ユーザーとメーカー企業が店頭やECサイトでコミュニケーションを生み出すことが当たり前になったファッション市場において、エンゲージメントを深めていくためのデータ活用は、ミッションクリティカルとも言える大きな課題だ。消費者の購買行動、サイト上での行動履歴、企業が発信するメッセージへの反応など、ユーザーとメーカー企業との接点から生まれる様々なデータをどのように有益に活用できるかが、競争が激しい市場での生き残りを左右すると言っても過言ではない。
では、多くの女性から支持されるファッションブランドは、どのようにデータを活用してユーザーとのコミュニケーションをエンゲージメントの深化や売上の向上に繋げているのだろうか。人気ファッションブランド「earth music & ecology(アース ミュージック&エコロジー)」を展開する株式会社ストライプインターナショナルの常務執行役員マーケティング本部長である山崎茂樹氏が講演した。
岡山県で創業したストライプインターナショナルは、「earth music & ecology」をはじめ数十のファッションブランド、コスメ事業、フード事業、ライフスタイル事業などを幅広く展開。最近では、渋谷に「ホテル コエ」という複合施設を立ち上げ、
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登録・ログインはこちらユーザーとメーカー企業が店頭やECサイトでコミュニケーションを生み出すことが当たり前になったファッション市場において、エンゲージメントを深めていくためのデータ活用は、ミッションクリティカルとも言える大きな課題だ。消費者の購買行動、サイト上での行動履歴、企業が発信するメッセージへの反応など、ユーザーとメーカー企業との接点から生まれる様々なデータをどのように有益に活用できるかが、競争が激しい市場での生き残りを左右すると言っても過言ではない。
では、多くの女性から支持されるファッションブランドは、どのようにデータを活用してユーザーとのコミュニケーションをエンゲージメントの深化や売上の向上に繋げているのだろうか。人気ファッションブランド「earth music & ecology(アース ミュージック&エコロジー)」を展開する株式会社ストライプインターナショナルの常務執行役員マーケティング本部長である山崎茂樹氏が講演した。
岡山県で創業したストライプインターナショナルは、「earth music & ecology」をはじめ数十のファッションブランド、コスメ事業、フード事業、ライフスタイル事業などを幅広く展開。最近では、渋谷に「ホテル コエ」という複合施設を立ち上げ、フード、音楽、ファッション、ホテルなどを提供しているという。また、新しいビジネスモデルや先端テクノロジーの導入にも積極的で、サブスクリプション型でファッションのレンタルができる「メチャカリ」、ブランド公式古着通販、夜間は無人営業するセルフ&キャッシュレスのレジやECで購入する前提で商品を試せる来店カウンターなどを展開している。
「“ライフスタイルテクノロジーカンパニー”を掲げ、どんどん新しいサービスや消費者に向けた価値を提供することを目指している。小売り流通を改革していくなかで、顧客体験をテクノロジーで豊かにするために様々なチャレンジをしている」(山崎氏)。
Treasure Data CDPの導入を軌道に乗せるために、“まず、結果を出す”
山崎氏は、同社のマーケティングにおけるTreasure Data CDPの活用について、「自社の保有するデータをCDPに統合した上で、2nd Partyデータや3rd Partyデータをも統合して、ベンチマークや外部のソリューションに対応する。そして、データの分析・可視化やマーケティングオートメーションや広告、ソーシャル施策に利活用できないかと考えた」と説明する。しかし、その本格的な実装に向けたアプローチは、本来のセオリーとは異なるものなのだという。
一般的に、デジタルマーケティングでデータを活用する場合には、データを統合・蓄積して分析・可視化をすることで課題の発見や施策の端緒を作っていく。しかし、山崎氏は「データ収集して、まずはデジタル広告や販促で使ってみて、そこからもう一度分析・可視化することでデジタル施策を最適化して、リアル店舗の最適化もしていくという流れにしている」と説明する。なぜ、データの利活用を優先するのか。それは、スモールサクセスの蓄積によって社内の影響力を高めていくという狙いがあるのだという。
「どのような外部サービスであれ、導入するからには費用対効果を求められる。そこで、まずは効果が小さくても出やすいものから成果を生み出していき、徐々に社内での影響力を強くしていかなければならないと考えている。ビジネスの根幹に対するアプローチは、インパクトは大きいが、情報システム部門や事業部門との調整が増えるため導入から結果を出すまで時間が掛かってしまう」(山崎氏)。
新しいソリューションの導入、特に社内データの統合という大きな課題に取り組む上では、情報システム部門やデータを掌握する事業部門との協力は不可欠だ。しかし、他部署の協力を得るためには、“なぜ、協力をする必要があるのか”を理解してもらう必要がある。そのために、まずはクイックに結果を生み出して“協力する意義”を社内の多くの人に理解してもらうことが重要なのだ。
