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朝日放送グループのDX推進を支えるCDP <前編>

「成果をあげる少人数運用プロセス構築の要諦とは?」

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大阪に本社を持つ認定放送持株会社である朝日放送グループホールディングス株式会社(以下朝日放送GHD)。「ABCテレビ」の通称で親しまれる朝日放送テレビを傘下に持ち、テレビやラジオなどを中心とした放送事業のほか、アニメーション、イベント、キャラクタービジネスを中心とするコンテンツ事業、住宅展示場やゴルフ場などのライフスタイル事業と、大きく3つのジャンルでおよそ30のグループ企業で構成されています。 朝日放送GHDがTreasure Data CDPを導入して約1年が経過しました。少人数の管理チームで、極めて効率のよい開発と運用を進め、すでにデータドリブンの事例を複数生み出しています。今回は、朝日放送GHDのDX・メディアデザイン局から石田直之氏、伴拓也氏、山下真里奈氏をお招きし、ゼロからDXを推進し、短期間で成果を上げるに至った手法を伺いました。聞き手はトレジャーデータでカスタマーサクセスを担当する塚原一喜です。

<目次>

ゼロスタートのDXを支える、Treasure Data CDP選定のポイント

スライド 「自己紹介」

塚原:はじめに、Treasure Data CDPを導入するに至った背景を教えてください。

石田氏:2021年に、中期経営戦略の重点項目のひとつとして「データ利活用体制の構築とデジタル技術の活用促進」が掲げられました。グループ各社のデータを集約し、活用することで、グループ各社の成長エンジンにする計画です。実は、策定される以前にグループ全体でデータを蓄積、連携して利活用するといった考えはなかったと言えます。各社がそれぞれデータを取得・管理している状況で、まったくデータ活用していない会社も中にはありました。

その理由として、グループを横断してデータを利活用する場合、各事業会社のシステムをすべて統一するアプローチが考えられます。しかし当グループの場合、放送事業、コンテンツ事業、ライフスタイル事業といった3つの事業体があり、かつそれぞれが非常に多岐に渡っています。それらすべてを同じシステムに統一するのは現実的ではなかったのです。

そこで、各社が運用する基盤を維持しながら、裏側でデータを統合的に蓄積し管理する方法を考えました。それを実装するに十分な性能と、多様なシステムへスムーズに連携できる機能を備えたプロダクトの選定をする中で、Treasure Data CDPがマッチしたということです。

スライド 「Treasure Data CDPを採用した背景と目的」

塚原:当然、トレジャーデータ以外のサービスも含めて検討されていたと思います。最終的にTreasure Data CDPを選択したポイントを教えてください。

伴氏:検討ポイントのひとつは、そのプロダクトの利用料金体系がクエリに応じた従量課金型か、月額定額のサブスクリプション型かという点でした。ゼロからスタートする私たちの場合、従量課金では最終的なコスト感が見えませんでした。Treasure Data CDPがサブスクリプション型であったことは判断要素として大きかったです。

加えて、データをデータレイクからデータウェアハウス、データマートに移すという一連のプロセスが、「Treasure Workflow」で完結できる点も高評価でした。データの利活用では、その正確性を担保することが最重要です。機能が盛り込まれすぎている場合、使いこなすのが大変ですから、シンプルな仕組みであることも重視しました。

石田氏:個人的には「トレジャーアカデミー(トレジャーデータによるCDPおよびデータ利活用のトレーニングプログラム)」がよかったですね。それまで私はSQLを書いたことがなく、その存在すら知りませんでした。アカデミーで「SQLとは」といった初級から、ワークフローの作り方など実務的なスキルまで学ぶことができました。ビジネスサイドから何か分析したいとき、その都度エンジニアに依頼していては、スピード感を持ってプロジェクトを進めることができません。その点、自分でデータ抽出、分析ができるようになったのは大きかったと考えています。

塚原:私自身もトレジャーデータに入社するまでSQLが書けなかったので、よくわかります。元々SQLは、非プログラマーがビッグデータにアクセスするために作られた言語なのですが、SELECT文の入力などに対するアレルギーのようなものは、いまだに感じますね。

石田氏:Treasure Data CDPの「オーディエンススタジオ」ではSQLを書かなくても、GUIで操作できます。アカデミーを受講していない事業部門のメンバーでも、ある程度のレベルで分析ができるので、使い勝手は非常によいですね。

山下氏:オーディエンススタジオのデザインは、丸みがあってすごくかわいらしいです。小人が出てくるなど、生粋のエンジニアが触る画面といった感じではなく、親しみやすいですね。

準備段階のプロセスを重視し、DX施策への信頼を構築

塚原:私が朝日放送GHDのカスタマーサクセスとして伴走する過程で、初期段階はセキュリティやガバナンスの構築が大きなテーマだったと思います。朝日放送GHDの中でも、重要なポイントだと認識されていたのでしょうか?

