CRMの第一歩であり、良質な顧客コミュニケーションの要である正しく深い顧客理解。株式会社パルコではTreasure Data CDPを活用し、顧客理解に基づいた長期的なつながりを通してLTVやロイヤルティの向上を目指しています。
同社SC事業グループデジタル推進部の安藤彩子氏に、顧客理解とコミュニケーションにおいてデータを柔軟に早く正確に使うためのCDP活用を紹介いただきました。聞き手はトレジャーデータ株式会社の奥寺徳久が務めました。
※本記事はトレジャーデータ株式会社が主催した「PLAZMA 20」(2021年10月開催)のセッションをもとに編集しました。
安藤 彩子 氏
株式会社パルコ
SC事業グループ デジタル推進部 業務部長
アパレル等メーカー・小売業を経て、2018年より株式会社パルコ デジタル推進部に勤務。衣料品メーカー在籍時よりCRM戦略策定、ロイヤルティプログラム構築、顧客コミュニケーションプランニング、顧客データ分析、ポイントサービス開発運用等CRM関連業務に従事、サービスリニューアルやCRMシステムリプレイスのプロジェクトを推進。現在は、主にCRM推進のための環境構築と取得したデータの分析・活用を担当。
<目次>
“ならでは”の価値を積み重ねるパルコのCRMの全貌
安藤:パルコではLTV(ライフタイムバリュー)が高まることによる中長期利益の向上をCRMの目的としています。結果として短期的売り上げにも表れることがありますが、それ自体が目的ではありません。
LTV向上をゴールとして、KPIに量・質・長さを置いています。私が一番大事にしたいと考えているKPIは「長さ」です。「長さ」がないと量も質も上がりません。
「長さ」を作っていくのはロイヤルティ、つまり顧客からの愛着やファン心という気持ちの部分です。ロイヤルティの醸成が利用の継続となり、それが顧客数にも影響してLTV全体が向上していく。結果として企業の中長期利益への貢献となる。それがCRMの仕組みだと考えています。
では、ロイヤルティは何によって醸成されるのでしょうか。私は、「ならではの価値」への共感や「ならではの体験」の蓄積によって醸成されると考えています。
サービスによっては、短期間で一生もののロイヤルティが醸成される場合もありますが、小売業では稀なケースです。「ならではの体験」を繰り返して積み重ね、ロイヤルティになっていくことが、小売業では重要です。
ロイヤリティが醸成されたと判断されるラインは顧客によって異なります。先程申し上げた通りロイヤルティというのは”気持ち”なので、定量的に把握するのが困難です。しかしデータを分析して示唆を得ることで、理解することは可能です。
顧客との関わり方を改善するパルコの「DAPC」サイクル
下図はCRMの流れを表しています。エンゲージメントと顧客体験価値は企業が顧客に提供するものなので、矢印の方向が企業から顧客に向いています。一方ロイヤルティやLTVは、顧客から企業に向けられているものです。このようにエンゲージメントからライフタイムバリューまでを俯瞰した観点でどう組み立てていくのかというところが、CRM戦略に繋がっていきます。
データを分析してロイヤルティやLTVを把握し、より良いエンゲージメントや顧客体験とは何なのか、企業が提供できるものは何か、どう提供するのが良いのか、どう体験してもらうのが良いのかを計画して実行していくのがCRMの取り組み全体だと思っています。
パルコではこの流れを、「Data」「Analytics」「Planning」「Communication」の頭文字を取って「DAPC」と呼んでいます。CRMの取り組みでは、DAPCを繰り返してブラッシュアップしていくのが非常に大切です。
この大きなCRM戦略の中に、コミュニケーションの戦略が存在します。ここにもデータと分析があり、計画してコミュニケーションを実行するという流れで設計をしています。
上図は、パルコが「ならでは価値」や「ならでは体験」を提供していくにあたって、取り組もうとしていることです。パルコはショッピングセンターだけではなく、エンタテイメントやウェルネスなどの新規事業を展開しています。それらを一元的に捉えて顧客理解を更に深め、サービスやコミュニケーションを磨いて顧客ロイヤルティの向上を図りたいと考えています。
これによりCRMの観点では、ショッピングセンターだけではないパルコの総合的な魅力を知ってもらうことができます。ビジネス的な観点では、パルコというブランドの中でサービス間の相互送客が可能になります。
パルコとして統合的なサービスを提供すると謳っていくにあたり、リアルタイム性も求めてデータを活用できる環境を作る必要があると考えています。
顧客を深く知り、体験価値を高めるためのCDP活用
安藤:ここからは、実際どのようにTreasure Data CDPを使ってデータを活用しているかをご紹介します。
下図は簡略化したパルコのデータ活用環境です。IDを持った顧客データ、ポイントや決済の履歴、アプリのログに加え、IDが付与されていない店舗の売上データや天候データもTreasure Data CDPに格納しています。
それらを図右側の「Execution」で分析、可視化をしたり、AIを使って予測をして、顧客コミュニケーションにデータを活用しています。
パルコがCDPを使う2つの理由
