チャネル横断のデジタルマーケティングの推進で、 TSIが実現した「個客」に最適なファッション提案
消費者の好みが多様でプロダクトのライフサイクルが短いアパレル業界では、複数のチャネルを通じて的確なマーケティングをすることが極めて重要だ。50以上のアパレルブランドを擁するTSIは、膨大なデータをTreasure Data CDPに集約して顧客を細かくセグメンテーション。さらにチャネル横断型の一貫したカスタマージャーニーを提供することで、新規の会員数や売り上げを着実に伸ばしている。同社のマーケティングを担うキーパーソンに、戦略のポイントと今後の展望を聞いた。
【この事例のポイント】
・分散していたデータをTreasure Data CDPに統合し、顧客を精緻にセグメンテーションすることでマーケティングの速度と質を向上
・ジャーニーオーケストレーションの活用で、新規会員の初回購入が想定値を630%上回る
・データクリーンルームの外部データ活用と、リアルタイムマーケティングを行える基盤を整備
<人物キャプション>
株式会社TSI
プラットフォーム本部 デジタルマーケティング部 データマネジメント課 課長
竹山 健司氏
株式会社TSI
プラットフォーム本部 デジタルマーケティング部 データマネジメント課
片岡 賢太氏
<目次>
- 点在していたデータを集約し顧客プロファイルの解像度を向上
- チャネル横断型のマーケティングでカスタマージャーニーを最適化
- 「休眠ユーザーの購入」想定比の108.8% 「新規会員の初回購入」想定値の630%を達成
- カスタマーサクセスのサポートを受け、データを活用する社内文化を醸成
- 今後のテーマは外部データ活用とリアルタイムマーケティングの実践
点在していたデータを集約し顧客プロファイルの解像度を向上
2021年3月に9社が合併して誕生したアパレル企業TSI。セレクトショップのNANO universeやウィメンズのNATURAL BEAUTY BASIC、ゴルフウェアのPEARLY GATESなど50強の幅広いブランドを展開している。同社ではこれまで複数のブランドを扱うモールおよび個別ブランドのサイトを運営してきたが、2025年春に向けて大部分の公式ブランドオンラインストアを『mix.tokyo』に統合し、モール化する計画。様々なジャンルのファッションアイテムが単一の公式オンラインストアで購入できるようになる。
現在は先駆的なデジタルマーケティングを行っているTSIだが、かつては「様々なデータがバラバラに存在し、ユーザーを一意に捉えられない」という悩みを抱えていたという。「どの広告やクーポンが購入に結びついたかといったことも把握できず、有効性が検証されないままやみくもに施策を打っているのが実情でした」と、同社の竹山 健司氏は振り返る。
こうした状況の改善に向け、CDP(カスタマーデータプラットフォーム)の活用を検討。いくつかのサービスから最終的にTreasure Data CDPを選定した。その決め手となったのは、TSIが利用している各種マーケティングツールに接続するコネクターが豊富で、データのインプットとアウトプットがしやすいことだったという。
「2020年にTreasure Data CDPを導入し、店舗・ECの購買データ、CRMのデータ、Webや公式アプリのお客様の行動データ、広告接触ログなどを集約。そのデータを広告などに活用することで、マーケティングの速度と質を向上させられることを実感しました」(竹山氏)
チャネル横断型のマーケティングでカスタマージャーニーを最適化
それでも、顧客一人ひとりにパーソナライズされた真の「One to Oneマーケティング」を実践するには、取り組むべき課題もあった。メール、公式アプリ、LINE、Web広告、Web接客などにおける顧客のセグメンテーションはかなり進んだが、各チャネルの連携がないまま個別にアプローチするため、似た情報が複数のチャネルから発信されることを防げなかったのだ。
