さまざまなデータを1つのプラットフォームに集約し、顧客それぞれに適したサービス展開を支援していく「Treasure Data CDP(以下、CDP)」。実はトレジャーデータ自身もこのCDPを活用して複数のシステムにまたがるデータをまとめ、顧客接点の最適化を図っています。2018年に開催された ”PLAZMA 秋葉原” ではトレジャーデータ自身のB2B領域での実践例も紹介。カスタマーエンゲージメントマネージャーの宮下毅がその取り組みについて講演しました。
きっかけはマーケティングオートメーション
顧客の行動や属性などさまざまなデータを1つのプラットフォームに集約し、顧客それぞれの特質に応じたサービス展開を支援していくCDP。開発元であるトレジャーデータ自身もこのプラットフォームを活用し、顧客接点の最適化に活用している。
今回、イベントにてプレゼンテーションを行った宮下は、長年にわたってデジタルマーケティングやマーケティングオートメーション(MA)の領域でビジネスに取り組んできた経験を持つ。MAツール「Marketo」のユーザー会立ち上げにも携わった。3年前にトレジャーデータに入社した際のミッションも、MA、デジタルマーケティングの導入だったそうだ。
宮下が取り組んだのは、いわゆる潜在的な顧客をホットリードへ転換するタスクだが、「よくあるファネルのモデルは、お客様はあんなにスムーズに一直線に流れないだろうという違和感がありました。いろいろと試行錯誤しながら考えたのが『流れるプールモデル』です」と話す。さまざまなイベントやマーケティング施策を通じて、流れるプールの中に人が入ってくる。もしつまらないなと思えば出て行ってしまうし、逆に興味が高まれば、問い合わせや訪問リクエストを通じて真ん中の浮き島に寄ってくる――。そんなイメージだ。
「このように顧客を徐々に真ん中に寄せていき、なおかつ興味をそらさず維持していくための仕組みがコンテンツです。インバウンドマーケティングとコンテンツマーケティングは、言葉は違えども一対のものだと考え、トレジャーデータの中でMarketoのインプリを進めてきました」(宮下)
マーケティングの手法をカスタマーサクセスにも適用
その後いったんトレジャーデータを離れたが、2018年6月に再びトレジャーデータに戻ってきた。
今度のミッションはマーケティングではなく、「カスタマーサクセス」だ。新たに「カスタマーエンゲージメント」という小さなチームを立ち上げ、顧客が契約を結んでトレジャーデータを利用し、アップセルやクロスセルにつなげるなど、さまざまな顧客との接点を「最適化」し、顧客によりよい経験をしてもらうことを狙う。このような取り組みを始めたのも「デジタルを使ってお客様をしっかりと維持し、エンゲージを高めていくマーケティングの仕組みはカスタマーサクセスでも同じではないか」と考えたのが原点だ
まず着手したのが、マーケティングでしばしば使われる「カスタマージャーニーマップ」を、購入後のポストセールスのプロセスに適用することだった。「やり方は同じですが、どこに顧客との接点あり、どんなところで顧客のインサイトが動くのか、あるいはそれに対するアクションがまったく違い、非常に面白い経験でした」と振り返る。
CDPで、ツールごとや人ごとの「個別最適」から脱却
トレジャーデータでは、自前でシステムを組むのではなく、さまざまなクラウドサービスを活用してITインフラを構築してきた。MAのMarketoにはじまり、ABMの「Engageo」、Salesforce.comやZendesk、NPSを調べる「Wootric」、ユーザーの動線を細かく見ていく「Pendo」など、先進的なツールをいち早く採用して活用してきた。
そうした自負もあって、「トレジャーデータでは良いプロダクトをちゃんと選んで、しっかり使いこなしていると思っていましたが、カスタマージャーニーマップを使って顧客とトレジャーデータの関係性を洗い直してみると、それぞれの部分では最適化できているように見えても、まだ全体として十分でないことに気付きました」と宮下は振り返る。
というのも、導入したどのプロダクトにも、コンセプトを具現化して良くできたダッシュボードが付いている。しかし、「お客様を360度で見ようとしても、顔が見えないし、自分の前工程や隣でどんな顧客接点があり、どうなっているかもよくわかりませんでした」と話す。
そこでさまざまなツールごとに個別にコンソールを見ていくのではなく、ぱっと見て全体として青なのか、赤なのかがわかり、進むべきか止まるべきかを判断できる仕組み作りに取り組んだ。Marketoをはじめとする個々のツールはそのままに、すべてのログのデータを吐き出す先としてCDPを活用し、「Looker」というクラウドベースのBIツールを活用してダッシュボード化を進めている。
「隣の部署で何が起きている?」を次のアクションに活用
ダッシュボードを作ってみると、いくつかの気付きが得られた。当然のことながら最適な顧客接点のあり方は顧客ごとに違うため、会社どうしを比較してもあまり意味がない。むしろ注目すべきは、ログを貯めていく中で見つかる、自社と顧客の関係性の「変化」だという。
一例が解約防止の取り組みだ。一般には、契約更新のタイミングで「解約します」と言われて営業が慌てることになりがちだが、例えばログを元に「先月までは月々100万レコードのインポートあった顧客なのに、今月は半分になった」という変化に気付くことができれば、カスタマーサクセス側から理由を探り、次のアクションを取ることができる。
こうした顧客のサービスの利用ログは、システムのトラブルやパフォーマンスの低下を防止するためにテクニカルサポートのチームでデータを監視していた。「解約リスクの指標となるデータは、すでに取得できていた。しかし、同じデータでも、そのデータの読み方が違うし、そのあとの業務プロセスも違う。あらためて、企業の顧客データベースの共通基盤となるCDPの価値を実感できた発見だった。」と宮下は話す。
例えば、導入前のトレーニングやテクニカルサポートの質のデータを参考に、適切なアップセルやクロルセルの営業をかけるといったアプローチが取りやすくなる。十数人規模の小さな会社ならば、隣の人に直接声をかければこうしたコミュニケーションも可能だろうが、100人規模になってくるとそれも難しい。CDPを活用してこうした連携をシステム化し、共通のメトリクスをベースに改めてつないでいこうとしている。
「早い成長を目指して走ってきた会社ほど、隣でやっていることを知るだけでレベルをジャンプアップできることがたくさんあります。そんな風に直せる部分がたくさん出てきている」と実感している。
顧客接点を管理できる仕組みの重要性はいつの時代も変わらない
長年デジタルマーケティング業界に携わってきた身として、この先も、どんどん新しいテクノロジーが出てくるだろうと宮下は予測する。良いものを採用して適宜入れ替えていけば、3年後も今と同じプラットフォームを使い続ける可能性は低い。ただ一方で、「顧客との接点は会社としてずっと残していかなければならないし、逆にこれをきちんと管理できる基盤があれば、新しいテクノロジーにもチャレンジできる」と述べ、新しいアプリケーションに変わっても顧客との関係性を維持できるプラットフォームが重要だとした。
カスタマーエンゲージメントについて考える中で、「顧客との接点は、会社としての資産になるし、財務指標としても十分に意味があるのではないか」と思い至った。そこでは、大量のデータを扱えれば扱えるほど、レバレッジが効くことになる。「そのデータをどう扱い、どう貯めていくかを、CDPやそれを活かしたソリューションを参考に考えてほしい」と呼び掛けた。