一般的に、B2B領域におけるデジタルマーケティングはオンライン・オフラインでリードを獲得し、MAツールを駆使して、リード管理とナーチャリングを行い、ホットリードを見つけ出して営業部門に渡していくというのがセオリーだ。マーケティング部門はリードの獲得が至上命題であり、営業部門から有望なリードの供給が求められるなかで、常にリードの枯渇と闘っている。
しかし、コンピューター・プリンター分野で長らく業界をリードしてきた日本HPのB2Bマーケティングは、アプローチが大きく異なる。Treasure Data CDPを中核としたデータベースを軸に様々なマーケティングツールを連携させ、見込み顧客を立体的に把握したデジタルマーケティングを展開している。株式会社日本HP パーソナルシステムズ事業統括 コマーシャルマーケティング部 部長の甲斐博一氏が、「統合型DB活用、体験をつくるつなげるB2Bマーケティング」と題した講演で、同社のBtoBマーケティングのポイントを解説した。
「営業のサポート」はBtoBマーケティングの目的ではない
甲斐氏は、主力商品であるPC、プリンター領域でBtoC、BtoCのマーケティングを幅広く担当。ECビジネスの立ち上げをはじめ、キャリアを通じて営業、販促、マーケティングのデジタル化を推進してきた。現在は産業用印刷機器のマーケティングを推進しており、トラディショナルなBtoBマーケティングの手法をDXするというアプローチを試みているという。
具体的に取り組んだのは、下記の5つのポイントと順番だ。
1.構造化・非構造化に関わらず様々なデータを集めて統合型マーケティングDBを構築
2.新規デジタルチャネルの構築と展示会などオフライン施策の統合
3.リードライフサイクルマネジメント運用モデルを確立してMAを実践
4.データベースを中核にしてマーケティングツールの連携方法を確立
5.新しいチャネルに展開するデジタルコンテンツの開発と実装
甲斐氏によると、スピード感をもってマーケティングを進めるために、これらマーケティング戦略を実現するプロセスを、わずか3か月で準備したという。新しいデジタルチャネルとして、オウンドメディア「Tech & Device TV Powered by HP 」も開設し、1st Partyデータを確実に取れる手段を確立した。「すでに他のビジネスで運用されていたものを連携させて作った。カニバリゼーションを生まずに構築する点に気を配った」と甲斐氏は振り返る。
ではなぜ、甲斐氏は従来型のリード獲得・ナーチャリングモデルではなく、データベースの構築から取り組んだのか。それは、甲斐氏が考えるマーケティングの本質と大きく関わっているという。
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一般的に、B2B領域におけるデジタルマーケティングはオンライン・オフラインでリードを獲得し、MAツールを駆使して、リード管理とナーチャリングを行い、ホットリードを見つけ出して営業部門に渡していくというのがセオリーだ。マーケティング部門はリードの獲得が至上命題であり、営業部門から有望なリードの供給が求められるなかで、常にリードの枯渇と闘っている。
しかし、コンピューター・プリンター分野で長らく業界をリードしてきた日本HPのB2Bマーケティングは、アプローチが大きく異なる。Treasure Data CDPを中核としたデータベースを軸に様々なマーケティングツールを連携させ、見込み顧客を立体的に把握したデジタルマーケティングを展開している。株式会社日本HP パーソナルシステムズ事業統括 コマーシャルマーケティング部 部長の甲斐博一氏が、「統合型DB活用、体験をつくるつなげるB2Bマーケティング」と題した講演で、同社のBtoBマーケティングのポイントを解説した。
「営業のサポート」はBtoBマーケティングの目的ではない
甲斐氏は、主力商品であるPC、プリンター領域でBtoC、BtoCのマーケティングを幅広く担当。ECビジネスの立ち上げをはじめ、キャリアを通じて営業、販促、マーケティングのデジタル化を推進してきた。現在は産業用印刷機器のマーケティングを推進しており、トラディショナルなBtoBマーケティングの手法をDXするというアプローチを試みているという。
具体的に取り組んだのは、下記の5つのポイントと順番だ。
1.構造化・非構造化に関わらず様々なデータを集めて統合型マーケティングDBを構築
2.新規デジタルチャネルの構築と展示会などオフライン施策の統合
3.リードライフサイクルマネジメント運用モデルを確立してMAを実践
4.データベースを中核にしてマーケティングツールの連携方法を確立
5.新しいチャネルに展開するデジタルコンテンツの開発と実装
甲斐氏によると、スピード感をもってマーケティングを進めるために、これらマーケティング戦略を実現するプロセスを、わずか3か月で準備したという。新しいデジタルチャネルとして、オウンドメディア「Tech & Device TV Powered by HP 」も開設し、1st Partyデータを確実に取れる手段を確立した。「すでに他のビジネスで運用されていたものを連携させて作った。カニバリゼーションを生まずに構築する点に気を配った」と甲斐氏は振り返る。
ではなぜ、甲斐氏は従来型のリード獲得・ナーチャリングモデルではなく、データベースの構築から取り組んだのか。それは、甲斐氏が考えるマーケティングの本質と大きく関わっているという。
マーケティングの目的を短期的にとらえると、様々な考え方がある。「案件を獲得したい」「営業活動を効率化したい」「ブランディングがしたい」「顧客を深く理解したい」。これに対して甲斐氏は「マーケティングの目的は顧客理解につきる 。BtoB・BtoC、デジタル・非デジタル、どんな手法でも、これ以上に大切なものはない」と語る。
