を雇ったりしてやってきたわけです。でも適正なCXを作るためには、AIでできるならば人間の力を使うのはやめてよいのではないでしょうか。今後のヘッドレスコマースを踏まえてどこにでも出せるデータにするには、終始一貫したデータにしておいた方が絶対いいですよね。
伴:最後の方に出てきた商品DNAの話は、これがデータにあるとすごく楽だと思いました。おすすめ商品を提案する際、ブランドで区切っても違うし価格帯で区切るのも違う。そこに「この商品ってこういう人が好むよね」といったマスタにないデータをつけてあげられたら、顧客体験が大きく変わりますよね。PDPとCDPのデータがリッチになると、本当にお客さんが見えるようになってくると感じました。
奥谷:CDPも購買データだけではなく行動データが入ってくることでリッチ化するし、そこに商品のデータを独立変数的に置いたときに「人」が見えるとか、そういうことができるようになると仮説精度が増すので、そういう意味でも期待したいですね。
伴:説明変数が足りなくて答えが出てこないときの「新しい説明変数」になってくるというのが非常に面白いですね。AIの精度も上がってくると思いますし、データをリッチにすることにより作業負荷が減るだけでなく、顧客体験を変えるという意味でもPDPは重要性が高いと思います。
無人決済システムが変えるリテールの未来
伴:私のメモには「自販機以上コンビニ未満」とあります。この市場は確かにありますよね。
この市場にTOUCH TO GOがどんどん攻めたときに、自販機が淘汰されるのかコンビニが淘汰されるのか、どうなるのだろうと考えながら視聴しました。
奥谷:小売事業者に使ってもらうことも大事ですが、ショップinショップのような形で百貨店やスーパーの中にこういう場所があってもよいと思います。例えばそこでメーカーがデータを取れると結構面白いですよね。
これだけを単体で切り出して勝負するなら、結局場所を持っている会社の勝ちになります。“シームレスなショッピング体験”というだけで終わらず、そこを超えてくるとどんなことが起こるのか見てみたいですね。例えばレストランが中食用にこういうコーナーを列車の一部に作っておけば誰もいなくても対応でき、マーケットクリエーションと買い物の楽しみを付加できそうです。
伴:Amazon Goが上手くいったのも、レジ打ちの省力化自体よりも、人が接客をしたりおいしいサンドイッチを作ったり客単価を上げる行動ができるようになった影響が大きいと思います。日本では何が効果的なのかわからないですけどね。
奥谷:そうですよね。省力化ももちろんひとつの価値なんですが、先ほど言ったショッパーテインメント的に使っていくこともできると思います。今後インバウンドが戻ってきた際にはこのようなテクノロジーが接客の代わりになることも考えられますよね。
伴:このソリューションで面白い顧客価値をどう提供するかは、顧客時間としても考えていきたいですね。
奥谷:是非一緒に考えたいです。
AIによるECサイト利用者の行動分析と顧客体験の改善事例
伴:デジタルのカスタマージャーニーを分析し、セグメントを作って改善してくれるツールですね。これは楽だし、当然成果は上がると感じました。
サイト利用者の行動分析をどのくらいの頻度でやるのか、分析の結果改善すべき点がわかったら本当に改善できる体制がその企業にあるのか、このあたりの課題と共に解決するべきところなのだろうと思いました。
奥谷:そうですね。やはり人間には見きれない部分もあるので、こういったツールを使って気づいてないことに気づき、改善できるようになるといいなと思いますね。オンラインだけではなく、オンラインとオフラインのデータをCDPに統合してカスタマージャーニーを描けるツールになってくると非常に面白いのではないでしょうか。
例えば店舗に何度も来て何も買わない人がいたとします。オンラインのデータと組み合わせることで、店舗に不満があるのではなくショールーミングしていたという理由が判明するかもしれない。逆にウェブルーミング(※オンラインショップなど、Web上で商品を確認してから、実店舗で購入すること)してから店舗に来る人だったら、サイト上ではコンバージョンを促すよりも関連商品をレコメンドした方が効果的でしょう。ここにAIが入ってくることで、さらに体験のリッチ化に寄与しそうです。
