「アイデアをまずは形にして、サービスをスモールスタートしてみよう」。このような発想で新しいウェブサービスを開始する企業は多いが、見事にサービスが成長軌道に乗ってビジネス規模拡大に注力しようと考えた際に直面するのが、“マーケティングの壁”だ。サービス開始時には大規模な開発を必要とするマーケティング基盤を実装することは難しく、一般的なアクセス解析ツールを導入するものの、サービスが成長して綿密なデータマーケティングを展開しようとすると、必要なデータが整理されていないケースが多いのだ。
こうした課題に対して、Treasure Data CDPを活用して独自のデータマーケティング基盤の構築に挑戦したのが、ハンドメイド作品のマーケットプレイス「minne」を運営するGMOペパボだ。同サービスのデータマーケティングを推進する技術部データサイエンティストの財津大夏氏が「ウェブサービスにおける行動ログ活用基盤を通したデータ駆動マーケティングの実践」と題して講演した。
新規サービスが投資フェイズに入り、粒度の細かいデータへの需要が高まる
「minne」は、クリエイターが制作した雑貨、アクセサリー、デザインやアートなどのハンドメイド作品を出品し、販売することができるサービスで、2012年に提供を開始。ウェブサイトとスマートフォンアプリを展開し、2017年時点で年間流通額102億円、参加者数39万人、出品数689万点と大きく成長した。財津氏によると、サービス開始から3年が経過した頃、今後の成長を見込まれてサービスへの投資を強化することが決まった段階で、大きな壁に直面したのだという。
ここから先は、PLAZMA会員のみ、お読みいただけます。
「アイデアをまずは形にして、サービスをスモールスタートしてみよう」。このような発想で新しいウェブサービスを開始する企業は多いが、見事にサービスが成長軌道に乗ってビジネス規模拡大に注力しようと考えた際に直面するのが、“マーケティングの壁”だ。サービス開始時には大規模な開発を必要とするマーケティング基盤を実装することは難しく、一般的なアクセス解析ツールを導入するものの、サービスが成長して綿密なデータマーケティングを展開しようとすると、必要なデータが整理されていないケースが多いのだ。
こうした課題に対して、Treasure Data CDPを活用して独自のデータマーケティング基盤の構築に挑戦したのが、ハンドメイド作品のマーケットプレイス「minne」を運営するGMOペパボだ。同サービスのデータマーケティングを推進する技術部データサイエンティストの財津大夏氏が「ウェブサービスにおける行動ログ活用基盤を通したデータ駆動マーケティングの実践」と題して講演した。
新規サービスが投資フェイズに入り、粒度の細かいデータへの需要が高まる
「minne」は、クリエイターが制作した雑貨、アクセサリー、デザインやアートなどのハンドメイド作品を出品し、販売することができるサービスで、2012年に提供を開始。ウェブサイトとスマートフォンアプリを展開し、2017年時点で年間流通額102億円、参加者数39万人、出品数689万点と大きく成長した。財津氏によると、サービス開始から3年が経過した頃、今後の成長を見込まれてサービスへの投資を強化することが決まった段階で、大きな壁に直面したのだという。
「2015年当時、マーケティングに使えるデータがほとんどないという大きな問題を抱えていた。もちろん、アクセス解析ツールはいくつか導入されていたが、専任者がいない状態で実装の状態にかなり不備が多い状況だった」と財津氏は当時を振り返る。例えば、アクセス解析ツールが必要なデータを送信していなかったり、送信されたデータが自社で保有するデータベースの値と一致しなかったり、サービスのデータベースでは売上がどのチャネル経由だったのかわかならいといった具合に、「minne」のウェブサイトやアプリの中で生まれているユーザーの行動が可視化されていなかったのだ。
当然、サービスが投資フェイズに入るということは、マーケティング施策の様々なアイデアに対して、投資に対する費用対効果を検証しながら効果的に施策を展開していく必要がある。そのためにはマーケティングに活用できるデータが必要だ。同社がデータマーケティング基盤を開発することになった背景には、こうした“成長のための課題”があったのだ。
「アクセス解析ツールの再整備は行われたが、きちんと実装されていない状態でずっと運用されていたので簡単に改善できる状態ではなかった。また、サービスを良くしていくためには、PVや売上といった指標だけでなく更に細かいデータ、ユーザーの行動から生まれるログデータが必要になった」(財津氏)。
ウェブサービスが生み出すログデータには、サイトやアプリへのアクセスを記録するアクセスログ、取引が行われた際に記録されるトランザクションログなど様々なものがあるが、「minne」ではアプリの中でユーザーがいつ、何をしたかを記録する「行動ログ」に着目した。
財津氏によると、行動ログを分析することで、最終的に作品が買われたかという結果だけではなく、購入に至らなかった場合にはどこでユーザーが離脱したか、購入に至るプロセスのなかでユーザーが迷っているポイントがないかなども把握することができるという。「行動ログを使うと、集計値からは分からないユーザーの動きやサービスの改善ポイントがわかる」と財津氏。そして、この行動ログを収集・分析する基盤として、同社はTreasure Data CDPを活用して全社的なデータプラットフォーム「Bigfoot」を開発することになる。
ユーザーの行動ログとサービスの属性情報を統合管理し、データを活用
「Bigfoot」の開発にあたって、財津氏は「ログを貯めることだけでなく活用することを念頭においた」と説明する。アプリから出力される行動ログの収集、そして収集した行動ログの可視化や分析までではなく、それをマーケティング担当者が実際の施策やサービスの改善にまで活用できることを重視したのだ。この収集・分析・活用という3つのフェイズでどのような仕組みを構築したのか。財津氏は続けて説明した。