「お客様に快く感じていただけるマーケティングを行うには“ユーザー軸”で最適化を図り、チャネル横断型の一貫した顧客体験を提供しなければなりません。そのために活用し始めたのが、複数チャネル間でのお客様の行動とインサイトをリンクさせ、定義したシナリオに沿って施策を自動的に実施してくれる『ジャーニーオーケストレーション』です。Treasure Data CDPに組み込まれた機能の1つなので、外部のアプリケーションを追加することなく、メール、公式アプリ、LINE、Web広告、Web接客の5つのチャネルをまたいでシナリオを円滑に展開できる点が魅力でした」と竹山氏は話す。
チャネルをまたいだマーケティングをするために用意されたのが、「休眠ユーザーの購入」「新規会員の初回購入」「リピート購入」「クロスチャネル化」「クロスブランド化」のそれぞれを促す5本のシナリオである。
例えば休眠ユーザー向けシナリオでは、最終購入日から一定期間が経過した顧客にメールを送り、未開封の顧客にはアプリなど別のチャネルでプッシュ通知を送る。サイトへの来訪があればWeb接客でお勧めアイテムをポップアップ表示し、来訪がなければ広告を配信する。その結果購入行動に至った顧客が公式アプリを使っていなければダウンロードを勧め、さらにLINE連携をしていない場合は連携を促すというように、サイト来訪から購入、購入からチャネル拡充へと自然な流れで導く仕組みだ。
「休眠ユーザーの購入」想定比の108.8%
「新規会員の初回購入」想定値の630%を達成
ジャーニーオーケストレーションを利用始めて間もないが、早くもその効果が顕在化している。配信された広告などを通じてサイトを来訪するクリックコンバージョン率が約1.7%と、休眠ユーザーに対する施策としてはかなり高い数値を示したのだ。売り上げは施策開始前の想定比で108.8%となり、効果的な働きかけができていることを物語る。新規会員の初回購入についても、想定値を大きく上回る630%以上という結果が得られた。その他のシナリオは実装後の日が浅く定量効果は未測定ながら、購買行動の変容が起きつつあることが感じられるという。
「メールは見なくてもLINEに届いた情報なら見てくださるお客様が、休眠から復活するといったケースが少なくありません。このようにシナリオに基づいてマルチチャネルのアプローチをすれば、発信したメッセージがしっかり届くようになるのだということがよく分かりました」と、MA(マーケティングオートメーション)やWeb接客の運用を担当する片岡 賢太氏は話す。
どのチャネルでどんなメッセージを発信すると効果的かは、顧客の性別や年齢、ブランドなどによって大きく異なる。「今後はそうした分析も深く行ったうえで各シナリオをさらにブラッシュアップし、個々のお客様にフィットする情報を、最適なチャネルとタイミングで届けられるようにしたい」と片岡氏。この積み重ねが、顧客ロイヤルティを向上させ、長期的な関係性を構築することにつながるのだという。
これに加えTreasure Data CDPは、マーケティング業務の効率化にも大きく寄与している。「ジャーニーオーケストレーションの活用に先立ってそのためのデータ整形をしたので、今は以前のようにSQLでコードを書くという煩雑な作業をする必要はありません。ドラッグ&ドロップだけでセグメンテーションを行えます」と片岡氏。
カスタマーサクセスのサポートを受け、データを活用する社内文化を醸成
両氏はトレジャーデータによるサポートについても高く評価する。前述のシナリオ作成に際しては見本となる複数のベストプラクティスが提供され、リピート購入を促進するシナリオはその提案を土台に練り上げたものだ。作成された5本のシナリオは入念な内容チェックがなされ、シナリオテストのフェーズではオンラインミーティングで実際の画面を映しつつ、その手順がハンズオンで丁寧にレクチャーされたという。
