AIを実装した次世代CDPが提示する データドリブン経営の未来像とは
データを介して「つながる」先に、どんな世界が広がっているのか。製品やサービスがコモディティ化する現代、顧客データの活用は企業の成長戦略に欠かせないものとなっている。膨大なデータが日々蓄積される一方、AIが象徴するように、テクノロジーの進化は止まらない。大きな期待を抱きながら、進むべき方向、具体的なビジョンが見えてこない、という声も多いのではないだろうか。そこでトレジャーデータではAIを実装した次世代のCDPの提供を開始した。ここではTreasure Data CDPの設計思想や新機能を紹介しつつ、データドリブン経営に向けた未来像について考察したい。
【この記事のポイント】
・ジャーニーオーケストレーションにより、
顧客体験のさらなる向上・ユーザー側のコスト削減/業務効率化を実現した。
・AIと顧客データを融合した3つの革新的な新機能を発表。
・今後もユーザーに寄り添って、顧客データの価値を最大化し、
データドリブン経営の未来を提示していく。
<目次>
- CDPのフロントランナーに新たな機能を追加
- アナリストファームの格付けで、CDPリーダーに認定
- 革新の三本柱 AIの新機能を発表
- Marketing Copilot :対話型AIが拓く新たな可能性
- AI Email Studio:自動化がもたらす効率革命
- AI Framework:カスタムAIの実現
- AIと顧客データの紐づけが未来を予見させる
CDPのフロントランナーに新たな機能を追加
これまでもTreasure Data CDP は常に新たなイノベーションに挑戦してきた。
1年前にテーマとなっていたのはCDPのバッチ型、リアルタイム型の統合だ。バッチ型は、今までの行動情報すべてを含め、1時間に1回、1日1回などの頻度で処理し、大量の過去データとして扱う。一方、リアルタイム型は過去30日程度のデータしか扱わないが、その瞬間のパーソナライズができるものだ。
Treasure Data CDP では2つの機能を世界で初めて、単一製品で実装した。この時点でも十分に画期的だったが、「今年、さらなる発明を加えました」と語るのはCEO太田 一樹だ。
「それは『Zero Copy』です。今までは、Treasure Data CDPのストレージに、リアルタイムのデータとバッチのデータを入れる必要がありました。ただ、最近はIT部門の方がデータウェアハウスの方に重要なデータ、製品情報など、顧客情報ではないデータを入れていくケースが増えてきています。そこで今年、Zero Copyの『Live Connect』をリリースしました。これを使うと、SnowflakeやDatabricksといったパートナーのデータストレージに対してTreasure Data CDPから直接アプローチし、Zero Copyでバッチとリアルタイムのデータを統合できるようになります」
Zero Copyにより、IT部門とマーケティング部門が一緒になってデータを扱い、顧客体験を変える施策を生み出せるようになる。従来はシステム上の溝、データオーナーシップの溝というハードルがあったが、この選択肢が加えられたことで、企業が検討するアーキテクチャの幅が広がる。
他にも、Treasure Data CDPの製品レイヤー別にいくつかの機能が追加されている。例えば、ユーザーのプロファイル、ブランドごとのセグメントを簡単にする「Market Level Access Control」と呼ばれる機能はその1つだ。他にも顧客の属性情報だけでなく、大量のウェブのログデータを要約して、UIから下流のシステムに流す「Behavior Activation」も実装した。こうした機能により、マーケターが自らデータ活用できるようフレキシビリティを高めた。
ただ、どれだけ新しい機能を追加しても、使いこなせないと意味がない。そこで、新機能開発と並行して、データとプロファイルのレイヤー上に、マーケターが簡単に使えるインターフェイスをつくり込んできたという。
「お客様がカスタマージャーニーを使ってシナリオ配信する際に活用されてきたシステムがいくつかあります。ただ、どれも古く、ビッグデータのテクノロジーはおろかモバイルさえ存在しない時代のもの。わかりにくく、使いにくい。配信でこうしたシステムを使うことで、顧客体験も低くなっているのではないか。そう考え、それなら自分たちで発明しようと考え、開発したのがジャーニーオーケストレーションです」
