パナソニック株式会社アプライアンス社では、2018年1月からTreasure Data CDPの運用を開始した。2年が経過した現在では、どのように活用しているのだろうか?
そのキーワードは「お客様理解」にあった
1918年に創業したパナソニック株式会社。同社は100年以上の歴史を持つ日本を代表する電機メーカーである。パナソニックにおいて家電を中心に事業を展開するのが、社内カンパニーのひとつであるアプライアンス社だ。
2016年4月、アプライアンス社のコンシューマーマーケティングジャパン本部に、CDP(カスタマーデータプラットホーム)の導入をミッションとする新たな組織が立ち上がった。この組織に参画したパナソニックの富岡広通氏は、当時の課題を次のように振り返る。「私たちの事業は基本的にはBtoBtoCです。『CLUB Panasonic』という1,000万ID超の会員組織を運営していたり、製品の『ご相談窓口』には年間を通じ膨大な数のお問い合せが寄せられたりするものの、顧客接点が分断されている点に課題を感じていました。
これらの接点に対する施策の個別最適化は実施していましたが、その取り組みを統合すべきだと考えたのです。つまり、IDを起点に顧客接点情報を集めてカスタマージャーニーを可視化し、そのジャーニーに合わせて施策を最適化したかったわけですね」
導入の決め手は高い柔軟性
そして、2017年10月に導入を決定したのがTreasure Data CDPだ。その決め手となったのは、Treasure Data CDPの特徴である「柔軟な拡張性」。お客様へ統合的な体験を提供するためには様々なツールを活用する必要性を感じ、その将来像から逆算して、様々なツールと容易に接続できる点を評価したのだ。
2018年1月には早くも運用が開始された。Treasure Data CDP上へ蓄積しているのは、まず自社で保有する商品情報サイトの行動ログ、「CLUB Panasonic オーナーズサービス」の会員情報、FAQページのログなどだ。その他、電話での問い合わせに対応するコールセンターのデータや、フィールドエンジニアが製品の保守・修理を実施した進捗状況のログなども集約している。
費用対効果は20%以上の改善!
Treasure Data CDP上に集約されたこれらのデータの本格的な活用は、2018年4月にスタートした。主な取り組みはふたつだ。まず注力したのは、既存のデジタル広告の運用最適化。Treasure Data CDP上のデータを見ながら、施策をアップデートして最適化している。
ただ、広告の費用対効果を可視化するためには、各施策に共通のKPIを設定する必要があった。メーカーである同社は、全国の量販店やパナソニックショップなどが販売の場となるため、デジタル広告が実店舗での購買に影響を与えたかどうかの評価ができない。そこで実施したのが、「自社サイトの回遊状況」をIDごとにスコアリングする仕組みの導入だ。
「どのIDを持ったお客様が、どの製品ページのどの項目をどれくらい読み込んでくれているかをスコア化したんです。この『興味スコア』をいかに改善できるかをKPIに設定しました。このスコアはすべてお客様の行動から作られます。お客様一人ひとりの行動に紐付いたKPIを作ることは『Treasure Data CDP』を導入していなければ実現できませんでした」
このスコアを指標に施策の最適化を進めた結果、直近では以前と比較して20%以上の費用対効果改善を達成しているのだという。
「発見」されたペルソナから2倍以上のスコアが?
もうひとつの取り組みは「お客様理解」だ。「私たちはそもそもカスタマージャーニーを把握したいという考えのもと、『Treasure Data CDP』を導入しました。しかし、実際に運用を開始してみると、追求すべきはカスタマージャーニーではなく、お客様理解だと気づいたんです。私たちが販売する家電は、頻繁に購買のタイミングがある商材ではありません。タッチポイントだけ見ていては、『どのタイミング(面)でコミュニケーションするのか』というこれまでの考え方からは抜け出せそうもありませんでした。『マスメディアを中心とした“面”で、機能を訴求して、宣伝する』というこの数十年来の総力戦的手法と、根本的には変わらないと気がついたのです。そこでお客様一人ひとりを理解し、その価値観を満たすべく訴求を深化させる必要性を感じたのです」
例えば、ななめドラム式洗濯機「Cuble」に興味を持つお客様を分析した結果、想定外の「発見」があったのだという。「『Cuble』はスタイリッシュなデザインで、比較的高価な製品です。ですから、広告を運用する際、その『Cuble』 の特徴に合わせて入念にペルソナの設定もしていたんです。
セカンドパーティ、サードパーティのデータも活用することで、『Cuble』の製品ページを閲覧している方が、外部でどのようなコンテンツと接触しているかがわかりますよね。つまり、どのような情報に興味を持っている方なのか、その価値観が理解できるわけです。その分析の結果、当初から私たちが想定していたペルソナがたしかに『Cuble』に興味を持ってくれていることがわかりました。ただ、全く想定していなかったペルソナがデータから『発見』されたのです」
デジタルを活用する強みのひとつは、このように「発見」された知見を即座にコンテンツ制作や広告運用に反映できる点だ。『Cuble』の事例では、データを参考に訴求を深化させたクリエイティブを、「発見」された新たなセグメントに表示することにより、既存の広告と比較して興味スコアが2倍以上に改善した。
「分析結果から新たに見つかったセグメントの質がよかったのか、クリエイティブとの相性がよかったのかはまだ検証が必要です。ただ、このようなプロセスを回すことで様々な発見がありますし、結果も数値に表れているんです」
「会員情報」は正しくない?
Treasure Data CDPが導入され、本格的な活用が開始されてから約2年。富岡氏は、導入による変化と今後の展望について次のように語る。
「Treasure Data CDPを導入する以前も、もちろんデジタルでのコミュニケーションを実施していました。ただ、その運用に利用していたデータは、例えば、『CLUB Panasonic 』の会員情報でした。しかし、この情報は、会員登録時からアップデートはされません。登録してから10年経過していた場合、年齢は正しいでしょうが、登録時に設定した『興味』や『家族構成』が変わっていないとは限りませんよね。また、パネルリサーチによるデータも活用していましたが、ユーザが本当に自分のことをわかっているとは限らないのです。Treasure Data CDPの導入後は、このデータの質が劇的に改善したと感じます。今後も『お客様理解』を精緻化できるように、取り組みを進めていきたいですね。
また、直近で考えていかなければならないのは、IoTデバイスからのデータをいかに価値化していくのかという点です。これまで取得することのできなかったIoT関連のデータは、プロモーションやCRMだけではなく、全く新しい領域にも大きな価値が生み出せるのではないかと私は感じています」
富岡 広通
とみおか・ひろみち パナソニック株式会社 アプライアンス社 日本地域CM部門 コンシューマーマーケティングジャパン本部 コミュニケーション部 エンゲージメントプランニング課 主務。学生時代、エンターテインメント業界にてマーケティング企画・制作業を営む会社を起業。2012年4月パナソニックへ参画。EC事業の戦略企画、「カスタマイズレッツノート」、「Panasonic Beauty Premium」などのプロモーション戦略立案、CDPの立ち上げなどに従事。