伴:確かに、AIによって分析にかかる時間は大幅に短縮できます。しかし、分析ができても結局その後に分析で得た情報をもとに何らかの対応をしないと意味がないので、企業側の次の動きが重要ですよね。
SNSのIDを活用した顧客会員基盤の強化とデジタル販促施策について
伴:DACのソリューションはDX推進やCDP導入の費用対効果算出のためのPoCを提供するパッケージです。
奥谷:Cookieの問題とも繋がりますが、DialogOneでLINE連携して広告配信までやってみるとやはりCDPの効果もよくわかるので、これもよくできていると思います。
伴:そうですね。パッケージでそれらを全部DACがやってくれるというものですね。
奥谷:これはCDPを提供するトレジャーデータとのパートナーシップがあるからこそ実現できているというのもあるのかなと。
伴:上手く使えば小規模・中規模の企業から導入できそうですね。いきなりCDPを導入するのはハードルが高くても、このパッケージを使えばLINE連携でCookieレス時代の広告にも対応できる非常に良いパッケージだと感じました。
奥谷:メーカーの自社ECサイトとなるとどうしても、小売よりも売り上げ規模もトラフィックも小さくなります。扱うデータも少ないし高いコストをかけるのは躊躇しますよね。だからこういうパッケージを使って、LINEからユーザーを誘導して自社ECサイトで体験をしてもらい、またLINEに返す。そこにちゃんと広告が入ってくると、これはやる意味があると思うんですよ。
やはりメーカーの強みはブランド認知です。LINEにも既にたくさん人が集まっているでしょうから、それをうまく使うためにも挑戦してみてほしいと思います。そういう意味でも、LINEやFacebookといったSNSのIDの活用が非常に大事になってくるのではないでしょうか。
伴:今「メーカーのD2C化」がどんどん進んでいます。メーカーはお客さまを集めることはできてもOne to Oneのマーケティングを今までやってなかったので、多くのデータが個人と繋がっておらず、マス広告以外の細かい施策ができないのが大きな課題です。
スモールスタートで始める新規D2Cの考え方と、メーカー慣れ親しんでいるスケールを求める考え方のギャップを超えながら、認知のあるメーカーがやるんだからと高い期待値に対して取り組まなければいけない状況において非常に有用なソリューションだと思います。
奥谷:DACとトレジャーデータがタッグを組んだこのパッケージなら、コンバージョンではないトランザクションデータに価値を見出すことができると思います。特にメーカーにおすすめしやすいし、理解してもらいやすい事例です。
小売とメーカーのデータコラボで生まれる新たなビジネスの可能性
伴:私のメモでは、セカンドデータのコラボレーションと、メーカーと小売の持っているデータを融合させてうまく使っていこう、というところですね。このお話は奥谷さん、結構気になっていましたよね。
奥谷:そうですね。ひとつ前のDACの話とも絡みますが、メーカー・CDP・小売の横並列でデータを統合できると、小売は広告マーケットに入れるわけです。海外では既に当たり前に行われていて、ウォルマートなどもやっています。
ただし忘れてはいけないのが、お客様を追いかけるだけではなく「お客様にデータを返していく」という姿勢で最適な提案をしていくことです。単なる店舗の棚割りの最適化になってしまってはもったいないです。
伴:そうですね、それは非常に大事です。最近それこそウォルマートがメディア化していることやAmazonの広告が強くなっていることも含めて、顧客データを持っているところにどう情報を出してどう顧客体験価値を上げるかが重要です。
奥谷:今これだけCookieレスが叫ばれ、サイトを開けば許諾のポップアップが出ていると、よくわからなければ拒否してしまいますよね。でも、もう少しちゃんと説明をした上でそれ(ポップアップ)が出てくれば、実はもっと広告の効果が上がる気がしているんですよ。
メーカーも小売りも自社だけであらゆるものを提供できるわけではありません。例えば美味しい食事に合うお皿だったり、フライパンだったり、何の広告を出すか明確にしながらきちんと選んで出せばすごく効果的だと思います。
