配信メールのレポーティング作業から、機械学習を用いた施策展開へ。Treasure Data CDPがソフトバンクのデータ分析をどう変えたのか。マーケティング分析課のデータサイエンティスト、鵜澤 聡幸氏に話を聞いた。
Treasure Data CDP導入以前
大学と大学院で計量経済を研究していた鵜澤氏。ソフトバンクに入社後は法人直販の営業本部に所属していた。当時の営業活動ではデータ活用は進んでおらず、会社の方針に基づいて重点的に販売する商品が決められていた。マーケティング分析課は存在していたものの、営業部が販売を促進したい商品について配信メールのリストを作成し、その結果をシステムからダウンロードして集計、という業務に従事している印象だった。
鵜澤氏がマーケティング分析課のデータサイエンティストに着任したのは2018年10月のこと。着任前に抱いていた印象の通り、最も工数を割かれたのが配信したメールのレポーティングだった。MAツールからデータを取得、加工整形し、集計後、グラフ化してレポートを作成する。メール配信から4日後までにレポートすることがタスク化されており、かつ1日に複数件メールが配信されるため、業務の多くの時間をその作業に割かれていた。「分析の内容もその場限りで、精度の検証も行われていなかった」(鵜澤氏)ため、分析結果が次なる施策に反映されていたとは言い難かった。
加えて、分析を行うにしても、複数システムから様々な粒度のデータを規定してから取得する必要があり、不足データの再取得にも工数を要した。分析するたびに要件定義が必要となる感覚だったという。
800万件のデータを柔軟に分析できる環境を構築
「Treasure Data CDPの導入により、マーケティング分析課の業務内容が劇的に変わろうとしている」と鵜澤氏は説明する。まず、システムにある全てのデータがTreasure Data CDPに統合、格納された。その結果、分析にあたって取得データを規定し、システムから取り込んで整形後分析にかけるという作業が不要になった。分析過程で追加のデータが必要になった場合や切り取り方を変える場合もSQLで柔軟に対応可能で、様々なデータソースの繋ぎこみも容易だ。
なにより、ビッグデータの取り回しが容易で、かつスケーラビリティが確保されていることも、ソフトバンク全社で取り扱う2,000商材についての分析を担当する鵜澤氏に、データ分析から施策へ活用するためのケーパビリティを担保している。メール施策の分析を行うために扱うデータ量も、Treasure Data CDP導入以前は10万件だったものが、導入後は約800万件。過去の配信履歴を全て分析できるようになった。「分析するスピードも、取り扱えるデータ量も、導入前とは別次元です」と鵜澤氏は評価している。
コンバージョンは3倍以上!機械学習の活用が進む
取り扱えるデータの質と量が高まった結果、鵜澤氏が今注力しているのは「顧客の行動履歴データを用い、機械学習でホットリードを明らかにする」ことだ。
実際にメール開封率、クリック率は向上している。機械学習を使って抽出したリードをターゲティングしてメールを配信した結果、従来型で任意のセグメントを設定し配信したメールと比べてコンバージョンにして3倍以上の成果が上がったケースもあるという。どの顧客が、いつどのメールを開封したのか、もしくは開封しなかったのか。セグメントという「面」ではなく、個人というデータトランザクションの「線」を分析することで、機械学習の効果、精度が高まった。商品ごとの顧客の興味関心度合いが、データに基づいて把握できるようになってきているのだ。
確かなデータ分析が部門を越えた協力を生む
「今後データの正しい活用がマーケティングの成功、失敗を左右するという危機感を、部課で共有しています」と鵜澤氏が語る、その基盤がTreasure Data CDPだ。この段階で、Treasure Data CDP実装前に目論んでいた状態の7割程度は達成できているという鵜澤氏が次のステップとして展望しているのは、「Treasure Data CDPに取り込むデータの種類を増やすこと」。現在取り扱っているデータはメールマーケティング配信結果の履歴とウェブの行動履歴がメインだが、鵜澤氏はオフラインのセミナーデータを拡充したいと考えている。
「オフラインセミナーのデータは各部署で管理していて、フォーマットもそれぞれ異なります。それらを利活用しやすいフォーマットに統一化して、各部署で使ってもらえるように調整し、取得したデータをTreasure Data CDPに格納することで、『マーケティングの自動化』への活用が進むと考えられます。」
ウェブのログだけではなく、営業部が管理しているオフライン行動データが全てつながることで、アンノウンの状態から営業の手を介さず商品を受注すること、つまり法人マーケティング部のマイルストーンである「マーケティングの自動化」が可能となるだろう。それには営業部門の協力が不可欠だが、鵜澤氏は変化と手応えを感じている。
「分析結果が施策に効果を発揮するようになったことで、営業側からも『こういう事はできないか』『こういう人たちにメールしたいのだけど、売れそうな商材を選んでもらえないか』というリクエストをもらえるようになりました。いわゆる『データドリブン』のコミュニケーションが実践できるようになってきたと感じます」
プロダクトアウトから、マーケットインの思想へ。Treasure Data CDPの導入により、法人マーケティング部を起点として、データドリブンマーケティングに舵を切ったソフトバンク。様々な成果がここから生まれてくることに疑いの余地はない。
鵜澤 聡幸
うざわ・さとゆき
ソフトバンク株式会社 法人マーケティング本部マーケティング企画部 分析課
2015年ソフトバンク株式会社に新卒入社。3年間,首都圏エリアの営業本部にて直販営業と営業推進業務に携わった後、2018年10月に法人マーケティング本部に異動。マーケティング企画部マーケティング分析課にて2000以上の商材のBtoBマーケティング分析を担当し、データ・ドリブンなマーケティングを推進中。