資生堂が考える、顧客データ活用戦略と実行に必要な人材像
コロナ禍で大きく変容した美容体験を再構築するため、デジタルトランスフォーメーションを加速させる株式会社資生堂。2021年にアクセンチュア株式会社との合弁で、資生堂インタラクティブビューティー株式会社を設立しました。データ活用が大前提となるこれからのビジネス、マーケティングでは、求められる人と組織のあり方が変わります。資生堂インタラクティブビューティーの設立はその布石ともいえるでしょう。 Accenture Song シニア・マネジャーの松原 陽氏、資生堂インタラクティブビューティー DX本部 メディア戦略部IMCグループ グループマネージャー※の中條 裕紀氏が「顧客データ活用戦略とデータ活用の実行に必要な人材像」について、語りました。(※2023年11月時点の所属)
※サービス名などはイベント開催時点(2023年11月)における情報です
<目次>
デジタルサービスを起点とする資生堂のデータ統合
資生堂グループのデータ活用を象徴するサービスが、アクセンチュアと開発した新会員サービス「Beauty Key」です。公式スマートフォンアプリを通して、肌分析、商品購入やカウンセリングの実施に基づくリワード、ブランドを横断したサポート、パーソナライズされたUI/UXなどを提供。ユーザーに利便性を提供すると同時に、リアルとオンライン、店舗ごと、ブランドごとで個別に管理されていた顧客データをOne ID化により統合することが可能になりました。
「資生堂は個々のブランドが強く、それぞれにファンが付いています。ただ、お客様は必ずしもひとつのブランドにこだわらず、他の商品を試すことも、使い分けることもあります。Beauty Keyはブランド横断のOne ID化によって統合された購買データを基に、関心やニーズを先回りしてレコメンドするなど、オール資生堂でお客様の美の追求を共にしていく存在です(松原氏)」。
資生堂インタラクティブビューティーは、サイロ化されていたデータを統合、つまりOne ID化によるデータ活用という基本戦略の基盤として、Treasure Data CDPを運用してきました。さらに今後のデータ活用の広がりにおいて中條氏が期待を寄せるのが、「ジャーニーオーケストレーション」の機能です。
消費者は、WebサイトやSNS、マスメディアなど、さまざまなチャネルを通して情報収集や購買を行います。そのため資生堂のように複数のブランドを運営し、各種メディアからリアル店舗まで多様なコミュニケーションチャネルを持つ企業側から見ると、顧客との接点は非常に多岐にわたる複雑なものになります。
「トレジャーデータ・ジャーニーオーケストレーション」を導入することで、従来は部門ごとに管理されていた顧客接点を統合し、ひとつなぎのカスタマージャーニーを描くことができます。企業のマーケターは、認知、購入、ブランドロイヤリティといったジャーニーのステージを、部門やチャネル単位ではなく、顧客単位で理解し、最適なシナリオをノーコードで設定できるのです。
中條氏は「データドリブンにコミュニケーションをとるなかで、より顧客ごとにパーソナライズできる精度が高まっていきます。従来の人の手を介したプランニングから、コミュニケーションの自動化に向かっていく。Treasure Data CDPのコンセプトと、資生堂との親和性は高いと感じています」と、CDPの可能性を語りました。
マーケティングとデータの中間的な人材像
資生堂のデータ活用を概説したところで、松原氏と中條氏は、現場の視点から組織と人材のあり方について、議論を深めていきました。まず中條氏が提示したのが、マーケティング領域とデジタル領域という職種の枠組みです(下図)。
マーケティング領域の人材は、Webサイトやアプリ、ソーシャルメディアやマスメディアなど、さまざまなチャネルを通して、顧客とのコミュニケーションを設計します。それらを包括するブランドのマネジメントも、マーケティングで重要な役割を果たす職種です。
一方で、データ・テクノロジー領域の人材は、数値化されたデータからさまざまなインサイトを導き出し、マーケティングに材料と根拠を提供します。そのためには、SQLなどを扱って実務的にデータベースを管理構築するエンジニアも必要です。
どちらも顧客を理解しよりよい体験をつくり出す、という目的は同じです。データ活用を行う上では両者の協働が必須ですが、経験やスキル、見えている世界がまったく違うため、噛み合わないこともしばしば発生します。両者とも専門性の高い仕事ゆえ、単純にどちらかがイニシアチブをとればスムーズに事が運ぶ、というものでもありません。
資生堂インタラクティブビューティーでも設立当初から両領域の人材が社員として共に働いています。しかし、プロジェクトにおいて「誰が(どのように)リードするべきか?という点は、決めきれていないところがある」という実態もあると中條氏は吐露します。では、クライアントも含め多様な組織を深く知るアクセンチュアは、自社でどのような体制を構築しているのでしょうか?
