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Amazonや楽天に代表される大型オンラインショッピングモールやヨドバシカメラ、ビックカメラに代表される大手家電量販店サイトが多くのユーザーを集める中、自社運営のECサイトを成長させることは容易なことではありません。
しかし、高い専門性と独自の発想で、顧客から絶大な支持を集めているサイトがあります。その名は、イヤホン・ヘッドホン専門店「e☆イヤホン」。運営する株式会社タイムマシン SD本部 本部長の小川公造氏は、どのような戦略で顧客とのエンゲージメントを育み、大手サイトが鎬を削る市場で闘っているのでしょうか。「オフラインをデザインするオンラインデータ戦略」と題した講演の中で、その秘訣を披露しました。
多くのファンを生み出す「e☆イヤホン」とは?
小川氏はまず、このイヤホン・ヘッドホン専門店「e☆イヤホン」について紹介した。「e☆イヤホン」は、日本初のイヤホン・ヘッドホン専門店として大阪・心斎橋に1号店をオープン。ECサイトのほかに全国に実店舗を7店展開し、取り扱う製品点数は約1.7万点に及ぶ。ほぼ全製品が試聴可能で、販売だけでなく、修理・買取、耳の形に合わせたオーダーメイドも行っているのが特長だ。
また、熱心なファンが多く集まっているのも特色のひとつで、同社が主催するイベント「ポータブルオーディオフェス」には約6万人が来場。「e☆イヤホン」を含む関連サイトの月間PVは約1300万、同社と店舗スタッフが保有するTwitterアカウントのフォロワー数が合計でおよそ15万人、YouTubeチャンネルの登録者は約7万人。「e☆イヤホン」のサイトに投稿されたレビューは2万件で、これは価格コムのオーディオチャンネルに投稿されたレビュー数の約半数に匹敵するのだという。
小川氏によると、この「e☆イヤホン」の強みであり、同社のマーケティング戦略の大きなカギを握るのが、店舗スタッフなのだという。
各店のスタッフは、もともとオーディオがガジェット好きで、豊富な製品知識を持つ。イヤホンやヘッドホンは、千円の安価なものから高価なものだと50万円、60万円を超えるものもある世界。性能、音質、デザインなど深い製品知識が求められるなか、スタッフが顧客ニーズに的確にアドバイスすることで信頼を生み出し、店舗のファン、スタッフのファンを増やしているのだという。そして、それぞれのスタッフがTwitterアカウントを所持して、顧客と繋がりファンのコミュニティを形成しているのだ。
ファンを作り出す方程式
では、「e☆イヤホン」は具体的にどのようにファンを生み出しているのだろうか。小川氏は、同社のマーケティング戦略について「(大手競合サイトと)購入を決めた顧客の争奪戦をするのは得策ではない」と語る。認知、興味関心、比較検討、購入というファネルのうち「購入」をメインの戦場とせず、もっと上のファネルで勝負をすることでファンづくりを進めているのだ。
例えば、来店したある顧客が、AとBという2つのイヤホンで迷っていたとする。それを聞いたスタッフは、AとBで悩むポイントを理解し、さらにお勧めできるCという製品を提案する。すると、顧客からは「すごく詳しい!知らなかった製品だけどCがいい!」という反応が得られ、店頭の体験に感動が生まれるのだという。
こうした一連の体験について小川氏は“ファン化の方程式”というキーワードを挙げ、「消費を通じて解決したい顧客の課題に対して、圧倒的な品ぞろえと製品知識でニーズを揺さぶり、引き出す。そこで受けたサービスや消費には信頼が生まれて顧客はファンになり、購入だけで終わらない長期的な関係につながる」と語る。
一方、ECサイトではこうした緻密な接客はできない。しかし小川氏によると、オンラインでもスタッフを軸にコンテンツを展開しており、レビュー、YouTube、比較コンテンツ、メールなどに店舗スタッフが登場。製品ページには、スタッフによる忖度なしの真剣レビューを必ず掲載しているのだそうだ。
こうして店舗スタッフを全面に打ち出すことは、「顧客のファン化にドライブをかける」と小川氏は説明する。「Twitterでフォローしているスタッフ、YouTube動画に登場しているスタッフ、ブログやサイトで見たことあるスタッフが店舗で接客してくれることで、店舗で接客した際に高い関心を持って接してくれて、スタッフの説明にも説得力が増す。スタッフ自身がインフルエンサーになる」(小川氏)。
「誰が勧めるか」が製品の付加価値になる
なぜ、ここまで徹底して店舗スタッフと顧客のエンゲージメントを重視するのか。その狙いについて小川氏は「製品が持つパワーに『誰がおすすめしているか』という視点が加わり、それが付加価値になる」と説明する。
