株式会社ポーラでは、デジタルの普及・浸透により大きく変化したビジネス環境に対応し、ポーラ自身も変化していくための土台づくりに取り組んでいる。その第一手が「全社のデータを統括するデータ基盤」と「定常的に顧客アンケートを実施できる体制」の構築だ。
目まぐるしく変化する環境の中で変わらない「おもてなし」を提供し続けるために、ポーラが取った戦略とは。「顧客の声を起点とした事業トランスフォーメーションへの取組み」と題したセッションで、同社ブランドマーケティング部 部長の中村俊之氏が語った。
中村 俊之 氏
株式会社ポーラ
ブランドマーケティング部 部長
日本アドバタイザーズ協会 デジタルマーケティング研究機構 代表幹事
新卒でコニカミノルタに入社。計測機器事業の営業、販売企画、新規事業立上げを経てブランド推進部門へ異動。企業ブランディング、デジタルコミュニケーションのグローバル統括を担当。2018年に株式会社ポーラへ入社し、現在は広告宣伝、DX推進、EC事業を担当し、事業変革の推進に取り組んでいる。2019年より日本アドバタイザーズ協会 デジタルマーケティング研究機構(旧 Web広告研究会)の代表幹事に就任
<目次>
ポーラにおけるBtoC販売体制
化粧品業界ではハイプレステージと呼ばれる高価格帯の化粧品を取り扱うポーラ。現在の化粧品販売チャネルは大きく分けて3つある。エステサービスも行うサロン型店舗「ポーラのお店」、百貨店コーナー、オンラインストアだ。
なお、ポーラはこの他にホテルや旅館などのアメニティとして化粧品を卸すBtoB事業も行っているが、今回紹介するのは化粧品販売を行うBtoC事業における顧客理解の事例となる。
中村氏が責任者を務めるブランドマーケティング部は、名称にある通りのマーケティング業務の他に全社のDX推進も担っている。
デジタルを使う時代からデジタルが当たり前にある時代へ
ビジネスにおける「デジタル」が果たす役割は、時代と共に変化してきた。以下は日本アドバタイザーズ協会 デジタルマーケティング研究機構による独自のヒアリング調査の結果だ。
ここから先は、PLAZMA会員のみ、お読みいただけます。
株式会社ポーラでは、デジタルの普及・浸透により大きく変化したビジネス環境に対応し、ポーラ自身も変化していくための土台づくりに取り組んでいる。その第一手が「全社のデータを統括するデータ基盤」と「定常的に顧客アンケートを実施できる体制」の構築だ。
目まぐるしく変化する環境の中で変わらない「おもてなし」を提供し続けるために、ポーラが取った戦略とは。「顧客の声を起点とした事業トランスフォーメーションへの取組み」と題したセッションで、同社ブランドマーケティング部 部長の中村俊之氏が語った。
中村 俊之 氏
株式会社ポーラ
ブランドマーケティング部 部長
日本アドバタイザーズ協会 デジタルマーケティング研究機構 代表幹事
新卒でコニカミノルタに入社。計測機器事業の営業、販売企画、新規事業立上げを経てブランド推進部門へ異動。企業ブランディング、デジタルコミュニケーションのグローバル統括を担当。2018年に株式会社ポーラへ入社し、現在は広告宣伝、DX推進、EC事業を担当し、事業変革の推進に取り組んでいる。2019年より日本アドバタイザーズ協会 デジタルマーケティング研究機構(旧 Web広告研究会)の代表幹事に就任
<目次>
ポーラにおけるBtoC販売体制
化粧品業界ではハイプレステージと呼ばれる高価格帯の化粧品を取り扱うポーラ。現在の化粧品販売チャネルは大きく分けて3つある。エステサービスも行うサロン型店舗「ポーラのお店」、百貨店コーナー、オンラインストアだ。
なお、ポーラはこの他にホテルや旅館などのアメニティとして化粧品を卸すBtoB事業も行っているが、今回紹介するのは化粧品販売を行うBtoC事業における顧客理解の事例となる。
中村氏が責任者を務めるブランドマーケティング部は、名称にある通りのマーケティング業務の他に全社のDX推進も担っている。
デジタルを使う時代からデジタルが当たり前にある時代へ
ビジネスにおける「デジタル」が果たす役割は、時代と共に変化してきた。以下は日本アドバタイザーズ協会 デジタルマーケティング研究機構による独自のヒアリング調査の結果だ。
