CDP活用のリアル:成功と失敗を包み隠さず語るコミュニティの力
CDP導入と活用促進について、疑問や不安、悩みを持つ人もいるだろう。解決のためのヒントを得るため、最も手っ取り早いのはリアルな体験談にふれることだ。Treasure Data CDPには、Treasure Data Rockstars(トレジャーデータ・ロックスターズ)と呼ばれるユーザーコミュニティがある。そのリーダー陣が登壇し、コミュニティセッションが開催された。日ごろ、開催されているユーザー会を限定再現し、導入の背景、ROIの実情、AI連携まで、本音を包み隠さず様々なテーマが議論された。
【この事例のポイント】
・Treasure Data CDPを導入する際は、最初からROIに固執するのではなく、まず自前で構築する場合のコスト、労力とTreasure Data CDP導入にかかるコストを比較したほうがイメージしやすい。
・Treasure Data CDPの有用性について上層部に説明する際は「データをつなぐことは、人と人、部署と部署をつなぐことでもあり、データドリブンな経営に欠かせない」というアピールも有効。
・Treasure Data CDPに実装されたAIの新機能は、マーケティングの業務を根本から変える可能性を秘めている。
<登壇者>
OpenStreet株式会社
マーケティング統括 データサイエンス部 部長
山田 慧史氏
CCCMKホールディングス株式会社
データベースマーケティング事業本部 戦略推進部 部長
島田 正明氏
株式会社SUBARU
CBPM 兼 技術本部 高度統合システム 主査
小川 秀樹氏
株式会社TSI
プラットフォーム本部 デジタルマーケティング部 データマネジメント課 課長
竹山 健司氏
パナソニック株式会社
コンシューマーマーケティングジャパン本部 PXドリブンセンター DX企画部
データマネジメント総括 兼 データ管理・運用課 課長
吉本 健二氏
<目次>
- データドリブンに欠かせないツールとしての期待感
- データがつながると部署・人もつながるという視点
- 「IT部門を味方に」「役割分担を明確に」がポイントに
- パーソナライズのジレンマを解消してくれるAI活用
- ITエンジニアに求められるスキルが変わっていく
- 「面倒なこと」を生成AIにまかせ、本来の業務に集中可能に
- 「コネクテッド・データ・プラットフォーム」という次のステージへ
データドリブンに欠かせないツールとしての期待感
Treasure Data CDP導入する前にどのような課題を抱えていたのか。それは顧客データを起点にしたパーソナライズなマーケティング施策の実現、部門やサービス別に点在化しているデータの統合といったところにパネリストの話は集約される。ただ、きっかけは似ていても、業務に反映させる際のスタンス、具体的な活用方法には違いがある。そこを明らかにするところからディスカッションは始まった。
小川氏(SUBARU) 自動車メーカーが価値を届ける、アウトプットする先はエンドユーザーであり、顧客データが統合されていないと、最終的な顧客体験価値を向上させる施策の精度は低くなります。統合されていれば、様々なサービス情報を付与するだけでユーザー像が立体化し、車両開発にも効果的に反映可能です。顧客情報と車両情報、2つのキーデータを絶えずキュレーション(※)する必要があり、すべての事業推進にデータは不可欠なもの。Treasure Data CDPはその推進に欠かせない存在で、重要度はさらに高まっていると感じます。
※様々な情報を収集・統合し、新しい付加価値をつけて編集すること
山田氏(OpenStreet) 当社はシェアサイクル事業を展開していますが、サービスの性質上、ユーザー個々の属性データ以上に行動データが大きな意味を持ちます。利用の仕方から、どういうお知らせ、提案をすればいいかデータ分析し、個別にメール配信を行うからです。その基盤としてTreasure Data CDPを利用しています。顧客ジャーニーをつくる際、ジャーニーオーケストレーションの機能もかなり使っています。
吉本氏(パナソニック) Treasure Data CDPの導入は私が入社する以前なので聞いた話ですが、パナソニックのいろいろなサービスに点在していた顧客データをID統合するためだったそうです。
島田氏(CCCMKホールディングス) 導入に関しては、やはりデータ連携、ID統合が多いと思いますが、当社は会員データ基盤の統合・運用には使っていません。ポイントサービスの購買や行動データが膨大にあり、そのデータを使いV会員向けサービスを提供している企業様にデータベースマーケティングサービスとして提供し、CRMの高度化などにご利用いただくサービスの開発を進めています。
データがつながると部署・人もつながるという視点