たしかに、無機質に製品情報だけが並ぶECサイトであれば、製品情報に記載の特長や価格が顧客の判断材料になるが、そこに信頼性の高いインフルエンサーによる製品紹介やレビューがあれば、「このECサイトで選べば間違いない」という信頼感に繋がる。リアルでも友人・知人という信頼できる存在から勧められると興味関心が高まるのと同じく、人によるレコメンドを介して製品を紹介することで、「e☆イヤホン」という店舗全体への信頼感が醸成されるのだ。
「『誰が』を起点にしたコンテンツ展開は非常に効果がある。例えば、購入履歴をもとに音の特性、製品の特性、価格帯をクラスタリングしてメールやLINEでDMを送付した場合、DMにスタッフが登場することで、CVRが2倍になることもある。『誰が』が非常に重要になのだ」(小川氏)。
そしてスタッフを積極的に起用した「誰か」を起点にしたコンテンツ展開は、商品ページに展開しているブレインパッドの「Rtoaster」を活用した関連製品のレコメンドにも効果を生み出しているという。
小川氏によると、アイテム詳細を見た約6人~7人に1人がRtoasterを通じてレコメンドした製品をクリックしており、EC売上全体の約20%がRtoaster経由なのだという。ここでも「誰かが勧める」というコンテンツが生み出すムードが暗に聴いているのだ。「検討している顧客にとって『比較』は最強のコンテンツ。実際にどのような製品が比較されたかは、店舗スタッフにフィードバックしている」(小川氏)。
ECサイトは、壮大な実験場
小川氏は、ここまで説明してきたECサイトでの工夫や効果を再び「ファン化の方程式」に当てはめて説明した。「方程式をさらに分解すると、解決したい課題×製品データ×スタッフの製品選択が最高の顧客体験を生み出し、ファンの獲得に繋がっている」。
これを踏まえて「e☆イヤホン」では、引き続きブレインパッドと協業しながらスタッフの判断ロジックをデータ化して活用したいと今後のチャレンジを挙げた。
サイトの行動履歴、購入履歴から見えてくる解決したい課題、音質、製品スペック、利用シーン、価格といった製品データ、そこにスタッフの製品選択基準を可視化したものを加えてあらゆるデータを管理・整理することで、ユーザー自身も気が付いていない欲求の種を揺さぶり、オンラインでもオフラインでも同様の体験を実現できるのではないか。そして、顧客の少し未来のニーズを先読みできるのではないか。それがチャレンジの狙いだ。
そして小川氏は、ECサイトをはじめオンラインのチャネルを「壮大な実験場だ」と位置付ける。
スタッフの魅力やコンテンツを発信して、権威性や専門性にドライブをかけたり、購入履歴や行動データをもとに「誰が」を加えたアプローチを試行錯誤したり、オンラインで得られたデータを店舗スタッフにフィードバックして顧客体験をブラッシュアップする。オフライン(実店舗)があるからこそオンライン(ECサイト)の挑戦が生まれ、オンラインの挑戦がオフラインの改善が生まれるのだ。「オンライン、オフラインどちらがなくても成立しない」(小川氏)。
マルチチャネルでビジネスを展開する事業会社では、店舗事業とECサイト事業が縦割りになっており顧客や在庫を奪い合ったりするなど対立してしまうことも少なくない。しかし小川氏は「店舗 VS オンライン」という対立構造が生まれてしまうことについて「得をすることはひとつもない」と語る。講演の最後に、小川氏は次のように締めくくった。
「オンラインはレジでもあるが、メディアであり、コミュニティであり、実験場でもある。店舗やスタッフなど自分たちが持つすべてのアセットをデザインして、フル活用すべき場所だと考えている。それがオンラインとオフラインを融合する第一歩であり、私たちが巨大な競合企業と闘うための戦略だ」(小川氏)。
Amazonや楽天に代表される大型オンラインショッピングモールやヨドバシカメラ、ビックカメラに代表される大手家電量販店サイトが多くのユーザーを集める中、自社運営のECサイトを成長させることは容易なことではありません。
しかし、高い専門性と独自の発想で、顧客から絶大な支持を集めているサイトがあります。その名は、イヤホン・ヘッドホン専門店「e☆イヤホン」。運営する株式会社タイムマシン SD本部 本部長の小川公造氏は、どのような戦略で顧客とのエンゲージメントを育み、大手サイトが鎬を削る市場で闘っているのでしょうか。「オフラインをデザインするオンラインデータ戦略」と題した講演の中で、その秘訣を披露しました。
多くのファンを生み出す「e☆イヤホン」とは?
