Treasure Data CDP × Marketo Engage の新しい価値
トレジャーデータが2018年より継続開催するPLAZMA。5月24日に開催された「PLAZMA29 コネクテッドカスタマーエクスペリエンス」セッションの様子をお送りします。
アドビでマーケティングオートメーション(MA)ツール「Marketo Engage」(以下、Marketo)のプリセールスを担当する加藤充孝氏は、年間100件以上という豊富な商談機会において企業のマーケティングにおける課題解決を提案してきた経験に基づき、MAとCDPの併用がデータ活用を前提とした昨今のマーケティングにおけるスタンダードのひとつになっていると解説します。MarketoとTreasure Data CDPを連携させ、成果を上げた3つの事例をご紹介いただきます。
<目次>
有機的に連携する、「データ活用のMA」と「データ保管のCDP」
「Marketoのコンセプトは『エンゲージメント』です」。
加藤氏は詳しい事例の解説へ進む前に、MarketoとTreasure Data CDPの基本的な役割分担を整理し、従来行われてきたメッセージの一斉配信を脱却し「お客様の温度感に合わせて適切なメッセージを送り届ける」(加藤氏)ためのソリューション、それがMarketoと位置づけた。
顧客のナーチャリング(育成)プロセスでは、そのフェーズに応じてコミュニケーションの頻度や内容を定義し、チャネルを自動的に使い分けることが求められる。具体的には、顧客の属性や行動情報を元に、商品に対する興味の度合いを数値化するスコアリングを行い、ホットな顧客、コールドな顧客を検知。スコアに応じてメッセージをパーソナライズし、メール、LINEやその他のSMS、DMなどマルチチャネルで展開する。
加藤氏は、MAがBtoCのビジネスはもちろんBtoBビジネスでも幅広く活用されること、その理由として営業部門との連携が図れることを強調する。ホットリードを検知すると即時に営業に送られるアラート、SFAツールとのスムーズな連携など、MarletoではBtoBビジネスのマーケティングに置いて有益な機能が豊富に備わっている。失注した顧客も、Marketoでもう一度育成し、営業部門に戻すサイクルも構築可能で、効果測定のソリューションも充実していると、自信を見せる。
「エンゲージメントで大切なのは、顧客の解像度を上げること」(加藤氏)であり、そのためにはデータが極めて重要だ。Marketoは、Webサイトにタグを埋め込むことでオンラインの行動データを取得。Eコマースなどの会員データベースや、営業部門が持つインサイドセールスのアプローチ実績やセミナーの参加情報といったオフラインデータと連携して、明確な顧客像を作り上げて行く。
加藤氏の見解では、MAの活用において「外部データとの連携が非常に重要」となる。同社のセールスチームでは、Marketoを単体で売るだけでなく、トレジャーデータなど協業パートナーとのソリューション提供に重きをおいている。
では、MAと連携する上でCDPの役割とは何か?
「データ収集/データ保管/データ活用という3つのフェーズのなかで、Treasure Data CDPはその中心をなすデータ保管を担うツールだ」と、加藤氏はCDPを定義する。
データ保管とは、Eコマースや店頭POSにおける購入履歴等を集約したり、SFAに格納されるデータをTreasure Data CDPに集めて一元化したりといったプロセスを指す。データ活用のプロセスでは、データ保管プロセスでCDPが抽出した顧客セグメントをMAに連携し、Webサイト、メール、SNSなどといった、様々なチャネルで施策を実行する。
Treasure Data CDPはMarketoとのコネクターを標準で搭載しており、開発プロセスを省いて双方向同期が可能だ。Marketoからは、顧客の属性データや、Webサイトやメール配信から取得する行動データ、商品の購入履歴などをTreasure Data CDPに同期。Treasure Data CDPからは抽出した顧客リスト、顧客セグメントをMarketoと連携する。
加藤氏は特に「顧客セグメントの抽出」を、Treasure Data CDPとMarketoにおける連携の意義として挙げる。つまり、Treasure Data CDPで多様なチャネルから顧客情報を収集し顧客セグメントを抽出、Marketoに連携することで、マーケティング施策を洗練していくことが可能となる。Treasure Data CDPで描く鮮明な顧客像により、マーケティング施策を洗練していく事が可能となる。
Treasure Data CDPに天気予報データを格納して導いた成果とは?