ただ、残念なことに日本企業において「顧客を理解したいから」という目的でマーケティング予算を獲得しようとすると、なかなか上手くいかない。上層部からは当然、成果・売上が求められてしまうのだ。これについて甲斐氏は「日本企業は営業が強い。営業が会社を成長させてきたという自負があり、経営層も営業部門出身が多い。『営業をサポートするのがマーケティング』という考え方が根付いているのではないか」と指摘する。
結果的に甲斐氏は、社内に対しては「案件獲得を目指す」ことを、そしてマーケティング部門としては「顧客理解を深める 」ことを目的とするという具合に、立場を使い分けながら両方に対して答えていく日々を送っているのだそうだ。なお、マーケティングの目的には「営業の効率化」「ブランディング」という考えもあるが、これについては「目的化するものではない。案件獲得、顧客理解を推進する過程において結果的に実現するものではないか」と指摘した。
人と組織を、データベースで結びつける
BtoBマーケティングにデータ基盤を導入するという考え方は、グローバル企業や国内の大手企業などで広がりつつあるが、BtoCマーケティングにおけるデータ活用と比較すると、決して多数派とは言えない。この点について甲斐氏は「経営側が求めるのは案件。案件を出すのであればMAツールだけでもできるという考え方があるのではないか」と指摘する。
確かに、一期一会のリードに対して見込み度合いを判断し、営業に引き渡すという従来型のBtoBマーケティングであれば、MAツールだけでも可能だろう。多くの企業が、営業サポートというスタンスでマーケティングを考え、ツールの活用に留まってしまう。しかし甲斐氏は次のように指摘する。
「顧客を深く理解しようと思ったらデータベースは必要だ。真の顧客理解とは、リアル・デジタルの行動を統合的に把握すること。顧客の普段の社内活動(セミナーや展示会)があって、その上にデジタルでの行動が乗っている。どんなテーマに興味があるのか、組織全体でどのような課題を持っているのか。そしてそれはどんな相関や因果があるのか。それを把握するためには、MAツールだけでは足りない」。
とはいえ、BtoCのマーケティングとは異なり、BtoBのマーケティングは個人の背後にある会社という組織まで把握しなければ、上手くいかない。甲斐氏によると、この「人と組織を結びつけること」が、BtoBにおけるデジタルマーケティングの出発点なのだという。
「BtoBマーケティングでは、相手は“人”だが背景には“組織”がある。アクションするのはある属性を持った人であり、個人を相手に情報提供やイベントの勧誘などを行う。しかし実際には、そこから組織の中のディシジョンメーカー・インフルエンサー・経営者とその構造を把握しなければならない」(甲斐氏)。
オンライン・オフラインを統合したデータベースを構築
では、どのようにデータベースを構築していったのだろうか。甲斐氏によると、まずは名刺データやイベントで収集した個人データを中心に、それにオンラインの行動データ、オフラインの行動データ、ISR/OSRの活動情報、そしてその人が所属する会社情報を結びつけるという作業が始まりなのだという。
「BtoBマーケティングでは、扱う商材にもよるが意思決定はオンラインだけですることは少なく、オフラインでの行動も統合して把握する必要がある。個人に関するすべての情報が結びついていないといけない。またその集合体を企業単位で把握することも重要。そこに案件データを組み合わせて、その会社がどんな状況にあるのかと個人の行動の関連性から顧客を理解することが重要だ」(甲斐氏)。
具体的には、Treasure Data CDPによって構築したデータ基盤に、会社情報、コンタクト情報、デジタル・オフラインの行動履歴、案件情報、購買情報などを統合したマーケティングDBを構築。そこに、MAツールやSFAツール、CRMツールなどとAPI連携を行い、自動化を実現したのだ。
こうして構築されたデータベースを、甲斐氏は「体験の創出」のためにに活用するという。つまり、ビジネスが進行するタイムラインを考えた時間軸の設定、見込み顧客にリーチするためのチャネルの整理、コミュニケーションの出発点となる顧客と共有するストーリー作り、チャネルに合わせて最適化されたクリエイティブ・コンテンツの構築、そして施策に対する顧客の反応・アクションをデータベースと連携して評価する。顧客体験を作り反応を評価しながら顧客を理解するというカスタマージャーニーの発想で、データを活用したマーケティングを展開するのだ。
「データベースを活用することでROIの管理も変わる。ひとつひとつの施策効果を“点”で把握するのはよくない。顧客体験をつなげておけば顧客をデータの集合体、人の集合体=組織で把握することが可能になり、組織に対するROIを把握できる」(甲斐氏)。
アフターコロナで変わる、BtoBマーケティング
最後に甲斐氏は、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の世界的な拡大を受けて、人々のライフスタイル、ワークスタイルが変わっていく中で、BtoBマーケティングはどのように変わっていくのかについて語った。
1点目は、マーケティングにおいて「ストーリー」が一層重要になるというものだ。「相手の企業が自分たちと付き合うとどのようなストーリーが生まれるのか。それをしっかりと共有していく必要がある。不確かな時代であればこそ、企業と企業が付き合う“意義”を明確にしていくことが重要になる」と甲斐氏は指摘する。
そして2点目は、営業活動が非対面・非接触になっていくということ。BtoBであっても、コミュニケーションのデジタル化が急速に進んでいくというのだ。甲斐氏は「オンライン会議やウェビナーなど、デジタルの手段を使ってどのように企業同士が関係を構築するか。特に日本では遅れていたこの部分のデジタル化がここで一気にやってきた。正解はまだない。個人のアイデアに委ねられている部分もあり、個のリテラシーと能力を活かしながらデジタル化が進むのではないか」と今後の見通しについて意見をまとめた。