スマートフォンの位置情報を活用して、精度の高いマーケティングを実現する――。これを実現するのが、広告コミュニケーションを手がける株式会社弘亜社(以下、弘亜社)の新たなサービス「MOVING.365」です。これによってリアル空間におけるコミュニケーションをさらに促進することができるようになるといいます。同社の第2営業本部 営業本部長の片桐隆信氏と同社のデジタル顧問である株式会社KIYONOの清野賢一氏が「PLAZMA 2019 JAPAN IT WEEK 春」での講演にて、このサービスが実現できる価値について語りました。
ブラックサンダーをはじめユニークな広告コミュニケーションを展開
弘亜社は、交通広告や屋外広告などのOOH(アウトオブホーム)メディアを中心に、街、駅、空港といったリアルな公共空間で広告コミュニケーション事業を展開している。同社の創業は1938年。2009年にはタイに進出、2012年にはベトナムにも支社を設立するなど、国内のみならず東南アジア市場での広告コミュニケーションにも力を入れている。
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スマートフォンの位置情報を活用して、精度の高いマーケティングを実現する――。これを実現するのが、広告コミュニケーションを手がける株式会社弘亜社(以下、弘亜社)の新たなサービス「MOVING.365」です。これによってリアル空間におけるコミュニケーションをさらに促進することができるようになるといいます。同社の第2営業本部 営業本部長の片桐隆信氏と同社のデジタル顧問である株式会社KIYONOの清野賢一氏が「PLAZMA 2019 JAPAN IT WEEK 春」での講演にて、このサービスが実現できる価値について語りました。
ブラックサンダーをはじめユニークな広告コミュニケーションを展開
弘亜社は、交通広告や屋外広告などのOOH(アウトオブホーム)メディアを中心に、街、駅、空港といったリアルな公共空間で広告コミュニケーション事業を展開している。同社の創業は1938年。2009年にはタイに進出、2012年にはベトナムにも支社を設立するなど、国内のみならず東南アジア市場での広告コミュニケーションにも力を入れている。
これまでに弘亜社が手がけたプロモーション事業の1つに、有楽製菓の「ブラックサンダー」がある。2013年2月に「一目で義理と分かるチョコ」というユニークなキャッチコピーとともにキャンペーンを展開し、自動販売機や義理チョコ缶を用意した。弘亜社の片桐氏は同キャンペーンを振り返り、「販売促進にかけた費用の総額は約1800万円でしたが、PR効果は3億円程度にのぼりました」と話す。
また、東京メトロ全9路線にて西川の「羽毛ふとん」の実物を中吊り広告として展開した際も大きく注目された。さらに、大塚製薬「カロリーメイト」では、CMに使われた黒板アートの話題化施策として黒板をそのまま新宿に持ち込み、ライブアートを実施した。これは2016年に広告電通賞を受賞している。このほか、空港のカートを媒体としたビジネスや、デジタルサイネージを活用し、状況に合わせてリアルタイムにクリエイティブを最適化するといった取り組みも進めている。
その弘亜社が現在開発しているのが、トレジャーデータの「Treasure Data CDP」をベースに、リアルな空間における生活者の動態情報を把握、マーケティングに活用するという新たなサービス「MOVING.365」だ。
デジタル時代でもリアルメディアの価値は高い
MOVING.365では、スマートフォンなどの位置情報や調査パネル属性、エリアや施設における集客および顧客動態観測データ、さらには気象などのセンサーデータなどを独自に収集して分析し、日別にデータを管理する。これにより、365日単位でリアル空間の動静や傾向値を導き出し、精度の高いマーケティングが可能になるというものだ。
片桐氏は、「急激なスマートフォンの普及によって、いつでもどこでもつながれるコネクテッドな世界が一般的になり、コミュニケーションの手法が劇的に変化しています。テレビや新聞、雑誌など、不特定多数への大量発信型から、特定多数に向けたコネクテッド型のコミュニケーションへと変わってきているのです」と語る。
さらに、生活者は日々スマートフォンを持って移動していることから、片桐氏は「スマートフォンと、OOHというリアルメディアを組み合わせたコミュニケーションを設計していく必要があります」述べている。
「今後ますますリアルメディアの価値が高まっていきます」という片桐氏は、そのメリットとして、生活動線上にある媒体のため広域にリーチできることや、店頭でのリーセンシーが高まることを挙げる。特に、「強制視認性があり、空間をジャックして世界観を演出できる点が特にリアルメディアの強みと言えるでしょう」と話す。
一方、リアルメディアにもデメリットは存在する。それは、デジタルを通じてこそ数字が明確になるため、データ不足によって費用対効果が不透明になるケースがあることや、ターゲティングの精度がわかりにくいといったことなどだ。