石田氏:非常に重要であると認識しています。プロジェクトも、データ基盤の導入ありきではなく、まずはガバナンス構築からスタートさせていきました。ポイントは、個人情報保護法をはじめとする法令への対応です。放送という、非常に公共性の高いサービスをベースとしているグループですので、お客様の信頼性を失うわけにはいきません。データの利活用以前に、まずは、セキュリティとプライバシー保護の体制を整えることからはじめました。その後、データ基盤の構築に進んでいくわけですが、その前に、トレジャーアカデミーのエンジニアコースをこの3人で受講しました。

スライド 「CDP導入のフロー」

塚原:CDPに触る以前にまずガバナンスを整理して、実務の前に技術を学習した上で、実際に導入したということですね。実は、トレジャーデータのお客様がその通りの順番で進行することは稀なケースです。構築しながら学習したり、構築を先に走らせて、ある程度ベースができてから学習したり、といったパターンが多いように思います。今回、準備段階のステップをしっかり踏んだ理由を教えてください。

石田氏:DX施策への信頼をグループ内でつくっていかなければならない、という意識は、私たちのなかで強かったと思います。CDPがどういうものかも分からない段階から、事故や法令違反が起こらないよう、まずは運用ルールを固めました。現実の運用にフィットさせることは、導入後のアップデートで順次行っています。

また、私たちはグループホールディングス直属の立場ですから、自ら事業を行っているわけではありません。CDPでできることをまずは自分たちがそれを正しく理解した上で基盤構築を進め、実際に事業で活用するグループ各社の担当者に正確に伝える役割があります。各社担当者向けの説明会を何度も開催し、その実際にデータを蓄積する段階まで進むことができました。

伴氏:技術的には、運用しながら学習するより、最初に学んで、そのまま構築に進んだほうが手戻りの発生する確率が低くなると思います。トレジャーアカデミー自体が新しい取り組みなので、構築後に参加される企業さんも多いでしょうが、個人的には、最初にCDPの基礎を学習する意義は大きいと考えています。

塚原:CDPの立ち上がりから活用までのフェーズで、トレジャーデータのカスタマーサクセスチームによるサポートは、どのように評価されますか?

伴氏:私自身も「データレイク」など、CDPに関連する用語に関してはわからない、ゼロからのスタートでした。どうデータを集めて、どう処理していくか、一緒に取り組んでいただいたことで、最初からベストプラクティスに近いものを実装できたと思います。はじめは、データ基盤構築の考え方もわかりませんから、アカデミーで学ぶ基礎知識とは別に、実際のデータを一緒に扱っていただけたのは大変助かりました。

塚原:ありがとうございます。

少人数の非エンジニアチームがCDPの開発運用を実行できる秘訣

塚原:続いては、朝日放送GHDで、実際にCDPをどう開発していったのかをお聞きしたいと思います。まずは、チームの体制から教えていただけますか?

伴氏:現場の業務は、石田、山下、伴の3人だけで行っています。最初は「絶望的に人数が少ない」と思いましたが、それだけに効率的な開発プロセスをしっかり考えるようになりました。トレジャーデータ以外のプロジェクトも含め、すべてにおいて徹底するのは属人化を避けることです。1人でも倒れたら進行が止まるような状態は、絶対に作らないようにしています。

そのために、Treasure Workflowなどのバージョン管理を徹底しています。Githubを使った開発モデルであるGitOpsを採用し、リポジトリが「真」、つまり唯一正しい、という状態を保ち続けています。また、複数の目でレビューをすることも必ず行います。誰かが書いたワークフローが、必ず正しい状態であることが重要です。当社では、2年ほどこのプロセスで運用しており、実際に上手く回っていると感じています。

スライド 「少人数での運用を行うために」

塚原:Githubは、エンジニアなら当たり前に使うツールですが、石田さん、山下さんは非エンジニアからのスタートです。それまで使った経験はありましたか?

