今こそテレビメディアにデジタル戦術を 〜テレビ東京コミュニケーションズのデータマネジメント
CASE STUDY|株式会社テレビ東京コミュニケーションズ
コーポレートオフィサー 堀 龍介 氏
マーケティングディレクター 今田 智仁 氏
テクニカルプロデューサー 岸 義治 氏
テレビメディアにもデジタル戦術が必要とされる時代だ。
4マスの頂点として君臨し、マスコミュニケーションを代表する影響力を有していたテレビメディア。インターネットの浸透と急速に進むデジタル化の潮流にあって、ついに2019年にはインターネット広告は2兆を超え、テレビメディア広告費の1兆8,612億円を上回った。
今やテレビ局にとってインターネットは視聴者とつながる重要な接点だ。インターネットやアプリ上でのテレビ番組の見逃し配信サービスの展開や、番組ホームページや公式コンテンツ、SNSを利用した番組宣伝といった手法が一例で、視聴者とのエンゲージメントを高めようとしている。
視聴者との接点をテレビ画面からデジタル上に移すと、そこにデータが生まれる。テレビ局はそのデータをどう活用しているのか。Treasure Data CDPを基盤に据えたデータ活用の先進的な取り組みを行っている、株式会社テレビ東京コミュニケーションズ(以下TXCOM)の事例を紹介する。
TXCOMは、テレビ東京グループに関連するコンテンツ制作、公式サイトや公式SNSアカウントの制作、番組データ放送、IP(キャラクターライセンス)ビジネス、見逃し配信サービスなどテレビ東京のデジタル戦略を担っている。
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散在するオーディエンスデータを統合するTreasure Data CDP
TXCOMは、テレビ東京グループに関連するコンテンツ制作、公式サイトや公式SNSアカウントの制作、番組データ放送、IP(キャラクターライセンス)ビジネス、見逃し配信サービスなどテレビ東京のデジタル戦略を担っている。
見逃し動画配信サービスの「ネットもテレ東」は、自社ドメイン及びアプリでの展開に加え、民放テレビ局が連携した公式テレビポータルサイト「TVer」、「GYAO!」、「ニコニコ動画」など複数のプラットフォーム上に動画を配信している。
また、データマネジメントも積極的に行っている。ソースや形式、頻度がプラットフォームごとで異なるレポートデータをETLツールで自動抽出、加工を行い、DWHへ送信するシステムを構築、続けて2017年にはプライベートDMPの構築に着手した。
データマネジメントにあたり課題だったのが、オーディエンスデータの分散だった。視聴されるプラットフォームやデバイスごとにサービス利用者のデータが散在したままでは、効果的なマーケティング施策にデータを活用することができない。
その課題を解決するために導入されたのが、Treasure Data CDP。
無料動画配信事業のプライベートDMPをTreasure Data CDPを中心に構築し、PDCA実行を行うマーケティングダッシュボードを整備した。
データ基盤を立ち上げたことにより、テレビ東京の有料サービスである「テレビ東京ビジネスオンデマンド(以下BOD)」や他のサービスとのデータ連携を行い、ユーザー行動を可視化・分析したり、サードパーティデータを連携したり、事業のスケーラビリティを高める試みに取り組むことも可能となった。
視聴者のインサイト分析によって マーケティングの方向性がわかる
多様なデータマーケティングを展開しているTXCOM。その一例として挙げられるのが、ダッシュボードによる視聴者のインサイト分析だ。
データマネジメントを開始した当初は、自社サイトや動画配信先プラットフォームを含めて、視聴ユーザーのインサイトを十分に把握できているとは言えなかったが、現在では、日ごと、番組ごとの視聴者数、流入経路別の視聴傾向などを可視化したダッシュボードを構築。
その数は20を越える。
TXCOMでテクニカルプロデューサーを務める岸義治氏によれば、それは「マーケティングのKGI達成に向けてコミュニケーションのKPIを設けるために不可欠な作業」であり、ダッシュボードがあることでマーケティングを推進するための「視聴者の解像度」が上がったという。