ここからは、本題であるCDPとMA連携の事例を紹介いただいた。
人材開発事業を手掛けるレバレジーズは、2017年からのMarketoユーザー。元々は他社のメール配信システムを使用していたが、そのシステムはSQLを書く必要があり、業務負荷が甚大だったという。加えて、同社の就職支援サイトは内部での回遊こそ多いものの、コンバージョンは伸び悩んでいた。この2つの課題を解決するために、導入されたのがMarketoだ。
Maketoの特徴として、SQLなどのプログラミングが不要で、GUI上のドラッグ・アンド・ドロップなどの操作で設定が完結する。これにより、メール配信の工数は、従来の1/5に削減できた。
就職支援サイトのコンバージョン獲得に向けては、会員をコールド、ウォーム、ホットと、その温度感ごとにセグメントした。それに基づきメッセージの頻度やタイミングをパーソナライズし、中長期的な顧客の育成に成功。ホットな顧客には週2回のメッセージで商談につなげ、コールドな顧客にはわずらわしさを感じさせないよう3週に1回程度の頻度に下げることで、エンゲージメントを確立した。顧客の温度感に応じてパーソナライズした施策を実行すると、コンバージョン率も向上していった。
Treasure Data CDPとの連携はユニークで、天気予報データをTreasure Data CDPに格納し、Marketoに展開する施策を行っている。それまで、レバレジーズのユーザーでは、面接の予約日に雨が降ると、キャンセルしてしまう求職者が多かったという。その予防策として、例えばメールの件名を「雨の日はAmazonギフトプレゼント」といった文面に変更しインセンティブを示すことで、面接の来社率を高めることができた。
データ活用を全社的な取り組みとして組織したUSEN ICT Solutions
法人向けにインターネット回線サービスを提供するUSEN ICT Solutionsは、2020年に他社MAツールからMarketoに切り替えた。画一的なメール配信しかできなくなっていたこと、メール配信通数に応じた従量課金制のコスト管理が難しく、施策の自由度を制限していたことが主な理由だった。
Marketoは単なるメール配信ではなく、メッセージを自動的にパーソナライズすることができるうえ、その課金システムは配信通数ではなく、配信リストの数に応じた料金体系を設けているため、施策の自由度は格段に向上した。その結果、メール配信数は従来の2倍に、コンバージョン数は5倍に上昇した。
次のステップとして、顧客情報を一元化するためTreasure Data CDPを導入。顧客情報をTreasure Data CDPに集約し、顧客セグメントを抽出してMarketoで活用、施策結果をCDPに戻してセグメントを再構築する、という基本的なサイクルを構築することに成功した。
USEN ICT Solutionsの事例について、加藤氏は「組織がしっかり構築された」点にも注目した。本格的にデータ活用を開始するにあたり、同社は社長直属のプロジェクトを立ち上げ、7〜8のワーキンググループを組織した。グループごとに担当するテーマを細かく分けた全社的な取り組みを、「非常に良い事例」と加藤氏は評している。
5倍以上の受注数に結びつけたChatwork
最後は、ビジネスチャットツールChatworkの事例だ。
ChatworkにおけるMarketoの導入は2011年。利用期間は長いものの、同社はMarketoの機能を十分に活用できておらず、画一的なメール配信しか行っていなかったのが実情だった。
転機は2019年、同社が株式上場へ動き出したタイミング。営業部門(フィールドセールス/インサイドセールス)とマーケティングのプロセスの整理に着手した。同時期にMarketoの活用も見直し、現在の形に至っている。
Chatwarkのビジネススキームは「Product Led Growth(無償提供から有償化するなど製品主導のアプローチ)とSales Led Growth(営業などが顧客に直接アプローチ)を併用する珍しい手法」(加藤氏)だ。まずは無償で製品を提供し、一定の条件を満たした顧客には営業がフォロー、有償契約を獲得する流れが確立していた。Marketoの活用によって顧客の属性に基づくメッセージの出し分けを可能にしたことで、一連のプロセスを洗練した。
また、Webサイトの回遊や電話のアポイントで顧客がホットリードだと判断された場合、5分以内に、チャットのアラートがインサイドセールス部門に発信される。マーケティングから営業部門へ、非常にスピーディな移行が可能になっている。なお、アラートの配信先も選択可能で、メール、Chatwork、Slack、Teams等に通知できる。
加藤氏は「今回挙げた3社以外にもMarketo×Treasure Data CDPの事例は多数ある」とした上で、その価値提供を実現している所以は「ユーザーコミュニティの存在が大きい」と述べた。Marketoのユーザーコミュニティには様々な分科会があり、横のつながりのなかで悩みを相談したり、成功体験を共有したりすることで、知見の共有が行われている。Marketo単体はもちろん、様々なツールやシステムと連携することで、新たな価値――コネクテッドカスタマーエクスペリエンス――を醸成するソリューションが実現すると言えよう。
<スピーカー>
加藤 充孝 氏
アドビ株式会社
ソリューションコンサルティング本部 / シニアソリューションコンサルタント