それぞれの立場での関わり方を確認した上での質問は「Treasure Data CDPがROIに見合うかをどう判断し、上層部にどのように説明・説得しましたか」というもの。システム導入にはコストがかかり、それはTreasure Data CDPも同じだ。ただ、成果は分かりやすく形になるものではなく、データという無形のものを扱うという難しさもある。ROIをはじめ投資に対するリターンの明示を求められたとき、どう説明するのか。これは切実な問題だ。
小川氏(SUBARU) 訴えたのはシンプルに「運用の大変さ」です。2016年ごろ、顧客を中心としたデータ基盤が必要という話が社内で持ち上がりました。その後、サーバーを購入して自分たちでつくってみたものの、これがまったくうまくいかない。仮に組み上げても、運用にそれなりの人数が専任で張り付く必要があります。また、年間で10億件、20億件のデータを自前で収集するのも無理がある。自分たちで手を動かし、検証した結果を持って訴えたので、ROIを含めて意外とスムーズに認められた気がします。
山田氏(OpenStreet) 当社も似ているかもしれません。単純にROIがどうかよりも、自前でやったらどれだけ大変なのか示すほうが話は通りやすい気がします。ただ、導入時はそれで通っても、2年目、3年目はROIの視点で成果を出し、契約更新の根拠を示す必要があります。メール配信、キャンペーン成果を可視化し、導入前よりも伸びている数字を示して初めて、上層部に納得してもらえるのではないでしょうか。
竹山氏(TSI) 当社の場合は「まず広告活用から」という話をしました。広告費用とTreasure Data CDPの費用、そこでつくったセグメント経由の売り上げを出し、利益がどれくらいか、ROIに見合うかを独自に試算して稟議を提出し、承認をもらう、ということをずっと繰り返しています。導入してから合算したコストと利益の関係もずっと見ていて、ROIはクリアしているので継続利用できている、という形です。
島田氏(CCCMKホールディングス) やはりデータハンドリング、マーケティングのところでの効率化、工数削減が上層部に通じやすいポイントのようですね。
竹山氏(TSI) 当社の場合だと工数削減の話はあまりいい顔をされません。削減ではなく売り上げがどれくらい伸びるか。そちらのインパクトが響くようです。
小川氏(SUBARU) 少し論点を変えると、CDPの導入はお客様中心にデータを集めること意味します。つまり、お客様をLTV(ライフタイムバリュー)で見るようになるし、ならざるを得ない。そうすると、短期的な効果だけではなく長期的な視点でものごとを考えなければならない、という説明もしていく必要があると思います。
島田氏(CCCMKホールディングス) 重要な視点ですね。統合したIDベースで見ないとPVがこれだけ伸びた、資料請求が増えた、という見方になりがちですが、IDベースで一人ひとりに最適化する視点を持つと、ものの見方も考え方も変わります。ただ、データを扱う部署はそういう考え方になるとしても、会社全体あるいは経営者の意識も変わっていくものなのでしょうか。
小川氏(SUBARU) データがつながると部署がつながる。私はこう話すようにしています。新車を発売して、プロモーションをやって、ある人に売れたとします。そこにはいろいろな評価指数がありますが、何がきっかけで売れたのかは分からない。永遠の謎解きでしたが、データがつながると明確に見えてきます。すると、人の行動は変わる。もっと売れるために、例えばマーケティング部門とIT部門で、一緒にこうしたキャンペーンやったらどうかなど、データがつながると部署も人もつながり、いろいろ考え、行動するようになります。これがデータを活用する大きな意味だと思います。
「IT部門を味方に」「役割分担を明確に」がポイントに
ROIや経営陣への説明については視聴者の興味関心も高く、多くの質問が寄せられた。その中の1つが「経営陣の承認を得るために注意すること、効果があったことを教えてください。また導入時のチーム体制はどうでしたか」である。これについても少し、意見が交わされた。
竹山氏(TSI) 難しいのは、そもそも「CDPって何?」から説明しないといけないところですね。ROIも重要ですが、その前段階に時間を取られるケースがあり、これは仕方ないと思います。経営陣だけでなく、営業、人事、経理など、CDPと縁のない業務の人たちに対しても、できるだけかみ砕いて説明しなくてはいけません。トレジャーデータの資料も使わせてもらい、導入すればユーザーごとの解像度が上がるという基本から、根気強く説明していきました。
島田氏(CCCMKホールディングス) 具体的な導入に進むと、IT部門と一緒に取り組まなくてはいけません。ここで必ず言われるのが個人情報保護とセキュリティです。個人情報をどう適法・適正さを遵守して安全に取り扱うのか。定期的に更新されるプライバシーポリシーにどう対応するのか。そういう話は法務部門もそうですがIT部門ともしっかり詰める必要がありますし、ここでIT部門を味方につけると、その後がスムーズに進むという期待もできます。