TXCOMデジタルマーケティングディレクターの今田智仁氏はダッシュボード導入の効果について「これまでは広告などを活用して新規視聴者の獲得を中心に行っていた。
しかしデータを分析してみたところ、動画視聴を目的とした場合、新規インストールのユーザー獲得効率より、既存ユーザーの活性化のほうが効率的なマーケティングになるのではという気付きを得た。
一方、新規のユーザー獲得においても、広告プラットフォームごとにインストール後のユーザー残存率を見える化したことで、LTVの高いユーザーの特徴を洗い出し、広告展開の予算やリソースを最適化することも可能になった」と説明する。
マーケティングの目的別に様々な角度からデータが見られるようになったことで、具体的な施策に落とし込み、リソース配分や最適化が実現しつつあるという。
ひとりのユーザーの動きを様々なデータで分析できる点が、Treasure Data CDPを活用するメリットのひとつだ。ダウンロード数、視聴者数というボリュームで見るだけでなく、ユーザー個人を様々な角度から分析することで、そのインサイトを把握し、マーケティング施策の方向性に反映することが可能となる。
「無料番組配信をする意義」 データ分析から見えたサービス間の連携
ダッシュボードによる視聴者のインサイト分析は、テレビ東京が運営する他のサービスとの相関性の見える化にも影響を与えているという。例えばテレビ東京のビジネスパーソン向け有料番組配信サービス「BOD」。
Treasure Data CDPを導入する以前は、「BOD」の有料会員獲得に「ネットもテレ東」がどのように貢献しているのか、十分に分析することができないという課題を抱えていた。
しかし、「BOD」のユーザーデータをTreasure Data CDPに投入し、既存データと統合分析を行うことで、「ネットもテレ東」が「BOD」のマーケティングに与える影響のアトリビューション分析が可能になった。具体的には、「BOD」サイトへの流入数では「T Ver」を経由した視聴者が最も多かったが、有料会員の獲得割合は自社アプリ経由のユーザーが最も高かった。
自社アプリが効率的な有料会員の獲得に貢献していることの実証となった。
「広告収入や有料会員の獲得、ブランディングなど様々な効果を想定して見逃し動画配信サービスを運営しているが、社内で十分に説得力のある数字を可視化することが困難であるという課題があった。
しかしTreasure Data CDPの導入とデータマネジメントシステムの構築により、有料会員への送客効果などを可視化でき、サービス価値を証明することができた」(今田氏)。
加えて、自社サービスで放映する広告を無作為に行うのではなく、データに基づいた仮説を立てて検証することもできるようになっている。
媒体価値向上に不可欠な 「データ連携」と「AIの活用」
TXCOM動画・データビジネス部で部長を務める堀龍介氏は、Treasure Data CDPにて統合管理しているオーディエンスデータにより、動画の視聴者像をより明確にすることで、コンテンツの広告価値を証明できたという。
同社が提供するインストリーム広告商品の販売促進に求められる視聴者のリアルなペルソナデータにおいて、オーディエンスデータから番組視聴者の属性情報を捉えることで、営業が円滑な商談を進めるサポートができているという。
テレビ局には、通販などの事業者データをはじめとした「眠っているデータ」がたくさんある(堀氏)。加えて広告枠の在庫管理などには、AIの活用が有効ではないかという。
岸氏もこれからの取り組みについて、「見逃し動画配信だけでなくテレビ放送のデータも活用していきたい」と意気込む。
すでにあるPC・スマホのデータ、サードパーティデータと掛け合わせて分析し、マーケティング施策に活用していきたい考えだ。
今田氏は堀氏と同様に、予測モデルを活用し視聴者属性の推定や、番組宣伝の最適化などに活用の幅を拡げていけるのではないか」と目論む。
優れたデジタル戦術を活用したテレビメディアの逆襲に注目が集まっている。