1905年に創刊した『婦人画報』をはじめ、『ELLE』『Harper’s BAZAAR』『25ans』『MEN’S CLUB』などファッション、カルチャー、デザイン、フード、ウエディングなど幅広いジャンルの雑誌やデジタルメディアを展開するハースト婦人画報社は、日本を代表する老舗出版社のひとつだ。現在は、グローバルなパブリッシャーグループであるハースト社(米国)の傘下でメディアビジネスを展開している。
同社は、データを活用した新たなデジタルマーケティングソリューションを広告主に提供を開始した。読者と強いエンゲージメントを築く同社メディアから生まれるデータを、どのようにマーケティングに活用しているのだろうか。株式会社ハースト婦人画報社 ハーストデータスタジオ & デジタルビジネス ビジネスデベロップメントマネージャーの須藤摩耶氏が『多彩な14メディアを持つパブリッシャーが挑戦する新たなブランドマーケティング』と題した講演で紹介した。
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1905年に創刊した『婦人画報』をはじめ、『ELLE』『Harper’s BAZAAR』『25ans』『MEN’S CLUB』などファッション、カルチャー、デザイン、フード、ウエディングなど幅広いジャンルの雑誌やデジタルメディアを展開するハースト婦人画報社は、日本を代表する老舗出版社のひとつだ。現在は、グローバルなパブリッシャーグループであるハースト社(米国)の傘下でメディアビジネスを展開している。
同社は、データを活用した新たなデジタルマーケティングソリューションを広告主に提供を開始した。読者と強いエンゲージメントを築く同社メディアから生まれるデータを、どのようにマーケティングに活用しているのだろうか。株式会社ハースト婦人画報社 ハーストデータスタジオ & デジタルビジネス ビジネスデベロップメントマネージャーの須藤摩耶氏が『多彩な14メディアを持つパブリッシャーが挑戦する新たなブランドマーケティング』と題した講演で紹介した。
One to Oneマーケティングの時代、メディアがデータ基盤を導入して生まれた効果
インターネット広告を巡っては、近年ユーザーのメディア接点の多様化や広告主が求める指標の細分化などを背景に、不特定多数へのマスアプローチから、ユーザーひとりひとりの興味関心にピンポイントにコミュニケーションを行うOne to Oneマーケティングへと大きく転換している。
ハースト婦人画報社でも、同社が展開する多種多様なメディアとその編集力・クリエイティブ力に、データを活用したソリューションを加えて、広告主の課題に対応していくソリューションを展開しているという。その中心となっているのが、2019年に立ち上げた全社横断型の組織「Hearst Data Studio(ハースト データ スタジオ)」だ。
「1st Party Data、グローバルの知見、アドテクノロジーとの連携を掛け合わせることで、データを活用して『認知』から『拡散』『ロイヤル化』までをカバーする様々なソリューションを展開している」(須藤氏)。
須藤氏によると、同社の1st Party Dataに含まれるのは、デジタルメディアの訪問者約1700万ユーザー、会員組織である「Hearst ID」登録者約75万ユーザーのデータ、そして同社が実施する読者アンケートのデータ年間150回分など。これらユーザーから得られるコンテンツの閲覧履歴、ECの購買行動、アンケートの回答、雑誌購読状況などをもとに、インサイト分析、コンテンツ最適化、ターゲティング、ユーザー育成、潜在顧客の発掘、アプローチの最適化、広告効果検証を展開しているのだ。
「メディアの特性を活かして、他とは異なる1st Party Dataを構築できていると自負している」
そして、同社ではこうした1st Party Dataを活かすことで、従来の広告商品に加えて読者の興味関心に焦点を当てた広告・マーケティングソリューションのメニュー「Hearst Premium Audience(ハースト プレミアム オーディエンス)」を展開。タイアップ広告展開と施策終了後のリッチレポート、データ分析によるユーザーインサイトレポート、サンプリングキャンペーンなどを提供しているという。
そして、こうした施策を実現するためのデータ基盤として、同社では「Treasure Data CDP」を導入した。
「Treasure Data CDPを選んだ理由は、サイロ化した多種多様なデータを格納できるシステムの柔軟性、データ分析やツール連携のしやすさ、利用企業の多さとネットワーク、そして豊富な知識とサポートだった」(須藤氏)。
須藤氏によると、Treasure Data CDPを導入したことによって、2つの効果が生まれたという。ひとつは、コンテンツの効果向上。コンテンツの閲覧傾向などから分析したユーザーインサイトと、同社が持つ編集力、コンテンツ力を掛け合わせることによって、見せたいコンテンツを見せたいユーザーに的確に届けることが可能になったという。タイアップなどの広告施策においても、次の施策への最適化ヒントが見えることによりPDCAサイクルが回るようになったのだ。
