データドリブンで切り開く@cosmeのネクストステージ
美容系総合サイトの「@cosme」のプラットフォームには、コアユーザーである20代、30代の女性を中心とした、膨大な顧客行動データが日々蓄積されている。同サイトを運営するアイスタイルでは、この美容系ブランドにとって極めて魅力的なデータベースをもとに、データドリブンな新サービス立ち上げを進めているという。同社の講演ではデータ活用の新たな領域を切り開くサービスの背景や@cosmeが目指す世界観について紹介された。
【この事例のポイント】
・@cosmeは、美容に関わる様々な「モノ・コト・ヒト・バショ」のデータが蓄積されていたが、その利活用が課題だった。
・Treasure Data CDPの導入により、ウェブサイト、EC、実店舗、グループ各社に散在していたデータを統合。全社横断のプラットフォームを構築した。
・生活者の行動ファクトデータをコンサルティングに活用することで、クライアント企業の上流から下流まで、顧客解像度の高いサービスを提供可能になった。
<登壇者>
株式会社アイスタイル
ブランド体験ユニット データビジネス開発推進本部 本部長
押野 卓也氏
SCデジタル株式会社
テクノロジー本部 DXソリューションズ General Manager
竹島 勝史氏
<目次>
- 「宝の山」のデータベースから新ビジネスを創造
- 膨大な量のデータに向き合うための「Treasure Data CDP」
- 経営層に向けたアウトプットをゲームチェンジのきっかけに
- 美容領域からはじめ、将来は他領域にも展開していきたい
「宝の山」のデータベースから新ビジネスを創造
マーケティング、営業戦略などの構築、実践を検討する際の重要キーワードとなっているデータドリブン。多くの企業がデータの重要さを認識し、収集、蓄積、そして分析を進めているが、効果的に活用できているケースはそれほど多くない。美容系総合サイトの「@cosme(アットコスメ)」を企画、運営するアイスタイルでも、データ活用が経営課題になっていたという。
「@cosmeの利用者は20代、30代の女性が中心で、登録会員数は約1000万人、ユニークユーザー数(一定期間内に特定のWebサイトを訪れたユーザーの実人数を表す指標)は月間約1900万人、口コミ数は2000万件、登録ブランド数は約43000件となっています。ウェブサイトだけでなく、ECや実店舗も運営しており、日々、膨大なユーザーの行動データが蓄積されていました。このデータベースに大きな価値があることは以前からわかっていましたが、そのデータをなかなか効果的に活用するまでには至っていませんでした。そこで社内でいろんな可能性を検討し、新規ビジネスの立ち上げに挑むことになりました」とアイスタイルの押野 卓也氏は振り返る。
アイスタイルのデータベースには、美容関係の口コミ、評価といった、利用者=生活者起点の行動ファクトデータが蓄積されている。このデータは美容関係事業者にとって、まさに宝の山だ。このデータを活用すれば、新商品を生み出すヒントとなり、想定ユーザーに的確にアプローチできているかの指針も得られる。データドリブンな企業向けマーケティング支援サービスを提供する条件は揃っていたといえるだろう。
実現するために欠かせない要件として、押野氏があげるのがデータ統合である。メディア、EC、店舗といった内部データに加え、SNS、ブランド提供データなど、様々なデータをCDP(統合データ基盤)に蓄積し、分析・加工を行う。そこではじめて、ヒト(誰が)、モノ(どこで・何を)、アクション(何を思って・どうした)など、機動的に活用できるデータとして抽出できる。
「顧客体験を向上させるCRM、新商品開発への活用、またマーケティング施策や営業戦略への活用など、クライアント企業が欲しい情報、サービスを提供できるようになり、これが新しく提案するビジネスの全体像になります。また、口コミデータから、ブランドのユーザー像や評価点をAIがまとめ、ユーザーインターフェースで可視化するサービスの開発も進めているところです」(押野氏)
新サービスの心臓部となる、CDP構築をサポートしたのがSCデジタルだった。同社の竹島 勝史氏は、今回の取り組みの重要なポイントとして次の2つをあげる。1つ目が「単独のデータだけでは深い分析ができないため、顧客を軸に様々なデータを統合し、再分類すること」。2つ目が「IT関連部門に頼らず、マーケティングなど事業部門の現場でデータ分析、施策への利用がスムーズにできること」だ。
膨大な量のデータに向き合うための「Treasure Data CDP」
そうした環境を構築するため、アイスタイルが選んだのが「Treasure Data CDP」である。なぜTreasure Data CDPだったのか。それには大きく2つの理由があるという。1つは、「様々なデータを顧客軸で統合し、Excelでピボットを組むように、柔軟に運用する必要があったこと」。もう1つは「コンサルティングサービスにデータを活用するには、クライアントからの課題に対して迅速な対応が必要であり、マーケティング現場でデータを管理、加工し、ビジネスに転用できる機動性が必要だったこと」。この2つの要件を、高度に満たしていたのがTreasure Data CDPだったという。