CDPを利用している理由の一つ目は、データを整形して統合するためです。例えばパルコでは、ポイントシステムから毎日顧客情報や履歴情報が差分データとして十数ファイル出力されています。このファイルはそのままでは分析やコミュニケーションに使うことが難しいデータです。
顧客IDを統合し、顧客と履歴が正しく結び付いた状態に整形してデータを保持するため、CDPを活用しています。
もう一つの理由は、統合した異なるデータを活用するためです。パルコでは今、アプリ行動と購買行動を掛け合わせてより深く顧客を理解する取り組みを行っています。例えばアプリの利用頻度と購買頻度の関係や、ロイヤルティの高低によってアプリの使われ方にどのような違いがあるのかといった分析をしています。
先程ロイヤルティをどのようにして定量で捉えるかというお話をしましたが、このような掛け合わせ分析と仮説検証からロイヤルティに寄与しそうな要素を把握しようとしています。パルコの場合、利用頻度とユーザー状態がロイヤルティと短期的に強く相関を示すことが分かってきました。ユーザー状態とは、どのようなタッチポイントでパルコと接しているか、どの決済手段を使用したか等で独自に分類したセグメントです。
体験価値を高めるカスタマージャーニーモデル
下図はパルコ独自のカスタマージャーニー「CCWCSモデル」です。来店前の情報接触記事のクリップ(Clip)、来店してからのチェックイン(Check in)、館内回遊のウォーキングコイン(Walking)、そして購買(Conversion)、購買後の評価(Star rating)を流れにしています。これらはアプリ内で行われるアプリ行動です。
上記の5行動はロイヤルティとの相関があると見ており、どの行動を何回体験するとロイヤルティが高まっていくか等を、データで分析しているところです。
このジャーニーはどこから始まるのかわかりません。モデルとして上記のようなフローにしていますが、前後することもあるかと思います。どういう順番でもどこからでもいいので、アプリ体験とリアル体験の融合によってどちらの体験価値も高くなること、そして体験と価値向上を繰り返すことが大切です。それによりアプリの価値もリアルのショッピングセンターの価値も相互に補完して高めることができると考えています。
CDP活用に大切なのは「意志」や「想い」
安藤:今までの経験を通して、CDPを活用するのに大切なのは「意志」や「想い」だと感じています。CDPをただのデータプラットフォームであると捉え、データ環境を構築するという観点で運用・導入するよりも、「データを使うぞ」という意志や「こういう観点でデータを活用していきたい」という想いが大切です。
弊社でもかつてはCDPがただのデータ管理のための環境だと捉えられていた時期がありました。しかしCDPはただの「環境」ではなく、CRMやマーケティングをやるために私達が使う「ツール」なんだと意識が変わってからは、データをどう使って、どのような分析やコミュニケーションをしたいかをしっかりイメージして、CDPの活用設計をできるようになりました。CDPはマーケターがデータ活用をするための存在だときちんと意識することが、有効活用のポイントです。
重要なのは、マーケターがしっかり使えるツールであることです。エンジニアしか触れないツールではマーケターの意思を反映できませんし、変化への対応が難しい部分もあります。
マーケターが理解できるCDPというツールは、サービスや必要なデータが変更になった場合でも柔軟性高く、時間もかけずに対応できます。つまり、データ活用を滞らせないというメリットがあります。
CDPはデータを溜めるプラットフォームだという認識から、データを価値化するためのツールだと存在意義が変わったことにより、CRMの取り組み自体も変化しました。データを使い、できる限り顧客を正しく深く理解して示唆を得る。だからこそエンゲージメントや顧客体験を生むコミュニケーションや場の提供ができるようになり、ロイヤルティが醸成されていくCRMが可能になってきたと感じています。
今後はエンタテインメント事業や新規事業ともIDやサービスを連携し、ショッピングセンターだけではないパルコの魅力や価値の提供をしていきたいと考えています。それを実現する「オールパルコCRM」には、CDPが非常に重要な役割を果たしてくれるでしょう。
CRMで大切な4項目は、全てデータ活用で実現できる
安藤:最後に、私がCRMを長年やってきて大事にしていることをお伝えします。
一つ目はとにかく顧客を正しく理解することで、それがスタートです。時が経てば世の中の価値もお客様の行動も、企業のサービスも変化していきます。常に顧客を知ること、そしてそれを続けることが大事です。
二つ目は、CRMにおいてロイヤルティやLTVがどう作られていくのかを理解し、それを定量的に把握できるようにすることです。それを踏まえた上で、三つ目のエンゲージメントや顧客体験価値の提供活動を行う必要があります。
四つ目は、変化に対応して進化していくことです。そのためには現在置かれた状況に気付き、変化の質やレベルがどういう状態なのかを把握しなければなりません。
上記の4つは全て、データがあればできることです。これからもデータを柔軟に早く正確に使い、成果の出るマーケティングやCRMに取り組んでいきたいと考えています。
本記事はトレジャーデータ株式会社が主催した「PLAZMA 20 」(2021年10月開催)のセッションをもとに編集しました。
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