山田氏(OpenStreet) チーム体制について、当初は使い始めたら何とかなると思っていましたが、そもそもデータを集めてもらわないと始まりません。それにはエンジニアチームの協力が不可欠なため、スタート時点でエンジニアたちと握っておく、というか「ここまでデータを集めてください、その先はTreasure Data CDPでやります」といった形で双方の役割分担を明確にしておくのも、スムーズに稼働させるポイントの1つだと思います。
パーソナライズのジレンマを解消してくれるAI活用
パネルセッションの後半はCDPとAIに関するテーマから入った。マーケターが企画を考え、IT部門にデータ抽出を依頼し、データを用意。そのデータを基にセグメント、クリエイティブの制作を行い、チェック、テストを経てようやくリリースにこぎつける。このフローを変革するためにトレジャーデータが提案するのが、生成AIを活用した新たな機能だ。Marketing Copilot、ジャーニーオーケストレーション、そしてAI Email Studio。セッションの途中、新機能の説明が行われた後で、それぞれの感想、どう活用していきたいかについて意見が交わされた。
小川氏(SUBARU) 私も今日初めて知ったのですが、正直すごいと感じましたね。特に印象的だったのは、AI Email Studioです。これはデータ活用の宿命で、パーソナライズは、クリエイティブの制作を含めた運用とトレードオフの関係にあります。細かくパーソナライズするほど、運用オペレーションの負荷が膨らみ、データはあるけど一人ひとりへの配信を把握するのは物理的に無理でしょう…というジレンマから解放してくれると感じました。
竹山氏(TSI) メールを自動で生成するだけでなく、画像までというのは確かにすごいですね。クリエイティブの負荷はかなり軽減されるはずです。
小川氏(SUBARU) Marketing Copilotについて1つ確認したいことがあって、利用するログを含めて使う側専用になっているのでしょうか。そこが心配なところで、チャット内容は絶対外に漏れてはいけないものだし、トレジャーデータの人も見られない、LLMが共有されることもない、という認識でよいでしょうか。
ITエンジニアに求められるスキルが変わっていく
トレジャーデータ側は「その通りです。カスタマーデータはお客様のものであり、我々はあくまでも機能を提供するだけです。Treasure Data CDPの枠組みの中で提供する形になっています」と答える。ログが学習されることはなく、もちろん他に共有されることもない。セキュリティには万全を期しており、パーミッション権限管理によって、アクセス権限を細かく設定するのも可能になっている。
竹山氏(TSI) 完全にプライベートな環境に切り出せるし、漏洩や他の学習に使われることはないと。確かにすごいと思います。
小川氏(SUBARU) 生成AIの利用に関して問題になるのは、結局そこです。入力したら他の学習データに使われるのが怖いから「使用禁止」となってしまう。
竹山氏(TSI) パーミッションの権限管理も含めて、社内でも制限をかけられるのは安心だし、助かります。
島田氏(CCCMKホールディングス) 聞くだけで、ちょっと試してみたくなりますね。自社のデータを突っ込んで、このセグメントの人となりをちょっと書いてみてください、といったら出してくれそうな期待があります。
小川氏(SUBARU) 他のソリューションで、SQLの自動作成機能を実装するものは出てきています。これはAIの得意領域なので、Treasure Data CDPもその方向に進化するのかと思いきや、よりマーケティングの現場に寄せてきたか、という印象もあります。
島田氏(CCCMKホールディングス) 参加者からいだたいた質問に「SQLが書けないとTreasure Data CDPは使えませんか」というものもありました。Marketing Copilotが1つの答えで、日本語で話しかけるだけでセグメントを抽出することができる。難しいプログラムは必要なくなる方向ですね。
山田氏(OpenStreet) 今までは「SQLを書けるか」が重視されましたが、これからは、「いかにうまくAIとコミュニケーションが取れるか」が問われてくるかもしれません。指示を含め、日本語でのコミュニケーション能力が求められるでしょう。
小川氏(SUBARU) これはもうプロンプトエンジニアリング(AIから望ましい出力を得るために指示や指令を設計・最適化する分野)の領域でしょう。これからのAIを考えるときに重要な視点ですから、ユーザー会でも議論していきたいですね。
「面倒なこと」を生成AIにまかせ、本来の業務に集中可能に
AIに関するディスカッションは続く。次に取りあげられたのは「マーケティングのどの領域で生成AIが生かせると思いますか」という質問だ。ChatGPT以降、Gemini、Claudeなど、いろんな生成AIがリリースされ、抜きつ抜かれつの激しい開発競争が繰り広げられている。そうした生成AIは、日々のオフィシャルの業務にどう使われているのだろうか。