そしてもうひとつは、セグメントの精度向上だ。従来型のサイロ型ビジネスでは、メディアごとのユーザー分析しかできなかったが、Treasure Data CDPでデータを統合管理したことによって、メディアを横断してユーザーを分析できるように。広告ビジネスにおいては、データに基づいてすべてのメディアから最適なメディア提案ができるようになったほか、トレジャーデータの共通Cookie IDによって広告主とのIDエクスチェンジが可能になり、セグメンテーションの精度が向上したのだ。
「データを活用することで、購買力、興味関心、年代などユーザープロファイルの推定も可能になった。1st Party Dataを活用した我々ならではのプロファイル推定は、広告主のセグメント精度向上やターゲティングに寄与できる」(須藤氏)。
メディアと広告主がデータを掛け合わせることで、ユーザー理解が深化する
このような前提を踏まえた上で、須藤氏はIDエクスチェンジを活用したソリューション展開のスキームを紹介した。
IDエクスチェンジとは、Treasure Data CDPで提供している共通Cookie IDを導入している企業同士が合意の上で双方のIDを連携させることで、ID=ユーザーに対する深い分析を可能にするという仕組みだ。ハースト婦人画報社では、同社が保有するメディア閲覧データや購買データなどと、広告主の保有する閲覧データ、購買データ、広告接触データ、会員情報などといったデータを掛け合わせて、顧客像を深く分析する。
「これによって、マーケティングの最適化や共同での新商品・新サービスの開発が可能になる。メディアのオーディエンスデータだけでは理解できない部分まで顧客を深く分析することができる」(須藤氏)。
では具体的に、どのようにIDエクスチェンジを広告展開に活かすのか。例えば、商品・ブランドの認知度は高いが、こだわり層へのアプローチに課題を感じている広告主が、親和性の高い顧客を抽出して効果的なアプローチを行い、興味関心を高めるために広告施策を展開したいとする。
その場合には、まず広告主の特定ページを来訪したユーザーの共通Cookie IDをハースト婦人画報社と共有。メディア側のオーディエンスデータと掛け合わせることによって、(1)すでに購買行動がみられる「顕在層」グループ、(2)広告主の商品ページを閲覧しているなどすでに商品検討の段階に入っている「見込み層」グループ、広告主のページは来訪していないが、商品への興味関心が推定できる行動履歴を持つ「潜在層」グループに分類し、それぞれのグループに応じた施策を展開するという。
具体的には、「顕在層」グループは施策のターゲットからは外すが、分析したデータは他のグループにとっての“教師データ”として活用。そして商品を検討している「見込み層」グループには購入に向けて背中を押してあげるコンテンツを、「潜在層」グループには興味や需要を喚起するコンテンツをそれぞれ展開するのだという。
「セグメントされたデータに対してTreasure Data CDPを活用してペルソナを作成し、メディア選定、コンテンツ、集客プランをプランニングしている」(須藤氏)。
そして、施策実施後には定量結果レポート、インサイト分析レポート、態度変容レポートという3種類のレポートを提供。特に、インサイト分析レポートでは、データ基盤を活用してコンテンツの読了率や他のメディアへの関心などを可視化。次の施策への課題やヒントを発見しているのだそうだ。
「経路別の流入率によるコンテンツへの誘導施策の最適化や、他のメディアとの相性分析から次の施策に活用するメディアの検討、関心キーワード分析から新たなコンテンツのアイデアなどを提供している」(須藤氏)。
このように、ハースト婦人画報社ではTreasure Data CDPを中核としたデータ基盤を活用することによって、広告施策をスケールメリットではなくユーザーインサイトの深い理解に基づく緻密なセグメンテーションによって展開し、独自の広告ソリューションを実現した。
なお、須藤氏によると、IDエクスチェンジを利用しない企業に対しても、データ基盤に基づいたユーザー分析に基づき、カスタマイズされた興味関心層にリーチするタイアップコンテンツ施策を提供。
具体的には、ユーザーの興味関心を測る意図でメール広告を配信し、反応したユーザーのインサイト分析を元に全ユーザーの中から興味関心層を推定。類似拡張して配信セグメントを作成し、広告を配信しているという。
「まだメディアデータを活用したマーケティングを実施したことがない企業もすぐに利用可能。是非活用を検討いただきたい」と須藤氏は講演を締めくくった。
須藤 摩耶 氏
株式会社ハースト婦人画報社
ハースト データ スタジオ & デジタルビジネス
ビジネスデベロップメントマネージャー
パフォーマンスマーケティングのスタートアップで新規事業開発やデータ分析を担当、金融業ブランドのデジタルマーケティングシニアマネージャーを経て、計10年以上デジタルマーケティングに従事。2019年ハースト・デジタル・ジャパンに入社し、データ・スタジオの立ち上げに参画、現在は、社内のデータの一元化に向けた整備、商品開発など担当。