図1 使いやすさ、拡張性、マルチチャネル、そしてバッチ型とリアル型の統合。使いやすさを突き詰めたジャーニーオーケストレーションの考え方が背景にある
アナリストファームの格付けで、CDPリーダーに認定
ジャーニーオーケストレーションによって、Treasure Data CDPの評価は世界中でさらに高まった。2024年、Gartner、Forresterというソフトウェアのアナリストファームが、初めてCDPの格付けを発表している。そこでは、Adobe、Salesforceと並んでトレジャーデータがリーダーとして選出された。「日本人がつくったソフトウェアでここまで評価されたのは、史上初かもしれません」と、太田は素直によろこびを口にする。国内ではもちろん強く、CDPとしては7年連続でシェアNo1を獲得している。
CDPのリーディングカンパニーであるトレジャーデータだが、もちろんそこで満足しているわけではない。より高い顧客体験の実現と、それによるユーザー企業のさらなる成長を目指して、AIの実装を中心に意欲的な取り組みを行っている。
「強調しておきたいのは、私たちの開発姿勢は終始一貫している点です。それは、『自分たちがつくりたいもの』ではなく、『お客様がほしいもの』をつくること。当社には9つの文化規範があり、そのひとつが『Customer is Never Wrong』、つまり『お客様は間違えない』というものです。お客様の声に耳を傾けるところから、すべての開発が始まるのです。実際、多くのマーケティング現場で話を聞くと、既存の業務フローが足かせになり、スピード感のある施策が打てていないという問題があることに気づきました」(太田)
大きなキャンペーンだと企画から実行まで3カ月から半年かかるものもあり、いくらCDPでデータ統合を行っても、この業務フローを改善しない限り大きな変革は起こらない。そう仮説を立てた。
マーケターがアイデアを思いついてからキャンペーンの実行まで、小さな企画なら数分、大きな企画でも数時間、数日で可能になれば世界が変わるだろう。そんな未来を実現するため、3つの新機能を用意した。
革新の三本柱 AIの新機能を発表
太田は、AIと顧客データを融合させた3つの革新的な新機能を発表した。これらの機能は、マーケティング業務の効率を劇的に向上させ、顧客データの活用範囲を大幅に拡大するものである。新機能群は以下の3つである。
- Marketing Copilot
- AI Email Studio
- AI Framework
これらの新機能群は、トレジャーデータが長年培ってきた技術力と、顧客のニーズへの深い理解が結実したものと言える。次のセクションでは、各機能の詳細について見ていくこととする。
図2 3つの革新的な新機能
Marketing Copilot :対話型AIが拓く新たな可能性
最初にあげたのが「Marketing Copilot」。社内で使った際、太田は「これで時代が変わる」と確信したという。
コンセプトは「あなたの顧客データと話せる」。それを見せるため目の前でデモンストレーションを行った。デモの内容は、顧客データを管理するWeb UIのAudience Studio。Marketing Copilotに対してテキストで問いかけるとコミュニケーションできるというものだ。
図3 「Marketing Copilot」のデモンストレーション。マーケターがAIと対話するように顧客データの抽出、組み合わせなどを行うことができ、従来のマーケティングの業務フロー削減を実現する
「例えば『リワードプログラムのメンバーを増やしたい』と問いかけると、AIがいくつかの考え方を示してくれます。そこから深掘りしたいポイントを選ぶと、さらに具体的な施策の方向性を示してくれます。スコア分布をわかりやすく図解したい場合、このシステムには描画エンジンも組み込まれているため、AIに指示するだけでグラフの表示も可能です。自然言語でやりとりしながら、顧客データと話す感覚でアイデアを練り上げていくことが可能です。マーケターが企画を形にするフェーズであれば、3カ月かかっていたものを3分でできるようになるはずです。ドラッグ&ドロップさえ必要なく、AIとの会話でターゲットをセグメントできる世界が広がっています」