山下氏:ほとんどありません。

塚原:エンジニア文化がない中で、なじみのないツールを使ってもらい、業務に落とし込むのは難しかったのではないでしょうか?

伴氏:エンジニアでも一部の人はGithubへの抵抗感を持っています。それが理由で移行が進まないこともありますよね。その点、石田と山下は経験がない分、受け入れてもらいやすかったのではないかと思います。最初に、チームのやり方をしっかり共有すること、業務フローをまず体験してもらうことは意識しました。

作業者が開発環境でコーディングを完成させたら、プルリクエストを出します。コーディングは本格的なプログラムではなく、Treasure Workflowを使うので、非エンジニアでも対応が可能です。プルリクエストに対して、エンジニアの私がレビューをして、OKならそのままマージ。すると、自動的にTreasure Data CDPへデプロイされます。流れを1回体験してみれば、「これなら安心できる」「他のフローでは回らない」という実感を持ってもらえると考えました。

スライド 「GitOpsでのCDP運用イメージ」

石田氏:そうですね。はじめは、「どれだけややこしいことをさせられるんだ?」と思っていましたが、一から手取り足取り教えてもらうことで安心しました。プルリクエストを書いて、初めてマージしてもらえたときの喜びは、忘れられませんね(笑)。

山下氏:非エンジニアの私が直接本番環境を触ると、「CDPを壊してしまうのではないか」という怖さもありました。しかし、プルリクエストからレビューを経ることで、「コードを書いてみよう」という気持ちになれました。

石田氏:歴が浅いので、自分ひとりでSQLを書いていても、それが本当に正しい書き方なのか、効率がよい書き方なのかが確信できません。しかし、まず書いてプルリクエストを出すと、伴から「こう書いたほうがいい」というフィードバックがもらえます。その繰り返しで、どんどん自分自身も成長できるよいサイクルが生まれました。

塚原: 伴さんはエンジニアとして、技術的に工夫したポイントはありますか?

伴氏:Treasure Workflowのプルリクエストが出された時点で、文法的なミスやステップ名の重複などのエラーをチェックするCI処理が、自動的に行われるようにしています。これにより、コードの品質とともに、CDP本体に支障を来さない運用を担保します。少し処理を間違えると、意図したものとはまったく違うデータが、CDPから出力されることもあります。絶対に間違えない状態を作ることが、データの信頼性につながります。当社のようなGitOpsの運用は人数が少ないから可能だったわけではなく、どんなチームの質も上げることができるのではないかと思います。

データドリブンの意識が全社に浸透してきた

塚原:私もそうでしたが、ビジネスサイドのメンバーがSQLで色々なデータにアクセスできるようになると、ビジネスに活きるさまざまな発見があります。もうSQLがわからなかった状態には戻れないという感覚がありますよね。

石田氏:まさに、そのように思います。自分の仮説を実証するためにSQLを書いてデータにアクセスしいろいろ検討できることは、ビジネスパーソンの強力な武器になると感じます。一番大きいのはスピード感を持って、アジャイル的に対応できるところです。特にこれからのマーケターは、SQLが書けないと戦っていけない!と言っても良いのではないでしょうか。

山下氏:通販番組の放送直後にECサイトのデータを見て前回放送と比べるときなど、自分で手を動かしてチェックしたほうが、現場にスピード感を持って伝えられますね。

塚原:データを活用して実際のビジネスを伸ばしていく部分では、各事業会社の方々とタッグを組んでいくことが必要かと思います。その協働やコミュニケーションの面で行っていることを教えていただけますか?

伴氏:現状では、私たちがグループのデータを統合的に管理していて、データ活用の方法を各社の担当者に見てもらっています。将来的には各社が自走できる状態を目指していますので、Treasure Data CDPを含めたツールの使い方や、デジタル施策自体についての勉強会を毎月開催している段階です。

塚原:どういった内容か教えてください。

伴氏:45分くらいがレクチャーで、あとの30分〜45分は現場の困りごとなどヒアリングの場を設けるようにしています。普段わからないことも聞き取りができるため、その時間はとても大事です。

スライド 「現場とのコミュニケーション」

塚原:各社の皆様の意識も変わったと感じられますか?