メーカーや小売が広告事業をやることに懐疑的な方もいるかもしれませんが、忙しいお客様は安いものを探して動くのがいろんな意味で面倒くさくなってきています。そこのニーズを捉えるという視点でも、もしかすると消費者はウェルカムかもしれません。何か成功事例を作りたいですよね。
伴:ウォルマートの例などを見ていると、広告というよりメディアやコンテンツを取り込むべきだと思います。実演販売でマグロがその場で切られていたら買いたくなるのと一緒で、これからは体験を届けるのが重要になってきますね。
商業施設で活躍する混雑可視化ソリューション
伴:最後はバカンですね。もうシンプルにすごく便利だなと。フードコートの混雑がわかったら便利だし、1個上の階のトイレが空いているならそっち行きたいです。その通りだなと思いつつも、これをCDPとつなげたら次に何が起きるんだろうという期待感と同時に、私の中でまだ落としきれてないところもあります。
奥谷:確かに。顧客が年に3回買い物に来て年に3回トイレに行っているとわかるだけだとツールとしてもったいないので、オフィスやtoBの方にも持っていくのはすごく大事です。
バカンは色々なサービスをやられていて、私はカフェの席を予約できるAutoKeepがいいなと思いました。カフェで仕事したいときにも使えそうです。可視化だけではなく、その場所を押さえられるところまでいくとデータも活かされると思います。
伴:混雑を可視化したデータをもらった側がどうするのか、いかに使うかを、使う側がもっと新しい発想で考えた方がいい気はしますね。
奥谷:小売側の「Will」が絶対大事ですね。それがないと「ふーん」で終わってしまいます。小売側のWillとCXの仮説をもう少しリッチに考えたら、すごくいいものになると思いますね。
伴:あったら便利だよね、で終わらせたくない素晴らしい仕組みだと思います。
まとめ:顧客と「つながれる場所」を設計する
伴:ここからまとめに入ります。
今回のテーマは「省人化による効率性向上」と「顧客体験の向上」でした。私は全体感を聞いて、今回紹介されたソリューションや仕組みを使って、どう模倣困難性や独自性を持つかがビジネスとして非常に重要だと感じました。
模倣困難性や独自性を作るため必要な観点をEXとCXでそれぞれ図に示しています。DXで顧客体験価値を中心にビジネスモデルを変えていくには、CXやEXもリデザインしなければいけません。そのためにデータが必要だというところは、いつも顧客時間が言っていることと共通するので、奥谷さんからお話してもらいたいと思います。
奥谷:私たち顧客時間は常に「エンゲージメント4P」という考え方を持っています。マーケティングの4Pを「Place(プレイス)」から考えましょうということです。
図中で「Engagement」と書いているところは、DXに限らず昔から必要なものです。ただし今やつながり方の幅はどんどん広くなっているので、つながれる場所をどう設計するかが重要です。オンラインストアでもいいし、モバイルアプリもいいし、店舗もあるし、究極お客様のご自宅まであります。
これらをIDでつなげば、「この人はこういうものが欲しいんだ」「こういう価格で提供するといいんだ」「その人へのコミュニケーションをこうすればいいんだ」というのがわかります。今までの商品開発やマーケティングが悪いとは言いませんが、これからの時代商品でイノベーションを起こすのはなかなか大変なことだと思うので、顧客とつながり続けるCRMはより大事になると思います。
図の左側の部分はCDP抜きには動きません。ここに血を通わせることがすごく大事で、使う人が「CDPが会社の武器になっているな」と腹落ちして、なおかつ血を通わせるためには、伴さんが先ほど言った通りEX側も重要なんです。
DX全般って「手段」ですよね。CDPもそうです。だけど顧客とつながるためにはつながれる場所を作っておかないと話にならないので、ぜひその辺を理解した上でデータ基盤とCRMを作り、それを図の右側に示した自社の提供する価値に反映させてもらいたいと思います。
本記事はトレジャーデータ株式会社が主催した「PLAZMA 小売&アパレル〜テクノロジーを活用した省人化と顧客体験向上の最前線〜」(2021年7月開催)のライブセッションをもとに編集しました。
この記事でご紹介した、各セッションのアーカイブ動画もぜひご覧ください。