VIVA TECHNOLOGYの衝撃 – 仏オープンイノベーション事情
5月後半、初夏の陽気を感じさせるパリで、ひときわ熱気を放つイベントが開催されました。「TREASURE DATA PLAZMA」に強くインスピレーションをもたらしたテクノロジーとオープンイノベーションの一大イベント、VIVA TECHNOLOGY 2018。これまでも当サイトにて幾度も触れてきたVIVA TECHNOLOGYですが、改めてその熱を感じるべく、PLAZMAでプロデューサーを務める西村 真里子 氏(HEART CATCH)が現地に飛びました。フランスのみならず、世界中のスタートアップとエンタープライズがなぜVIVA TECHNOLOGYに注目しているのか、西村氏のレポートをお送りします。
VIVA TECHNOLOGYが世界中から注目される2つのポイント
トレジャーデータ 堀内 健后 氏が昨年登壇した仏オープンイノベーションプログラムVIVA TECHNOLOGY。まだ3年目のイベントなのにマクロン大統領、マーク・ザッカーバーグ(Facebook)、エリック・シュミット(Google/Alphabet)が登壇し、企業としてはLVMH、L’Oréal、La Poste、Airbus、IBM、Alibaba、Softbank Roboticsなどグローバル企業が大きくブースを構える。世界125カ国から来場者数100,000 人、参加スタートアップ9,000社、参加投資家数2,000人を迎えるパリ南部の会場は常に賑わっていた。初日の入場時は大混雑し、なかなかエントランスまで辿り着けなかった。
2018年5月24日から3日間開催されたVIVA TECHNOLOGYはオープンイノベーション、デジタルトランスフォーメーションを掲げるイベントなのだが、そのようなイベントは世界に多く存在する。なぜVIVA TECHNOLOGYが注目されるのか? 昨年登壇した堀内氏から話を聞き、自身で調査をして注目のポイントをまとめてみた。
① n:nのオープンイノベーション。
グローバル企業が自社の課題をオープンにし 世界中のスタートアップからソリューションを受け付けている。大企業:スタートアップ=1:nではなく、n:nで課題解決に向かっているのだ。例えばLVMHの課題を解決できるスタートアップがVIVA TECHNOLOGYの会場でL’Oréalの新規事業担当と会い、LVMH & L’Oréal向けにビジネスを提供することができる。大企業側もお互いの課題を共有し手を組めるような仕組みが提供されている。オープンイノベーションへの仕組みが大企業・スタートアップ・インターナショナルに開いているのが特徴のひとつである。
② 「クリエイティブ」価値観のシフト。
世界最大級の広告代理店ピュブリシスは、2017年、慣習化しているカンヌライオンズへの参加を2018年は取りやめると発表した。カンヌライオンズへ費やしていた費用を人工知能活用HRシステム開発に当てるために、だ。そのピュブリシスはVIVA TECHNOLOGYを主催し、会長のモーリス・レヴィはマーク・ザッカーバーグやエリック・シュミットとのトークショーをモデレートする。あたかもピュブリシスは広告企業からITテクノロジー企業へシフトしていることをアピールするかのように。デジタルトランスフォーメーションを積極的に活用することがクリエイティブであるとも受け取れる。
このような注目ポイントを前提に臨んだVIVA TECHNOLOGYだったが、実際には思った以上にインパクトを受けた。その規模、熱気、世界を、家族を巻き込む施策のエレガントさに圧倒された。
仏大統領マクロンが掲げた3つのテーマ
マクロン大統領が基調講演に登壇し、力強い演説をしたのも大きいだろう。マクロンはフランス語と英語の両言語でフランスがイノベーションリーダーであることを強調していた。フランス語ファーストで話すこともあれば、トピックによっては英語ファーストで演説をした。マクロンが演説する会場には満員御礼で入れず、私はVIVA TECHNOLOGY会場内のライブストリーミングスペースで視聴したのだが、その内容には「人工知能の拠点としてのフランス」「アフリカのポテンシャル」「アメリカ、中国ではなくフランスを目指すべき理由」が含まれていた。