伴氏:はい。チャットなども積極的に活用しつつ、連携を密に取るよう意識していますが、各社の現場でも「データを自分たちで見よう」という意識が芽生えています。業界柄、データの抽出は外部に丸投げするようなことが多かったのですが、自分で手を動かしたほうが本当に見たい情報が見られることに気づいてもらえたという実感はありますね。

石田氏:施策の部分でも、「こんなことができないか」という要望、提案が積極的に上がってくるようになりました。私たち管理チームの後ろには、トレジャーデータのカスタマーサクセスの皆さんが控えていて、マーケティングのデータ活用を日々教えてもらっています。私たちがハブになって、その知見を各社に展開する活動が少しずつ全社の意識を変えている実感があります。

山下氏:異なるデータの連携ができないのか、グループで統合されたデータだけでなく、各社ごとが独自で持つデータを活用できないかというように、発想が変わってきています。

また、これまでは「施策を振り返る」習慣がないケースもありましたが、まずはデータで検証する意識を共有できるようになってきました。

後編につづく

※当記事は、2023年4月19日に開催された「朝日放送グループの顧客データ活用とCDP導入
〜放送を含めた3事業のデータ統合と広告・メール・サイトの改善事例〜」から内容を編集して制作しています。


<スピーカー>

石田 直之

石田 直之 氏

朝日放送グループホールディングス株式会社

DX・メディアデザイン局 デジタル・メディアチーム

伴 拓也

伴 拓也 氏

朝日放送グループホールディングス株式会社

DX・メディアデザイン局 デジタル・メディアチーム

山下 真里奈

山下 真里奈 氏

朝日放送グループホールディングス株式会社

DX・メディアデザイン局 デジタル・メディアチーム

 

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(1) Internet Explorerをご利用の場合は、InPrivateブラウズをお試しください

(2) Google Chromeをご利用の場合は、シークレットウィンドウをお試しください

(3) 他のデバイスやブラウザの使用をお試しください

解決しない場合は、sdr-jp@treasure-data.com まで、お知らせください。


大阪に本社を持つ認定放送持株会社である朝日放送グループホールディングス株式会社(以下朝日放送GHD)。「ABCテレビ」の通称で親しまれる朝日放送テレビを傘下に持ち、テレビやラジオなどを中心とした放送事業のほか、アニメーション、イベント、キャラクタービジネスを中心とするコンテンツ事業、住宅展示場やゴルフ場などのライフスタイル事業と、大きく3つのジャンルでおよそ30のグループ企業で構成されています。 朝日放送GHDがTreasure Data CDPを導入して約1年が経過しました。少人数の管理チームで、極めて効率のよい開発と運用を進め、すでにデータドリブンの事例を複数生み出しています。今回は、朝日放送GHDのDX・メディアデザイン局から石田直之氏、伴拓也氏、山下真里奈氏をお招きし、ゼロからDXを推進し、短期間で成果を上げるに至った手法を伺いました。聞き手はトレジャーデータでカスタマーサクセスを担当する塚原一喜です。

<目次>

ゼロスタートのDXを支える、Treasure Data CDP選定のポイント

スライド 「自己紹介」

塚原:はじめに、Treasure Data CDPを導入するに至った背景を教えてください。

石田氏:2021年に、中期経営戦略の重点項目のひとつとして「データ利活用体制の構築とデジタル技術の活用促進」が掲げられました。グループ各社のデータを集約し、活用することで、グループ各社の成長エンジンにする計画です。実は、策定される以前にグループ全体でデータを蓄積、連携して利活用するといった考えはなかったと言えます。各社がそれぞれデータを取得・管理している状況で、まったくデータ活用していない会社も中にはありました。

その理由として、グループを横断してデータを利活用する場合、各事業会社のシステムをすべて統一するアプローチが考えられます。しかし当グループの場合、放送事業、コンテンツ事業、ライフスタイル事業といった3つの事業体があり、かつそれぞれが非常に多岐に渡っています。それらすべてを同じシステムに統一するのは現実的ではなかったのです。