日本でインターネットが普及し始めた1990年代、当初は企業の「ホームページ」と言えば会社案内をWeb上に載せたようなものだった。2000年代になると「ホームページ」から「Webサイト」と呼ばれることが多くなり、次第にビジネスでの活用が進んでいく。
2010年代には、コミュニケーションの中でWebサイトやSNSが非常に大きな比重を占めるようになる。企業はオウンドメディア・ペイドメディア・アーンドメディアのいわゆるトリプルメディアを活用し、顧客とのつながりを作ってきた。
そして現在、2020年代。「デジタル」はもはや特別なツールではなく、環境としてそこに「当たり前にあるもの」になったと言える。
デジタルが果たす役割の変化と共に、マーケティング領域におけるデジタル担当の立ち位置も変化してきた。2010年代、トリプルメディアの時代は、広報・宣伝部門や事業ごとのマーケティング部門の中にデジタル担当が置かれ、その役割は部門内で閉じていた。
しかしデジタルが当たり前になった現在、デジタル担当の役割は大きく広がっている。営業部門がBIツールを活用する、R&Dや製造にマーケティングデータを活用するなど、全社が当たり前の環境を当たり前に使いこなす現在、デジタル担当は全社のあらゆる部門とつながりを持つ。
ビジネスの土壌が変化した現在、ポーラのおもてなしはどう変わるべきか
デジタルにまつわる環境は大きく変化した。もはや手段やツールだけの変化ではなく、ビジネスが根付いている「土壌」そのものが変化したと捉えるべきだ。環境が変わったならば人もビジネスのやり方も変わらなければならない。
組織や部門、販売チャネルの枠も越え、この新しい土壌の上でどうやってポーラらしいおもてなしを顧客に届けるか。それをミッションとして、中村氏らは戦略を練った。
変化した世界での新しいおもてなし-第一歩となる2つのフェーズ
顧客に対するおもてなしの進化にゴールはない。デジタルが浸透した土壌の上に、終わりなき進化への第一歩を踏み出すため、中村氏らは事業トランスフォーメーションのプロセスを2つのフェーズに分けた。
それが「土壌改良(データ整備)」と「指針づくり」だ。
フェーズ1:土壌改良 ~顧客データ活用のためのデータ基盤を構築~
初めの一歩を踏み出す前にまず行ったのは、土壌そのものの改良だ。どんなに優れた施策も、土台がしっかりしていなくては足元から崩れてしまう。その土台としてCDP(カスタマーデータプラットフォーム)を活用したデータ基盤を中心に据え、販売チャネルや組織を横断して全社どこからでもデジタルデータを活用できる体制を整えた。
データ基盤の整備は2ステップに分けて行われた。ステップ1でポーラのあるべき姿を描き、ステップ2でその姿へ向かう方法・手段を描いた。
ステップ1のあるべき姿を議論する中で中村氏がこだわったのは、「課題」ではなく「のびしろ」というワードを使うことだ。「課題は何ですか」と聞くとマイナスな点を探ることになるので、ネガティブな意見が出やすい。対して「伸びしろはどこにありますか」と聞くことで、「(改善すれば)伸びる可能性を見つける」というポジティブなアクションになる。
このような伸びしろの整理やおもてなしを届けるべき顧客の定義を経て、中村氏らはポーラのあるべき姿は「時代や環境の変化に合わせ進化しながら、独自価値であるお客様との関係性をより深め、お客様に豊かな時間を過ごし続けていただくこと」だと設定した。
その姿に至るための計画立案と実行・運用がステップ2だ。
あるべき姿を目指すうえでは、お客様一人ひとりに合わせたおもてなしを高め続けるための判断基準が欠かせない。そのためにはオンプレやSaaSに点在しているデータを統合し活用できる仕組みが必要であったため、CDPを活用したデータ基盤を構築した。
こうして、デジタルが当たり前になった世界でポーラが顧客におもてなしを提供し続けるための土台として、全社のデータを統合するデータ基盤が構築された。その中核をなすのがTreasure Data CDPだ。
これからも続くおもてなしの進化を見据え、将来の拡張性、接続の可能性を意識して設計されている。
上図の左側にある店舗やECでの販売情報、および外部SaaSに蓄積されているアンケートデータやWeb行動データなど、顧客に関するあらゆるデータをTreasure Data CDPに統合した。さらにステップ1で設定したあるべき姿を意識しながら、Treasure Workflow機能でデータを整備していく。
