fbpx
すべての記事

ヤマハ発動機における、Treasure Data CDPを活用した顧客情報基盤の構築

ホーム » すべての記事 » ヤマハ発動機における、Treasure Data CDPを活用した顧客情報基盤の構築

Treasure Data CDPを2018年から導入し、活用を進めてきたヤマハ発動機株式会社(以下ヤマハ発動機)。Webアクセスの分析に利用していた導入当初から、最近ではOMO(Online Merges with Offline)を実現する顧客情報基盤構築のためのデータハブとして、Treasure Data CDPを位置づけています。ヤマハ発動機がどのような経緯を経て現在の活用方法になったのか、IT本部デジタル戦略部デジタルマーケティンググループ・主務である藤本 勝治氏より解説いただきました。

本稿は2023年に開催されたPLAZMA30特別セッションより内容を編集してお送りします。

<スピーカー>

藤本 勝治氏
ヤマハ発動機株式会社
IT本部デジタル戦略部デジタルマーケティンググループ 主務

<目次>

顧客の体験が変化する時代に、いかに感動を創造するか

「感動創造企業」を企業目的として掲げるヤマハ発動機。オートバイを中心とする製品やサービスを通じ、顧客の体験を通して感動を届けることを理念としています。ヤマハ発動機にあって、技術的なキャリアをバックグランドとする藤本氏がマーケティング業務に携わるようになったのは2018年、ヤマハ発動機にデジタル戦略部が設立されたことが契機でした。現在では「技術とコストが分かるマーケター」として、顧客情報基盤の構築も含めたデジタルマーケティング全般を業務領域として管掌しています。

藤本氏:デジタル化が進んだ現在では、世の中の「体験」が変化しました。実店舗で販売スタッフがお客様とface to faceでやり取りを行い、フィルムカメラで写真を撮り現像することが「普通」の時代がありました。しかし現在では、ECサイトで様々な商品を購入したり、スマートフォンで撮影した画像をSNS上で共有するなど、マーケットや顧客体験のデジタル化・オンライン化が進んでいます。しかしながら私たちのお客様は、これまでと同様にオートバイを購入し、ツーリングなどオートバイに乗ることを楽しんでいます。その体験自体は、デジタル化が進む前と変わっていません。

藤本氏は、自社の製品を利用した体験自体は変化していないとしながらも、OMO(Online Merges with Offline)が一般化した今、生活者および顧客の体験はどう変化するのか、そしてその時にヤマハ発動機が顧客により良い価値を提供するにはどうすべきかを問いかけます。その際に重要となるのが、「顧客情報基盤」です。

藤本氏:お客様と私たちの接点は、認知から始まり、興味、探索・検索のプロセスを経て、店舗への訪問に至ります。購入して商品を体験しその体験を共有していただくという、認知から体験共有までの様々な「顧客接点」をデータでつなげ、より深くお客様を理解する。そのために必要なのが「顧客情報基盤」であると、私たちは考えています。

自社Webサイト分析からスタートした顧客購買行動プロセスの分析

藤本氏:デジタル戦略部では、顧客情報基盤の確立のためにCRM、CDP、CIAMを導入しました。その1つがTreasure Data CDPです。理由としては、ツール導入のためのシステム構築の必要がなくすぐに利用できること、Webサイトにタグを埋めるだけでデータを取得できることが挙げられます。Treasure Data CDPは非常に導入しやすいツールでした。

Treasure Data CDPを活用してまず着手したのは、自社Webサイト分析でした。

藤本氏:あるお客様が、9月に当社の電動アシスト自転車の製品サイトを訪問しました。多くの製品ページを閲覧し、「どれがいいかな」とモデル検討をしている様子がWebログから推察できます。その後、2カ月の間に5回製品サイトを訪問し、検討するモデルが3モデルに絞られていきました。特に、「PAS CITY-X」と「PAS CITY-V」という2つのモデルを、時間をかけて検討されている様子が見て取れましたが、最終的に購入したのは「PAS VIENTA5」というモデルでした。

「お客様が最初にオンライン上で製品を調べて始めてから購入に至るまでどう迷い、検討したのか」という購買プロセスを可視化できるようになったことで、藤本氏が次に取り組んだのは販売店舗のWebサイトとのクロス分析です。