そこで、各社が運用する基盤を維持しながら、裏側でデータを統合的に蓄積し管理する方法を考えました。それを実装するに十分な性能と、多様なシステムへスムーズに連携できる機能を備えたプロダクトの選定をする中で、Treasure Data CDPがマッチしたということです。

スライド 「Treasure Data CDPを採用した背景と目的」

塚原:当然、トレジャーデータ以外のサービスも含めて検討されていたと思います。最終的にTreasure Data CDPを選択したポイントを教えてください。

伴氏:検討ポイントのひとつは、そのプロダクトの利用料金体系がクエリに応じた従量課金型か、月額定額のサブスクリプション型かという点でした。ゼロからスタートする私たちの場合、従量課金では最終的なコスト感が見えませんでした。Treasure Data CDPがサブスクリプション型であったことは判断要素として大きかったです。

加えて、データをデータレイクからデータウェアハウス、データマートに移すという一連のプロセスが、「Treasure Workflow」で完結できる点も高評価でした。データの利活用では、その正確性を担保することが最重要です。機能が盛り込まれすぎている場合、使いこなすのが大変ですから、シンプルな仕組みであることも重視しました。

石田氏:個人的には「トレジャーアカデミー(トレジャーデータによるCDPおよびデータ利活用のトレーニングプログラム)」がよかったですね。それまで私はSQLを書いたことがなく、その存在すら知りませんでした。アカデミーで「SQLとは」といった初級から、ワークフローの作り方など実務的なスキルまで学ぶことができました。ビジネスサイドから何か分析したいとき、その都度エンジニアに依頼していては、スピード感を持ってプロジェクトを進めることができません。その点、自分でデータ抽出、分析ができるようになったのは大きかったと考えています。

塚原:私自身もトレジャーデータに入社するまでSQLが書けなかったので、よくわかります。元々SQLは、非プログラマーがビッグデータにアクセスするために作られた言語なのですが、SELECT文の入力などに対するアレルギーのようなものは、いまだに感じますね。

石田氏:Treasure Data CDPの「オーディエンススタジオ」ではSQLを書かなくても、GUIで操作できます。アカデミーを受講していない事業部門のメンバーでも、ある程度のレベルで分析ができるので、使い勝手は非常によいですね。

山下氏:オーディエンススタジオのデザインは、丸みがあってすごくかわいらしいです。小人が出てくるなど、生粋のエンジニアが触る画面といった感じではなく、親しみやすいですね。

準備段階のプロセスを重視し、DX施策への信頼を構築

塚原:私が朝日放送GHDのカスタマーサクセスとして伴走する過程で、初期段階はセキュリティやガバナンスの構築が大きなテーマだったと思います。朝日放送GHDの中でも、重要なポイントだと認識されていたのでしょうか?

石田氏:非常に重要であると認識しています。プロジェクトも、データ基盤の導入ありきではなく、まずはガバナンス構築からスタートさせていきました。ポイントは、個人情報保護法をはじめとする法令への対応です。放送という、非常に公共性の高いサービスをベースとしているグループですので、お客様の信頼性を失うわけにはいきません。データの利活用以前に、まずは、セキュリティとプライバシー保護の体制を整えることからはじめました。その後、データ基盤の構築に進んでいくわけですが、その前に、トレジャーアカデミーのエンジニアコースをこの3人で受講しました。

スライド 「CDP導入のフロー」

塚原:CDPに触る以前にまずガバナンスを整理して、実務の前に技術を学習した上で、実際に導入したということですね。実は、トレジャーデータのお客様がその通りの順番で進行することは稀なケースです。構築しながら学習したり、構築を先に走らせて、ある程度ベースができてから学習したり、といったパターンが多いように思います。今回、準備段階のステップをしっかり踏んだ理由を教えてください。

石田氏:DX施策への信頼をグループ内でつくっていかなければならない、という意識は、私たちのなかで強かったと思います。CDPがどういうものかも分からない段階から、事故や法令違反が起こらないよう、まずは運用ルールを固めました。現実の運用にフィットさせることは、導入後のアップデートで順次行っています。

また、私たちはグループホールディングス直属の立場ですから、自ら事業を行っているわけではありません。CDPでできることをまずは自分たちがそれを正しく理解した上で基盤構築を進め、実際に事業で活用するグループ各社の担当者に正確に伝える役割があります。各社担当者向けの説明会を何度も開催し、その実際にデータを蓄積する段階まで進むことができました。

伴氏:技術的には、運用しながら学習するより、最初に学んで、そのまま構築に進んだほうが手戻りの発生する確率が低くなると思います。トレジャーアカデミー自体が新しい取り組みなので、構築後に参加される企業さんも多いでしょうが、個人的には、最初にCDPの基礎を学習する意義は大きいと考えています。

塚原:CDPの立ち上がりから活用までのフェーズで、トレジャーデータのカスタマーサクセスチームによるサポートは、どのように評価されますか?