こうしてデジタルデータ活用の土台が出来上がった。BIやMAツール、Web接客ツールとCDPを連携し、全社どこからでもあらゆる顧客データを活用できるようになったのだ。
フェーズ2:指針づくり ~顧客の声を集めて指針とするための仕組み~
土壌改良が完了したら、次はその土壌の上で施策を実行していく段階だ。あるべき姿を踏まえて方向を見失わずに進んでいくには、行動の指針が必要となる。
中村氏らは、顧客の声を指針にしようと考えた。つまり、顧客の声を基準にしてマーケティングプロセスを評価し、改善していける仕組みの構築だ。
構築の前準備として、マーケティングプロセスにおける顧客の感情の変化を徹底的に分析し、モデルケースを作成することから始めた。ポーラの製品のユーザー100人以上に対し、どのように製品を知りどのように購入したか等のジャーニーを細かくヒアリング。その声の中から感情変化の要素を抽出し、定量調査を行った。
そして調査結果を元に、自社顧客の感情変化を再整理した。つまり、マーケティングプロセスにおける顧客接点と感情の変化を読み解くための独自体系を作ったのだ。
ポーラではこのモデルの各段階に該当する顧客に対し、定常的にアンケートを行う仕組みを整えた。製品やポーラ自体の「推奨度(NPS/PSJ)」の質問と顧客接点ごとの寄与を質問し、どのような要素が顧客体験に寄与しているのかを探るものだ。
このアンケートを実施および分析・改善するためのデータ連携にも、Treasure Data CDPが活用されている。実店舗やECでの購入データをCDPに吸い上げ、MAツールやアンケート作成ツールに連携することで対象顧客にアンケートを送信できる仕組みだ。継続して製品を購入している顧客の評価を、定常的にモニタリングをすることもできる。
回答データは再度CDPに格納され、改善活動の指針として活用される。分析ツールに連携してダッシュボードにレポートを表示し、各事業部門がいつでも参照できるようになっている。
レポートには店舗ごとのおすすめ度やプロセスごとの評価、良い点/悪い点等、様々なデータが表示される。それを見ながら「どうすればお店を良くしていけるか」を議論することで、改善につなげる狙いだ。
「まずお客様の声を定常的に聞ける、そしてマーケティングのプロセス全体の中でどの顧客接点がどのように体験に寄与しているかを可視化することで、お客様へのおもてなしを改善し続けていく基盤ができた」と中村氏は話す。
Treasure Data CDPを選んだ理由
データ基盤・定常アンケート共に、データの集約とツール連携にはTreasure Data CDPが活用されている。CDPの選定で中村氏が重視したのは「拡張性」だ。
個へのおもてなしを実現し続けるためには、変化に柔軟に対応しながら、スピーディーに打ち手を変化させることが重要だと考える。そのためには、拡張性の高い顧客データ基盤が必要であった。
あらゆる顧客データを集約したデータ基盤を構築したことで、事業の戦略立案と実行にも大きな変化が生まれた。これまで各販売チャネルの業務システムに点在していたデータを統合したことで市場や顧客の動きを迅速にとらえることができるようになり、PDCAサイクルを短縮することができ、事業横断的な施策の推進にもつながっている。また、顧客の声を可視化することで新たな店舗体験改善の取り組みも始まり、お客様の継続率が高まるといった好事例も生まれ始めている。
これからの取り組み:これまで築き上げた価値をデジタルにも拡張
ポーラではこれまで、販売の第一線にいるスタッフが顧客と密な関係性を築くことでおもてなしを提供してきた。お客さま一人ひとりとの対面接客から始まり、対話の中で理解した顧客の興味・関心に基づいたおもてなし、そして顧客自らが体験を選択をしながら物語をつくっていくために、お客さまと伴走していけることが、ポーラの強みであり価値だと言える。
その価値を大事にしながら、これからはデジタルが当たり前になった世界にも価値を拡張していく。「お客様との関係性を大切にしながら、今の時代に合った形でお客さま一人ひとりの物語を紡ぐ活動をしていきたい」と中村氏は話す。
オフライン/オンライン問わずボーダレスに顧客データを収集・活用する土台は整った。これをどう活用し顧客理解を深めて体験を進化させていくかは、これまで顧客と向き合い続けてきたポーラの腕の見せどころだ。