まずは収集の段階。ユーザーがサービスにアクセスすると行動ログが出力されて、Treasure Data CDPに集積される。また、アクセスした作品のデータやユーザーの属性情報もデータベースに送信されて統合される仕組みを構築した。具体的には、行動ログを収集するプログラムを開発し、それをスマホアプリなどに実装したことで簡単に行動ログを収集できるようにし、一方でアクセス履歴や購入履歴から作品のカテゴリーを参照できるよう、サービスのデータベースが保有する属性情報もTreasure Data CDPに送信するようにした。
加えて、サービス側が保有するIDと行動ログのIDをマッピングすることで、特定の条件のユーザーに個別にプッシュ通知で商品をレコメンドしたり、複数のアカウントを保有しているユーザーの名寄せを行うことでユーザー個人にフォーカスした分析が行えるようにしたという。
「全ての行動ログはまず、『ビックキューブ』と呼ばれるテーブルに一旦集約して、ビックキューブを見ればあらゆる行動ログを集計できるようにした。一方、“時間ごとの売上”といった分析の切り口が決まっているデータについては『キューブ』に集計している。こうして整理することで、データサイエンティストはビッグキューブから任意にデータを取り出す、マーケターやマネジャーなどはキューブで集計済みのデータをBIツールやダッシュボードでいつでも取り出せるという使い分けを可能にした」(財津氏)。
「Bigfoot」で実現したデータ駆動マーケティング
この「Bigfoot」を開発したことで、GMOペパボでは“動的なデータ駆動マーケティング”が可能になったという。つまり、行動ログをもとにサービスが動的にユーザーに対する振る舞いを変えて、その振る舞いに対するユーザーの行動が、新しい行動ログを生み出して次の振る舞いを変えていくというデータの循環モデルだ。
例えば、マーケティングで一般的に行われるA/Bテスト。均等にコンテンツを出し分けていた場合には、どちらかに極端に成果が偏ってしまうと、もう一方で大きな機会損失が発生してしまう。そこで、イプシロングリーディアルゴリズムを実装し、ランダムにコンテンツを提案しながら結果に対する期待値の高いパターンを織り交ぜることで、期待値の高いパターンの探求を行いながら高い期待値のコンテンツによって結果も追求することで機会損失の軽減を実現したのだという。
「実際には、このアルゴリズムをサイト内の作品検索に実装している。ユーザーが検索を行うたびにアルゴリズムが働き、検索結果がクリックされたかどうかという行動ログを蓄積することで期待値を更新し、検索結果が振る舞いを変えるという循環を生み出している」(財津氏)。
また財津氏によると、作品のレコメンデーションでは協調フィルタリングという仕組みを導入し、行動ログに類似性が見られるユーザーにオススメの出品者や作品をレコメンドしているという。また、行動ログをもとに、ある作品を頻繁に閲覧しているが購入に至っていないなど特定の条件に該当するユーザーにプッシュ通知やメール配信を行う離脱ユーザーへのリテンションも行っているとのこと。「購入確認メールの開封率と同じくらいの開封率が出ており、そこからの注文率もまた非常に高いという効果が出ている」(財津氏)。
“どこに注力するべきか”を視覚的に把握する「Pepalytics」
このように行動ログを可視化して動的なデータ駆動マーケティングを実現した同社だが、財津氏によると同社ではこのデータ駆動マーケティングを分析段階からさらに効率化するために、KPI管理基盤「Pepalytics」を開発したのだという。Pepalyticsは、施策を実施する際の判断基準をKGIと KPI の関係性という形で形式化して KPI ツリーで表現したもの。「Bigfoot」のデータも活用した行動ログやユーザー属性の統合分析や、成果に至るまでのアトリビューション分析をも可能にしている。
なぜこのようなツールが必要なのか。それは、データから改善ポイントや施策のヒントが発見された際に、それがKPIやKGIに対してどれくらいの貢献になるのかを定量的に判断することができるからだ。「例えば、ダッシュボードでデータを見ている場合に、KGIに対する寄与率が0.1%しかない KPI に対して施策を打ち、200%の成長を実現しても、全体の寄与率は0.2%にしかならない。施策が局所最適に陥っているという可能性があった」(財津氏)。
財津氏は「どのデータを見てどういう施策を実施するかという判断は様々なデータと切り口から人間が思考判断する必要がある」とマーケティング実務における課題を挙げたうえで、この「Pepalytics」の目的について「KPI ツリーの中でKGI、KPIに加えてその値の変動しやすさ、KGIに対する影響度を表示することで、“限られたリソースの中で、様々な施策アイデアの中からどのように実施の優先順位をつけていくべきか”を考える局面で、その判断を助けることができるようにしている」と説明した。
このように、GMOペパボではTreasure Data CDPを活用したデータ活用基盤を構築したことで、行動ログの収集・分析によってサービスが動的にユーザーに対する振る舞いを最適化するというデータ駆動マーケティングを実現し、また運営サイドが積極的にマーケティング施策を展開する際にはその優先順位判断を補助することを可能にした。
最後に財津氏は、「施策に対する効果をも行動ログからデータ基盤に取り入れることで、例えば施策の候補を提示するようになったり、自動的に次の施策を決めて実施してしまうという人間の介入をより減らした完全に動的なデータ駆動マーケティングを目指したい」と今後の抱負について語っている。“活用できるデータがない”という課題から始まったGMOペパボのデータマーケティングは、システムとデータがマーケティング業務の一翼を担う“究極のマーケティングオートメーション”を目指しているのだ。