小川氏はまず、このイヤホン・ヘッドホン専門店「e☆イヤホン」について紹介した。「e☆イヤホン」は、日本初のイヤホン・ヘッドホン専門店として大阪・心斎橋に1号店をオープン。ECサイトのほかに全国に実店舗を7店展開し、取り扱う製品点数は約1.7万点に及ぶ。ほぼ全製品が試聴可能で、販売だけでなく、修理・買取、耳の形に合わせたオーダーメイドも行っているのが特長だ。
また、熱心なファンが多く集まっているのも特色のひとつで、同社が主催するイベント「ポータブルオーディオフェス」には約6万人が来場。「e☆イヤホン」を含む関連サイトの月間PVは約1300万、同社と店舗スタッフが保有するTwitterアカウントのフォロワー数が合計でおよそ15万人、YouTubeチャンネルの登録者は約7万人。「e☆イヤホン」のサイトに投稿されたレビューは2万件で、これは価格コムのオーディオチャンネルに投稿されたレビュー数の約半数に匹敵するのだという。
小川氏によると、この「e☆イヤホン」の強みであり、同社のマーケティング戦略の大きなカギを握るのが、店舗スタッフなのだという。
各店のスタッフは、もともとオーディオがガジェット好きで、豊富な製品知識を持つ。イヤホンやヘッドホンは、千円の安価なものから高価なものだと50万円、60万円を超えるものもある世界。性能、音質、デザインなど深い製品知識が求められるなか、スタッフが顧客ニーズに的確にアドバイスすることで信頼を生み出し、店舗のファン、スタッフのファンを増やしているのだという。そして、それぞれのスタッフがTwitterアカウントを所持して、顧客と繋がりファンのコミュニティを形成しているのだ。
ファンを作り出す方程式
では、「e☆イヤホン」は具体的にどのようにファンを生み出しているのだろうか。小川氏は、同社のマーケティング戦略について「(大手競合サイトと)購入を決めた顧客の争奪戦をするのは得策ではない」と語る。認知、興味関心、比較検討、購入というファネルのうち「購入」をメインの戦場とせず、もっと上のファネルで勝負をすることでファンづくりを進めているのだ。
例えば、来店したある顧客が、AとBという2つのイヤホンで迷っていたとする。それを聞いたスタッフは、AとBで悩むポイントを理解し、さらにお勧めできるCという製品を提案する。すると、顧客からは「すごく詳しい!知らなかった製品だけどCがいい!」という反応が得られ、店頭の体験に感動が生まれるのだという。
こうした一連の体験について小川氏は“ファン化の方程式”というキーワードを挙げ、「消費を通じて解決したい顧客の課題に対して、圧倒的な品ぞろえと製品知識でニーズを揺さぶり、引き出す。そこで受けたサービスや消費には信頼が生まれて顧客はファンになり、購入だけで終わらない長期的な関係につながる」と語る。
一方、ECサイトではこうした緻密な接客はできない。しかし小川氏によると、オンラインでもスタッフを軸にコンテンツを展開しており、レビュー、YouTube、比較コンテンツ、メールなどに店舗スタッフが登場。製品ページには、スタッフによる忖度なしの真剣レビューを必ず掲載しているのだそうだ。
こうして店舗スタッフを全面に打ち出すことは、「顧客のファン化にドライブをかける」と小川氏は説明する。「Twitterでフォローしているスタッフ、YouTube動画に登場しているスタッフ、ブログやサイトで見たことあるスタッフが店舗で接客してくれることで、店舗で接客した際に高い関心を持って接してくれて、スタッフの説明にも説得力が増す。スタッフ自身がインフルエンサーになる」(小川氏)。
「誰が勧めるか」が製品の付加価値になる
なぜ、ここまで徹底して店舗スタッフと顧客のエンゲージメントを重視するのか。その狙いについて小川氏は「製品が持つパワーに『誰がおすすめしているか』という視点が加わり、それが付加価値になる」と説明する。