世界有数のプロフェッショナル サービス企業のアクセンチュアは「個が立っている組織」と自認する松原氏。経営戦略、テクノロジー、マーケティング、データ、オペレーションなどの領域を中心に、さまざまなケイパビリティを持った人材が在籍しています。
カギとなるのは「スペシャリストをうまく活かす」プロデューサー的な人材です。マーケターと、データサイエンティスト、エンジニアの中間にあたるポジションとして、アクセンチュアの組織ではプロジェクトを運用する人材が活躍しています。
プロデューサーの役割として、メディアやデータといった専門領域を一定程度理解すると同時に、それとはまた別の次元であるマネジメントスキルが求められると考えられます。将来のデータ活用の世界では、極めて専門性の高いスペシャリストだけでなく、俯瞰的なビジネス視点、あるいは調整力を持つ人材が求められることを松原氏は示します。
同時に松原氏は「専門的な人材を育成する必要もあり、最適な形は企業によって異なる」とも補足しています。まずは、ノウハウを持つ外部企業との協働体制を組み、マーケティング領域とデータ・テクノロジー領域、さらにプロデュースも含め、徐々にスキルを移転していくこと、その中で自社に合ったやり方を見つけていくことが、現実解となり得ます。
これを受け中條氏は、「今までの組織や人材育成のあり方では、現代のビジネスにおけるスピードについていけないという危機感を多くの企業が持っているはず」と現状を分析。事業会社の立場から、データ活用を実現する人づくり、組織づくりの重要性を強調しました。
強み弱みを理解しマーケとデータを融合する
セッション後半は、データ活用における人材育成にフォーカスしていきます。アクセンチュアで活躍するプロデューサーのように、マーケティング領域とデータ活用の間に立って仕事ができる人。このように中間的な人材を育成するには、どうすればよいのでしょうか? 中條氏が課題として指摘するのは、職種を横断した経験の欠落と、獲得できるキャリアの細分化です。
例えば、マーケティングの領域内でも、CRMを得意とするプランナーがソーシャルメディア運用も経験すれば、ケイパビリティは大きく広がります。しかし、実際のキャリアパスでは、個人の志向としても現実的な業務としても、職種を横断するような経験は限定されています。
データ・テクノロジー領域でも同じように専門性を高める志向が強く、マーケティング領域まで経験を広げるケースは多くないでしょう。そこで、資生堂インタラクティブビューティーは、データに関するスキルをマーケターに教育する機会を設けています。マーケターが、データベースの運用、分析などの実務を経験し、自力で欲しいデータを取得できるようになることは、現代では非常に強力なスキルアップです。組織はもちろん、個々の人材のキャリアとしても、大きなメリットがあります。
ただし、座学により知識を身に着けるだけでは、現場の人材はデータ活用を自分事化しません。「最終的に担当部門の業務内容が曖昧になる可能性もある」と中條氏が注意を促すとおり、本質的な意義を示す必要があります。
領域の異なるスキルを相互に学ぶ意義については、松原氏のコメントが示唆に富んでいます。
「データ・テクノロジー領域の担当者は分析を好みます。もちろん数字を見て発見するインサイトは貴重な知見ですが、彼らが注目したインサイトがビジネス上重要なポイントではなかったり、具体的な施策につながらなかったりといったケースもあります。
一方で、マーケターは斬新なアイデア、巧妙なプロモーションを好みます。しかし、どんなにおもしろいアイデアでも、データ側からみれば結果を出すための根拠に乏しい、といったケースもあるのです」。
これからのデータ活用はマーケティングとデータ分析の両輪で動かすべき、ということがよくわかる実務家ならではの視点。組織としての人材育成、個人としてのキャリア構築、どちらの面でも大いに参考になる人材像を示し、セッションを閉じました。
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