Facebook、Google、IBM、MicrosoftらITジャイアント達は人工知能の研究所をフランスに構えている。マクロン大統領はこの動きを支援し加速させるために「France is an AI hub (フランスが世界の人工知能拠点である)」と基調講演で強調した。最前列で聞いていたIBM のジニ・ロメッティCEOが微笑み、うなずきながら聞いているシーンがカメラで捉えられたのが印象的だった。
今回のVIVA TECHNOLOGY会場内では大企業のブースに負けずに存在感を示していたのがアフリカ諸国のブースであった。マクロン大統領は「アフリカの課題を解決し、発展に寄与する」と演説をしていた。スタートアップの支援はもちろん、アフリカ市場へも意識を向けることによりビジネス拡大の可能性を大きく描いている。実際にVIVA TECHNOLOGY会場の一角ではアフリカのスタートアップの展示およびピッチステージが常に賑わっていた。50万のサービスと連携できるフィンテック「Wari」や、デジタルトランスフォーメーションを掲げるモロッコ、 エネルギーやアグリテックを中心にブース出展するスタートアップなどアフリカビジネスのポテンシャルを十分に感じることができるマクロン大統領の演説やアフリカ各国の取り組みだった。
マクロン大統領の演説はアメリカや中国批判へも繋がった。アメリカ政府のハイテク企業への規制やオンラインサービスの不正利用など十分な対策が取られてないことや、中国は魅力的な市場ではあるが中国政府は、プライバシー、人権、男女平等などはまだ未熟であることを批判していた。フランスは既存ビジネスとスタートアップビジネスを共存させる新たなビジネスモデルを構築し、実践しておりイノベーションにとって最適な場所であるということもメッセージとして強く残った。大統領が基調講演に立ち、仏英両言語で世界にメッセージを発信している姿はとても羨ましい光景であった。
ロボット、VR – ファミリーにも開かれるテクノロジー
VIVA TECHNOLOGY会場内ではロボット、VRの展示も多く目についた。 L’Oréalはロボットアームを活用したメイクデモンストレーション、マスカスタマイゼーションが可能なファンデーションや、リアルタイムトラッキングが可能なスマートミラーなどをスタートアップと組んで展示しており、美容分野でもテクノロジーへの理解が深い企業であることを伝えていた。
Softbank Roboticsは ビジネスデイである最初の2日間はスタートアップのデモンストレーションをPepperやNaoを利用して行っていたのだが、ファミリーデイである3日目最終日はWYSIWYGでロボットコントロールができるプログラム環境を提供して子ども向けのワークショップを開催していた。
VIVA TECHNOLOGYで感動したポイントのひとつにこのファミリーデイという仕掛けも含まれる。3日間の開催イベントの最終日を土曜日にし、ファミリーデイとして子どもたちが参加できるようにするのは、日本でも適用できる仕掛けなので是非取り入れていければと考える。なぜならばビジネス向けに展示しているロボットやVRも、今後活用していくのは若い世代なので、彼らが最新テクノロジーに触れ、自分のものとしていくことが未来の社会を強くすると考えるからである。上記のSoftbank RoboticsのNaoプログラミングは目を輝かせてブースから離れない子どもたちで賑わっていた。日本では13歳以下はNGとされているVRも親が許可をすることにより小さい子どもたちが体験をしていた。いま起きている変化を大人も子どもも一緒に体験していくことが未来を作る上では大事であることを再認識させられるファミリーデイという仕掛けであった。
ロボット、VR – ファミリーにも開かれるテクノロジー
VIVA TECHNOLOGYでは大統領が指揮を取り、大企業とスタートアップが融合し、そしてアフリカの発展を応援しつつも、子どもたち次世代にもテクノロジーに触れるチャンスをつくっていた。様々なレイヤーでビジネス拡大を目指す姿勢を十分にアピールできたフランスVIVA TECHNOLOGYに来年日本から参加する企業も増えるだろう。その際にはスタートアップはフランス企業のブースで出展することを目指し、日本の大企業はフランススタートアップと組むことを考えて臨むことによりオープンイノベーション、デジタルトランスフォーメーションは更に深度を増していくだろう。
トレジャーデータが掲げるPLAZMAでもその一端を担っていきたい。
(西村 真里子)