藤本氏:当社の製品は、基本的に販売店で購入されますので、製品のWebサイトと販売店のWebサイトをどのように閲覧されているかというクロス分析を行いました。「ヤマハ発動機の製品ってどこで売っているの?」という疑問からはじまる、初めて製品を購入するお客様がまず製品Webサイトを閲覧し、その後、購入するための店舗を検索しているというのが把握できたのです。

オフラインイベントの来場者をオンラインのマーケティング施策に接続する

2018年に「モーターサイクルショー」という大きな展示会に出展した際、大変多くのお客様にご来場いただきましたが、後日連絡する方法が検討されていませんでした。「せっかく当社のブースを訪れてくださったにも関わらず、そのうちどれくらいの方がオートバイの免許を持っているのか、当社のオーナー様がどのくらいいたのか、その後に購買されたお客様はいたのか、まったくわからなかった」(藤本氏)状況でした。

藤本氏:リアルな接点を有効活用するために取り組んだのが、イベント会場でのオンラインアンケートです。会場に設置したQRコードをお客様のスマートフォンでスキャンしていただき、Webフォーム上でアンケートに答えていただきました。このアンケートフォームにTreasure Data CDPのタグを埋めこんでおくことで、オフラインのイベント来場者の情報とオンラインのCookie情報、2つの顧客情報が同時に取得できるようになったのです。

アンケートで得た情報を分析することで、イベント来場者の属性情報が把握できただけでなく、イベントの前後でアンケート回答者がオンライン上でどのように行動したのかという分析が可能になりました。オフラインイベントからデジタル施策への連携として実施したのが、メールマーケティングです。

藤本氏:イベントで獲得した見込み顧客に対して、メールマーケティングを行いました。Treasure Data CDPに格納されたデータからセグメンテーションを行い、メールを送信しました。一番効果の高いセグメントでは到達率は100%、開封率は50%以上、クリック率は25%を超えるセグメントもあるなど、想定以上の好成績を出すことができました。

メールマーケティングを活かした更なる活用方法として店舗への送客施策を行いました。メールを送信したお客様が、店舗を訪問した際に店頭のQRコードをスキャンしていただくことで、店舗送客施策の効果測定が可能となりました。

オンプレミスの基幹システムとのデータ連携で、60万人分の顧客カルテを生成

オフラインのイベント施策からデジタルでのメールマーケティング、そして実店舗への送客。施策を進めて分析を行っていると、販売現場から店舗送客だけではなく「最終的な購買に結びついているかを知りたい」という声が上がりました。しかしそこで問題になったのは、販売実績データが社内の基幹システムにしか格納されていなかったことでした。

藤本氏:当社の基幹システムは構成が非常に複雑で、データを抽出するたびにシステム管理担当者に依頼をする必要があり、かなりの負担がかかっていました。その課題を解消するため、データを基幹システムからTreasure Data CDPに「とりあえず」送ってしまう、というワークフローを採用しました。使用したのはトレジャーデータにも相談し、オープンソースソフトウェアのEmbulkを採用しました。 

データベース視点で考えると、カラムの型など様々なことを考慮しなくてはなりません。しかし、Treasure Data CDPは汎用性が高く、どのような型のデータも受け止めることができる「懐の広いツール」です。Treasure Data CDPからCRMのSalesforceにデータ転送する場合はSalesforce側のデータ型の制約を受けますが、Treasure Data CDPでデータ整形を行い、Treasure Data CDPの標準のコネクタを利用して、開発ゼロ、ノーコードで送信することが出来ました。

「より深くお客様のことを知りたい」。藤本氏は、メーカー保証の登録情報、コールセンターの入電履歴、バイクレンタルの利用実績、Webアンケートといった、あらゆる情報をTreasure Data CDPに格納し、型変換を行いながらCRMにデータを集約することで、約60万人分の顧客情報基盤を構築しました。それは言わば「オンラインとオフラインを横断した『顧客カルテ』である」と藤本氏は表現します。『顧客カルテ』は、マーケティングだけではなく顧客体験という領域でも効果を発揮しています。

藤本氏:『顧客カルテ』は実際にコールセンターで活用されています。登録済みの電話番号から入電があった場合、『顧客カルテ』がオペレーターの画面に自動表示されますので、オペレーターはお客様情報を検索することなく、対応できます。まさに顧客体験の向上と業務の効率化を実現できています。 