伴氏:私自身も「データレイク」など、CDPに関連する用語に関してはわからない、ゼロからのスタートでした。どうデータを集めて、どう処理していくか、一緒に取り組んでいただいたことで、最初からベストプラクティスに近いものを実装できたと思います。はじめは、データ基盤構築の考え方もわかりませんから、アカデミーで学ぶ基礎知識とは別に、実際のデータを一緒に扱っていただけたのは大変助かりました。

塚原:ありがとうございます。

少人数の非エンジニアチームがCDPの開発運用を実行できる秘訣

塚原:続いては、朝日放送GHDで、実際にCDPをどう開発していったのかをお聞きしたいと思います。まずは、チームの体制から教えていただけますか?

伴氏:現場の業務は、石田、山下、伴の3人だけで行っています。最初は「絶望的に人数が少ない」と思いましたが、それだけに効率的な開発プロセスをしっかり考えるようになりました。トレジャーデータ以外のプロジェクトも含め、すべてにおいて徹底するのは属人化を避けることです。1人でも倒れたら進行が止まるような状態は、絶対に作らないようにしています。

そのために、Treasure Workflowなどのバージョン管理を徹底しています。Githubを使った開発モデルであるGitOpsを採用し、リポジトリが「真」、つまり唯一正しい、という状態を保ち続けています。また、複数の目でレビューをすることも必ず行います。誰かが書いたワークフローが、必ず正しい状態であることが重要です。当社では、2年ほどこのプロセスで運用しており、実際に上手く回っていると感じています。

スライド 「少人数での運用を行うために」

塚原:Githubは、エンジニアなら当たり前に使うツールですが、石田さん、山下さんは非エンジニアからのスタートです。それまで使った経験はありましたか?

山下氏:ほとんどありません。

塚原:エンジニア文化がない中で、なじみのないツールを使ってもらい、業務に落とし込むのは難しかったのではないでしょうか?

伴氏:エンジニアでも一部の人はGithubへの抵抗感を持っています。それが理由で移行が進まないこともありますよね。その点、石田と山下は経験がない分、受け入れてもらいやすかったのではないかと思います。最初に、チームのやり方をしっかり共有すること、業務フローをまず体験してもらうことは意識しました。

作業者が開発環境でコーディングを完成させたら、プルリクエストを出します。コーディングは本格的なプログラムではなく、Treasure Workflowを使うので、非エンジニアでも対応が可能です。プルリクエストに対して、エンジニアの私がレビューをして、OKならそのままマージ。すると、自動的にTreasure Data CDPへデプロイされます。流れを1回体験してみれば、「これなら安心できる」「他のフローでは回らない」という実感を持ってもらえると考えました。

スライド 「GitOpsでのCDP運用イメージ」

石田氏:そうですね。はじめは、「どれだけややこしいことをさせられるんだ?」と思っていましたが、一から手取り足取り教えてもらうことで安心しました。プルリクエストを書いて、初めてマージしてもらえたときの喜びは、忘れられませんね(笑)。

山下氏:非エンジニアの私が直接本番環境を触ると、「CDPを壊してしまうのではないか」という怖さもありました。しかし、プルリクエストからレビューを経ることで、「コードを書いてみよう」という気持ちになれました。

石田氏:歴が浅いので、自分ひとりでSQLを書いていても、それが本当に正しい書き方なのか、効率がよい書き方なのかが確信できません。しかし、まず書いてプルリクエストを出すと、伴から「こう書いたほうがいい」というフィードバックがもらえます。その繰り返しで、どんどん自分自身も成長できるよいサイクルが生まれました。

塚原: 伴さんはエンジニアとして、技術的に工夫したポイントはありますか?