これらのメリットやデメリットを踏まえた上で、弘亜社はスマートフォンの位置情報データを「人」および「移動」と捉え、新たなコネクテッド型コミュニケーションを推進しようとしている。そのために始めた取り組みが、MOVING.365というわけだ。
MOVING.365の4つの方向性
MOVING.365の開発の軸は、以下の4分野に分かれている。
- 基幹データを日別に管理することで、施策実行に有効な日程、期間、季節などを適切に把握すること
- ターゲットの接触に効果的なエリア・日程・時間帯などを把握すること
- 同一パネルを追跡し、広告接触・広告好意・購入意向などを調査すること
- 蓄積したデータを活用し、PDCAサイクルを回すこと
MOVING.365により、よりリアルな数字や効果が可視化されることになる。弘亜社では、現在、第1弾として、位置情報データをデイリーで収集し、分析している。
「生活者は常にスマートフォンを持って交通機関を利用しています。そのデータから、行動動線を多角的に検証することが重要です。行動、タッチポイント、メディアやチャネルなど、生活文脈を大切にしながら移動者とコミュニケーションしていくことがポイントです」と片桐氏は説明する。
位置情報データからリーチとフリークエンシーを分析
では、弘亜社は具体的にはどのようなデータを収集、分析し、施策のPDCAサイクルを回しているのだろうか。弘亜社のデジタル顧問で、KIYONO 代表取締役の清野氏は、都内の主要駅のジオターゲティングから取得できる緯度経度情報を取得しリーチとフリークエンシーを分析した例を紹介した。データはリアルタイムにTreasure Data CDPに取り込んでいる。
この調査では、位置情報IDをベースに、ユニークID数と、重複している累計ID数を収集、週ごとの人の流入数を集計している。新宿、渋谷、池袋、東京、品川、恵比寿の6地点で調査したところ、ユニークIDの総数のうち、約55%を最初の1週間で捕捉できることがわかった。その後、週を重ねるごとに新規流入数は微増していく。ユニークIDの週ごとの平均出現回数を見てみると、1週目は平均8.8回だったのが、4週目には18.9回にまで高まった。
この結果から、清野氏は「リーチとフリークエンシーを最大限に高めるには、1つではなく、複数のターミナル駅や路線を捉えると良いでしょう。また、効果的なリーチの獲得には1週間が適しており、フリークエンシーの最大化には1ヶ月が適しています」と説明する。また、ジオターゲティングにおいては「どこにいるかという場所はあまり重要ではなく、どこからどこに移動しているか、その動きを捉えること、移動している人達にリーチしてその人達がどの程度態度変容したかが重要です」としている。
清野氏は、ジオターゲティングのKPIとして、「リーチ数とCPM」および「オウンドサイトへの流入数」を挙げる。さらに、MOVING.365が移動者情報から交通広告と消費者とのあり方を見直すというCDPがコンセプトであり、「ブランドセーフティーも重要」と清野氏。つまり、適切な場所で適切に広告を表示させなければならないということだ。
デジタルの指標で交通広告を評価してみるとどうなるか
ここで清野氏は、首都圏全路線での中吊り広告を例に挙げる。中吊り広告は公共機関における広告のため、どこに出ているかわからないであったり、隣のクライアントや、視聴に関する問題がない。ブランドセーフティーはすでに確保できている。その上で、次のような計算をしている。
首都圏における主要鉄道の1日の平均輸送人員は、のべ4980万人。うち定期乗車券利用者が3090万人と62%にのぼる。全員が広告を見ているとすると、1日のPVは3090万だ。ただし、ドア付近で広告を見ていない乗客も考慮した上でその数値を4分の1とすると、1日のインプレッションは772.5万となる。つまり1週間のインプレッションは5407.5万だ。「首都圏11社局中吊りドリームネットワークセット」の掲出料は7日間で1900万円のため、1インプレッションごとの価格は0.35円となる。
ブランドセーフティーを確保した上で、この価格でリーチできるとなると、この広告がかなり安価であることがわかります。交通広告も1つのOOHと捉え、スマートフォンと同じ指標に並べてみると、予算配分がしやすくなるのではないでしょうか
と清野氏は話す。
MOVING.365では、アクセスログも収集してる。例えば、自社のオウンドサイトにJavaScriptタグを埋め込み、アクセスが発生している地点を可視化するといった具合だ。どこからどこに移動したかという情報も蓄積されているため、オウンドと連携した位置情報データも可視化することができる。
片桐氏は、
弘亜社では今後、MOVING.365でデータを活用し、デジタルメディアおよびリアルメディアの双方を通じてリアル空間でのコミュニケーションを推進していきたいと考えています
と述べた。