個人情報保護の観点から、従来型の行動に基づくターゲティング広告施策は転換期を迎えている。急激に変化する個人情報関連の変更や規制に対応しつつ、良質なデータを活用し、顧客理解を深め、体験価値を向上させるにはどうすべきかが、マーケターにとっての喫緊の課題といえる。
実購買データとオンライン広告施策の連携を行い成果を上げる、株式会社ロイヤリティマーケティングの取り組みを、同社営業統括グループ マーケティングプロダクト部 部長 小河 貴裕氏が紹介した。
小河 貴裕 氏
株式会社 ロイヤリティ マーケティング
営業統括グループ マーケティングプロダクト部 部長
雑誌編集、Web広告企画・営業、ネットサービスのマーケティング、toB/toC双方の通信事業のマーケティング、CRM、商品企画、営業企画等を経て2017年当社入社。Ponta会員IDによるリアル購買/行動のビッグデータと、Google/Facebook等の大手プラットフォーマーやテレビ等のメディアデータを1IDで連携させたシングルソースマーケティングを開発。現職にて自社&他社のデータおよびメディア活用によるサービス企画を担当。
<目次>
1億IDを保有するPontaの強みとは
ローソン、リクルート、KDDIなどで展開されているPontaは、現在約200ブランドと提携しており、25万以上の店舗で利用されている。業態もコンビニエンスストアだけでなく、スーパー、飲食店、交通、家電量販店、金融機関など幅広く、その利用シーンも広がり続けている。
店舗から得られる個々人の購買活動といった情報は、PontaIDに紐づけられて「PontaDMP」に保管されている。その量は、すでに1億ID超。特筆すべき点として、これらのデータは会員加入時にパーミッションを取得しているため、第三者の広告主向けに活用できるということだ。
「ファクトデータの分析・プランニングを通じてターゲットを抽出し、さまざまなメディアを通じてコンタクトして、リアル店舗における購買も含め効果測定が可能」(小河氏)というのが、Pontaの保持するデータ特性の強みだ。
さらに、Pontaはマーケティング施策のサイクルを、単一のPontaDMPの中で、固有のIDに対して一気通貫で実現できる。この詳細については、追って紹介する。
オフラインデータとオンライン広告の分断が招く問題
では、オンライン広告とオフラインデータはどのように結びつくのが理想なのだろうか。小河氏は以下の図を用いて説明した。
「オンラインに広告を出稿した場合、その広告に接触したユーザーが実際に購買したのがオフラインであっても、データがシームレスにつながって効果測定できるのが理想です。オフラインの購買データやCDPなどに蓄積された会員登録データがターゲティング施策に活用できれば、その精度も高まると考えられます。」
しかし、現実はその理想通りにならないケースも少なくない。例えば、オンライン広告ならターゲティングも効果測定もオンラインのデータしか使えず、オンラインに閉じているケースが多いのではないだろうか。購買データの測定についても、オンラインはオンラインのシステム、オフラインはオフラインのシステムで構成され、データが接続されていないことも指摘される。小河氏はそれを「データがシームレスになっていない」と表現した。
オンラインとオフラインの分断により発生する問題について、ロイヤリティマーケティングは両者のデータを突合させる独自調査を2件実施した。
1つ目は「オンラインデータ由来のターゲティング精度」についてだ。これは、Pontaの会員登録情報を正として、大手DSP事業者の属性データと突合させることによって正解率を算出した。
結果は、性別については80%ほどの正解率であったものの、年代については40〜50代で50%前後、その他の世代については30%台代にとどまった。特に、若年層についての正解率は非常に低くなっている。
2つ目は「オンライン広告反応とオフライン購買の関連性」だ。この調査では、広告を見て「いいね」したり、クリックしたり、動画広告を最後まで視聴した割合と、オフライン購買の相関を算出した。
その結果が、以下のスライドとなる。オンライン広告反応とオフライン購買の相関性については、正の相関が見られないという結果が出ている。
この2件の調査結果を踏まえて、小河氏は「オンライン広告を踏まえたオフライン購買の効果は、オフラインの実購買データを用いて測定する必要があると考えられる」と指摘する。
Pontaが示す、オフライン・オンライン分断の解決法
しかし、実際にオンラインとオフラインのデータをシームレスに連携するのは大きなハードルがある。小河氏が提示するのは、以下の4つのハードルだ。
1つ目は「ガバナンス」。個人情報保護法などへの対応やレピュテーションリスク、Cookieレスへの対応がこれに当たる。
2つ目は「データソースのボリューム」で、IDと紐づいたデータがどれだけ確保できるかが課題となる。実際問題として、IDに紐づいていて、広告活用できるリアルな購買データを大量に確保するのは極めて難しい。レシート投稿やアンケートなどの施策を進めても数的に限界がある。
加えて、データソースとメディアをつなげる際に、突合による減少をどれだけ抑えられるかが3つ目のハードルとなる。
そして4つ目の課題として、GoogleやFacebookなどのメガプラットフォーマーとの連携。接続の際の技術的な問題や、どう連携するかといったことが挙げられる。具体的には、メガプラットフォーマーは広告接触データを外部に公開しないため、ID単位での広告接触からの購買効果をどう測定するか、また大量のデータと多種のメディアを連携させるための開発工数の問題が生じている。
これら4つのハードルを、どのように乗り越えればいいのか。小河氏は各課題に対して解決策を提示する。