「専門スキルを要するデータ活用は属人化しがちですが、当社ではTreasure Data CDPの導入時より蓄積されたデータを誰もが扱えるようになるための勉強会を行っており、その内容などに関してもトレジャーデータからアドバイスを受けています。前述のデータ整形は、データマネジメント課の業務効率化もさることながら、将来的にSQLの知識を持たない他部門の社員でもデータ活用ができるようになるための施策でもあります」と竹山氏は語る。こうした手厚いケアを背景に積極的にデータ活用をする文化が社内に根づきつつあるという。
今後のテーマは外部データ活用とリアルタイムマーケティングの実践
同社が今後注力しようとしているのが、トレジャーデータがLINEヤフーと提携して構築したデータクリーンルーム(個人のプライバシーに配慮する形で顧客や消費者データを分析できるクラウド環境)の活用だ。
「集英社さんとの取り組みで、外部データを利用することの有効性を強く認識しました。LINEヤフーの膨大なデータを分析して適切なセグメンテーションをすれば、非常に効果的なマーケティングを行えるようになると思います」と竹山氏は話す。
一方で片岡氏が関心を寄せるのは、Treasure Data CDPに搭載されたAI(人工知能)機能だ。「ジャーニーオーケストレーションで適用する新たなシナリオ作成時のアイデアの壁打ち相手など、クリエイティブな作業の支援ツールとして積極的に利用していきたい」と意気込む。
さらに、同社ではよりタイムリーな情報を提供する「リアルタイムマーケティング」の実践も視野に入れている。Treasure Data CDPはマーケティング施策に最新のデータを反映させるリアルタイム機能を備えている。この機能を使えば、新規顧客の会員登録時に直近のデータに基づく最新の人気アイテムランキングを表示したり、既存会員の最後のWebサイト来訪以降にリリースされた新着アイテムを紹介したりすることができ、カスタマージャーニーのいっそうの最適化につなげることが可能だ。
市場が成熟して価値観や購買行動が多様化する一方のアパレル業界では、緻密なセグメンテーションを行うだけではなく、最新のデータもしっかり踏まえたアプローチをしなければ顧客の心に響く施策は講じることは難しい。TSIはTreasure Data CDPの多彩な機能を活かすことで、マーケティングの新しい姿を体現しようとしている。
プラットフォーム本部 デジタルマーケティング部 データマネジメント課 メンバー紹介
1列目左から:井上菜津巳、竹山健司、片岡賢太、嘉手川恵里、上石萌子
2列目左から:佐藤悠歩、大橋直樹、大脇椋、向山瑞穂、菊地美和
井上 菜津巳
前職ではSNS運用やウェブ広告等幅広くマーケティング業務に従事。現在は広告領域にて顧客データを活用した施策のプランニングから実施までに携わっている。
嘉手川 恵里
新卒で入社したWeb広告代理店を経て2022年にTSIに入社。 主にブランドを横断したWEB接客の実装や、MA領域を担当。
上石 萌子
販売員を経験したのち、SNS運用や販促計画、在庫管理などのECサイト運用全般の業務を経験。会社統合に伴いデータマネジメント課へ配属し、広告運用やデータ活用業務を担当。
佐藤 悠歩
2012年旧ナノ・ユニバースへ入社。フォトグラファー・レタッチャーを経てCRM・広告領域へ移る。会社統合後はデータマネジメント課にて広告運用やデータ活用業務を担当。
大橋 直樹
2016年SANEI bdに入社後、会社統合でデータマネジメント課にジョイン。CVR、UI/UXの向上、デジタルマーケの新たなアプローチを実践。
大脇 椋
2023年12月にTSIに入社。MAやKARTE運用業務を中心にグループ横断での施策の提案や実装を行う。
向山 瑞穂
大学卒業後、アパレルEC業界において、売上在庫管理・撮影ディレクションなどの業務に従事。TSI入社後は、MA・CRM領域を担当し、データ分析~施策立案・実装までを行う。
菊地 美和
前職は広告代理店にてWEB広告の営業や運用、SNS対応などを行っておりその経験を経てTSIへ入社。現在はWEB広告領域の運用やデータ活用の提案・実施を担当。