たしかに、無機質に製品情報だけが並ぶECサイトであれば、製品情報に記載の特長や価格が顧客の判断材料になるが、そこに信頼性の高いインフルエンサーによる製品紹介やレビューがあれば、「このECサイトで選べば間違いない」という信頼感に繋がる。リアルでも友人・知人という信頼できる存在から勧められると興味関心が高まるのと同じく、人によるレコメンドを介して製品を紹介することで、「e☆イヤホン」という店舗全体への信頼感が醸成されるのだ。
「『誰が』を起点にしたコンテンツ展開は非常に効果がある。例えば、購入履歴をもとに音の特性、製品の特性、価格帯をクラスタリングしてメールやLINEでDMを送付した場合、DMにスタッフが登場することで、CVRが2倍になることもある。『誰が』が非常に重要になのだ」(小川氏)。
そしてスタッフを積極的に起用した「誰か」を起点にしたコンテンツ展開は、商品ページに展開しているブレインパッドの「Rtoaster」を活用した関連製品のレコメンドにも効果を生み出しているという。
小川氏によると、アイテム詳細を見た約6人~7人に1人がRtoasterを通じてレコメンドした製品をクリックしており、EC売上全体の約20%がRtoaster経由なのだという。ここでも「誰かが勧める」というコンテンツが生み出すムードが暗に効いているのだ。「検討している顧客にとって『比較』は最強のコンテンツ。実際にどのような製品が比較されたかは、店舗スタッフにフィードバックしている」(小川氏)。
ECサイトは、壮大な実験場
小川氏は、ここまで説明してきたECサイトでの工夫や効果を再び「ファン化の方程式」に当てはめて説明した。「方程式をさらに分解すると、解決したい課題×製品データ×スタッフの製品選択が最高の顧客体験を生み出し、ファンの獲得に繋がっている」。
これを踏まえて「e☆イヤホン」では、引き続きブレインパッドと協業しながらスタッフの判断ロジックをデータ化して活用したいと今後のチャレンジを挙げた。
サイトの行動履歴、購入履歴から見えてくる解決したい課題、音質、製品スペック、利用シーン、価格といった製品データ、そこにスタッフの製品選択基準を可視化したものを加えてあらゆるデータを管理・整理することで、ユーザー自身も気が付いていない欲求の種を揺さぶり、オンラインでもオフラインでも同様の体験を実現できるのではないか。そして、顧客の少し未来のニーズを先読みできるのではないか。それがチャレンジの狙いだ。
そして小川氏は、ECサイトをはじめオンラインのチャネルを「壮大な実験場だ」と位置付ける。
スタッフの魅力やコンテンツを発信して、権威性や専門性にドライブをかけたり、購入履歴や行動データをもとに「誰が」を加えたアプローチを試行錯誤したり、オンラインで得られたデータを店舗スタッフにフィードバックして顧客体験をブラッシュアップする。オフライン(実店舗)があるからこそオンライン(ECサイト)の挑戦が生まれ、オンラインの挑戦がオフラインの改善が生まれるのだ。「オンライン、オフラインどちらがなくても成立しない」(小川氏)。
マルチチャネルでビジネスを展開する事業会社では、店舗事業とECサイト事業が縦割りになっており顧客や在庫を奪い合ったりするなど対立してしまうことも少なくない。しかし小川氏は「店舗 VS オンライン」という対立構造が生まれてしまうことについて「得をすることはひとつもない」と語る。講演の最後に、小川氏は次のように締めくくった。
「オンラインはレジでもあるが、メディアであり、コミュニティであり、実験場でもある。店舗やスタッフなど自分たちが持つすべてのアセットをデザインして、フル活用すべき場所だと考えている。それがオンラインとオフラインを融合する第一歩であり、私たちが巨大な競合企業と闘うための戦略だ」(小川氏)。