カスタマージャーニーを可視化し、Just in Timeのマーケティング施策を実現

『顧客カルテ』によって顧客行動データが集約されたことで、興味・関心フェーズから検討、購入に至るカスタマージャーニーが、すべてつながるようになりました。

藤本氏:このお客様は、Webログの分析から大型免許が必要な「MT-09」という商品に興味を持っていることがわかりました(上図)。7月のキャンペーン参加時点でもその興味関心は変わっていませんでしたが、その時点ではまだ普通二輪免許しか持っておらず、「MT-25」という中型のオートバイのオーナーでした。

その後、バイクレンタルのサイトを閲覧するなどの行動が見られ、約2カ月後の8月には、店頭のアンケート(QRコードから参加)から、免許が普通免許から大型免許に変わったことがわかりました。購入意欲の高まりも見て取れて、9月には「MT-09」をご購入いただけました。カスタマージャーニーを把握できれば、Just in Time(最適なタイミング)のマーケティングアクションが可能なのだと実感しました。Treasure Data CDPが、より深い顧客理解、最適なコミュニケーションにつながるという、十分な手応えが得られました。

お客様とつながり続けるコミュニケーション基盤が必須

顧客情報を集約して見えたものがもう1つあると、藤本氏は当時の危機感とともに説明しました。それは、「顧客とヤマハ発動機との最終接点」です。

藤本氏:製品の購入、イベントへの参加などのお客様との最終接点を分析した結果、約10年間で約80%のお客様との接点がないことが分かりました。他社に乗り換えてしまったのか、情報が更新されていないのか、その理由を分析することはできませんでした。お客様とつながりつづけ、お客様の「今」を知るためのコミュニケーション基盤の構築が急務でした。

そのために立ち上げたのは、お客様の興味関心に合わせた情報提供や、特典付きのロイヤルティプログラムを提供する「My Yamaha Motor Web」というコミュニケーション基盤でした。

藤本氏:「My Yamaha Motor Web」によって、Online Merges with Offlineという視点で、顧客接点を集約しお客様の利便性を高めることが可能になりました。このサービスを開始する前は店舗やイベント会場などのオフライン接点でお客様にQRコードをスキャンしていただきWebフォームからアンケートに答えていただきました。サービス開始後は、My Yamaha Motor Webの会員QRコードを提示していただくだけで、来場、来店してくださったお客様の情報を把握することができるようになりました。

ロイヤリティプログラムでは、お客様情報の登録やキャンペーン、イベント参加等のお客様のアクティビティをポイント化する仕組みを設けています。お客様のステータスに応じて、様々なベネフィットを提供するという仕組みを構築し、継続的につながり続け、そのつながりを強くしていくという施策に取り組んでいます。

AWS上に構築された「My Yamaha Motor Web」とポイントの集計や顧客情報を管理するSalesforceとのデータ連携においても、Treasure Data CDPの標準コネクタを使用し、AWSからTreasure Data CDPにデータを転送、そしてSalesforceへと連携しています。

藤本氏:Salesforce上でロイヤリティ集計等の処理をした後は、再び「My Yamaha Motor Web」にその結果を戻す必要があります。その際にも、Salesforceから“とりあえず” Treasure Data CDPへ転送し、Treasure Data CDPでAWSに合うようにデータ整形し、標準コネクタを通じてAWS上のデータベースに格納するという流れを実現しています。各システム間のインターフェースに関しては開発ゼロ、ノーコードで実装できています。

Treasure Data CDPはデータ統合の基盤であり、かつ「顧客接点と顧客情報基盤をつなぐデータハブ」であると説明したうえで、製品自体はオフラインでの体験がメインであるヤマハ発動機においても、OMOは必須であると力を込めます。お客様とつながりつづけ、感動体験を創造する。その実現にTreasure Data CDPは欠くことができないという展望のもと、セッションが閉じられました。

トレジャーデータ株式会社

2011年に日本人がシリコンバレーにて設立。組織内に散在しているあらゆるデータを収集・統合・分析できるデータ基盤「Treasure Data CDP」を提供しています。デジタルマーケティングやDX(デジタルトランスフォーメション)の根幹をなすデータプラットフォームとして、すでに国内外400社以上の各業界のリーディングカンパニーに導入いただいています。
Back to top button