データの保管場所や管理者がバラバラ。定義書のあるものとないものが混在するなど、管理に関する問題もあった。その他にも担当エンジニアが忙しすぎたり、新たなことを始める際の心理的抵抗があったりと、組織・人に関わる問題が山積していた。
こうした課題を突破できたポイントはどこにあったのか。押野氏は「自分はデータの専門家ではなく、エンジニアと対等に話ができるレベルではありませんでした」と前置きした上で、2つのポイントをあげる。
「ポイントの1つはデータまわりの変革、新しい事業創造に共感してくれる仲間を、社内でどれだけ集められるかです。その点、今回のプロジェクトでは自分と同じケイパビリティを持つ人だけではなく、システム構築の経験があったりSQLが書けたりなど、自分に欠けている部分を補ってくれる仲間を持てたのが大きかったと思います。もう1つは『折れない心』というか、どんな状況に直面しても、諦めず、粘り強く、絶対にやり遂げる信念を持つことです。信念は軸と言い換えてもいいでしょう。揺るがない軸を持ち、たとえこの提案がダメでも、二の矢三の矢を用意しておいて、別の角度からアプローチするようにしていました」
経営層に向けたアウトプットをゲームチェンジのきっかけに
顧客を軸に統合していく場合、顧客にひもづかないデータは基本的には使えないデータとなり、ここはわかりやすい。ビジネスに使いたいデータの検討については、通常はクライアントの要望から始まるが、今回は分析サービスの側面があるため、何を持って使えると判断するかの見極めは難しい。
「そこでアイスタイルのチーム、我々SCデジタルのチームで検討しながらひも解いていきました。幸い、我々の組織にはマーケティング業務の経験者が多数在籍しているため、現場感覚に即した提案ができたと思います」(竹島氏)
これはSCデジタルの強みが発揮できた部分といえるだろう。現在はシステム構築のフェーズ2であり、この先は、整理、蓄積されたデータをビジネスに活用するフェーズ3となる。具体的なマーケティング施策に、「Journey Orchestration」「Audience Studio」など、Treasure Dataの機能を活用していく予定だ。エンジニアに頼らなくても、マーケターが自分でデータ抽出、転用を行う環境を整えることが、このプロジェクトでゴールであると同時に、アイスタイルの新ビジネスのスタートでもある。
それでは今後、アイスタイルはデータを活用した新ビジネスの提供で、どのような未来図を描いているのだろうか。基本は、蓄積された生活者の行動ファクトデータを使い、クライアント向けに製品開発、マーケティングや営業の戦略策定の支援をすることだ。その視座について、押野氏は次のように語る。
「@cosmeは広告サービスをメインに事業推進してきましたが、我々が保持するデータをあらためて俯瞰すると、意思決定者や経営層など、もっと上流に向けてアウトプットすることで、ゲームチェンジが起こせるのではないかと考えています」
同社が顧客に話を聞いたところ、様々な戦略を立て、施策を打ちながらも、この製品開発の方向は正しいのか、マーケティングの施策はターゲットに届いているのか、自信を持って答えられない企業が少なくないのだという。目線が自社内で閉じてしまっているケースが多く、突き詰めると「何を根拠に判断すればいいのかわからない」という課題に直面しているわけだ。
美容領域からはじめ、将来は他領域にも展開していきたい
「Treasure Data CDPを活用することで、すべてのデータをユーザー起点で見られるようになるため、何をきっかけに自社商品を買ってくれたのか、どこを評価しているのか、といったことに気づくきっかけになるはずです。ユーザーの口コミを通じて、クライアントが自社製品の真の価値に気づけば、より実効性のある製品開発、マーケティング施策が可能になるでしょう。そのお手伝いを上流から下流まで行っていきたいと思います」(押野氏)
その具体例の1つが「マーケティング支援」だ。詳細なユーザークラスタ群を見極めた上でのアプローチ実行が可能になる。次に「CRM活用」。自社の顧客、コアバリューへ理解を深めると同時に、新規顧客獲得、既存顧客のLTV(Life Time Value=顧客生涯価値を意味する指標)向上を実現する。
さらに「新製品開発」の支援も行える。@cosmeを軸に、市場発掘、アイデア出し、PR戦略の策定が可能になるからだ。ユーザー像が明確になることで、サービスを受けるすべてクライアントにこうした価値を届けられるという。まず、コア領域である美容系で事業を展開し、将来的には20代、30代の女性をメインターゲットとする商材、サービスへの応用も視野に入れている。
多くの事業者が直面しているデータ統合、利活用のハードルを越え、Treasure Data CDPがエンジンとなる推進力で、新たな事業創造に着手したアイスタイル。今後もデータドリブンな新サービスを強力に推進していく考えだ。