伴氏:Treasure Workflowのプルリクエストが出された時点で、文法的なミスやステップ名の重複などのエラーをチェックするCI処理が、自動的に行われるようにしています。これにより、コードの品質とともに、CDP本体に支障を来さない運用を担保します。少し処理を間違えると、意図したものとはまったく違うデータが、CDPから出力されることもあります。絶対に間違えない状態を作ることが、データの信頼性につながります。当社のようなGitOpsの運用は人数が少ないから可能だったわけではなく、どんなチームの質も上げることができるのではないかと思います。

データドリブンの意識が全社に浸透してきた

塚原:私もそうでしたが、ビジネスサイドのメンバーがSQLで色々なデータにアクセスできるようになると、ビジネスに活きるさまざまな発見があります。もうSQLがわからなかった状態には戻れないという感覚がありますよね。

石田氏:まさに、そのように思います。自分の仮説を実証するためにSQLを書いてデータにアクセスしいろいろ検討できることは、ビジネスパーソンの強力な武器になると感じます。一番大きいのはスピード感を持って、アジャイル的に対応できるところです。特にこれからのマーケターは、SQLが書けないと戦っていけない!と言っても良いのではないでしょうか。

山下氏:通販番組の放送直後にECサイトのデータを見て前回放送と比べるときなど、自分で手を動かしてチェックしたほうが、現場にスピード感を持って伝えられますね。

塚原:データを活用して実際のビジネスを伸ばしていく部分では、各事業会社の方々とタッグを組んでいくことが必要かと思います。その協働やコミュニケーションの面で行っていることを教えていただけますか?

伴氏:現状では、私たちがグループのデータを統合的に管理していて、データ活用の方法を各社の担当者に見てもらっています。将来的には各社が自走できる状態を目指していますので、Treasure Data CDPを含めたツールの使い方や、デジタル施策自体についての勉強会を毎月開催している段階です。

塚原:どういった内容か教えてください。

伴氏:45分くらいがレクチャーで、あとの30分〜45分は現場の困りごとなどヒアリングの場を設けるようにしています。普段わからないことも聞き取りができるため、その時間はとても大事です。

スライド 「現場とのコミュニケーション」

塚原:各社の皆様の意識も変わったと感じられますか?

伴氏:はい。チャットなども積極的に活用しつつ、連携を密に取るよう意識していますが、各社の現場でも「データを自分たちで見よう」という意識が芽生えています。業界柄、データの抽出は外部に丸投げするようなことが多かったのですが、自分で手を動かしたほうが本当に見たい情報が見られることに気づいてもらえたという実感はありますね。

石田氏:施策の部分でも、「こんなことができないか」という要望、提案が積極的に上がってくるようになりました。私たち管理チームの後ろには、トレジャーデータのカスタマーサクセスの皆さんが控えていて、マーケティングのデータ活用を日々教えてもらっています。私たちがハブになって、その知見を各社に展開する活動が少しずつ全社の意識を変えている実感があります。

山下氏:異なるデータの連携ができないのか、グループで統合されたデータだけでなく、各社ごとが独自で持つデータを活用できないかというように、発想が変わってきています。

また、これまでは「施策を振り返る」習慣がないケースもありましたが、まずはデータで検証する意識を共有できるようになってきました。

後編につづく

※当記事は、2023年4月19日に開催された「朝日放送グループの顧客データ活用とCDP導入
〜放送を含めた3事業のデータ統合と広告・メール・サイトの改善事例〜」から内容を編集して制作しています。


<スピーカー>

石田 直之

石田 直之 氏

朝日放送グループホールディングス株式会社

DX・メディアデザイン局 デジタル・メディアチーム

伴 拓也

伴 拓也 氏

朝日放送グループホールディングス株式会社

DX・メディアデザイン局 デジタル・メディアチーム

山下 真里奈

山下 真里奈 氏

朝日放送グループホールディングス株式会社

DX・メディアデザイン局 デジタル・メディアチーム

トレジャーデータ株式会社

2011年に日本人がシリコンバレーにて設立。組織内に散在しているあらゆるデータを収集・統合・分析できるデータ基盤「Treasure Data CDP」を提供しています。デジタルマーケティングやDX(デジタルトランスフォーメション)の根幹をなすデータプラットフォームとして、すでに国内外400社以上の各業界のリーディングカンパニーに導入いただいています。
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