生活者を対象としたビジネスの中には、消費生活財のように毎日のようにブランドと生活者の接触機会を創出することができるものもあれば、一度商品やサービスを契約するとその後の接触機会が激減するビジネスもある。生命保険、損害保険といった保険商品もそのひとつ。保険は“いざというとき”に役立つものであり、一度契約するとその次に企業と契約者が接点を持つのは“いざというとき”が実際に起きたとき、つまり保険金の請求・支払いが行われるときだ。
こうしたビジネス環境を打開し、企業と契約者の継続的な関係構築に挑戦しているのが、損保ジャパン日本興亜ひまわり生命だ。具体的にどのような施策を行い、その中でデータをどのように活用しているのか。事業企画部の矢木智彦氏が「生命保険会社が仕掛けるO2O 施策と課題」と題した講演の中で紹介した。
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生活者を対象としたビジネスの中には、消費生活財のように毎日のようにブランドと生活者の接触機会を創出することができるものもあれば、一度商品やサービスを契約するとその後の接触機会が激減するビジネスもある。生命保険、損害保険といった保険商品もそのひとつ。保険は“いざというとき”に役立つものであり、一度契約するとその次に企業と契約者が接点を持つのは“いざというとき”が実際に起きたとき、つまり保険金の請求・支払いが行われるときだ。
こうしたビジネス環境を打開し、企業と契約者の継続的な関係構築に挑戦しているのが、損保ジャパン日本興亜ひまわり生命だ。具体的にどのような施策を行い、その中でデータをどのように活用しているのか。事業企画部の矢木智彦氏が「生命保険会社が仕掛けるO2O 施策と課題」と題した講演の中で紹介した。
データを活用して保険契約者、未契約者と継続的な関係構築を目指す
損保ジャパン日本興亜ひまわり生命が顧客との新たな関係構築を始めたのは、2016年。具体的には、健康サービスブランド「Linkx(リンククロス)」を立ち上げ、ウェブサイト、アプリ、健康サービス一体型の保険商品などを展開。その後、2018年にInsurance(保険)とHealth(健康)を掛けた造語「Insurhealth®(インシュアヘルス)」を掲げ、保険会社としてのこれまでの価値だけでなくヘルスケアという価値の提供を推進するという新たな戦略を打ち出した。保険契約のとき、保険金の申請・支払いのときだけだったこれまでの顧客との接点を拡げ、日常的に顧客との繋がりを生み出すことを目指したという。
「リンククロスブランドを通じて顧客と繋がり続けるだけでなく、未契約の生活者とも保険以外の健康サービスでつながりを生み出すことを目指した」(矢木氏)。
こうした施策のなかで、矢木氏は健康に関するキュレーションアプリ「リンククロス シル」、ダイエット支援アプリ「リンククロス レコ」、日々の散歩を支援するアプリ「リンククロス アルク」という3つの健康増進支援アプリのデータ活用事例を紹介した。いずれのアプリも、契約時や保険金支払いのときにしか接触がなかった顧客とデジタルで繋がり続け、契約者の健康を促進することを目的に開発されたものだ。
矢木氏によると、アプリの使用ログデータはadjustを使いデータをTreasure Data CDPに投入。一方、アプリ会員のデータはAmazon S3に蓄積されているデータをTreasure Data CDPに同期することで、データを統合。BIツールTableauのダッシュボードで毎日100種類程度のクエリを自動的に可視化処理するほか、行動分析などデータ量の多い分析は必要なデータを分析チームが抜き出してTableauで可視化し、アプリ分析チームが利用促進施策などのために情報を活用しているのだという。
加えて、未契約のユーザーをオフラインの資料請求や保険相談に誘導するためのナーチャリングもアプリ内の施策やマーケティング・オートメーションを通じて行っているという。例えば、アプリユーザーの定着をはかるために実施されている「くじ」。当初は「くじでユーザーは定着しないのではないか」という懸念があったが、実際に施策の結果をデータ分析してみると、くじに参加してくれたユーザーのほうがアプリへの定着率が高く閲覧数も多いという分析結果が生まれたのだという。
「くじに当たった人のほうがくじに外れた人よりもエンゲージメントが高かった。そこで、くじを年中開催することにして多くの人が当選するように当選本数も増やした」(矢木氏)。
マーケティングオートメーションによって、顧客に最適なタイミングでアプローチ
続いて矢木氏は、リンククロスブランドにおけるマーケティングオートメーション(MA)の取り組みについて紹介した。同社では、Salesforce をMAの中核に据えて、Treasure Data CDPに蓄積されたウェブやアプリの閲覧ログ、行動ログから顧客行動をスコアリングし、そのスコアをMAに連携してシナリオに沿った顧客へのアプローチを行っているのだという。その目的は、アプリ利用の活性化促進、リンククロスサービスの認知・好意度上昇、資料請求や保険相談の申込促進の3点だ。どのような発見があったのか、矢木氏はいくつかの具体的事例を交えて紹介した。
例えば、スコアリングに合わせてメールを送信するテストマーケティングでは、リンククロス会員のうち「資料請求フォームを離脱した人」「サイトでライフイベントに関する記事を読んだ人」「アプリでライフイベントに関する記事を読んだ人」というシナリオに合わせてメールを送信したところ、全体のメール開封率が約20%のところ、ライフイベントに合わせてメールを送信した場合で開封率60%を超えたのだという。結婚や出産といった保険商品への関心が高まるタイミングで適切にアプローチしたことで、高い開封率を実現できたことが伺える。
一方で、こうした開封率の高いメールを送信したあとに資料請求を促進するメールを送信したところ、多くの人が直接資料請求に行くのではなくウェブサイトや外部サイトでじっくりと検討していることがデータ分析からわかったのだそうだ。
「直接コンバージョンを狙うのではなく、じっくり検討してもらえるサイトへの導線づくりが重要になることがわかった。今後は外部サイトの閲覧状況や検討している人のニーズをより細かく分析する必要がある」(矢木氏)
また別の例では、女性専用がん保険商品の加入者に、加入直後のタイミングでセルフチェックの方法や検診できる医療機関の紹介など乳がんの早期発見に関する情報メールをフォローメールとして配信したところ、50%を超える開封率を実現したのだという。加入直後で健康への関心が高いタイミングで最適な情報を提供し、関心を具体的なアクションに繋げてもらうことが期待できる。
「契約者の健康を促進するという目的でも今後はMAの仕組みを活用していきたい」(矢木氏)。
こうしたマーケティングオートメーションの事例を紹介した上で、矢木氏は今後の課題として、アプリの運用担当者が自分でデータ分析してPDCAを運用できる組織へと進化させること、外部データを活用して顧客行動をさらに深く分析すること、機械学習を取り入れて顧客行動のスコアリングを自動化し、MAの効率を高めることなどを挙げ、損保ジャパン日本興亜ひまわり生命のデータ活用をさらに成長させることに意欲を示した。
「リンククロスというブランドを通じて顧客と繋がり続け、これからも多くの人に健康増進を支援する『Insurhealth®』の価値を提供していきたい」(矢木氏)。