AI Email Studio:自動化がもたらす効率革命
続いて紹介された新機能は「AI Email Studio」だ。従来、Treasure Data CDPでは各種アプリケーションにデータを渡すだけでコンテンツ作成を行う機能はなかった。しかし、AI Email Studioは、AIがEmailのテンプレート生成を可能にする。例えば「ブラックフライデー、革、ベルト、買いそうな人」というセグメントをつくり、こうしたキャンペーンを行いたいと自然言語で入力すると、配信するEmailのパターンを複数生成してくれる。
「良さそうなパターンを選び、人の手で編集することも可能ですし、CDPに入っている属性情報、おすすめの製品情報をEmailに埋め込むこともできます。これを配信エンジンと連携すれば、作成から配信まで一気通貫でできるようになります。社内で配信するメールで試したところ、3、4時間かかっていたものが数分でできるほどで、かなりの業務効率化が実現するはずです」(太田)
AI Email Studioの導入により、マーケターはコンテンツ作成の時間を大幅に削減し、より戦略的な業務に注力できるようになる。これは、マーケティング部門の生産性向上だけでなく、顧客体験の質の向上にも繋がる可能性がある。より適切なタイミングで、より関連性の高いコンテンツを届けることで、顧客エンゲージメントの向上が期待できるのである。
AI Framework:カスタムAIの実現
AI Frameworkは、Marketing CopilotとAI Email Studioを支える基盤技術であり、同時に顧客が独自のAIエージェントを開発するためのプラットフォームでもある。
AI Frameworkの最大の特徴は、大規模言語モデル(LLM)にTreasure Data CDPに格納された顧客固有のデータを「知識」として付与できる点である。太田は、「CDPの中に入っているこのデータとプロファイルを、LLMに知識として付与することができる」と説明し、これにより企業固有の文脈を理解したAIの実現が可能になることを強調した。
「例えば、去年のクリスマス商戦でのパフォーマンスをAIに聞いても、求める答えは得られないでしょう。AI Frameworkの場合、CDPのデータと紐付けられているため、『最もパフォーマンスが高かったのは高級品愛好家でした』などと答えてくれます。この機能がデフォルトとしてTreasure Data CDPに搭載されています」
太田の話を通じて、データ利活用が新しいフェーズ、本格的なAI利用のフェーズに入っていることが明らかになったことに加え、企業が競争優位性を高めるためには、AIのモデルと、顧客データをどうひもづけるかがカギであることが示された。さらに、トレジャーデータの取り組みは、夢や空想ではなくリアルな未来像として提示されたといえる。
AIと顧客データの紐づけが未来を予見させる
Treasure Data Connected World 2024 基調講演で紹介されたMarketing Copilot、AI Email Studio、AI Frameworkという3つの革新的な機能は、単なる技術革新を超えて、ビジネスのあり方そのものを変革する可能性を示している。
太田は講演の締めくくりとして、「Treasure Data CDPの新機能を活用し、皆様のビジネスの向上に貢献できることを願っています」と述べ、聴衆に新たな挑戦を呼びかけた。この言葉には、AIと顧客データの融合が単なる技術的な進歩ではなく、ビジネスの成果に直結する戦略的な取り組みであるという強いメッセージが込められている。
AIと顧客データの融合による新たなCDPの姿は、企業のデータ活用戦略に大きな変革をもたらす可能性を秘めている。例えば、より個別化された顧客体験の提供、業務効率の飛躍的な向上、そして組織全体でのデータ活用文化の醸成など、多岐にわたる影響が期待される。
今後、企業はこれらの技術をどのように活用し、自社のビジネスモデルを進化させていくのか。AIと顧客データの融合が織りなす新時代において、各企業がどのような戦略を展開し、競争優位性を獲得していくのか。Treasure Data Connected World 2024は、その未来への扉を開く重要な一歩となったと言えるだろう。
Treasure Data, Inc.創業メンバー。左から、芳川、太田、古橋。