これまで、スーパーマーケットやドラッグストアなどリテール店舗を強力なタッチポイントとしてマーケティング、セールスプロモーションを展開してきた消費財メーカーにとって、デジタルトランスフォーメーションがこれからのビジネスにとって重要なテーマとなっていることは、もはや言うまでもありません。では実際、業界をリードするメーカーではどのような視点でマーケティングを考え、データを活用しているのでしょうか。ライオン株式会社 ビジネス開発センター デジタルコミュニケーション開発チーム ディレクターの比留間徹氏が、「データによるインサイト探求」と題したプレゼンテーションで紹介しました。
変化する消費財メーカーのマーケティング環境
比留間氏によると、ライオンが現在掲げているマーケティングコミュニケーションのキーワードが「体験価値」というものだ。
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これまで、スーパーマーケットやドラッグストアなどリテール店舗を強力なタッチポイントとしてマーケティング、セールスプロモーションを展開してきた消費財メーカーにとって、デジタルトランスフォーメーションがこれからのビジネスにとって重要なテーマとなっていることは、もはや言うまでもありません。では実際、業界をリードするメーカーではどのような視点でマーケティングを考え、データを活用しているのでしょうか。ライオン株式会社 ビジネス開発センター デジタルコミュニケーション開発チーム ディレクターの比留間徹氏が、「データによるインサイト探求」と題したプレゼンテーションで紹介しました。
変化する消費財メーカーのマーケティング環境
比留間氏によると、ライオンが現在掲げているマーケティングコミュニケーションのキーワードが「体験価値」というものだ。
これは、顧客インサイトを起点にして顧客が真に求めている“コト”を提供することという意味で、比留間氏はこれを50年以上前に提唱されているマーケティングの言葉を引き合いに出し、「ドリルを買う人が欲しいのは、ドリルではなく“穴”である」と説明する。生活者のインサイトと言語化されていない欲求にアプローチするコミュニケーションを目指すのが、ライオンの考えだ。
ではなぜ、なぜ消費財メーカーであるライオンが体験価値のコミュニケーションを追求するのだろうか。比留間氏はその背景にあるマーケティング環境の変化を解説した。
これまで、生活消費財は大量に生産し、マス広告を大量に投下して認知を獲得し、スーパーマーケットなどのタッチポイントで大量に販売するというのがセオリーと言われてきた。しかし比留間氏は「これまでの方法では難しくなってきている」と語り、その理由を3つ挙げた。
ひとつは、世の中の情報量が爆発的に増えたことによるコミュニケーション効率の低下だ。インターネットの登場により情報の量は500倍にも増加したが、実際に摂取できる情報量は65倍しか増えていない。「情報のオーバーフローが起きている」と比留間氏は指摘する。
ふたつめに、ネットユーザーのバナー広告へのアレルギー、ミレニアル世代に浸透するブラウザのアドブロック機能などにより、そもそも広告の効果が生まれにくくなっている点をあげた。
そして最後に、商品そのものも各社の開発競争が成熟した結果商品のコモディティ化が進み、差別化をすることが難しくなっていることも、従来のセオリーが通用しなくなってきた要因だという。
「従来型の、認知→興味→検討→購買というファネル型のコミュニケーションが限界にきている」と比留間氏。そこでライオンがとった戦略が、「体験価値のコミュニケーション」なのだ。
生活者インサイトを探るふたつのアプローチ
これまでも、ライオンは調査、ユーザーインタビューなどを通じて生活者のニーズに迫ってきた。しかしこれからは、従来の方法に加えてデータの中から体験価値を実現する生活者インサイトを発見するというチャレンジを推進していくという。
「これまでは、リーチやアテンションを重視した企業目線のメッセージングで、一方的なプッシュ型のコミュニケーションをしてきた。これからのコミュニケーションは、リーチの量ではなくターゲット層へ的確に語りかけ、メッセージの浸透や商品コンセプトへの共感を目指す。適切なターゲットに、適切なときに、適切なコンテンツを、適切な方法で提供することを目指している」(比留間氏)。
生活者インサイトを理解して体験価値のコミュニケーションを実現するためには、どのようなアプローチを実践するのか。比留間氏は「日常の生活行動を把握し、ターゲットユーザーに向けた戦略を考える。これをデータに基づいて実践していく」と基本的なスタンスを示したうえで、具体的にどのようにデータを活用しているのかを紹介した。
データ活用の枠組みは、Treasure Data CDPによって構築されたデータ基盤にオウンドメディアでの閲覧データや行動データ、SNSのデータ、IoT系のデータなど様々なデータを統合し、それを分析することでマーケティングの羅針盤となるインサイトを抽出するという基本的なアプローチだ。しかしそこには、ライオンならではの工夫があるという。
特に印象的なのは、アナリティクスのフレームワークだ。比留間氏によると、ライオンでは検索キーワード、接触メディアといったオンラインデータ、支出傾向、購買データといったオフラインデータ、デモグラフィックや趣味、よく行く場所といった嗜好性データを組み合わせることで、日々の買い物行動、特徴的な生活行動、類推される性格など断片的なファクトを抽出。そこから生活者のライフスタイルや生活シーンをイメージし、見えてきたインサイトをマーケティング施策の中で活かしていくのだという。
では、どのようにファクトを抽出しているのか。比留間氏は、「ライオンのデータ分析にはデータを俯瞰したマクロ的なアプローチと、個別データを追ったミクロ的なアプローチがある」と説明し、いくつかの商材の分析事例を挙げながらそれぞれのアプローチを紹介した。
マクロ的なアプローチでは、購買者のデータからいくつかの行動特徴を抽出して、そこに解釈を加えることで生活者シナリオを抽出したり、属性をもとにクラスタリングした購買者のデータから、考えられる1日の生活パターンを作成。また、購入している人の性格をマッピングすることで、「自分たちの商品はどういう性格の人に受け入れられているのか」「競合他社とはどのような違いがあるか」などを探るといった事例を紹介した。
一方、ミクロ的なアプローチでは、ひとりの購買行動を連続的に追跡することでユーザーの具体的理解を深めているという。例えば、ある自社商品を10回連続で購入した人、他社製品からシフトした人、他社製品にシフトしてしまった人という3つのクラスタリングを行い、それぞれの生活者についてN1アプローチによる分析を実施。購買行動を追うことで、購入した商品・サービスから生活者の嗜好性やライフスタイルを可視化している。
「N1分析による購買ヒストリーの分析を行うと、自社商品、競合商品のユーザー層のマッピングが可能になり、ブランドスイッチを推進したいターゲット層がどこにいるのかが見えてくる。ユーザーキャラクターが可視化できることで、より確かなターゲット戦略が考えられる」(比留間氏)。
データ活用で重要なのは、クリエイティビティ
こうしたデータから断片的なファクトを抽出して生活者インサイトを形成するというライオンのデータ活用について、比留間氏は「断片的なデータ単体では生活者の深いインサイトは捉えられない。それらを組み合わせて様々な分析のトライ&エラーを繰り返すことで生活者のファクトが見えてくる。そこから生活者の生活行動やカスタマージャーニー、ターゲット戦略を導き出し、ブランドコミュニケーションに活かすことができる」とまとめた。
その上で比留間氏は、「データがいくら豊富にあっても、重要なのはクリエイティビティなのではないか」と指摘。ここでいうクリエイティビティとはデータとデータ、ファクトとファクトを繋ぐ想像性、仮説力を意味しており、比留間氏は「いかに幅広い仮説を立ててデータで検証できるのか、どの解釈が一番確かなのかを考える発想力が重要だと感じている」と語った。