まず1つ目の課題「ガバナンス」に対しては、Pontaを通じて提供するポイントなど「具体的なインセンティブを提供する代わりに、データの利用を顧客に許諾してもらう」(小河氏)という方法だ。この方法であれば顧客が自身のデータが利用されることに対して、納得感も得やすい。加えてPontaの場合は、会員登録時にデータ活用について同意を得ていることが強みだ。データがどのように活用され、顧客にとって役に立っているかをWebで紹介するなど、顧客との信頼感を醸成する工夫を欠かさないようにしていると小河氏は説明した。
また2つ目の課題「データソースのボリューム」については「Pontaは幅広い業種や多数の店舗で活用されている。これにより、リアルな購買データを豊富に収集できている」と小河氏は語る。
ロイヤリティマーケティングは、これにより3つ目の課題「データソースとメディアを接続するパイプの太さ」もクリアしようとしている。CookieやIDFAに依存せずとも、1億を超えるPontaIDとメディアの保持するIDを突合することにより、ターゲティング施策やシームレスな購買分析をする上で、十分なデータ量を確保している。
そして、4つ目の課題「データソースとメディアの接続技術と実現内容」。各種メディアやメガプラットフォーマーとの連携に対しては、ロイヤリティマーケティングの場合、実現手段や内容は個別に多様であるが、各種メディアとのターゲティング配信と購買効果測定を実装済だ。
一例としてはプラットフォームの中に分析専用の環境を構築して、広告接触データとロイヤリティマーケティングで保持する購買データを掛け合わせた分析を可能としているとのこと。これにより、これまでメガプラットフォーマーが開示せず、明らかにできなかったID単位の広告接触効果が測定できるようになった。
また、データ連携の場面では、Treasure Data CDPの他社コネクト機能を活用できる。Treasure Data CDPをデータのハブとして、メガプラットフォーマーとの連携も容易だ。これによって個別の開発も不要、さらに運用負荷も削減できるとしている。
Treasure Data CDPとの連携メリットとPontaのケーパビリティ
ロイヤリティマーケティングにおけるデータ構成と連携例について紹介した。
まず個人を識別できる生データを、個人情報保護の観点から全てハッシュ化してクラウド環境に保管し、マーケティングデータとして活用できるようにしている。オンプレミスとクラウドで、ともに1億超のPontaID会員の膨大な生活データが蓄積されるのだ。
「クラウドから連携したTreasure Data CDPをハブとして各種メディアやメガプラットフォーマーにデータ連携するパターンが多い」と小河氏は紹介する。これにより、前述したようにメディアに接続するツールの開発やデータの手動アップロードによる手間を削減し、なおかつセキュリティポリシーもクリアにしている。
Pontaは、Pontaリサーチというアンケート調査も実施しており、会員の意識変化も追っている。購買分析については広告代理店とも連携して、テレビCMやラジオの視聴に対するID突合を実施した実績も多数有している。このようにして、オンラインとオフラインをシームレスに、単一のIDでトレースできる体制が構築できたという。
ROAS 10倍も実現。Pontaサービスの成功事例
このようなPontaサービスを通じて、顕著な成果も生まれつつある。小河氏は3つの事例を紹介した。
1. 食品メーカーの事例
1つ目は食品メーカーの購買データを使ったターゲティング配信と購買測定だ。これは、Instagramでの広告配信を行うため、Pontaと提携するID-POSデータを利用、測定指標はROAS(広告接触者のリアル店舗での購入金額÷広告配信金額)で設定している。
施策の初期段階では、購買データを使ったセグメントを以下の3つに分けた。
|
この3つのセグメントに対して行った施策成果が以下のスライドだ。「自社同一商品」だけでなく、「併売カテゴリー」や「同一カテゴリー」の対象となる消費者に対するマーケティング施策の効果も顕著に見られる。
2. 小売業の事例
2つ目の事例が小売企業との取り組みだ。この小売企業も、自社の保持するID-POSデータを利用して、ターゲティング配信と購買測定を実施している。配信メディアはInstagramとFacebook、測定指標は1つ目の事例と同様にROASを設定している。
この事例では、セグメントは大きく2つに分けている。1つは「対象の小売店舗の半径500メートル以内でPontaの提携パートナーを利用している(対象小売店舗の既存の利用者は除いた)カテゴリー」だ。すなわち、商圏にいながらも、まだ対象小売店に足を運んでいない潜在顧客をターゲットにしている。
もう1つは「対象小売店舗の、既存利用者データをFacebookに連携して、Facebookで類似拡張(こちらも対象小売店舗の既存利用者は除いた)したカテゴリー」だ。
このように、既存顧客を除いたターゲティングを行い、広告配信を行ったところ、配信料金と比較してそれぞれ7倍、9倍の売り上げを確保した。これは、実データを有益に活用して、新規顧客の獲得に成功した典型的な例とも言えるだろう。
3. 金融業の事例
3つ目の事例は、金融サービスの契約を目的にしたプロモーションだ。測定指標をCPA(広告配信金額÷広告経由の契約数)に設定し、ターゲティングはPonta経済圏の購買データと会員登録情報等から年収600万円以上の生活者を推定して、そのリストを元にFacebookで類似拡張して配信を行った。
この事例では、実データそのものを活用しただけでなく、実データをベースに推定を行っているのがポイントだ。精度の変化が気になるところだが、実用に十分なターゲティング精度を保持しており、このような形でもオフライン購買データが活用できることが示されたといえる。
このように、Cookie等を活用しなくても、オンラインにおけるターゲティングの精度を高め、マーケティング施策の成果も大きく伸ばすことができると小河氏は語る。利用者の個人情報保護を徹底しながら、オフラインとオンラインのデータを統合し、行動データと購買データを連携できる施策は、小売業やメーカーのみならず、多様な業種にとって有益といえるだろうし、ひいては利用者の便益につながる取り組みといえるのではないだろうか。