統合したデータをもとに、ターゲット顧客をクイックに抽出する
では、具体的にどのようにTreasure Data CDPを活用してマーケティング効果を生み出そうとしているのだろうか。山崎氏はearth music & ecologyの集客を目的に実施した広告でのデータ利用を例に説明した。
山崎氏によると、同社ではサイト内にTreasure Data CDPのタグを埋め込み、Cookieを発行できるようにした。特に、Google Tag Managerを連携させることで3rd Party Cookieとセグメント情報を付与することで、自社の1st Party Cookie、3rd Party Cookie、セグメント情報をリアルタイムにアクセスログとして蓄積し、これにECサイトのデータも統合できるようにしたとしている。
広告施策において1st Party データが効果を発揮するのは、購買者の除外設定だ。新規顧客の獲得にフォーカスを当てた広告施策を展開した場合、すでに購買経験のある顧客にまで広告を展開するのは効率的だとは言えない。そこで、ネット広告を展開する際には1st Party データをもとに過去に購入した顧客を広告の対象から除外するのだ。
「このような除外設定は、広告代理店などに任せてしまうことが多いが、どの顧客に対して何を目的に広告を出すのかという理解の上で、自分たちの力で対象者を絞り込み、抽出するべきではないかと考えている。ダイレクトメールを配信する場合も、購入した顧客に過度に配信すると顧客満足度の低下につながるため、自分たちでバランスを考える必要がある」(山崎氏)。
一方、3rd Partyデータが活かされるシーンが、自社サイトに来訪したことのない新規顧客の理解とサイトへの集客だ。具体的には、外部サイトに掲載されるアドネットワークなどの広告展開に、データを活用していくことになる。3rd Partyデータを軸に、サイト来訪歴のない新規顧客にアプローチしていくのだ。「earth music & ecologyサイトへの集客、見込み顧客に対するアテンションを目的にしたある施策では、ストライプクラブ(自社の総合通販モール)に来た顧客で、かつearth music & ecologyに興味がある人というのを教師データに3rd Partyデータでターゲティングを行い、バナーに対するCTRは約8%、集客人数約22万人という結果を生み出した」(山崎氏)。
両者の施策に共通しているのは、ターゲット顧客のクイックな抽出に統合されたデータを活用しているという点だ。統合された顧客データを様々な場合に応じて絞り込み、顧客とのコミュニケーションや広告施策に活かすことで施策の無駄な部分を軽減し、効果を最大化することが期待できるのだ。
Treasure Data CDPを活用した挑戦は、マーケティングの高度化を目指す
山崎氏によると、同社ではTreasure Data CDPを活用してエンゲージメントの可視化、スコア化という新しいチャレンジを進めているという。
冒頭に紹介した通り、ストライプインターナショナルはファッションブランドのリアル店舗、通販サイト、サブスクリプションによるファッションレンタルなど多岐に渡ってビジネスを展開している。リアルとネットで顧客を取り合ったり、ファッションレンタルの活性化によって販売が減少したりなど、自社の事業のなかで矛盾が生じてしまう可能性をはらんでいる。「ビジネス全体の中で、それぞれの顧客に合わせたかたちでサービスが提供できるようにならなければならないと考えている」と山崎氏は課題を挙げる。
そこで、ブランド・サービスごとにシナリオを設計して顧客セグメントを可視化し、顧客体験をスコアリングしていくという。どのようにスコアリングしていくかは、地道に変数設計して試行錯誤をしていくのだそうだ。「オートメーションに頼るのではなく、自分たちでどのようなシナリオを持ち、スコアリングに応じたステージの顧客に対して何を届けたいかをストーリーにできなければ、施策にはつながらない」(山崎氏)。
加えて、今後は顧客のブランドやサービスに対するモチベーションが時間とともに減衰していくこと、そしてその減衰割合は商材やサービスによって異なることなどを加味した顧客スコアリングモデルの構築も進めていくとしている。また、自社の基幹データと3rd Partyデータの統合管理による競合分析、データダッシュボードの整備と自動化、天気などの環境データを統合データを取り入れることによる店舗運営の効率化、そして蓄積したデータによって需給予測まで実現し、在庫や発注作業の最適化をも目指しているという。
山崎氏によると、あくまで最重視しているのはネット広告施策による成果の追求と、それをきっかけとしたデータ統合管理の拡大、そして蓄積したデータの分析・可視化だ。しかしその先には、小売り流通の改革というビジョンのもと、マーケティングの高度化、店舗オペレーションの高度化、そして在庫管理の高度化という大きな目標を見据えているのだ。