吉本氏(パナソニック) 当社はわりに柔軟といいますか、全社員がChatGPTにアクセスできる状況になっています。すべては把握していませんが、他のサービスでも利用可能なものがあるはずです。自分が実際にどう使っているかというと、作成した資料についてコメントしてもらったり、要約させたり、面倒くさいことをお願いしている、という感じです。
竹山氏(TSI) 今の話はよく分かります。SQLやPythonのコードを書くとき、面倒なのでちょっと指示を入れて、とりあえず書いてもらい、こちらで修正といった使い方とか。最初はエラーも目立ちますが、学習させていくとかなり使えるようになります。
小川氏(SUBARU) 普段の業務だと2人のようなユースケースが多いと思いますし、AIを壁打ちの相手にして、簡単なスクリプトを書かせることもあります。テストする、イニシャルをつくる、というところは変わらないでしょうが、生成AIによってITエンジニアに求められるスキルは変わっていくと思います。
島田氏(CCCMKホールディングス) 私の場合、データを使ってペルソナを描かせるような、ルールのない使い方をあえてすることもあります。それでも、ベテランリサーチャーと遜色ない日本語でまとめてくれるから、進化はすごいと実感することが多々あります。会場のアンケートでは「効果測定」と答えた方もいらっしゃいました。
竹山氏(TSI) 施策の実行、改善提案には頭を使っても、地道な効果測定に意識が向かないこともありますから、これはとてもいい使い方だと思います。
島田氏(CCCMKホールディングス) 確かに、そのあたりも言ってしまえば面倒な作業ですから。今回発表された新機能なら、可視化はもちろんグラフ化まで可能ということなので、これは助かりますね。
「コネクテッド・データ・プラットフォーム」という次のステージへ
ディスカッションの最後のテーマは「今後のトレジャーデータという会社、プロダクトも含めて期待することを聞かせてください」である。Treasure Data CDPはもちろん、今後のデータ社会でビジネスを持続的に成長させるため、重要プレーヤーの1社として期待したいこと何か。パネリストは様々な視点で語った。
小川氏(SUBARU) 最近「CDPの次に何をすべきなのか」について考えています。当社の場合だと人の属性データと車両データがあるため、これをどうコネクト(つなぐ)していくかに尽きます。こうした点を踏まえると、私たちがこれからつくらなくてはいけないのは「コネクテッド・データ・プラットフォーム」ではないでしょうか。カスタマーだけではなく、プロダクトだけでもなく、コネクトするプラットフォームという視点を持ったとき、Treasure Data CDPがどう変わっていくのか。楽しみにしています。
山田氏(OpenStreet) Treasure Data CDPを導入して日々活用していますが、導入後に気がついた点としてセキュリティに関してもお伝えしたいです。特定のIPアドレスからのアクセスだけログインできたり、パスワード管理に強めの制限をかけたり。いろんなセキュリティコントロールが管理画面上でできることがとても便利でした。昨今のセキュリティに関するニュースをみているとそういう点についても、もっとアピールしてもいいのではないかと思います。
吉本氏(パナソニック) 顧客の属性データと行動データ、商品データ、そこにプラスして店舗のデータもあり、今は商品データの部分を充実させようとしています。商品データを軸に他のデータと統合していけば、可能性はもっと膨らむでしょう。メタデータの領域ですが、うまくAIと組み合わせられるよう、トレジャーデータのアドバイスをもらいたいですね。
竹山氏(TSI) セグメントづくりなどは当社でもかなり利用していますが、メール以外にもアプリやWebでのコミュニケーションまでTreasure Data CDPで機能完結すると、もっと利便性は高まるし、可能性も広がるのではないかと感じました。
島田氏(CCCMKホールディングス) いろいろな期待をお持ちのようですが、最後に1つ、大喜利的な質問を投げさせていただきます。「CDP活用でいちばん大事なのは何?」。一言でお願いします。
小川氏(SUBARU) 難しいけれど「愛」です。カスタマーデータに特化するということは、一人のお客様に長い時間をかけて向き合う姿勢が、マーケターだけでなく会社全体に求められます。それには「愛」が根底になければ難しいと思います。
山田氏(OpenStreet) そんなうまい表現はできませんが…、データを扱うには社内外を含めていろんな人との接点が重要になります。ここでは「巻き込む」を強調しておきます。
吉本氏(パナソニック) 「諦めないこと」でしょうか。データの扱いも、社内調整も、はっきりいって面倒なことはたくさんあります。それでも諦めず、地道にやることが大切です。
竹山氏(TSI) おっしゃるように大変なこともたくさんありますが、何事も経験で、自分の成長につながると思って、「楽しむこと」も忘れないでほしいですね。
島田氏(CCCMKホールディングス) いろいろな視点からのご意見をいただきましたね。本日はありがとうございました。